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Last-modified: 2014-01-18 (土) 18:23:13

「いつも悪いねえ、アルム君」
畑で野菜の収穫をしながらチャップがそう言うと、アルムは手についた土を払いながら答える。
「いえ、好きでやってることですから。それに将来の役に立ちますし」
今は庭で家庭菜園をやっているアルムだが、いつか自分の畑を持った時の為に、チャップやネフェニーのところへ勉強がてら手伝いに訪れることにしていた。
そんなアルムの姿をチャップは嬉しそうに眺めながら、首にかけたタオルで顔を拭う。
「今時珍しいねえ、そういう風に言うのは……アルム君が家に婿に来てくれたらいいんだけどなあ」
冗談めかしつつもどこか真剣なチャップの呟きを、アルムはいつものように笑って誤魔化すのだった。

「所で、他のボウズ達はどうしてるのかな?」
「そういえば見当たりませんね」
今日、ここに手伝いに来たのはアルム一人ではない。家で暇そうにしていた兄弟と友人らを連れてきていたのだが……。
二人から少し離れた場所にリーフ達はいた。
「なあ、ロビンにクリフ。お前たちの知り合いにおねいさんはいないか?」
「お姉さんっていったらやっぱりマチルダさんだな」
「騎士をやってて、馬に乗った姿がかっこいいんだよ」
「マチルダおねいさん! 僕を後ろに乗せて下さい!」
「ただしクレーベっていう彼氏がいるんだぜ」
「おのれクレーベ! その席は僕のものだぞ!」
「同じ騎士で、結婚の約束もしてるとか」
「クレーベ爆発しろ! それか馬に蹴られて地獄に落ちろ!」
「蹴られるのはどっちかっていうとお前だろ」
「まあマチルダさんの尻にしかれそうな気はするけどね、実力的に」
「おねいさんの尻だと!? くそ、こうなったらクラスチェンジして馬になるしか!」
こうして盛り上がっている三人に水を差すようにグレイが口をはさむ。
「お前ら、どうでもいいけど働けよ」
「おやおやグレイさん、一人だけ恋人がいるからって余裕の態度ですなあ」
「ロビン、それはどんなおねいさんなんだい?」
「いや、同年代の天馬騎士の子らしいぜ」
「それなら別にいいや」
「その子はさっきのクレーベの妹だよ」
「クレーベの妹と仲良くなることによって、婚約者であるおねいさんに近づこうというその魂胆……グレイ、お前は天才かっ!?」
「そんなわけあるか!」

作業をせずに騒ぎ続けている四人に呆れて、アルムはため息をつく。
「なにやってるんだ、あいつら」
「おーい、口ばっかじゃなくて手も動かせよお」
そう四人に叫ぶチャップの声色には、普段の温厚な彼が見せぬ、まるで父親のような厳しさがこもっていた。
オレンジ色の空の下、アルムとリーフは籠を持って帰路についていた。籠にはチャップに渡された野菜が山盛りに積まれている。
初めの頃、彼はアルバイト代としてお金を渡そうとしたのだが、アルムが断ると野菜を半場無理矢理に持たせた。
それすらも遠慮がちだったアルムだが、最近になって、もし何も受け取らずに帰ってしまったらチャップの立つ背がないということが分かってきた。それは自分が少し大人になったのだと感じる瞬間でもあった。

「いやー、今日は手伝いにきて良かったよ」
慣れない作業をしたせいかさすがのリーフにも疲れが見えるが、それでもはつらつとした表情でアルムに話しかける。
「初めは大分渋ってたみたいだったけど?」
「まあね。でもなかなか出来ない体験だし。何より新たなおねいさん情報が入手できたのがでかい」
「相変わらず年上好きだね」
「当たり前だ。僕のおねいさんへの愛は海よりも深いのだ」
「はいはい」
「ロビンクリフには聞かなければならないことが山ほどあるな。まだ見ぬおねいさんたち待っててね!」
「はいはい」

ソニアおねいさんは三姉妹か、と悩ましげに呟くリーフを呆れたように横目で眺めるアルムであったが、その実、感心していた。
もちろんそれはおねいさんへのひたむきな情熱にではなく、今日初めて出会った人とああも親しくなれる社交性にだ。
恐らく自分はおろか他の兄弟にもない性格であり、アルムは彼を尊敬すらするのだった。
「そういえばアルムってなんで農業に興味持ったわけ?」
「え?」
「なんとなくね、きっかけがあったのかなって。まあアルムには似合ってるし、深い意味はないんだけどさ」
本当になんとなくで聞いたのか、リーフはすぐに別の話を始めたが、アルムは少し考え込んだ。

そして思い出していた。自分の幼き日の出来事を。

あれはアルムがまだ幼かった頃、遠足で芋掘りに出掛けた時のこと。
要領が分かっておらず土の感触に戸惑ったアルムは、形の悪いものやひどく小さいものしか掘れなかった。
それを当時はまだ親しくなかったグレイらに笑われて、悔しさと情けなさが入り混じった感情のまま家に帰ったのだ。

その時幼きアルムが見たものは、今日と同じように茜色に染まった空と、家の前に立っているあの人の姿――。
家の近くまでたどり着いた時、リーフが突然家の前へ向けて手を振った。
その人は二人に気がつくとすぐに手を振り返し、慌ててアルムも応える。
そして、その人の近くまできたリーフが誇らしげに籠の中の野菜を見せると、アルムの記憶をなぞるように言うのだった。

「これで美味しい料理を作りましょうね」

あの時、自分の手が汚れるのをいとわず、まだ土の残る小さな芋を握ってそう言ってくれた彼女に、今アルムは感謝の言葉を口にした。

「ありがとう、エリンシア姉さん」

脈略のない言葉に一瞬戸惑って、しかしエリンシアは微笑んだ。
それは幼きアルムが見たものと何も変わらない、暖かく優しい笑顔だった。

 

アルムの土おまけ
「今日はアルムとリーフが持って帰って来てくれた野菜を使った料理ですよ」
「野菜もいいんだが肉がもっと欲しいな」
「そーだそーだ、肉だけ食いたいぜ」
「それ以上メタボになるつもりか?」
「私は嬉しいけどね。野菜はお肌にもダイエットにも最適だし」
「肌はともかくダイエットは無駄な努力だと思う、って痛い痛いっ!」
「兄さん、僕の分も食べて健康になってよ」
「うぅ、弟の優しさが胃に染みるなあ」
「こら、さりげなく嫌いなものをエリウッドに渡そうとするんじゃない」
「そうですよ、好き嫌いしていては強い男性になれませんよ」
「よーし強い男になるために沢山食べるぞー」
「ねえ、ソニアおねいさんの話聞かせてよ」
「ソニアさんならセリカの方が詳しいと思うよ」
「彼女は大量の魔女を引き連れて襲ってくるから気を付けなさい」
「なにそれすごい」
「彼女達のワープ攻撃に多くの男がいったわ」
「なにそれひわい」

「そういえばミカヤ姉さんは?」
「占いの仕事で遅くなるそうですよ」

「……恋人と結婚するなら馬と爆発に用心しなさい」
「えっ?」

アルムとエリンシアの絡みが見たかったから書いたけど、リーフのこのスレでのキャラの立ち方がすごすぎた