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Last-modified: 2014-02-14 (金) 23:50:32

ギンギンに照りつける太陽、蝉達は求愛に勤しみ、子供達は自由を謳歌し宿題の山に絶望する。
今まさに紋章町は、夏真っ盛りだった。

今年紋章区域では例年よりも特に気温が高く、とうとう先日レクスフレイム警報が出された。
毎日30℃を超える猛暑が一週間近く続き、倒れられるよりは、と一時的に休業する企業が続々と現れた。
社員の体力に定評のあるグレイル工務店も、商売相手が休業中では仕事にならぬ、と夏休み状態であった。

そんな中であった。
ワユの「海に行こう!」の一言で日帰り格安慰安旅行が計画されたのは……

――紋章町夏の陣~ポ○リもあるよ!~編――

……そんな訳で私達は今、近くの海に遊びに来ています。
ここは地理的には紋章町から結構離れているのですが、暑さは殆ど衰えてません。
海に着いてからかれこれ1時間、既に工務店の皆さんはそれぞれ休暇を満喫しているようで……

「うっひょー!やっぱり夏は海っすねえ!水着の女の子があっちにもこっちにも!」

「おいてめぇふざけんな!この量で焼きそばが30Gは高すぎるだろうが!
 しかも焼き方がまるでなってねぇ。ちょっと俺に貸してみろ!」
「シノンさん、焼きそば焼くのも上手なんだ。すごいなぁ」
「んな訳あるか。俺以外が下手過ぎるんだよ」

「あれ、ィアマトさんは泳がないんすか?」
「ええ、ちょっと日差しが強すぎるしね」
「へぇー。やっぱり年でs……ってティアマトさん、その手に握りしめた斧は一体……」
「ん?深い意味はないわよ?ただ、ちょっと"スイカ割り"がしたくなって。
 ……緑色の球体を叩き割って、赤い液体が流れ出るようなスイカ割りをね」
「そ、そうなんですか!でもスイカなんか無いし困ったなぁ!!
 俺ちょっと探してきm(ry」
アッー!スイカワリー!
そんな中、私は何をしていたのかと言えば

「……暑い」

コンプレックスに振り回され無理な厚着をした結果、熱中症によりダウンしていたりします。無念。
流石に今は脱いで水着になっていますが、最初からこうしておけば良かったという思いが消えません。
アイクさん達にも心配をかけてしまいました。

しかし、元はと言えば私の同僚二人が原因でもある……と、思う。
多分。きっと。おそらく。
噂をすれば、ミストとワユの二人がこちらに向けて歩いてくるのが見えた。
同時に、私のコンプレックスの原因でもある4つの凸も嫌が応にも目に入ってしまう。

ミストは白いワンピース型の水着を着ている。
露出は控えめだが、それがかえってちらりと見える腋、そして胸の膨らみを強調している様に思える。
胸元のリボンもアピールし過ぎておらず、ミストの持つ清楚な魅力をよく引き出しているのではないだろうか。
照りつける太陽が良く映えている。太陽の様に笑う彼女にはやはり太陽や向日葵が似合う。

一方のワユはスポーティな印象の紺のビキニだ。
普段から腹部を出しているだけあって、腰回りのボディラインは素晴らしい。
その細くくびれた腰回りと対照的に、程良く自己主張している胸も決して全体のバランスを損なってはいない。
ミストが女の子らしい可愛さならば、ワユは古代の彫刻のような、機能美とでもいうべき美しさがあった。

……結論だけ言うならば、二人とも同性の自分から見て嫌み無しに、水着がよく似合っていた。
二人に辺りの男性の視線が集まるのも頷ける。
向こうも私の視線に気が付いたらしく、僅かに歩調を早め近づいてくる。
十分に近づいた所で、ワユが手をひらひらと私の目の前で振りながら言う。

「おーい、生きてるー?」
「……勝手に殺さないで下さい」
「お、言い返す位の元気は出てきたみたいだね。
 いやー、心配したよほんと」

「もう、ワユったら。
 …… はい、イレースさん。
 かき氷買ってきたよ」

二人のやりとりを笑いながら聞いていたミストが、思いだしたように持っていたかき氷を差し出してきた。
私は太陽に晒されながら煌めく氷の礫達をありがたく受け取る。
そのままお礼を言うのも忘れて、目の前の氷山へ挑みかかった。

