セリス 「エフラム兄さんのバカッ! 僕だって……っ!」
セリスはエフラム兄さんを怒鳴りつけると、目に涙を溜めて居間を出ていった。ドンドンドンと階段を駆け上がる音が聞こえる。自分の部屋かしら?
私の目の前では、エフラム兄さんが天馬騎士の配置を間違えて、スナイパーに撃墜されたような表情をしてる。
ヘクトル 「お前、いい加減にしろよ」
エフラム 「…………何がだ」
ヘクトル 「すっとぼけてんじゃねえ。いい加減、弟離れしねえとホントに嫌われちまうぞ?」
エフラム 「セリスが無事でいられるなら、俺は嫌われても構わん」
ヘクトル 「それが駄目だっつってんだろ。表出ろ、このロリシスブラコン野郎。その石頭、
かち割ってやる」
エフラム 「……黙って聞いていれば……! 上等だ……っ!」
二人は立ち上がると大股で居間を出ていった。アイク兄さんが庭にいるから、ケンカがいきすぎたら止めてくれるはず。
エイリーク「……兄上が心配する気持ちはよくわかります」
リン 「でもさすがにあれは、ねえ? セリスも男の子だし」
マルス 「ウザいですよね、はっきり言って」
リン 「人が言葉を濁したのに、あんたは……っ!」
マルス 「うぐっ!? リン姉さん、チョークスリーパーはさす…が…に……ぐぺっ」
ロイ 「ああ、マルス兄さんの顔がどんどん青く……」
リーフ 「あれで喜んでるんだから、ある意味僕よりすごいよ」
ミカヤ 「それにしても、第一志望がオスティア学園ねぇ。エリンシアはどう思う?
KINNIKU抜きで、真面目に」
エリンシア「もちろん、セリスちゃんの希望通りにいくのが一番ですわ。ただ、オスティア
学園の厳しさは少し心配でもあります」
ミカヤ 「エリウッドはどうかしら?」
エリウッド「うーん、家計を預かる身からすると、オスティア学園の学費はかなり低くて、
助かると言えば助かるんだ。だけど、授業についていけるかな?」
いつもそうなんだけど、エフラム兄さんの過保護がセリスを怒らせちゃった。私と違って、滅多に怒る子じゃないんだけどね。
……な、なによ、私だって自分の性格くらい、ちゃんとわかってるんだから。
セリカ 「ねえ、アルム。ちょっとセリスのとこ行ってくるわね」
アルム 「……うん、わかった」
アルムはちょっと驚いたみたいだけど、すぐに私の意図を察して微笑んでくれた。
さすが私のアルム。愛してるわっ!
セリカ「セリス? 入っていい?」
セリス「…………うん」
ドアをノックしてお伺いを立てると、少し間があってから返事をくれた。
部屋は真っ暗で、セリスはベッドの上で膝を抱えて俯いている。
セリカ「エフラム兄さんって、時々ウザいわよね。ブラコンでシスコンでその上ロリコン疑惑
まであるし。大切に想ってくれるのは嬉しいけど度が過ぎてキモいし重いしいい加減に
してって感じ。その上頑固でこっちの言うこと聞いてくれないし」
セリス「……セリカ姉さん?」
セリカ「うん、セリスはここまで悪く思ってないわよね。でも、バカって言っちゃったこと、
後悔してるでしょ? 酷いこと言っちゃったって」
セリス「……うん」
私はセリスに歩み寄ると、そっと抱き締めた。
セリス「セ、セリカ姉さん?///」
セリカ「私もシグルド兄さんとケンカして酷いこと言っちゃうから、セリスの気持ち、
よくわかるのよね。できるだけ早く謝った方がいいわ。
じゃないと、言いづらくなっちゃうから」
セリス「……うん」
私が離れるとセリスは立ち上がって、
セリス「ありがとう、セリカ姉さん。エフラム兄さんに謝ってくる」
いつもの笑顔を向けてくれた。うん、やっぱりセリスは笑顔が一番だわ。
私もたまには、セリカ『姉さん』らしいことしないとね。
終わり
おまけ
アイク 「……14998……14999……15000……」
いつもの日課である素振りをこなしていると、玄関から二人分の気配。ヘクトルとエフラムか。二人とも、相当殺気立っているようだが。
さっき珍しくセリスの怒鳴り声が聞こえたから、ケンカでもしたんだろう。
ヘクトル「鍛練中すまねえ、アイク兄貴。今からこいつと勝負すっから、立ち会ってくれ」
エフラム「アイク兄上、鍛練中に申し訳無い」
二人の目が、やり過ぎたら止めてくれと言っている。
アイク 「わかった。好きな時に始めていい。自分たちの間合いで入れ」
俺は腕を組んで二人の成り行きを見守る。
仕掛けたのは、ほぼ同時。斧と槍が激しくぶつかり合う。最初は互角だったが、エフラムが徐々に押され始めた。
エフラムの技に、いつもの冴えが無い。加えて、ヘクトルは絶好調のようだ。
やがてヘクトルが完全に押し込んでいき、エフラムの槍を弾いた。
ヘクトル「もらった!」
エフラム「くっ!」
ヘクトルが斧を振りかざした。エフラムの防御は間に合わない。俺は咄嗟に二人の間に割って入り、ラグネルでヘクトルの斧を受け止めた。
アイク 「そこまでだ、ヘクトル。勝負はついた」
ヘクトル「……ふぅ、度々すまねえ、アイク兄貴。助かったぜ」
ヘクトルは斧を収めると、
ヘクトル「そこでしばらく反省してろ。頭冷やすまで家に入ってくんな、この馬鹿。
オスティア学園にゃ、こんなに強い俺がいるんだから、お前は余計な心配
しなくていいんだっつの、この阿呆」
憎まれ口を叩いてさっさと家の中へ戻っていった。
俺も声をかけようと思ったが、片膝をついて地面を見つめるエフラムは、今は話しかけないでくれと全身で訴えている。
俺は何も言わずに、家の中へ戻ろうとした時、
セリス 「エフラム兄さん!」
セリスが家から飛び出してきた。
セリス 「さっきは酷いこと言ってごめんなさい。でも、兄さんだって悪いんだよ?」
エフラム「いや、セリスが謝ることはない。俺の方こそ、すまなかった……」
二人とも、どこかほっとしたような表情をした。
シグルド「ただいまー」
残業で遅くなったシグルド兄さんが帰ってきた。
アイク 「お帰り、シグルド兄さん」
シグルド「ん? 三人とも、表に出てどうしたんだ?」
エフラム「……その、セリスを怒らせてしまって、な」
セリス 「でも、もう仲直りしたから!」
シグルド「そうか。仲直りしたなら、もういいんだ。それよりも、商店街でたい焼きを買って
きたから、みんなで食べよう!」
セリス 「それじゃあ、僕、お茶淹れるね!」
シグルド兄さんが買ってきたたい焼きは、焼きたてで温かかった。
ひょっとしたら、一度家に帰ってきていたのかも知れない。
やはり、シグルド兄さんには敵わない。
今度こそ終わり