兄弟家嫁候補全面戦争
1
紋章町危険処理班24時!!!
の中の兄弟家嫁候補全面戦争が気になりすぎて、妄想してしまいました。
場面場面だけを考えていたので、場面がとびとびの上、それぞれのシーンごとが
完結していなのですが、長めのGJだと思って受け取ってくれたら嬉しいです。
兄弟家嫁候補全面戦争
――その町の平穏は突然に、そしていつものように崩れ去った。
「ふふふ。我ながら、素晴らしいことを思いついたものです。
混沌の神が愛するこの町で、これ以上の方法があるでしょうか?」
白い光が降りそそぐ、白い部屋の中。入るもの全てに神聖さを感じさせるその部屋で、
「楽しみです。一体、如何程の哀れな子羊達が、私に助けを求めに来るのか・・・」
望むもの全てに神の奇跡を与える杖を片手に、聖職者が、黒く笑う。
「――これは一体なんのチラシでしょうか?」
買い物かごを片手に、鼻歌を口ずさみながら商店街を歩いていたエリンシアが、通りの
真ん中で笑顔を振りまいていた道化師から受け取った紙の内容に目を通す。
「夏のセールの告知?でも、これは――!」
エリンシアがその内容を把握すると同時に、同じくチラシを受け取った何人かの女性が
歓声を――狂喜の声を上げる。
「――アイクッ!!」
おそらく、これから町を襲う混乱を、そしてその中心に自身の家族が確実に置かれるこ
と予想し、エリンシアは買い物かごを振り棄てて走り出す。
一息に町中を席巻する狂気。町中の場所を問わず、争いの音が聞こえ始める。
――ズガッ!ドス!!
鈍い音と共に、二つの影が倒れる。
「お・・・にぃ、ちゃん」
「大将――」
そして、その影を見下ろす一人の男。
「一体、どうしたと言うんだ?」
その男、アイクの顔には珍しく苦悶の表情が浮かんでいた。
「手加減は苦手なんだがな。二人とも、大丈夫か?」
気絶した二人の少女、ミストとワユに手を伸ばし、様子を見ようとしたところで、
――ザッ
近づく気配に伸ばしかけた手を止め、アイクは後ろを振り返る。
そこには、もはや数え切れぬほどの女、女、女・・・。
「・・・やれやれだな」
つぶやき、アイクは訓練用の木刀を片手に人の山へと駆け出していく。
「正気に戻れ!アルヴィスッ!!」
シグルドが、目の前の上司とも、ライバルとも、友とも言える男に向けて叫ぶ。
「私はいつでも正気だよ、シグルド。そこをどけ。これは、ディアドラが望んでいること
だ」
アルヴィスの視線は、シグルドの背に庇われるように立っているディアドラに向けられ
ている。
「――馬鹿な。彼女が望みさえすれば、彼女を傷つけても構わないと?」
「・・・」
問い詰めるシグルドへの返答は無く、代わりにディアドラが口を開く。
「いいのですシグルド様。悪いのは、私。いつまで経っても心を一つに決められない私が
悪いんです。だから、シグルド様。どうか、私の命を奪ってください・・・」
ディアドラの異常と言える懇願に、シグルドが油断なくアルヴィスを見据えていた瞳を
彼女へと向ける。そして、困惑と悲しさが入り混じった顔で彼女に告げる。
「君は悪くない、ディアドラ。悪いとしたら、それは私達の方だろう。
だからこそ、こんな方法で君の心を手に入れるわけにはいかない。
でないと、私は罪悪の念によって、君へと口付をする権利を永遠に失ってしまう」
ディアドラをまっすぐに見つめ、そしてすぐさま振り返る。
再び対峙する青と赤。シグルドは、背後のディアドラに向けて叫ぶ。
「私は、君にキスできない運命なんて認めないッ!!」
「――ち。馬鹿なセリフを吐く。ならば、先にお前から片付けてやろう!!」
銀に煌めく剣を抜き、駆けるシグルド。対するアルヴィスの手には神の炎が宿る。
それを見つめるディアドラの胸中は――。
2
(注2は行数制限かかったんで代理人の判断で2つにわけさせてもらいました)