「うわー。流石イレース。みるみる無くなってく。
 無理言って大盛りにして下さいって頼んでおいて正解だったねこりゃ」
「あんまり急ぐと頭が痛くなるよ……わっ」

言いかけて、ミストは自らの頭を抱えこんでしまった。
どうやら自分で注意した傍から頭痛に襲われたらしい。
イチゴシロップ色に染まった舌をぺろりと出して苦笑する彼女を見て、
私達にも自然と笑みが浮かんだ。

「……ふふっ」
「あははははっ!ミスト、それ最高!!」
「もう、二人ともひっどーい!……えへへ」
かき氷を食べ終えて半刻程経った頃だろうか。

「じゃあ、あんまり無理しないでね」
「治ったらクロール教えたげるから、早く治しなよー」

そう言って、二人は再び海へ繰り出していった。

……実の所、熱中症はとっくの昔に収まっていたりする。
しかし、あの二人の目の前で水着に着替える勇気は私にはなかった。
そんな勇気があったら、今ここで寝転がってはいなかっただろう。
ミストとワユは同僚であり良き友人だが、それとこれとはまったくの別勘定であった。

明るい周りの雰囲気にそぐわぬ、暗欝とした方向にまたしても私の思考が傾きかける。
このままではいけない、またあの二人に心配をかけてしまう。

(……着替えよう)
考えるほど深みにはまる、ならばまずは行動しなくては。

着替えると言っても水着の上に上着を羽織っていただけなので、着替えはものの数分で完了した。
髪の毛よりもう少し薄めの紫色をした、ミストとは別のデザインのワンピースタイプの水着だ。

なんとなく、水着越しに自らの胸元に手を添えて見る。
自分のバストサイズに比例したかのような、なんとも心もとない気分が胸中を満たした。
「……ううん、こんな時こそ、アイクさんを見習わないと」
そう、悩む前に、まずは動いてみることだ。
それにミスト達も昨日、似合っていると褒めてくれたではないか。

そう自らを鼓舞する私に、思いがけない方向から思いがけない人物が声をかけた。

「一体俺の何を見習うんだ」

彼がいつから居たのか、何をしに来たのか、混乱した頭が結論をまとめられずに凄い勢いで回りだす。

「……アイク、さん」

動揺していた私には、いつの間にか後ろに居た相手の名前を言うのが精いっぱいだった。
この人はどうしてこうも、自分の事を考えている人の前にタイミング良く現れる事ができるのだろう。

私がそんなことを思っている間、アイクさんは私の方をじっと見つめていた。
その視線にはあらゆる意味で性的な興味は存在せず、私の体調を慮る為のものであることは明らかだった。
今更ながら水着姿でいる事を思い出し顔が熱くなるが、それは熱中症とは別問題である。

「まだ顔が赤いようだが……少しは良くなったのか?」
「はい、お陰様で……ご心配をお掛けしました」

本当に心配を掛けてしまったと心から思う。
この人に限らず、普段から同僚達は皆親切過ぎる位親切なのだ。
何気なくその環境に甘んじている自分でも、こういう時にはそれを嫌と言う程痛感させられる。
「……そうか。
 まぁ、無理をするなと言っても自分の体だからな。
 海や日陰に定期的に入っていれば大丈夫だろう」

そう言ってアイクさんは、すっくと立ち上がる。
会話が終わってしまいそうな気配を感じ、慌てて私は言う。

「あの!」
「ん、どうした?」
「……ご、ご迷惑じゃなければ、お願いが……」
「俺に出来る範囲なら構わないぞ」

可能な限り一緒にいられて、それ程手間のかからない事。
簡単そうで難しい課題だ。
しかしふと、今まさに使おうとしていたある物が目に入る。

「じゃ、じゃあ……これ、お願いします」
そう言って私は"これ"と呼んだ物体をおずおずと差し出した。
そして彼が受け取るのを確認してから、そのままシートの上に腹這いに寝転んだ。

「……それ、塗ってもらいたいんです。
 背中、届かなくて」

緊張していたために妙に口ごもりながら願いを彼に伝えた。
不意に、腹這いの利点に気が付いた。
……それは、先ほどより赤いであろう顔を相手に見せずに済むことだ。
「んっ、ふぅ……」

私の背中に、べたつく液体が塗りたくられる。
塗っているのは私の手とは明らかに違う、固くて大きな男性を感じられる物。
髪をかき分け、うなじの近くまで達したそれは、再び背中中央へと戻っていく。

