幼女の旗の下に
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3 何もしない 静かに…ひたすら息を殺してやりすごすんよ…
サザ (…ガルザス? ボッコボコにしてやんよ!……と言いたいところだけどここは我慢なんよ。
ひたすら気配を消す事に徹するんよ…)
隣のダンボールも動く気配がない。パティも同じ選択を取ったようだ。
攻撃を仕掛けた場合は連携は期待できなかっただろう。
ガルザス 「………」
気配が近づいてくる……
ほとんど足音を立てていない…
密偵であるサザの耳を持ってしても注意しないと聞き取れないレベルだ。
無意識の歩行すらこのレベル。剣術の歩法が骨の髄まで染み付いているのだろう。
サザ (こ…心を乱すんじゃないんよ…ヘマ打ったら気付かれる…俺は蜜柑…この箱は蜜柑の入ったなんの変哲も無いダンボール…)
そう自分に言い聞かせる…
ひたすら蜜柑をイメージする…蜜柑は自ら動かない…物音も立てない息もしない…
箱の中でひたすら食べられるのを待つだけ……
ガルザス 「…………」
…人の気配は感じない…
少しでも怪しい気配を感じ取ったらダンボールごと真っ二つにするつもりだったのだが。
だがそもそも廊下の片隅にダンボールが置いてある事自体が不可解だ。
厨房の料理人が置き忘れたのだろうか?
だが彼は用心深い男だった。
可能性は疑ってかかる必要がある。
多くの修羅場を生き延びて一流の傭兵となったのもその用心深さあっての事だ。
万一侵入者がいたら…レイドリックの政敵が手の者を送り込んで破壊工作や暗殺を目論んだら…
充分にありえる。
廊下でダンボールに身を隠すというのはいささか不可解だが…
いや、あるいは警備を混乱させるためブービートラップを仕掛けている可能性もある。
調べてみるにしてもうかつに近づいては危険だろう。
自分の実力には自信があるが慢心は死を招く。
主力キャラでも少しの油断であっさり死ぬ事がある。
この辺りは多くのプレイヤーが経験し、リセットボタンに指を伸ばした覚えがあることだろう。
そろりそろりと怪しいダンボールに近づく…慎重に…慎重に…油断なく…
万一ダンボールから曲者が飛び出したら一太刀で切って捨てられる体勢をとりつつ…
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サザ (……………)
窮地…それも絶体絶命の…
だがガルザスの慎重さ…それが生み出した時間はサザに味方した…
ガルザスが時間をかけて確実に調べようとしてる間に…第3の人物が廊下の向こうから現れたのだ。
サザの耳は新たな人物の足音を感じ取っていた。
なにやらヨタヨタしているようだが…
ブラムセル「ほっほっほぉ~~~い~~い酒じゃわい♪
これで綺麗所が酌してくれたらサイコーなんじゃがのぉ」
酒臭い息を吐きながら近寄ってきたのはレイドリックの友人、ブラムセル。
表向きは商人だが没落貴族から金で伯爵位を買い上げた成り上がり者だ。
当然社交界からはつまはじき者だがレイドリックとはウマが合って交流をもっていたし、
裏ではテロ集団ベルクローゼンの同僚でもある。
ガルザス 「……」
口の中で舌打ちをする。
個人的にはどうでもいい男だが仕事の上では雇い主の客人を危険に晒すわけにはいかない。
もしかしたらダンボールにフレイボムが仕掛けられているかもしれないのだ。
この場から遠ざけなければ…嫌だが声をかけよう。
ガルザス 「…レイドリックと飲んでいたのではないのか…」
ブラムセル「んぅ?…なんじゃさっきの男かむさくるしい…わしゃトイレじゃトイレ!
…ところでトイレはどっちかの?」
ガルザス 「…こっちだ…案内してやる」
ブラムセル「おぉそうかそうか」
ブービートラップの事はささやかな可能性にすぎず、危険だから近寄るな!などといっていらぬ不安をあおる必要もない。
箱を調べるよりもこの男をさっさとここから遠ざける方が優先だろう。
ガルザスは嫌々ながらもブラムセルを伴ってその場から離れていった…
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サザ 「…どうやら死なずにすんだようなんよ…」
パティ 「一生分の幸運を使い切った気持ちだよ…生きた心地がしないね…」
サザ 「冷や汗タラタラなんよ…蜜柑は汗かかないのに俺もまだ未熟なんよ。さ、行くんよ」
パティ 「りょーかい、しかしほっとしたわ。アタシアンタがガルザス?ボッコボコしてやんよ!
