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Last-modified: 2014-01-18 (土) 18:13:36

 ~エイリークの部屋~

エイリーク「……今日の宿題はこれで終わり。まだ就寝までには時間があるし、明日の予習を……」

 コンコン。
 
エイリーク「はい、どうぞ」
セリカ「お邪魔します……」
エイリーク「セリカ? 何かあったの?」
セリカ「うん……ちょっと、話を聞いて欲しくて……」

 エイリークは複雑そうなセリカの表情を見て、何か愚痴を吐きたいらしいな、と察する。
 にっこり笑って、テーブルの前のクッションを手で示した。
 
エイリーク「どうぞ、そこに座って」
セリカ「ありがとう。ごめんね、勉強中に邪魔しちゃって……」
エイリーク「構わないわ、ちょうど終わったところだから。それで、何のお話?」
セリカ「うん。あのね、ヘクトル兄さんのことなんだけど……」

 と、セリカが話した出したところによると、今日の昼間に
 教会関係の仕事で遠出した際に、ちょっとした事件があったらしい。

セリカ「……それで、シスターのジェニーが柄の悪い男の人たちに絡まれちゃって。
    でも場所が場所だけに炎の魔法は使えないし、剣も教会の中だったから……」
エイリーク「大変だったのね。それで、ヘクトル兄上が……?」
セリカ「うん。突然現れて助けてくれたのよ。と言っても、その男の人たちが勝手に怯えて逃げちゃったんだけど」
エイリーク「そう。ヘクトル兄上は有名なのね」
セリカ「そうみたい。『ヘクトルって、エレブ高の超重戦車と言われている……!?』とか、
    『メタボリック・アニマルの異名を持つ男か!』『に、逃げろ、潰されるぞ!』
    とか言って一目散に逃げていったわ」
エイリーク「それは……何と言うか」

 何とも言えない気持ちで苦笑いするエイリーク。
 
セリカ「……まあ、そこまでは良かったんだけどね」
エイリーク「その後に、何か?」
セリカ「うん。それでジェニーと一緒にお礼言ってたら、
    ヘクトル兄さんの後輩の人が出てきて、こう言ったのよ」

マシュー『若、早く行かないと闘技場が満席になっちゃいますよ』

セリカ「……って」
エイリーク「なるほど、それで怒っていたのね」
セリカ「そうなのよ。そりゃね、わたしだって助けてもらったのは嬉しかったけど、
    それとこれとは話が別だと思わない? 闘技場よ、闘技場。
    ただでさえ褒められた趣味じゃないのに、増してや兄さんはまだ学生の身分なのよ?
    それでわたし兄さんを止めようとしたんだけど、お説教してもうるさそうな顔でそっぽ向くし、
    怒ったらはぐらかして逃げるし……! その上ジェニーは何を勘違いしたんだか
    『セリカ様のお兄様ですか? ワイルドで素敵な方ですね……』とかってポヤッとしてるし……!
    そりゃあわたしだってヘクトル兄さんは尊敬できるところだってあると思うけど、
    でも教会のシスターとはどう考えたって合わないと思うの。
    まったくもう、どこぞの不良ニュースキャスターじゃあるまいし……」
    
 ……といった文句に始まり、セリカの愚痴が続く。
 エイリークはさして口を挟むこともなく、ただ的確に相槌を打つに留める。
 
 そうして、二十分ほどの後。
 
セリカ「……だから、ヘクトル兄さんはもう少し生活態度を改めるべきだと思うの。
    ミラ教に改宗しろとまでは言わないけど」
エイリーク「そうね、確かにもう少し礼儀正しくしてくだされば、悪い噂も減るでしょうね」
セリカ「やっぱりそうよね、エイリーク姉さんもそう思うでしょ? あ、でも……」
エイリーク「でも?」
セリカ「うん。ヘクトル兄さんのあの豪放さが人を惹きつける魅力になっているのも分かるのよね……」
エイリーク「そうね……どうしても堅苦しいのが苦手な人もいるから」
セリカ「うん。それで、あまり口うるさく言うのもどうなのかな、と思って。
    だからエイリーク姉さんに話を聞いてもらおうと思ったんだけど」
エイリーク「そういうことなら、この話はわたしの胸に留めておくことにしましょう」
セリカ「うん。そうしてもらえると凄く助かる……って」

 そこでセリカは、ようやく何かに気付いたような顔をして、
 
セリカ「……ごめんなさい、調子に乗って随分長く喋っちゃった」
エイリーク「いいのよ。わたしも兄上の話が聞けて楽しかったから」
セリカ「うん……いや、やっぱりごめんなさい。エイリーク姉さん、黙って聞いてくれるからつい……」