「エリウッド様・・・どうして?」
竜化を解いた少女の目の前には、氷のブレスによって全身を激しく傷つけたエリウッド
の姿があった。
「どうして、とは、どういう・・・意味だい?」
苦しいのだろう、息を継ぎながら、エリウッドが竜の少女に問う。その息は、白く曇っ
ている。
「なぜ、私の攻撃を避けなかったのですか?なぜ、自ら私の方へ向かってきたのですか?なぜ――!」
そこで、少女―ニニアン―の言葉が詰まる。エリウッドの腹部に突き刺さっていた氷の
欠片が解けて抜け落ち、そこから大量の血が噴き出たのである。
「エリウッド様!!」
たまらず膝をついたエリウッドに駆け寄るニニアン。地に広がる血。それで美しい衣装
が汚されることも構わずに、膝をついてエリウッドの顔を覗き込む。その両目からは、今
にも涙が溢れそうだった。
「なぜ・・・烈火の剣を使われて身を守らなかったのですか?」
エリウッドの両手に握られ、今はその身を支える役目を担っている神将器。この竜殺し
の神剣さえあれば、エリウッドはニニアンのブレスに傷つく前に、ニニアンを倒してその身を守ることが可能だったはずだ。しかし――
「だって・・・当然じゃないか」
「え?」
エリウッドは、自らが傷つくのが当然と言って、微笑む。
「この剣は、大切な人たちを守るために手に入れた。なのに、これで君を切ることなんて、
できるわけがない。君の攻撃をまっすぐに受けたのも、そうしないと、こうして話せない
と思ったから・・・。話さないと、大切な人と分かり合えないと思ったから・・・」
「大切な・・・人」
「そうだよ。ニニアン・・・僕は、君が、みんなが大切だ。だから、守りたいんだ」
苦しげに続けるエリウッド。その姿を見て、その言葉を聞いて、ニニアンは自らの過ち
を悟る―あるいは最初から気づいていたのかもしれないが―。
「――エリウッド様。私、私は!」
しかし、ニニアンがその先を続ける前に、エリウッドがその手を伸ばし、彼女の眼の端
に溜まった涙を拭う。
「いいんだ、ニニアン。僕の傷も、見た目ほどは酷くない。
それに――僕も、以前君に対して過ちを犯してしまった」
自らを支えているデュランダルを初めて手にしたときの、苦い記憶がよみがえる。
「過ちは、繰り返さなければいい。そうだろう?」
「エリウッド様・・・」
なんとか立ち上がろうとするエリウッドに、手を貸すニニアン。
立ち上がった二人の周りには、いつしかエリウッドの命を狙う女性達が集まってきてい
た。
「さぁ、ここを突破するのは、少し骨が折れそうだ。力を貸してくれるかい、ニニアン?」
「――はい!」
そうして、烈火の剣の勇者は、氷竜の巫女を伴い、戦場を往く。
3
「・・・困ったな」
「呑気なことを言わないでください!兄上!!」
状況を理解していないかのようなエフラムの声に、エイリークが呆れと怒りが混ざった
声を出す。二人の目の前には、ターナやヒーニアス。ミルラやリオンが殺気だって構えて
いた。
「おぉ、見ろエイリーク!翼槍ヴィドフニルだ!!」
「兄上!!」
エイリークが再び兄に文句を言う。ヴィドフニルだけではない。蛇弓ニーズヘッグに竜
石に魔石。どれも、使うべき者が使えば一瞬で人の命を奪ってしまう神の力の表れだ。
「エイリーク、さっきから一体何を焦っているんだ?」
「兄上こそ、どうしてそんなに落ち着いているんですか!?」
相変わらずの兄の態度に、エイリークがらしくない大声を連発してしまう。が、続くエ
フラムの一言で、やはりこの兄には敵わないということを痛感することとなるのだ。
「俺と、お前がいる。ならば、何を恐れるものがあるというんだ?」
「――ッ!」
エフラムの不敵な笑みに、不覚にも頬が熱くなるのを感じるエイリーク。兄に気付かれ
ないかと、一瞬心配したが、この兄に限ってそれは無いということに思い至る。