…とかほざいてつっかかっていくとばっか思ってたから。そんときの対応ばっか考えてたわ」
サザ 「……どんだけ信用ないんよ俺…ちなみにそうしてたらどうしたんよ?」
パティ 「アンタを囮にして逃げたよ? 他に方法はないでしょ。加勢しても二人纏めてやられただろうし」
サザ 「正しいけど冷酷な選択なんよ…まぁ突っかかってった場合、完全に俺の判断ミスだから文句は言えないけど…」
パティ 「でなきゃ盗賊なんて生き残れないし?その辺は割り切らないとね」
二つのダンボールは再び目的の部屋を目指して進みだした。
サザとパティが結果的にではあるがガルザスの注意を引いた事は他のメンバーにとっても有利な状況をもたらした。
レイドリックの私兵は決して質の高い集団ではなく忠誠心も勤労意欲も薄い。
ガルザス以外には見るべき者は少なく、そのガルザスをサザ達が僅かな時間とはいえ釘付けにしたために
他の五組はさしたる危険も無く侵入を果たしたのだ。
北棟の一室でリーフは会心の笑みを浮かべていた。
リーフ 「思ったよりも簡単な仕事になるね。ツイてるよ」
リカード「ボス、鍵開いたよ。中には…3人。魔方陣の部屋にはさすがにクラスチェンジ済みの警備を常駐させてるね」
リーフ 「問題無いよ。こういう時のために日頃から必要経費を使ってるんだから」
戦って勝てないとは思わないが警報を鳴らす間も無く倒せるとはそれ以上に思えない。
リーフは自分の力量をよく把握して準備をしていた…
私兵 「……ん?」
かすかに扉が開いている事に気付く。
おかしい…鍵がかかっていたはず……だが気付いた時には遅かった…
ほんの小さなスキマから転がりこんだ球形の物体からガスのような物が吹き出す!
私兵 「し…侵入者!?…ふわぁ…」
抗いようもない眠気のままに三人の男は床に崩れ落ちた。
素早く部屋に滑り込んだリーフとリカードは扉を閉めて再び鍵をかける。
リカード 「ふぇえ…すげー」
リーフ 「ルーテ式37型スリープボム、いい仕事してくれるね。研究資金を提供した甲斐があるよ」
リカード 「活きた金の使い方って奴だね。今夜の儲けで何倍になって返ってくるかなぁ?」
リーフ 「宝物庫も当たりはつけてるよ。それにしてもガルザス一人やりすごすだけでここまで上手くいくとはね。
どのグループが引き付けてくれたか知らないけど取り分に+αかな」
ルーテ式37型スリープボム。
以前よりルーテが研究していたスリープの魔力を人体に無害なガスに付与した物であり、要はフレイボムの別バージョンである。
これをもって緑葉の仕事が容易になると判断したリーフが資金提供して完成させた。
なおリーフとリカードは当然ガス対策を取っている。
ガスから呼吸器を守るルーテ式シッコクヘルムを装着しているのだ。
水中でも宇宙でも呼吸できる優れものだが少々重いのが今後の改良点だろう。
そんな事を考えつつもリーフは部屋の中央に描かれた魔法陣を踏みつけた。
紫色の魔法の光が力を失って消えていく……
他5箇所でも同様の光景が展開されていた……
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一夜明けて…………
そこには呆然と立ち尽くすレイドリックの姿があった……
よい気持ちで酒宴を終えて寝て…朝はゆっくり起きるはずが…早朝に従者に起こされてきてみれば……
牢はもぬけの空となっていた。
従者 「…それぞれ6部屋の警備交代の時間に…交代の兵が眠りこけている前任者を見つけまして…結界が解除されておりまして…」
レイドリック「馬鹿な…馬鹿な!? どうしてこうなっておるかっ!!!」
従者 「げ…現在調査中でありますれば…」
レイドリック「それどころではない! ワシの行いが明るみに出たら北トラキア党掌握も全て…
ぐぐぐぐ…キュアンの手の者以外にありえぬわ!フィンめあたりが密偵を使ったのか…」
その予想は外れていたがレイドリックがそう考えたのも無理はない。
レイドリック「まだ遠くには行っておるまい!追っ手をかけろ!」