「痛みはないか?」
「はい。もう少し強く、お願いします……」

その一言で背中で動かされていた彼の手が、荒々しさを増す。
荒いと言っても、その動きは淀みなく、塗りにムラもない。
その間私は彼の仕事ぶり――彼の手の大きさ、指の腹で皮膚を撫ぜられる感触――
等を精一杯記憶に留める努力をしていた。

日焼け止めを塗ってもらう。
こんな日常的な行為でも、相手次第でここまで違いが出るものなのだろうか。
病気の時背中を擦ってもらったことのある人なら、今の私の喜びが理解できると思う。
暖かく大きく、頼りがいのある手が労わる様に背中に熱と刺激をもたらす。

「あ、それ……気持ちいいです」
「そうか、ならここを集中的に……」
「あっ……アイクさん。そこっ、凄い、ですっ……!」

円を描くように、彼の手が動く。
思ったよりも大きな声が出てしまい、思わず口元を押さえてしまった。

日焼け止めを塗ってもらう、これだけの事が、想像以上の愉悦を私に与えていた。
不謹慎ながら、熱中症になって良かったとすら思えた。
あれ程憎らしかった日差しや暑さすらも、好意的に見えてくるのだから不思議な物である。
「ふぅ……よし、こんな物だろう」

素晴らしい時間程速く過ぎてしまうもので、ほんの五分程で日焼け止めは塗り終わってしまった。
終わってしまった事を残念に思いながら、私は彼に礼を述べた。

「ありがとうございました、アイクさん」
「いや、気にするな。
 塗装の訓練だと思えば良い経験になったしな」 
(壁……)
私の背中は壁のように固かったのだろうか。
聞いてみたかったが、返答を聞くのが怖かったので止めておいた。

夏の海は人を開放的にすると言うが、私もそれに当てられたのだろうか。
気がついた時には、私の口が勝手に動いていた。

「その、また、ご迷惑じゃなければなんですけど……」
「ん、どうした?
 そんな風に勿体付けずに言ってみろ」
「……ぇの方も……ぉ願いします……」
「なんだって?」

肝心の部分を言うのを一縷の理性が押し留めていた。
しかし、元々本能、欲求に弱い私の意志力は微々たるもの。
理性の糸は断ち切られ、私は欲求をそのままにぶちまけた。

「前の方も……塗っていただけませんか」
「…………いや、流石にそれは」
「やっぱり、嫌ですよね……私みたいな貧相でちんちくりんな身体付きじゃ……」

本日何度めになるか分からないがコンプレックスを刺激され、思わず涙ぐんでしまう。
それを見てアイクさんは慌てた様子でこう続けた。
「違う!そういう問題じゃない」

「あのな……前は自分でできるだろう」
「……そう、ですね」
「それにだ、俺は見ての通りがさつな所があるからな。
 自分で出来ない背中はともかく、
 前まで俺にやらせて塗りにムラがあったり跡が残ったりしたら困るだろう」

ぐうの音も出ない位の正論。
流石にフラグクラッシャーの異名は伊達ではない。
私はそのまま俯いて黙り込んでしまった。

「…………」
「…………」

しばし、沈黙が辺りを支配する。
そして、彼は黙ってしまった私に

「……………」
「せっかく(傷がない的な意味で)綺麗な肌をしているんだからな」
(………!!!??)

爆弾を投下した。
さるさん解除待ってたら寝てしまいました、すいません!
これで最後です

「き、綺麗……ですか」
「ああ。誤解を招く言い方かもしれんが、さっき塗っている最中にふとそう思ってな。
 気に障ったなら悪かった」

声が上擦ってしまった。
……まったく、この人は、いつもいつも

「……ふふ、怒ってなんかいません。
 それにお手伝いを頼んだのはこちらですから」

(……今度は、私の番ですね)

「……アイクさん」
「ん?」
「背中に塗るの、とてもお上手でした。
 普段塗れない所なので、その、凄く刺激的というか……と、とにかく!助かりました」
「そうか」
「はい。
 ですから……今度は、前にも塗ってくださいね」

アイクさんが何と答えるかは分からない。
しかし、アイクさんの表情を見て私は満足した。
普段あれだけ私を動揺させるのだから、たまには逆の立場でも罰は当たるまい。

いつの間にか、日差しが紅く傾いている。
緩やかに吹く温い風が、今日の終りが近いことを告げていた。

私の一日限りの夏休みは、概ねこのような感じであった、まる

終わり