幼女の旗の下に
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2 クーデターの阻止に動く 放ってはおけん、ソーニャ達はロイドやリーフらに任せて俺はこの事件を止める!
エフラム 「そりゃないだろう…」
小さく呟く。
これまで懸命に有権者に訴えかけてきた。自分の主張と理想を実現するために走りまわってきた。
それは自分だけでは無い。ライバル政党のラケシスだってそうだ。
セリノスでは敵対したが彼女もまたリュシオンに懸命に支持を呼びかけていた。
だがプリシラの行いは……自分の理想を無理やり通そうとしている。
例えるなら将棋で王手をかけられた途端、将棋版を引っ繰り返し刃物を突きつけて自分を勝者にしろと言っているようなものだ。
エフラム 「俺もラケシス会長も…他の党の連中もその枠は踏み越えなかった。
ここまで俺たちが懸命にやってきて…これから挑む選挙を台無しにされてたまるか。
紋章町を好き勝手にはさせんぞ…」
即座に連絡を取る。
エフラム 「ロイドすまん、俺は別件で動く。AKJの一部勢力にクーデターの動きがある。
すまんが牙の方はお前等でなんとかしてくれ」
ロイド 『なんだと?だが党の戦力はほとんどこっちに動かしちまってる。今からそっちに割ける戦力は…』
エフラム 「なんとかするさ。ダーレン殿が内々に調査してくれた。事件が起こるなら官公庁エリアだ。
そっちが片付いたら応援に来てくれ」
ロイド 『わかった。無理はするな』
電話を終えるとエフラムはジークムントを担いで家を飛び出していった。
その日の官公庁エリアは穏やかな日差しに包まれて静かな佇まいを見せていた。
時刻は午前8時、各省庁では業務が開始される頃である。
路上の片隅に止められたトラックのコンテナ内は通信機器やモニターで埋め尽くされていた。
その中に一人座すプリシラは通信機を片手に歌い上げるような声を発する。
プリシラ 「さあ皆さん……理想郷を作りますよ」
その瞬間…町の各所から火の手が上がった。
国防軍総司令部は混乱の極みにあった。司令室でオペレーターたちが次々とエリアの被害状況を報告する。
指揮座にある国防長官タウロニオ元帥は額に滲み出る汗を拭った。
タウロニオ「…おのれテロリスト共…大胆な真似を…すぐ首都防衛隊に出動命令を出せ!」
だがオペレーターが復唱しない。
タウロニオ「どうした?すぐに治安出動を…」
オペレーター「否。そのご命令は実行しかねます閣下。なぜならば……」
タウロニオ「なんだと!?」
…周囲にいた数人の女性将校が次々と抜刀し他の軍人達の首筋にサーベルを突きつけた。
オペレーター「なぜならば貴方は我々AKJの捕虜だからです閣下」
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『内務省制圧完了』『財務省抑えました』『外務省陥落』
次々とプリシラの元に吉報がまいこんでくる。
プリシラ 「ふふふ……うふふふ……ほら見なさい。会長のやり方では何も手に入らなかった。
私は違います。この私こそが全ての兄を愛する妹の救世主となるのです……」
その時一つの通信が舞い込んできた。
AKJメンバー『プ…プリシラ様! ベルン本署の制圧難攻してます!抵抗がかなり強く署内に突入できません!』
プリシラ 「署内に浸透させておいたAKJ会員の婦警達は何をやっているの?」
AKJメンバー『それが…ゼフィール署長の暗殺に失敗してみんな返り討ちに……』
プリシラ 「チッ…あの化け物……仕方ないわ。ベルン署周辺を光の結界で封鎖。ワープの杖を持ってる警官はメティオで狙い撃ちなさい。
ドラゴンナイトで署長を空輸する可能性もあるわ。周辺にはシューターの設置開始。
署長を署内に留めおいて私たちの活動の邪魔をさせないように」
AKJメンバー『はっ!』
プリシラ 「要人の身柄の確保状況は?」
AKJメンバー『現職閣僚8名確保!…あ、ただいま連絡が…出勤途上のヘッツェル首相を確保しました!』
プリシラ 「ふふ…ふふふ…こうも簡単に行くなんて。元老党政権も甘いものですね」
……現職閣僚の多くは元老党員である。
彼らの事は日頃は元老党の配下機関となった牙の構成員達が極秘裏に警護しているのだが…
この日は主力を前党首の抹殺と護衛するであろう聖天馬騎士団へ向けてしまったために護衛が手薄となっていたのだ。
この点プリシラは幸運であった。
幸運の成長率の高さは伊達ではない。
プリシラ 「政府、軍部の機能はすでに私たちの掌中に落ちつつあります。
後は大統領の身柄確保とFETV放送局の制圧を。
それが済み次第声明を放送します」
AKJ『了解!手筈通りに!』
元老党事務所ではルカンが苦虫を何匹も噛み殺したよな顔をしていた。
このような無謀で破れかぶれの行動を取る者たちがいようとは想像もしていなかった。
取り分けヘッツェルらが捕らわれ、政府機能が止まった事は党にとっても痛手である。
ルカン 「何をやっとるのか!何故軍は鎮圧に動かん!」
選挙参謀 「そ…それが…総司令部も連中の支配下にあり…今は軍部も混乱しておりまして…」
ルカン 「テリウス方面軍のロンブローゾに連絡を取れ!至急手持ちの兵を使って鎮圧に当たらせよ!」
選挙参謀 「はっ!」
ルカン 「逃げてきた者の話では…テロリストはAKJと名乗っていたそうだな?」
選挙参謀 「はい、その様子です。災い転じて福と成す。ライバル政党の責任を問いラケシスめの政治生命を潰す好機かと」
ルカン 「ふふ…この件を乗り切ればこれを理由に世論を扇動して他党の非合法化を推し進められる。
小娘どもがバカをやったものよ。せいぜい三日天下を楽しむのだな」
危機は転じればチャンスにもなりうる。
ルカンもまたしたたかにその機会を掴もうとしていた。
……官公庁エリアに単身駆けつけたエフラムではあるが路上はすでに混乱状態だった。
各省庁から逃げてきた役人やベルン本署との通信を妨害されて右往左往する警官でごったがえしている。
エフラム 「くそ…来てみたはいいがどうやって阻止するか考えてなかったな…何がどうなってる…敵はどこにいるんだ…」
人ごみをかきわけて進むエフラムは懸命に状況を分析する。
エフラム 「…この事件を止めるにはプリシラを倒すしかないだろうな…だがどこにいるかわからん…
考えろ……次に奴はどこに現れる?」
続く