兄弟家の休日50
前回のあらすじ
島の地下の探索中に、突然現れた深紅の鎧の騎士に苦戦するアイクとヘクトル
なんとか弟達を逃がすことには成功するも、アイクは一対一の戦いに敗れ、ヘクトルに危険が迫る
絶体絶命のヘクトルの命を救ったのは、先に戻ったはずの弟の一人、リーフだった
アイクは、目の前の光景が信じられなかった
ここにいるはずのない男が、いままさに首を斬られようとしていたヘクトルを救ったのだ
それも、これ以上ないタイミングで、自らの体を盾にして
そして腹部を剣で貫かれていながらもなお、何事もなかったかのように立ち続けている
そんなことができる男は、知りうる限り一人しかいない
「リーフ・・・・・・
お前、どうして・・・・・・」
「ごめん。
でもこの状況を見る限り・・・・・戻ってきて正解だったみたいだねっ!!」
そう言うや否や、至近距離で騎士に向けてトルネードを炸裂させた
まともに受けた騎士はよろけつつも一端距離をとり、体制を整えることを強いられる
そしてその間に自ら放った術をまともに受けたリーフは、その反動を利用してヘクトル共々、
わざとアイクのいる壁際まで後退することに成功していた
「よし。あとはこれで・・・・・」
間髪をいれずリーフは懐から杖を取り出し、兄達への応急処置を終えた
先ほど彼がトルネードを近場で無理やり発動させ距離をとったのは、ヘクトルをアイクのそばまで避難させ、
その上でまとめて二人を回復するためだったのだ
あくまで応急処置なので体力はほとんど戻らないが、二人のめぼしい外傷はすぐに塞がった
傷が治ったおかげか、アイク、ヘクトルの二人が同時に口を開く
「なんで戻ってきたんだ!!」
「ロイ達はどうしたんだ!?」
「二人は無事だよ。少なくとも入口までは確かに辿り着かせた。
あそこからなら二人だけで十分だと思うよ」
「そ、そうか。
あいつらは来てねぇのか、よかった・・・」
「流石にあの二人を僕の勝手な行動に巻き込むわけにはいかないしね。
とにかく、話は後。今は・・・・目の前のことに集中しないと」
三人が話している間に、再び深い血の色をした脅威が眼前まで迫ってきていた
鎧のみならず、手にしている剣も今や返り血で深紅に染め上げられて凄みを増している
「リーフ!あいつは強い。
無理に戦う必要は・・・・!」
「無いね。
でも、今のままじゃ逃げてもすぐに追いつかれちゃう。
アイク兄さん達が回復するまで・・・少し時間を稼がないと」
「お前一人でやるってのか!?
アイク兄貴でも勝てなかったのに勝てる訳が・・・・・・!」
「うん、分かってる。
でも時間を稼ぐだけなら、僕に分がある。
しぶとさだけなら、これでもアイク兄さんよりもあるつもりだからね」
卑屈な笑顔でそう答える弟の心境が、嫌でもアイク達の心に伝わってくる
(自分はこんなことしかできない。
けどせめて、他の皆の為の捨て石役くらいはこなしてみせる・・・・・!!)
今までに無いくらいに、アイクは呪った
弟に身を削らせるという選択肢しかとれないこの状況を生み出した自分を
弱さゆえに、傷が治った今でも立ち上がることすらできない自分を
すべての原因を作った自分を
(肝心な時に家族を守れず、あげくその家族に自分の尻拭いをさせている。
何の為に、俺は今まで鍛練を積んできたんだ・・・・・!!)
アイクは歯をぎり、と音がするほど、強く食いしばった
こうでもしないと、自責心と責任感から自らの舌を噛み切りかねないと体が判断したのだろう
無論、それは同じ兄という立場であるヘクトルも同様であった
そんな兄達の葛藤を後に、リーフは一人、騎士のもとへ進み出る
そして
「はぁっ!!」
「・・・・・・・・!」
ギィンッ!!
ザシュッ
カキィンッ!
