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Last-modified: 2014-02-10 (月) 22:26:00

☆前回までのあらすじ

 リン姉さんがこっそり書きためてた少女小説をみんなに見せたら大好評だったよ!
 みんなに勧められて小説の賞にも応募してみたよ!
 でも少女小説の方は二次選考落ちで、何となく書いた極道物の小説が最優秀賞取っちゃったよ! 

 ~リンの部屋~

リン   「ああもう本当にこれどうしたら……!」
セリカ  「どうしたら……って言っても、せっかく賞取ったんだし出版してもらったら……」
リン   「うん、普通に考えたらそうだとは思うんだけど、でも……」
セリス  「……? でも、やっぱり不思議なんだけど、どうして極道小説……?」
セリカ  「そうよね。何となく書いたにしてもあまりにジャンルがかけ離れてるような」
リン   「うん……いや、あの一件以来ヘクトルがやたらとその手の小説勧めてきてね」
セリカ  「ああ。そう言えば読んでるって言ってたわね」
リン   「最初は遠慮してたんだけど、少女小説の方に詰まってるとき
      ふと手に取って読んでみたらこれがなかなか面白くて」
セリカ  「ああ……リン姉さんも基本的に武闘派だものね」
リン   「それで読んでる内にそのジャンルの小説に使えそうないいアイデア浮かんできて、
      気晴らしにと思って書き始めたらこれがもう絶好調でね。一週間もしない内に書き上がって……」
セリス  「凄いなあ。やっぱり才能あるよ、リン姉さん」
セリカ  「それで折角だから投稿してみたら大当たりだったと」
リン   「そういうこと。それ書き上げた後は少女小説の方も
      上手く書けたからいい気晴らしになったなって満足してたんだけど……」
セリカ  「なるほど……主にヘクトル兄さんのせいね。いや、おかげって言うべきなのかしら」
セリス  「おかげ、でいいと思うけど……ちなみにリン姉さん、その極道小説って今読める?」
リン   「え、ええ。一応コピーは取っておいたから」
セリス  「読んでもいい?」
リン   「うう……それは……」
セリス  「やっぱり恥ずかしいかな?」
セリカ  「大丈夫よ、この前見せてもらったのは本当に面白かったし」
セリス  「それに、最優秀賞取れるぐらいだからきっと今度のもいい出来なんでしょ」
リン   「そういう問題じゃないんだけど……」
セリス  「どういうこと?」
リン   「……はぁ。読んでもらうしかなさそうね。これ、どうぞ」
セリカ  「ありがとう。極道小説……わたし読んだことないわ」
セリス  「僕もだよ。えっと、なになに……」

 兄弟家四女・リンディス作、『魁! 紋章一家!』!

