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Last-modified: 2014-01-30 (木) 23:37:27

兄弟家の休日番外編

 

紋章町・兄弟家の入口で、エリンシアが弟達を見送っている
それは彼らを良く知る者には、当たり前過ぎる位に当たり前の光景だった

「いってきます」
「いってきまーす!!」
「はいはい、気を付けて行ってきてね」

しかし、この普通のやりとりも少し前まではありえなかったのだ
彼ら兄弟家の殆ど全員が、無人島に流れ着くという忌むべき事態に直面していたが為に

……あの遭難事件から、一か月が経過した
島でアイク達が無謀にも大陸と格闘していた頃、裏ではマルス達が例の研究室を調べていた
これから語られるのは、その時のマルス達の様子の一部を、彼らの内の一人の視点で見てみた物である

――兄弟家の休日・番外編

アイク達が釣りに勤しんでいたその時、残りの面子はアイク達が切り開いた道を通り抜け、
例の研究室の一室へと辿り着き、詳しく中を物色しているところだった
今調べている部屋は、どうやら書庫のようだ
脱出手段に関するものはなさそうだが、この研究室についての情報を得るために資料を読み解いている最中らしく、
皆真剣に手元の本の内容をチェックしている

「すぐにできる暗黒呪術・・・・・これは違うな。
 脱出手段に関係ありそうな本ってのはなかなかないもんだね・・・・・・
 黒の書?………厨二病乙」ポイッ

真剣に……

「第一次スーパーガチムチ大戦!?
 ハァハァ・・・これは見るしかないわ・・・・・・!!」ボタボタ

真剣に……………

「古代の神々の英知、その後の宗教分布図………
 ミラ教以外の宗教本は全て禁書にすべき・・・・・・!!」ポイポイッ

真剣、に…………………………

「何故デブ剣は重いのか?
 ……フ、フフフ……………肝心の軽くするための内容が書いてない…………
 超!!サイコーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

…………彼らなりに真剣に探しているのだろう……多分

「あのー、皆さんもう少し真面目に・・・・・・
 ん?これは・・・・・」

まわりが適当に探している中、1人真面目に探していたエイリークは、1冊の古びた表紙の本に目を引かれた
思わず手にとってしげしげと眺めてしまう
特に目を引くような装丁ではなかったが、タイトルがないのが少し気になった
エイリークは、その本の初めの数ページを軽く読むことにした・・・・・・

パラッ

1日目
アトスの奴に陥れられ、竜の里を追われてから早1ヶ月
私は、とりあえずこの島に拠点を構えることにした
妻はこんな私にどこにでも黙ってついてきてくれる
私自身はどこであろうが、アトスに復讐するまでは地に這いつくばってでも生きていく心づもりだが
妻にだけは苦労をかけたくないものだ

パラッ

2日目
とりあえず簡単な生活スペースは作ることができた
我が魔道の腕をもってすれば造作もない
しかし、あのアトスのことだ
いつここに奇襲を掛けてくるやもしれぬ
とりあえず島の防衛を固めることが急務だ
そのためには少々人手が要るな・・・・・・

ペラッ

3日目
迷った挙句、ホムンクルスの一種であるモルフを作ることにした
道徳や倫理に反することかもしれない
しかし、今はそのようなことを言っている場合ではない

初めて作ったモルフの名前はキシュナ
妻が名付けたのだが、こいつは少々問題児だ
……作る時に、クシャミをして配分を間違えたのが原因かもしれない
どうやらこいつには、周囲の理をゆがめる力があるようだ
アトスを無力化できるかもしれないが、私も力を発揮できない
それに言葉をうまくしゃべれず、他の仕事もできなさそうだ
明日、他にモルフを作らねば・・・・・・
私は更に罪を重ねようとしている今の自分が情けない

今日のモルフの出来は素晴らしかった
我が人生の最高傑作やもしれぬ
・・・・・胸部以外は(と、脇に小さく書いてある)
名をリムステラと名付ける
キシュナと違い、妻と私に献身的に尽くしてくれる
当面は彼女1人で用が足りるだろう
妻の話し相手にもなってくれているようだ
しかし、男手も必要になりそうなのであと1,2体程作ることになるやもしれぬ

「これって・・・・・・」
最初の数ページを軽く読んだ限り、どうやらこれは日記のようだ
・・・・・・それも、おそらく自分達のよく知りうる人物の

エイリークは関係のなさそうな部分を読み飛ばしながら、日記を読み進めていく
しばらくは、どうでもいい日常生活の愚痴などが綴られていた

12日目
今日はリムステラ達とは別に男性型のモルフを二体作ってみた
名前はデニングとエフィデル
デニングは思考能力が欠如している
その代わり命令は何があろうと必ず実行する頼もしいやつだ
それにキシュナが暴走した時に止める役目もこなすことができる
……最も融通が利かないという欠点もある
この間も飯を作れと言っておいたら白米のみが大量に食卓に乗っていて驚かされた

エフィデルは…………特筆すべき特徴はない

パラパラッ……

30日目
ソーニャという女性型モルフを気まぐれで作ってみる
リムステラの時の失敗を元に、胸部を含めた体型をより女性らしくしてみた
性格も今までのモルフとは違い、私への忠誠心を強めに設定してみた
……しかし強くしすぎたのか、妻に嫉妬しているようだ
妻も妻で何か誤解をしているようだし……困ったものだ
しかしそれだけ愛されているということか

パラパラッ……

62日目
迂闊だった
二か月もの間まったく何も起こらなかった為、警戒心が薄れていた
アトスの奴め、まだ私を追っているのか
幸い、奴の部下の一部が気付いただけのようだ
その部下共もリムステラ達が全滅させたので、一応まだ場所はばれていないはずだ
とはいえ、その部下達になにがあったか奴ならすぐに勘づくだろう
あれで、悪知恵は人の数倍働く男だからな
警備を強化せねば……