銀の剣でそのまま相手に切り掛かる
即座に相手からの反撃がくるが、耐えられると判断したのか
避けずに受け、そのまま相手への攻撃を続行する
その我が身を省みぬ猛攻に判断が狂ったのか、騎士の剣が鈍り一瞬の隙が生まれる
すかさずボルガノンを撃ちこみ、反動で一度距離をとる
そのまま手槍で追撃し、光の剣で一度体力を回復する
見ている方が痛みを感じる程の、捨て身の戦法である
「兄貴・・・・・・
こりゃあ・・・・・・・・」
「ああ。
これがあいつの・・・・・・リーフの本気の戦い方だ」
相手が飛び道具を使えない以上、
本来ならば、可能な限り術などで遠くから攻撃するのがセオリーである
しかしあえてリーフはその策を選択せずに、接近戦を挑んだのだ
無論、自棄やプライドのためではない
これが彼がこの極限状況で生み出した、最も自分に適した戦い方なのだから
我が身を少しも顧みない、まるで死人のような戦い方
相手の攻撃を避けるどころか防ぎもせずに、その間に少しでも多く相手に攻撃する
近距離で余波もかまわず術をぶっ放し、堪え切れない時は一度下がり、
手持ちのアイテムで回復してはまた無謀な攻めを繰り返す
相手からしてみれば、無数のゾンビの群れを相手にしている気分だろう
いくら攻撃しても相手は恐れ、怯え、焦り、何一つ人間らしいものは見せず、
返ってくるのは反撃のみという状況なのだから
「で、でもよ、元々あいつがこんなに強かったってんなら、
どうして普段はあんな・・・・・・?」
「おそらく・・・・・リーフがこの戦い方に気付いたのはたった今だ。
もしくは、無意識の内に経験から編み出したのか・・・・・・・詳しいことは俺にもわからない」
普段のリーフの戦い方は、自らの多芸さをいかした、相手にとって苦手な戦法をとるといったものであった
(もっとも、仲間内での模擬戦などでは、相手と同条件で戦うことも多いのだが)
相手の弱点を突くというのは、戦いにおいては至極当然のことである
リーフほどのタフネスがあれば相手の攻撃をを多少食らった所で平気、
故にどんな戦法でも最後には勝てるのでは?という疑問が浮かぶが、その答えはNOである
彼の体力は確かに人間離れしているが、未成熟な忍耐力や精神力はそれに追いついておらず、
ダメージは確かに身体に蓄積されるのだ
故に体が動いても、意識が無くなったり、戦意を喪失したりといった理由で戦闘続行が不可能な状態に陥ってしまうのだ
「あああああああっ!」
「!!!!!!!!」
カキィン!
ビュオッ!
ボルガノン!
ズドーン!!
しかし、戦わなければ家族が死ぬという極限の状況が彼を不死身の戦士へと変えた
いままでも似たような状況はあったが、その時々では家族内の他の誰かが戦ってことなきを得ていた
そして、彼は自分の限界をコノヒトデナシー!という叫びと共に自分で決めつけてしまっていたのだ
コノヒトd・・・ッ!
キンキンキンッ!!
もうリーフは、このヒトデナシー!とは叫ばない
少なくともこの戦闘中は、自分がヒトではなくなるから・・・・・
我が身を殺し相手をも殺す、戦う死人に
ズバッ!
ブシュッ!!
「ッ!!」
「馬鹿野郎!
なんで避けねえんだ!!」
「いくらあいつでも、これ以上の出血はまずい・・・・!!」
(くそっ・・・まだ動けないのか、俺の体!!)
だが今は違う
限界など関係無い、勝たなければ全て失ってしまう
ただ純粋に、死ぬまで己が力を絞り出し、それを振るう
強すぎる肉体を持った男は、親しい者を守るためにそれを投げだすことで、
今初めてフルに自分の能力を扱うことに成功していた
しかし、それにもやがて限界が訪れる
五分も撃ち合ったころだろうか、突如戦況に劇的な変化が生まれる
ガクッ
「あ、れ・・・・・?」
突然糸が切れたかのようにリーフの膝が折れる
深紅の騎士にとっては攻める好機だが、なにかの罠ではという疑いからすぐには仕掛けない
「あいつ・・・・・!」
「限界か・・・
短期間で血を流し過ぎたんだ・・・・・!