 それは野心と混沌渦巻く暗黒街に本拠を構える、紋章一家の血みどろの抗争を描いた物語である!
 構成員わずか16名。少数精鋭の武闘派として知られる彼らは、皆血の繋がった兄弟であった!
 暗黒街のドンに両親を謀殺された彼らは、復讐のために闇の世界に身を投じ、日夜死闘を繰り広げる!
 衝突、激戦、陰謀、裏切り! 野心と欲望が闘争を呼ぶ! そして巻き起こる破壊、破壊、破壊!
 血で血を洗う戦いの日々の果てに、末弟ロアが見るものは、果たして何か!?
 そして暗黒街のドンに隠された秘密とは!?
 硝煙と瓦礫に埋もれた真実を、刮目して見よ! そして死ぬがよい!
セリス  「……」
セリカ  「……」
リン   「……」
セリス  「……あの、リン姉さん」
セリカ  「これのモデルってどう見ても……」
リン   「ごめんなさい! わざとじゃないの!! 浮かんじゃったんだもの!!」
セリカ  「えっと、別に文句つけるつもりはないんだけど」
セリス  「そうだね、結構格好いい役だったし……」
セリカ  「それにやっぱり出来がいいわね。私は神官だから表立っては肯定できないけど」
セリス  「そうだね。暴力的ではあるけどアクション映画みたいな感じで確かに面白いよ」
リン   「うう……誉め言葉が逆に痛いわ……」
セリス  「でも確かにこれを見せたくない気持ちも分かるなあ……」
セリカ  「そうね。みんな喜んでくれるとは思うけど」
二人   『マルス兄さんは嬉々としてネタにするよ(わよ)ね』
リン   「それなのよ……! これ以上暴力女扱いされるのは嫌よ! しかも今度は否定しづらいし……」
セリカ  (マルス兄さんへのお仕置き見てると暴力女というのも間違いではないような……)
セリス  「まあ今すぐに出版されるわけでもないんだし……」
リン   「……受賞取り下げてもらっちゃダメかしら」
セリカ  「それは迷惑だと思うわ。最優秀賞って一番いい賞なんでしょ?
      選んでくれた人たちだってあまりいい気はしないと思うし。
      それに今回選ばれなかった人たちだってたくさんいるんじゃないの?」
リン   「それを言われるとそうなんだけど……」
セリカ  「それに姉さん……これ、書いてるときは凄く楽しかったんじゃない?」
リン   「うぐっ」
セリカ  「やっぱり……」
セリス  「とりあえず、編集者の人といろいろ相談してみたらどうかな? 次はいつ話すの?」
リン   「えっと……電話では、今いろいろ立て込んでるから直接出版社に来てくれないかって。
      紋章町内だし、交通費とかは出してもらえるみたいなんだけど」
セリス  「そっか……リン姉さん、僕らもついてっちゃダメかな?」
リン   「えっ……ど、どうして!?」
セリス  「今後リン姉さん一人で隠しきるのは無理かもしれないし、
      事情を把握しておいた方が協力しやすいかなって。セリカはどう思う?」
セリカ  「……神官の私としては、家族に嘘を吐くこと自体あまり好ましいとはと思えないのだけど」
リン   「うっ」
セリカ  「でも、話すにしても出来ればリン姉さんがちゃんと覚悟を決めてからの方がいいと思う。
      もしもさっき言った通り受賞を取り下げてもらうのだとしても、誠意を見せる必要はあるわ。
      そういうの全部一人で抱え込ませるのも、家族としてはやっぱり良くないんじゃないかしら」
セリス  「それじゃあ」
セリカ  「うん、わたしも協力する。隠すためじゃなくてリン姉さんに意志を固めてもらうためにね」
リン   「でも……」
セリス  「迷惑、とかは考えちゃダメだよ。僕らだってリン姉さんに助けてもらってるし」
セリカ  「そうよ。家族なんだから、困ったときは助け合いましょう」
リン   「……ごめん。それじゃあ、よろしくお願いするわ」
セリス  「うん。頼りないと思うけど、頑張るよ」
セリカ  「まずは編集者さんとの話し合いね……」

 ~数日後、紋章町エレブ地区の一隅~
 ~出版社『黒い牙』前~

リン   「……」
セリカ  「……えっと、場所はここでいいのよね……?」
セリス  「うん。間違いないよ。雑居ビルの一室に入ってる出版社だって」
リン   「……気のせいかしら、目の前にあるこのビル……ボロボロなのはまだいいとして……」
セリカ  「壁……これ、弾痕のような物が無数に……」
セリス  「窓もあちこち割れてるね。とりあえず中に……」
リン   「……! 二人とも、こっちへ!」
セリカ  「えっ……」
 リンが二人を引っ張ってビルの影に飛び込んだ瞬間、
 頭上、ビルの三階ぐらいの窓がガシャーン! と割れて、大柄な男が一人降ってきた。

セリカ  「ひ、人っ!? 大変、手当てを……!」
リン   「待って! ……もう一人、降りてくる」

 リンの言葉通り、三階からもう一人、大柄な男が着地する。
 後の男は割れたガラスの上で呻いているもう一人を見下ろしながら、底冷えのする声で言った。

ライナス 「テメェ、なに寝言ほざいてんだコラ」
編集者  「ううう……」
ライナス 「原稿回収できなかっただぁ? 作家野郎の追い込み方はもう教えただろうがコラ」
編集者  「そ、それは……」
ライナス 「つかいつまで寝てんだテメー。さっさと起きやがれオラァッ!」(ゲシッ!)
編集者  「グハッ……お、起きます、すんません……!」
ライナス 「なにフラついてんだ、シャンとしろや!」
編集者  「う、ウス!」
ライナス 「おーし、じゃあ答えろ。原稿がまだ出来てねえと言われたら!?」
編集者  「寝言ほざくなと言って殴れ!」
ライナス 「野郎が逃げようとしやがったら!?」
編集者  「絶対逃がすな、足を狙え!」
ライナス 「野郎が書くのに詰まったら!?」
編集者  「ドタマにハジキ突きつけて10からカウントダウン!」
ライナス 「顔も良し! 腹も良し! 足も良し! ただし!?」
編集者  「手だけは絶対に傷つけるな!」
ライナス 「……おーし、分かってるじゃねえか。いいか、ビッとしろよ。
      作家野郎にナメられて編集者やれっと思うんじゃねーぞ、コラ」
編集者  「ウス!」
ライナス 「おし、ならもっぺん行ってこい! 次に原稿取ってこれなかったら
      コンクリか蜂の巣か鮫か選ばせてやっからな、覚悟しとけ! 行けっ!」
編集者  「ウーッス!」