「もう!仕方のない兄上です。さぁ、行きますよ!」
「あぁ。さっさとこの下らない事態を解決するぞ!」
「エリウッドは大丈夫かしら?」
街中を走りながら、リンは隣を走るヘクトルに問いかける。
「どうだろうな?まぁ、どうせまた無茶をしでかしてんじゃねぇか」
「やっぱりそうよね・・・。はやく、助けに行かなきゃ!」
ヘクトルの返答に、リンが足に込める力を強くする。しかし。
「どうしたの、ヘクトル!?はやく、エリウッドのところに・・・」
ヘクトルは走る速度を変えようとはしない。
「ヘクトル!エリウッドが心配じゃないの?」
熱くなりやすい彼女らしい態度に、ヘクトルは内心で苦笑しつつ(顔には出さない。殴
られるから)答える。
「リン、お前が心配しすぎなんだよ」
「どういうことよ?」
言いつつ、取りあえずはヘクトルの言い分を聞く気になったのか、走る速度を彼に合わ
せるリン。
「エリウッドは確かに無茶はするけどよ。だけど、必ず何とか無事に切り抜ける。だから、
心配いらねぇよ。するなとは言わねぇけどよ」
「確かに・・・」
ヘクトルの言葉に、リンは納得する。そう言われてみれば、エリウッドは確かにそうい
う男だった。が、それをヘクトルに言われて気づくのは何となく癪に障る気もする。
いつも三人でいるのに、エリウッドとヘクトルだけ、特別に強い絆で結ばれているような気がして、リンは時々、少し寂しい気持ちになるのだ。
「それよりもよ・・・」
思考の海に埋没しそうだった意識を、続くヘクトルの言葉で引き揚げる。
「今の町を襲っている事態。俺は、ロイの方が心配だぜ・・・」
「確かに・・・」
先ほどと同じ言葉を呟き、再びリンの足に力が込められた。
「ねぇ!マルス様のお家、こっちで合ってるの!?」
「・・・俺にそれを聞くのか?」
並んで走る、一組の兄妹。どうやら兄弟家を目指して走っているようだが、彼らのいる
地点から考えると、その方向は180度間違っていた。
「だが、なにもマルス様の家へ着く必要は無い。要は、これをマルス様に届けることがで
きればいい。つまり、マルス様と会えさえすればそれでいいんだ」
「それはそうだけど・・・て、またなのっ!?」
双子の兄の言葉に相槌を打ちながら曲がり角に着くと、二人はそこで足を止める。
そこには、数えきれない程の武器を持った人々がいた。
「ちょっと進む度にこれじゃあ、いつまで経ってもマルス様のところに着けないわ!」
「だが、マルス様にこいつらを渡しさえすれば、きっとこの事態を鎮静化して下さるだろう」
「だから、そもそもマルス様のところに着けないんだってば!」
そんなやり取りをしている間にも、二人の前に立つ人々は徐々に間合いを詰めて来ている。
「・・・来るぞ!!」
「――カタリナ!?」
「な――ッ!」
兄の声に意識を目の前の敵集に向けると、その中にはよく見知った少女の姿まであった。
注意を促したはずの兄も気づいていなかったのか、驚愕の声を漏らしてカタリナを見る。
「クリスに――クリス。二人とも、お願いです。私に、殺されてください」
ぞっとするほど純粋な好意が込められたその声は、彼らの背中を凍りつかせるには十分
過ぎた。
4
「そこをどいてくれ!ユリア!ラナ!」
セリスが、行く手を塞ぐ少女たちに訴えかける。
「もちろん、お通しします。セリス様が望まれるのですもの。でも・・・」
「それは、私達に殺されてからにして下さいね」
ユリアの言葉を、ラナが引き継ぐ。二人とも、いつもセリスに向けるのと同じ、優しげ
な笑顔を浮かべている。しかし。
「どうしちゃったの、二人とも?なんか、おかしいよ!!僕は、このティルフィングをシ
グルド兄さんに届けないといけないのに・・・!」
「安心して下さい、セリス様」
「セリス様が殺された後で、ちゃんと届けますから」