いくら肉体が不死身でも、血液の量は変わらない。
心臓への負担が気付かないうちに増していたんだ」
普段のブバアアアアアッ!!・・・もとい、大量の鼻血で彼が倒れることから分かるように、
リーフ本人の血液量は体力に比べれば、常人と差は殆どないのだ
故に苦々しい顔でアイクが言った通り、応急処置で傷だけ塞いで戦い続けた結果、
血液不足によって血液が全身に行き渡らず、体の自由が利かないというのが今のリーフの状況である
原因はどうあれ、このチャンスを逃す紅騎士ではない
もう罠ではないと分かったのか、慎重に剣を構え動けぬリーフに近づいていく
リーフに向けて、今度こそ必殺の一撃が振り下ろされようとしていた
(もう、これまでかな・・・・・。
でも最低限の仕事はできたし、まぁいいか。
はは、なんでいつもこんな役回りなんだろうなあ、僕)
ゆっくりと自分の喉笛へ向かってくる剣の切っ先をみながら、ふとそんなことが脳裏に浮かんだ
決定的瞬間はスローモーションに見えるというが、今はまさしくそんな状況なのだろう
頭の中を、家族、知人の顔が駆け巡る・・・・・・
(ナンナ達・・・・・僕が帰れなくても元気でいて欲しい。
キュアンとはもっと色々な話がしたかったな。
リフィスには義賊のリーダーを押しつける形になっちゃったかな・・・・・
ミカヤ姉さんやセリスはいつも通りマイペースなんだろうなぁ。
エフラム兄さんも政党が上手くいってるといいけど。
みんな、帰れなくって本当に・・・・・・ごめん)
死が、明確な形で迫ってくる
なのに何故だろう、奇妙に落ち着いた気持ちでそれを見ることができた
(最後なのに、なんでおねえさんじゃなくて・・・・・・)
そして、目の前に浮かび上がる一人の顔があった
(なんで・・・・・・アイク兄さんの顔が浮かぶんだ?)
「ぬぅんっ!」
キィンッ!
あわや斬首、というぎりぎりの所でアイクが横からラグネルで相手の剣を受け止めた
ギリギリと互いの力の重圧が剣に掛かり、今にもその均衡が破れそうだ
「リーフ、よくやった。後は俺に任せろ」
「何言ってんのさ!
二人が回復したんなら早く逃げないと・・・・・!」
「・・・その体で、か?」
「僕なら大丈夫。
丈夫さだけなら・・・・・うっ!」
まるでエリウッドのような台詞を吐きながら、
まるでエリウッドのように血を吐くリーフ
傷なら薬ですぐに塞がるが、血液不足はそう簡単に解消しない
結局のところ、状況は戦う人間が変わっただけで、なにも改善してはいなかった
むしろ体力を消耗している分、アイク達の方が不利であった
しかし・・・・・
「ぬぅんぬぅんぬぅん!」
「・・・・・・・・・・!?」
意外な事に・・・・・アイクが、押している
疲れて動かすのがやっとの体を、先ほどよりも迅く動かし、
持ち上げることすら辛いはずの腕で剛剣を振りかざし、
疲労で霞んでいるはずの眼を光らせながら、先ほど以上の力で騎士を追い詰めていく
ガキィン!
「・・・・!」
「俺がいるのも忘れんじゃねえぞっ!」
そしてヘクトルも、要所要所で相手に的確な一撃を与え、
可能な限り兄をサポートする
その動きに、先刻までの恐れや疲労は見られない
(弟にあれだけの頑張りを見せられて・・・・・・)
(兄貴がこれ以上、かっこ悪い所を見せられるかよ!!)
戦士として敵わない?
実力で相手に敵わない?
それがどうした
自分のために戦って勝てなくとも
家族の為になら、負けない。負けられない
大切な人への想いは、力
そんな当たり前のことを、弟にたった今教えてもらった。だから・・・・・・
*1
「「うおおおおおおおおっ!!!」」
「!!!!???」
バキィィィィィィッン!!
二人の剣と斧が騎士の防御を掻い潜り、同時に騎士の胴体に食い込む
そして騎士の鎧に、初めてヒビが入る
今まで崩せなかった鉄壁の守りに入った僅かな隙間
それはほんな小さな、しかし確かな希望の光が灯った瞬間だった
「へ、へへ・・・・・どうだ・・・・・・。
やっと一発、喰らわしてやったぜ・・・・・・・!」
「勝負はここからだ・・・・!
俺の家族に手を出したこと・・・・・・後悔させてやろう」
「うん、そうだね!」
「リーフ!?お前、大丈夫なのか!?」
「アイク兄さん達と同じだよ。
目の前で??家族?≠ェ頑張ってるのに・・・・・・倒れてなんかいられないよ」
「よし、ならいくか。
三人で、今必殺の!」
「トライアングル!!」
「「「アターーーーーック!!!」」」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
そこから決着がつくまで、長い時間はかからなかった
煙を吹いて地面に倒れている騎士の残骸
周囲に漂う血なまぐさい香り
そして、傷だらけで床に倒れながらも、互いに笑い合っている兄弟達
この光景が、この戦いの結果をなによりも雄弁に語っていた・・・・・・
つづく