 気合いを入れられた編集者らしき男は、凄い勢いで走っていく。さっき三階から落ちたのに。
 ライナスはそれを見送ると「やれやれ世話が焼けるぜ」と言いたげに肩を竦めてビルに戻っていった。

セリカ  「……」
セリス  「……編集者って大変なお仕事なんだね」
リン   「さて、帰りましょうか」
セリカ  「ダメよ姉さん!」
リン   「いや見てたでしょ今の!? どう考えてもまともじゃないわよこれ!?」
セリス  「うーん……それなら尚更今帰るのは危険かも……約束を反故にしたらどうなるか」
リン   「うぐっ」
セリカ  「……いざというときのためにワープとリワープ持ってきてるし、
      緊急時のためにレスキューも手配しておいたから……」
リン   「なんでそんな準備いいの!?」
セリス  「この数日間いろいろと調べておいたんだ、二人で」
リン   「じゃあなんで普通にここまで来てるのわたしたち!?」
セリカ  「ああいう人たち相手には手を切るにしても直接話をしないと」
セリス  「大丈夫だよ、話せば分かってもらえるよ、きっと」
リン   「なんかあんたたち変にポジティブよね……」
セリカ  「悪いことばかり考えていても仕方ないわ。
      それに姉さん、異教徒との交戦はもっと激しいのよ?」
リン   「そんな事実知りたくなかったわ……!」
セリス  「とにかく入ろう、ね?」
リン   (くうっ……いざとなったらわたしが二人を守らなくちゃ……!)
 ~黒い牙事務所~

セリス  「失礼しまーす」
リン   (うわ……虎の絨毯に『仁義』の額縁ってもうモロにヤのつく人たちの事務所じゃないの……)
ライナス 「あぁ? なんだテメェらは?」
リン   「え、ええと、わたし、賞を受賞したので今日ここに呼ばれたリンディスという者で……」
ライナス 「……『魁! 紋章一家!』の作者さんか?」
リン   「そ、そうです……」
ライナス 「……おーおーおー! そうか、あの傑作の作者かよ! それを先に言ってくれよ!」
リン   (な、なんか急に友好的に……!?)
ライナス 「いやー、あれは良かったぜ。俺らの中でも評判は上々でよ、
      満場一致の文句なしで受賞決定だったからなあ。
      にしても、作者が女だと聞いちゃいたがまさかこんなねーちゃんとはな。恐れ入ったぜ」
リン   「はあ……」
ライナス 「どんなおっかねえババァが来るかと思えば、三十路前のねーちゃんとはよ。恐れ入ったぜ!」
リン   「……ッ!」
セリス  「姉さん、抑えて」
ライナス 「……ん? そっちの二人はなんだ?」
リン   「あ、えっと……わたしの兄弟なんですけど」
ライナス 「あぁ? ……悪ぃがお嬢ちゃんたちの社会科見学にはちょいと不向きだぜ、ここはよ」
セリカ  「いえ、わたしたちは付き添いです」
セリス  「必要になりそうでしたから」
ライナス 「……ヘッ、なんか込み入った事情がありそうだな。
      ま、いいぜ。こっちは『訳あり』の奴は慣れっこなんでな。
      さ、こっちへ来な」

 と、ライナスに案内されたのは、事務所内の隅にある応対テーブルである。
 そこに行くまで通った道は書類やらガラスの欠片やらが散乱している上に
 タバコの臭いが充満していて、お世辞にもいい環境とは言い難い。

ライナス 「悪いがちょっと待っててくれや。親父を呼んでくるからよ」
リン   「親父……?」
ライナス 「あー……編集長だ。家族経営なんだようちは。アットホームだろ?」
リン   「そ、そうですねアハハハ……」
ライナス 「じゃ、ちょっと待っててくれ。おう、茶ぁ持ってこい!」
編集者  「へい!」

 ライナスが去り、やたらと強面の男が「どうぞ」と茶の入った湯飲みを持ってくる。
 しかし誰も手をつけない。何が入っているかと考えるとちょっと怖かったからだ。

リン   (それにしても……)