いつもは仲が良いとは言えない二人が、不気味なほどに息を合わせながらセリスに声を
かける。
「――ッ!!」
その二人の雰囲気にセリスが押されかかると――
「先に行けよ、セリス」
セリスの隣にいたユリウスが、自らの体を前に出す。
「ここは、僕が引き受けてやる」
「ユリウス!でも――」
ユリウスの申し出に、喜色を浮かべるセリス。しかし、すぐにそれは消え、その視線は
ユリアへと向かう。その視線に気づいたユリウスが、言葉をかける。
「確かに、僕はユリアのナーガに対しては圧倒的に相性が悪い。でも、お前が駆け出すだ
けの時間は稼いでやれるさ。さぁ、行けッ!」
ユリウスが、セリスに背を向けたまま手を横に振りはらって、促す。
「ありがとう、ユリウス!気をつけてね!!」
セリスも、それ以上は躊躇わず、シグルドのいるであろうグランベル商社への道を駆け
出す。
それを、ユリアとラナは黙って見送る。
「随分と余裕だな」
「だって、お兄様では足止めにもなりませんもの。すぐに片付けて、セリス様を殺しに行
けます」
「・・・完全に、闇に心をとらわれたな、ユリア」
普段と明らかに様子の違う妹の姿に、ユリウスが呟く。
「町を覆う負の気、瘴気にあてられたか」
「それがどうしたというのです?今の私は、ナーガの光に加え、闇の心までも手に入れま
した。お兄様がいくらあがこうと、無駄ですよ」
自信に満ちた、邪悪な笑顔を浮かべるユリア。だが、それをユリウスは一笑に付す。
「ふ。分かってないな、ユリア。光と闇は、純粋であればあるほど強いんだ。純粋な光の
前に、闇はかき消されるかもしれない。が、そんな中途半端な状態では、漆黒を払えはしない」
「――ッ!?」
何時になく強気な態度の兄に、ユリアと、隣にいたラナがようやく警戒する。
「見せてやろう。純粋な、闇。その神髄を――!」
そして、暗黒竜(ロプトウス)の咆哮が街に響く。
「リーフ様・・・」
「リーフ・・・」
「はぁ・・・やっぱりこうなるのか」
四人の少女に囲まれて、リーフが呟く。四人の少女はそれぞれの武器を手に、リーフへ
と狙いを定める。
「まぁ、いつものおしおきだったら、それほど苦でもないんだけどね。でも・・・」
四人が、その間合いを徐々に詰めてくる。その顔からは、明らかに正気が失われている。
「でも、君たちが自分たちの望みを、思いを見失ってまでこんなことをしているのだった
ら、僕は許せない」
リーフの目が、スッと細まる。
「許せないのは、君たちじゃない。僕自身だ。町がこんなことになる前に、君たちがこん
なことになる前に、僕達が止めなければならなかったのに・・・!」
言いながら、リーフは腰にさした光の剣を抜く。彼が、彼女たち相手に武器をとること
など、今まで一度も無かったにも関わらず。
「待っていて。僕の仲間たちが、もうすぐこの元凶を断ってくれるはずだから」
その顔に、悲しい決意が浮かぶ。大切な人たちに、剣を向ける為の決意。
「だから、それまでせめて、僕が君たちを止めて見せよう。正気に戻った君たちが、自ら
の手を見て泣いてしまわないように、それまで相手をし続けて見せる!」
光り輝く剣を眼前にかざし、短く瞑目する。そして、
「僕は、リーフ。兄弟家の一員にして、マスターナイトの称号を授かりし者!
騎士の名に懸けて、君たちの名誉と誇りを、守り切ってみせるッ!!」
その目を見開き、誓いの剣をかざす。
5
「はぁ・・・はぁ・・・」
家へ向かい、町を走るミカヤ。
(みんなは、大丈夫かしら?)
彼女の心を占めるのは、弟妹たちのことばかり。今の町の状況を考えれば、全員が全員、
大勢の人々から命を狙われているはずだ。
(みんな強いから、平気だとは思うけど、でも・・・!)
いくら弟たちを信じようとしても、不安の心は大きくなるばかりだ。そうして、足元を
見る余裕すら無くなっていき・・・!