 セリカが気恥ずかしそうに肩を縮めるのを見て、エイリークは小さく微笑む。
 この妹がこういう話をしに来るのは、これが初めてのことではない。
 大体二週間に一度はこういうことがあり、エイリークはそのたび黙って愚痴を聞いてやるのだ。
 愚痴と言っても、その多くは家族を心配する内容がほとんどだ。
 だからエイリーク自身、さほど面倒とは思わず真剣に耳を傾けることができる、のだが。
 
エイリーク「そうね……じゃあセリカ、一つ聞いてもいい?」
セリカ「なに?」
エイリーク「セリカはどうして、わたしにだけこういう話をしてくれるの?」
セリカ「あ……ご、ごめんなさい、やっぱり迷惑……」
エイリーク「ああ、違うの、そうではなくて。ただ、純粋に不思議だったものだから」

 相談相手と言えばミカヤやエリンシアやシグルドなどの年長組は言うに及ばず、
 エリウッドやエフラムだって面倒くさがらず真剣に話を聞いてくれるだろう。
 リンだってセリカと似た真面目さを持っているし、それに何より、彼女にはアルムがいるのだ。
 そういう、もっと適切に思える相手ではなく、自分を選ぶのはどうしてなのか。
 エイリークは、そのことを常々疑問に思っていたのである。
エイリーク「たとえば、ミカヤ姉上やエリンシア姉上、シグルド兄上はどう?」
セリカ「えっと……エリンシア姉さんやシグルド兄さんには、家族のことで変な心配かけたくないし……
    ミカヤ姉さん自身は相談相手には適切かもしれないけど、たまにユンヌと入れ替わってて酷い目に遭うし……」
エイリーク「ああ、それは……ええと、ではアイク兄上やエフラム兄上はどうかしら」
セリカ「……アイク兄さんにこういう話をすると『よく分からんがヘクトルを叩きのめせばいいのか』
    とか言い出しそうで怖いし、ヘクトル兄さんはうるさがって話を聞いてくれないし、
    エフラム兄さんはほら、普段はそこそこまともだけど、妹絡みになると暴走しがちで不安だから……」
エイリーク「それは、何と言いますか……」
セリカ「で、エリウッド兄さんに相談したらまた胃薬の量が増えそうで気の毒だし、
    マルス兄さんに相談するのは何か裏でいろいろ手を回しそうで不安でしょう? 
    セリスやリーフやロイは弟だから、愚痴なんか聞かせたくないし。
    リン姉さんは話に感情移入しすぎて、剣片手に飛び出していきそうで怖いし」
エイリーク「……アルムは?」
セリカ「アルムは……その」

 と、セリカはちょっと気恥ずかしそうな顔で、
 
セリカ「……あんまり、ヒステリックなところ見せたくなくて……」
エイリーク「……ふふ。そう、よく分かったわ」
セリカ「えっと。なんか、消去法みたいに聞こえたかも知れないけど、そういうんじゃなくて」
エイリーク「それは分かっているから大丈夫よ。ありがとう、頼ってくれて」
セリカ「……エイリーク姉さんは黙って話を聞いてくれて、胸に閉まっておいてくれるから安心できるの。
    いつもありがとう。これからも、たまにこういうことあるかもしれないけど……」
エイリーク「気にしなくてもいいわ。いつでも来てくれて大丈夫だから」
セリカ「ありがとう。そう言ってもらえると凄くほっとする……」

 言葉通りほっと息を吐きながら、セリカは小さく苦笑する。
 
セリカ「……駄目ね、わたし。仮にも神官なんだから、本当は相談を受ける立場なのに……」
エイリーク「神官だって人間なんだから、ストレスを感じることだってあるわ。ため込むのは良くないでしょう」
セリカ「そうかもしれないけど……うん、駄目ね、また考えこんじゃってるかも」
エイリーク「でも、その真面目さはセリカの美点でもあると思うわ。それを忘れないでね」
セリカ「ありがとう、エイリーク姉さん。ちょっと気が楽になったかも」
エイリーク「それなら良かった」

 二人はその後もしばらく、他の兄弟たちに比べれば随分品のいい雑談を交わしたのであった。

 

192 :助けて!名無しさん!:2012/03/17(土) 00:49:22.93 ID:1EKVOdAz

オチは特にない。

なんかあんまり見たことない組み合わせだけど結構仲良さそうな二人だよな、と思って書いたが、
ここまでスレ進んでるのに、一対一の関係があんまり描かれてない兄弟がいたりして結構びっくりする。
よくよく考えなおしてみれば案外まだ描かれていない組み合わせはたくさんありそうだよね。