 「あぁ!? 書けませんだ!? ふざけんなテメェ、マスもかけなくしてやろうかコラ!」
 「ほうほう、アイディアが浮かばない。そりゃいけませんね、気分の良くなる小麦粉を届けさせますよ」
 「じゃあ明日の取材は現地集合ってことで……ええ、ハジキは持参でお願いしやす」

リン   (落ち着かないわぁー!)
セリカ  「退廃的なところね……神様のお導きが必要だわ」
セリス  「セリカ、今日は仕事で来たんじゃないんだから」
リン   「あんたたち本当に落ち着いてるわね……」
セリカ  「大丈夫よ姉さん、神敵はいないわ」
セリス  「さっきの人も見た感じ悪い人じゃなさそうだったよ」
リン   「……わたしが警戒しすぎなのかしら……?」
ブレンダン「……お待たせした」
リン   「! あ、編集長さんですか!?」
ブレンダン「いかにも。黒い牙文庫の編集長、ブレンダンだ。
      まあ他にも副業やってるがな、いろいろと……」
リン   「そ、そうですか……」
ブレンダン「ま、楽にしてくれ。おう、俺にも茶ぁ頼むぜ」
編集者  「へい!」
ブレンダン「さて、と……こんなところまでご足労願ってすまねぇな、先生。
      ちょいと立て込んでたもんでね」
リン   「いえ、お気になさらず……それでええと、出版とかの件なんですけど」
ブレンダン「ああ。これが出版に関する契約書だ。ざっと読んでもらいたい」
リン   「どうも……」

 分厚い書類を三人で読む。

セリス  (……大丈夫、真っ当な契約に思えるよ)
リン   (あんたらよく分かるわね)
セリス  (いろいろ勉強したからね)
ブレンダン「……警戒しなくてもいい。これから長い付き合いになる作家先生を騙す気はねえよ。
      これでもうちは仁義を重んじてるんでな」
リン   「ど、どうも……」
ブレンダン「ま、サインはもっと読み込んでもらってからでもいい。本題はこれからだ」
リン   「は……本題、と仰いますと……」
ブレンダン「リンディス先生。まどろっこしいのはなしだ、単刀直入に聞くぜ。
      あんたぁ、一体どんな事情を抱え込んでやがるんだ?」
リン   「……はへ?」

 思わず間抜けな返事をしてしまうリンの前で、ブレンダンは重々しく言う。

ブレンダン「あんたの小説は拝見させてもらったが……どう見ても想像だけじゃ書けねえ部分がたくさんある。
      特に抗争のシーンの迫力、臨場感には生の鉄火場に立ったものにしか分からねえものを感じたぜ」
リン   (それはまあ……)
セリス  (いろいろと巻き込まれてるもんね、僕ら……)
ブレンダン「特に打撃と関節技で肉を砕き極める描写だ。よほど場数を踏んでない限り不可能な芸当だぜ、これは)
リン   (場数ってどう考えても……)
セリカ  (アレのせいよね……)