「きゃあッ!」
盛大に転んでしまった。
「いたた・・・。いやね、こんな時こそ、私が落ち着かないといけないのに」
そう一人ごちながら、ふと、心の中をよぎる人物があった。弟妹たちばかりが占めるミ
カヤの心の中の僅かな隙間。弟妹たちと限りなく近いような、けれども決定的に違う存在
感を持つ、一人の青年の姿。
(そういえば、こんな時は、いつも真っ先に私のところに来てくれるのに・・・)
心のどこかで、それを期待しているのだろうか?しかし、それに気付くことなく、立ち
上がったミカヤは再び兄弟家への道を急ぐのだった。
白い光が降りそそぐ、白い部屋の中。入るもの全てに神聖さを感じさせるその部屋で、
「ここまで忍び込むとは。やはり侮れませんね、紋章町危険処理班」
二人の男が対峙している。
「それで、一体どうするつもりですか?今や、この町の多くの者が私の奇跡を望んでいる
のですよ?それを止めることが、この町の為になるのですか?」
事件の黒幕である男、クロードが言う。
「なんでしたら、あなたの望みも叶えたらどうですか?きっと、あなた相手でしたら油断
をするでしょうから、ここに忍び込むよりもずっと楽な仕事になりますよ?」
そうして、男は愉快そうにくっくっと笑う。その笑みは聖職者が浮かべる者としてはや
はり黒すぎる。
対峙する男は、そんなクロードのことを下らなそうに見やりながら、一言だけ呟く。
「ミカヤは――俺が守る」
そうして、一瞬だけ二人の影が重なると、一方の影はくず折れた。
6
「――どうして、事態が収まらないんだ!?」
リーフから、首謀者撃破の情報を聞き、それをすぐさま町中へと広めたはずなのに、事
態は収拾の様子を見せなかった。
マルスはファルシオンを振るって、押し寄せる女性達が持つ武器と打ち合わせていた。
「ただでさえ、こっちは顔を傷付けないように、気絶させるだけで済むように手加減して
戦わなければいけないというのに――!」
その上で、これだけの戦力差。しかも、来るはずの終息は未だ訪れない。
「マルス兄さん、ごめんなさい!彼女たちが狙っているのは、ほとんど僕なのに――」
マルスの背中で、ロイが申し訳なさそうに言う。ただでさえつらい状況の中、結果的に
弟に愚痴を聞かせてしまったことに内心で後悔しながら、マルスは背中に語りかける。
「僕だって、たまには君の兄さんらしいところを見せないとね。
それに、自惚れちゃあいけないよ、ロイ!僕だって、十分に狙われているさ!」
「ははは。自慢にならないけどね」
自分を励まそうとする兄の心遣いに感謝し、ロイも努めて軽い口調で返す。
「――でも、本当にどうしたらいいんだ?」
弟の明るい声にとりあえず安堵しながら、思考を巡らせる。考えながら、体は常に動き
通しだ。左手の盾で相手の武器を受け止め、右手の剣でその武器を地に落とす。一体どれ
だけその作業を続けてきたのか、彼の目の前には幾つもの武器が散らばり、足運びを誤れ
ば、それだけで怪我をしてしまう。
「きっと、みんな町中を覆う負の気に完全に飲まれてしまってるんだ。だから、元凶を討
っても、だれも止まらないんじゃないかな?」
背中越しに聞こえる弟の考察に、マルスが肯定の意を短く返し、さらに思考を続ける。
(負の気に飲まれて、正気を失う――ならば、その負の気を抑えることさえできれば、正
気を失ったみんなを元に戻せるかもしれない・・・)
そこまで考えて、マルスは自らが左手に持つ盾に目をやる。
(理性を失った竜を抑えることができる、この盾ならば――でも、今はオーブが無い)
マルスの持つ盾、封印の盾は、確かに凶暴化した竜を眠りにつかせる神秘の能力がある。しかし、その神通力を発揮するためには、盾に五つのオーブをはめ込まなくてはいけない
のだ。
(オーブは全て家の物置に置きっぱなしだ。周囲には数万の敵。結局、打開策はないまま
か――ッ!)