パラパラッ……

82日目
最近珍しい鉱石をこの付近で発見した
この鉱石は原石のままではただの石ころだが、ある程度加熱すると周囲に特殊な波長を発し、
生物の神経を委縮させる効果があるようだ
人工知能を装着させ、これで石造を作ってみることにする
フォルムは以前歴史書で見かけた、三国一の怠け者にするつもりだ

パラパラッ……

102日
表の守りは石造のおかげでかなり強化された
内部警備の為に、ガードロボを作ることにする
ロボの制御装置と内部兵器はもう作ってある
そしてまだ作っていないが、外見のモデルも既に考えてある
最近紋章町を騒がせている漆黒の鎧を着たジェネラル、奴しかいない
同じ外見だとややこしいので、鎧の色を血のように真っ赤に染めて見た
妻の瞳と同じ色にしたつもりなのだが、妻には不評のようだ

パラパラッ……

209日目
知り合いの占い師が訪ねてきた
いつも思うのだが、あれで私の何倍も生きているとはとても思えない
私自身もかなりの時を超えて生きてきたつもりだが、上には上がいるものだ
それにあの年齢を感じさせない言動と親しみやすさ、あれはぜひ見習いたい
どうやら弟が生まれたらしく、その報告を知人にして回っているらしい
相変わらず、元気でやっているようで安心した
……時々人が変わったようになる癖は直っていなかったが
ユンヌとはなんなのだろう、もう一つの人格の方の名前だろうか

パラパラッ……

……………
………

360日目
もう、この日記をつけ始めてから一年がたとうとしている
時がたつのは、スナイパーの必中より早いとはよく言ったものだ
幸いこの一年、警備を固めたおかげか奴からの襲撃による被害はない
妻は壮健だし、モルフ達もよく働いてくれている
特にリムステラは私と家内に忠実に尽くしてくれている
自我が発達しているモルフの中でも、変わらず尽くしてくれているのは奴だけだ
妻の誕生日を覚えていて、贈り物を用意していたと知った時は本当に驚いた
良い意味で人間らしくなってきているようだ、私も生みの親として嬉しい
作ってからちょうど一年ということで、何か送ってやりたいものだが……

ペラッ

361日目
リムステラを呼び出して、昨日の件について言ってみた
何も要らないと最初は断っていたが、妻の説得でもらうつもりになってくれた
しかし聞かれたら恥ずかしいのか、妻に席をはずしてほしいと言いだした
その後も恥ずかしそうにしているので何が欲しいのか改めて聞いてみると、
「その、胸を……もう少しだけ増やしてほしいのですが………」
上目づかいで恥ずかしそうにそう言った

すまん妻よ、正直キュンとした

ペラッ

362日目
リムステラの願いを叶えるべく、久しぶりに手術室へと入る
埃が凄いので、今日は掃除だけをして終わった
しかし今の私に掛かれば、一日と掛からずにバストアップが可能
どうやらリムステラの願いを叶えることができそうだ
妻に私より大きしないでくださいねとこっそり釘を刺されているので、
妻と同じくらいにしてみる事にした

ペラッ

363日
おかしい、何をやっても胸が大きくならない
エーギルを増やしても、直接身体をいじっても、すぐに元の体型に戻ってしまうのだ
私は神や呪いなど信じてはいないが、何か人外の力が働いているとしか思えない
このままではリムステラの願いを叶えてやれない……
私の研究者としての威信にかけても、生みの親としての責任を果たす為にも、なんとかしなければ…

ペラッ

364日
何故だ、術式は完璧なはずだ
私はモルフを作り、新たな術を作り、自らを不死にすることすらできる
だというのに、何故あんな脂肪の塊を作ることができないのか
デニングで試してみたが、問題なく胸は大きくなった
最も、次の日すぐにリムステラによって引きちぎられたのだが
すまん、リムステラ、我が最愛のモルフよ

ペラッ

365日
な んで
どう  し      て

か ゆ  うま

…………………
……………
………

「(´;ω;`)ブワッ」

エイリークの頬を、二筋の滴が音もなく流れ落ちていく
それはいったい、どのような意味を持つ涙なのだろうか
自分がいつの間にか泣いていることに気付いたのか慌てて眼元を拭うエイリークだが、
そこで不信に思ったマルスが姉に向かって声を掛けた

「姉さん?どうかしたんですか?」
「い、いえ、別に何も……」
「……そうですか、何か分かったら教えてください」

マルスは姉が何か隠し事をしていることに気が付いているようだが、理由があると思ったのか深く追求はしなかった
エイリーク自身も、この日記の内容を人に口外するつもりはなかった
確かに情報としての価値は高いが、脱出手段には触れらていなかった
それに……

(同士であるリムステラさんの秘密を、勝手にばらす訳にはいかない
ごめんなさい、マルス……………)

そっと日記を目に着かない場所に退避させながら、エイリークは弟に心の中で謝罪した
エイリークはこの後も捜索を続けたが、結局その後も有力な情報は出ず、彼らは引き上げることとなる
その後は言うまでもなく、例の大陸釣りの話へとつながっていく
これが、あの時の事件の話のすべてである

この話は一見、今と何の関係もないように思える
遭難自体は一カ月も前の事件で、当人達も忘れかけているのだから

しかし、この日記の内容が再び繰り返されようとは、誰が考えるだろうか
しかも今度の結末は、今は誰にもわからない

兄弟家の休日から一カ月、再び何かが起ころうとしていた………
     
                                番外編終了・――リムステラさんが暴走したようです――に続く