マルス  「へぶしゅっ! ……風邪かなあ?」←アレ

ブレンダン「察するにだ……あんた、数年はムショに入ってたな?」
リン   「……はい!? いや、わたしは」
ブレンダン「だが、もう少し嘘は考えなきゃ名。さすがに学生ってのは無理がある……」
リン   (思いっきり顔見て言われたぁーっ! でもなんか怒る余裕もないしーっ!)
ブレンダン「隠さなくてもいいぜ。何も脅そうってんじゃねえんだ。詮索するつもりもねえ。
      結構いるもんだぜ、せっかくおつとめを果たしたのに組に見捨てられ、
      今更カタギにも戻れずもうテメェの人生切り売りするぐらいしかできねえ奴らがよ」
リン   「……もしかして、ここから本を出してる人たちって……」
ブレンダン「おっと、それは話せねえな……いや、知らねぇ方があんたの身のためだ」
リン   「そ、そうですか」
ブレンダン「俺たちを信用してもらいてぇな、リンディス先生。
      もちろん危ない橋を渡らせるつもりはねえ。
      あんたには安心してあの傑作のような極道物を書いてもらいてえんだ。
      それで稼いだ金を使えばまともな世界に戻るのもそう難しくはねえだろう」
リン   「まともな世界って……」
セリス  「……それって、この出版社の伝手で他の出版社から再デビューすることも可能ですか?」
リン   「セリス!?」
ブレンダン「あんたは……リンディス先生の妹さんだったな」
セリス  「いえ、弟です」
ブレンダン「……そうか、そういうことか。性転換手術の費用も稼がにゃならんとは、
      あんたも茨の道を行く覚悟ってわけだな、リンディス先生」
リン   「いや、あの、誤解……」
セリス  「リン姉さんは元々少女小説が書きたかったんです」
ブレンダン「ふむ。俺らのようなはみ出し者には眩しすぎる世界だな」
セリス  「どうでしょうか。こちらである程度本を出した後は、
      ブレンダン編集長の伝手で他の出版社からも……」
ブレンダン「……ふふ。なるほど。あんたは闇に落ちながらもまだ希望を失っちゃいないってわけだ。
      ますます気に入ったぜ、リンディス先生……妹さんたちもな」
セリス  「じゃあ……」
ブレンダン「今すぐってのは無理だ。悪いが俺もそっちの業界とはそれほどつながりがなくてな」
セリス  「努力はして頂けると?」
ブレンダン「もちろんだ。男に二言はねえ。必ずあんたたちを陽の当たる世界に戻してみせるぜ」
セリス  「ありがとうございます」
ブレンダン「ふっ……いい妹さんを持ったな、リンディス先生。
      あんたが希望を失わずに済んだのもこの子らのおかげってわけだ。
      もう安心しろ、この子らが身売りなんぞしなくてもいいように、俺らがしっかりケツ持ってやるからよ」
リン   (どうしようこの人、いいこと言ってるのに何もかも間違ってる……!!)
ブレンダン「そんじゃ、話もまとまったところで……ロイド!」
ロイド  「編集長の息子のロイドだ。あんたの担当になった。よろしく頼む、リンディス先生」
リン   「ど、どうも……」
ロイド  「それじゃ、早速出版に向けた手直しといこう。まず……」

 ~約1時間ほど後~

ロイド  「それじゃ、気をつけて帰ってくれ」
セリス  「ありがとうございました、ロイドさん」
ロイド  「何かあったらすぐに言え。力になる」
リン   (あまり力になってほしい人たちじゃないわよ……)
ロイド  「じゃあな」
セリカ  「はい。失礼します」
リン   「……」
セリス  「やったね、姉さん!」
リン   「何が!? どっちかっていうと『やっちまった』って感じよねこれ!?」
セリス  「何言ってるのさ、少女小説の方も出版してもらえそうじゃない」
リン   「ええー……そ、そういう喜び方していいの、これ?」
セリカ  「確かに……これなら嘘は吐かずに済むし、黒い牙の人たちに対しても誠実な対応だわ」
リン   「まあ確かにそう言われれば……セリス、もしかして最初からこれを狙って……?」
セリス  「うん。友達に相談したらいろいろ知恵をくれたんだ。
      契約のときに少女小説の出版の件も約束してもらえばいいって」
リン   「えっ、誰かに言っちゃったの!?」
セリス  「大丈夫だよ、僕以外の兄弟とは縁が薄い人だし、
      それに絶対に秘密を漏らしたりしない、信用できる人だから」
リン   「そ、そう……いい友達がいるのね」
セリス  「うん!」
 ~竜王家~

ユリウス 「……」
エルフ  「あのーユリア様、ユリウス様がテーブルに突っ伏したままニヤニヤしてて超キモいんですけど」
ユリア  「病気なんでしょう。放っておいてあげて」
ユリウス 「……ウヘヘ」

 ~路上~

セリカ  「ともかく、基本方針は決まったわね」
セリス  「そうだね。しばらくは黒い牙の方で頑張って、それから他の出版社でデビューを目指そう!」
リン   「うう……なんかどんどん泥沼にはまりこんでいくような……」

 ため息を吐きつつも、リンディスは反省する。
 そもそもこれは自分が正直に話せなかったのが原因なのだ。
 そのために、もう既に多くの人を巻き込んでしまっている。
 賽は投げられた。もう後戻りはできない。
 自分のケツは自分で拭け、だ。

リン   「……仕方ない、か。こうなったらとことん頑張るだけね!」
セリス  「それでこそリン姉さんだよ!」
セリカ  「わたしたちも協力するわ」
リン   「よーし、それならいっそ極道小説を極めるつもりで行くわよー!」
二人   「「おーっ!」」

 ……こうして微妙に間違った方向に気合を入れたリンは、
 その宣言通りこの後も次々に傑作極道小説を生み出していくことになるのだが……
 それはまた、デビュー後の話である。

 ~完~(しかし小説家リンの戦いは始まったばかりだ!)