ガルザス 「無益だ。行けと言うなら行くが事が行われて結構な時間が立ってるだろうよ。今更その辺をうろついているはずがない」
レイドリック「な…何を言うか!高い金を払っておるのにこの事態!貴様どう申し開きするつもりか!!!」
ガルザス 「申し開きなどせん。俺は館の警備を請け負った。だが賊を防げなかった。その分の金は返そう」
レイドリック「そそ…そんなことよりもこれからではないか!!!どうにかキュアンめの口を塞いでしまわんとワシの行いが明るみにでる…
いや…いやいや…生き返られたら同じ事…それゆえ捕らえておったのだから…
ならばクロードめを買収してエーギルが尽きたと偽らせるか…」
ガルザス 「なんでも好きにしろ。ではな」
大男が踵を返す。
その姿に男爵は慌てて声を張り上げた。
レイドリック「ど…どこへ行くのだ!!!貴様にはキュアンと賊共の口封じを…」
ガルザス 「…新しい仕事なら相応の代価をもらえん事にはな…払うあての無い奴に用は無い」
レイドリック「な…何を言っておる? 金ならいくらでも…」
ゲルザス 「報告がまだのようだな…ん?」
視線を向けられた従者が慌てて口を開いた…
従者 「それが…その…宝物庫も金庫も全て……」
黒衣の男爵はこの時、自身の身の破滅を悟った………
貴族としても政治家としてももはや再起の道が絶たれた事を………
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キュアン 「まずは礼を言わせてくれ。本当に世話になった」
芸術的といってもよいほどの手並みで要人の身柄を奪還した緑葉はすでに足がつかぬよう四散潜伏しており、
キュアンを移送しているのはリーフと外部待機していた連中だ。
結局エフラムらが増援に呼ばれる事は無く、今回は備えに徹した形になる。
リーフ 「いやいやいや、ここにはいないけど仲間の助けがあってのことですし!」
キュアン 「彼らにも礼を伝えてほしい。すまないなリーフ。お陰で愛するエスリンにまた会えるよ」
リーフ 「そう!礼と言うなら是非そこを!エスリンさんを虜にした口説きのテクを僕に伝授してくださいよ!」
リーフは色々と縁あってキュアンを尊敬している。主に嫁さんゲットの辺りらしいが…
キュアン 「テクなんてないさ。女から惚れられるようないい男になれ。そのためにいろんな経験を積んで男を磨くんだな」
サラ 「そのためにもまずは根性を直さないとね…クスクス…もっと修行が必要ね」
リーフ 「もうラグドゥもマレハウトも慣れたもんさ。この上どこにワープさせると言うんだい?」
サラ 「いろいろやったもんね…もっとバリエーションを増やさなきゃ…ストーンをかけて海に沈めるとかどう?」
リーフ 「どうしてそんな鬼畜な事が思いつくのさこのヒトデナシー」
エフラム 「この件はこれで大団円か…キュアン殿、もう一つ目出度い知らせがある」
キュアン 「ああ、リーフの兄上だったか?」
エフラム 「名乗り遅れた。俺はエフラム」
キュアン 「ああ、今回の事では君も協力してくれたのだろう。礼を言う。それで目出度い事とは?」
エフラム 「シグルド兄上の結婚が間近でな。是非ご出席いただきたい」
キュアン 「シグルドが!? そうかぁ…アイツもようやくか…俺やエルトに遅れる事何年になるか…本当によかったな」
式はすでに3日後…ロプト式で執り行われる事に決まっている。
司祭役はサラ。
本来ならマンフロイがやる所だがサラの「おじいさま、私がやるわ」の一声でサラに決まった。
エフラム (これで…なんの憂いも無く兄上の式があげられるな…唯一ロプトという点だけが心配だが…
サラもさすがに悪さはしないだろうが…)
続く
1 念のためサラに釘を刺す …本当に大丈夫か?
2 シグルドとの思い出を回想する 色々と…うん…色々あった…
3 リーフを褒める 本当によくやったな…
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