「兄さん!あれを見て!!」
思考を完結し、それでも尚好転の兆しが見えない現状に心の中で舌打ちをしかけた時、
突然ロイが叫びながら、手に持った細剣でとある方向を指し示す。その先には・・・
「マルス様ーーッ!」
敵の海の中を強引に掻き分けてくる二人のクリスの姿があった。
7
「マルス様!よくぞご無事で!!」
「ロイくんも、大丈夫だった?」
「クリス、来てくれたのか!・・・でも、せっかく来てもらっても、敵の数が多すぎる。
僕のことは放っておいて、ロイを連れて君たちだけでも逃げてくれ」
「何を言うのさ、マルス兄さん!!」
マルス達の元まで辿り着いたクリスに告げた言葉に、ロイが抗議の声を上げる。当然、
クリス達も同意見だ。
「現状を打開するすべが無い。このまま戦い続けても、いずれ殺される。だったら、せめ
てロイだけでも逃がさないと、僕は、兄たちに顔向けができない」
四人は互いを背中合わせにして戦っている。よって、お互いの顔はわからなかったが、
マルスがいつになく真剣な、そして優しげな表情を浮かべているであろうことが、ロイに
は分かった。
「そんな・・・僕だって、僕だって兄さんを守りたいのに!」
「だめだ。君は弟で、僕が兄だ。だから、僕の言うことを聞いて、この場を脱出しなさい」
「でも・・・!」
ロイが更に食い下がろうとしたところで、
「打開策なら、あります」
「私達が、持ってきました」
クリス兄妹の声が割って入る。
「これは!――これさえあれば!」
「すごい・・・。僕のまである!!」
クリスから受けとった袋を開け、マルスとロイが驚きの声を漏らす。
「敵は、しばらく俺達が引き受けます。その間に、マルス達はご準備を」
「ありがとう、クリス。これで、なんとか事態を解決できそうだよ。でも、どうしてこれ
を君が?」
これらは、全て兄弟家に保管されていたはずだ。どうしてクリス達が持っていたのだろ
うか?マルスが尋ねる。
「マルス様の姉君、エリンシアさんのおかげです。どうやら、事態の開始をいち早く知ら
れたそうで」
「それで、これが必要になると思って、家からとって来たそうです。マルス様を探してら
した途中で私たちと会って、私たちの方が早くマルス様と合流できそうだからと、お預か
りしました」
「マルス様もご自宅に向かわれると思って、俺達も向かったのですが・・・結局、ここは
どこなんでしょうか?」
悠長に会話しているが、その間にも敵の手はやんではいない。
「マルス兄さん、とにかく急ごう!!」
そうして、マルスは盾に五つの宝珠を、ロイは剣の柄に一つの宝珠をはめ込む。
「よしッ!これで――」
「これで――終わりだッ!」
そうして、マルスとロイが、それぞれの盾と、剣を掲げる。それこそが、大いなる封印の力。
邪悪を払う、炎の神秘。
「「輝け!ファイアーエムブレムよッ!!」」
その瞬間、紋章町を光が包み込んだ――。
「あ~~~、疲れた~」
ちゃぶ台の上に上体を乗せながら、リーフが心底、疲れたような声を出す。
「まぁ、今回はみんな疲れたんじゃないかな。でも、エリンシア姉さんのおかげで助かり
ましたよ」
「あらあら、それは良かったですわ」
ここは兄弟家の居間。ここには、騒動を終えて帰って来た兄弟家の面々と、クリス兄妹
がいた。皆、一様に疲れ切っている様子だ。
「まったく、あの腹黒聖職者にも困ったもんだぜ」
「でも、ユンヌさんも関わってるから、結局身内から出た錆とも言えるのよね」
ヘクトルとリンも、疲れ切った表情でぼやいている。
「でも・・・」
部屋の隅で、横になって身を休めていたロイが、ふと声を出す。
「今回の事件は、バルキリーの杖で生き返らせる際に、自分を殺した人を好きになるよう
に、っていうことでこんな騒ぎになったんだよね」
「うん、そうだよ」
ロイが、つい先ほどリーフとマルスから受けた説明を確認するように言う。それに相槌
を返したのはマルスだ。
「アイク兄さんやクリスさん、それに他のみんなが狙われたのは分かるけど、それじゃあ、
僕が狙われるのっておかしいよね?誰かと間違われたのかな?」
嫌味もわざとらしさも何もなく、純粋にそう思っているかのように、何かをほざいてや
がる末弟。それを聞いた兄弟の面々の何人かは、
(ホントに一回くらい殺された方がいいんじゃないか、コイツ?)
と、思ったかもしれない。
終わり