59-466

Last-modified: 2017-03-02 (木) 16:42:51

トラキア地区

 

 紋章町内でも治安が最底辺のこの地区にて一人の少女が歩いていた。
 本来なら危険極まりない行動なのだが彼女の鋭い眼光、そしてその小柄な身に似つかぬ巨大な斧が彼女も相当なものであることを窺わせる。

 

 彼女はベルカ、白暗夜家の長女カミラの親衛隊の一員であり彼女の恋人の一人、そして凄腕の暗殺者。
 普段は触れれば切れる鋭い雰囲気を纏う彼女だが今日は若干気落ちしていた。
 それは普段カミラを狙う変態にして怨敵、リーフを始末する直前、彼の放った一言だ。

 

『カミラには興味があるが自分達には興味はない』

 

 本来あんな葉っぱに興味を持たれても嬉しくないどころか怖気が走るのだがやはりはっきり言われると気分が悪い。
 そしてその理由も解っている、カミラにあって自分達に無いもの、それは胸……
 彼女も相棒のルーナも共に共通してひん……基、華奢な体格をしている。
 実際暗殺者という立場上このような体型が有利であるのだがやはり女としてカミラのような体型も羨ましく思う。
 大嫌いな相手とはいえ、否、だからこそ秘かに気にしていることを指摘されると頭に来る。
 今回はいつも以上にボコボコにしたのも致し方ないことだろう、そう思い人知れず溜息を吐いた……筈だった。

 

アイク「どうした?」
ベルカ「!!!」

 

 思わぬ声に顔をあげると目の前にいたのは青髪の巨躯。

 

アイク「あんたは、確かカミラの……」
ベルカ「貴様は……」

 

 目の前にいたのは敬愛するカミラが友人と認めた男性。
 本来は彼女の名を呼び捨てにする存在等彼女の家族を除けば許される筈はないのだが、他ならぬ彼女自身が認めている。
 故に、憎らしさを感じつつも押さえ込んだ。

 

アイク「何かあったか?」
ベルカ「貴様には関係無い」
アイク「そう言われてしまえばそうかもしれん、だが知り合いが辛そうにしている以上見過ごせん」
ベルカ「余計な気など……」グウゥ

 

 なお拒絶しようとしたところ鳴った微妙な音、発生源は彼女の腹。
 考えてみると明け方、夜戦後の微睡みの中気配を察知した葉っぱを追いかけ、朝食も食べず追い回していた。
 正直間抜けな事態に空気が霧散してしまった。

 

アイク「丁度昼飯時だったな、連れもいる、せっかくだから一緒に行かないか?」
ベルカ「貴様と行く理由が無い」
アイク「だがな……」
ワユ「大将〜〜」

 

 なお拒絶しようとした彼女に話しかけようとしたところ響いた声、それと同時に駆け寄ってきた3人の少女。
 確か神将と呼ばれたこの男の嫁達だったかと彼女は思い出した。

 

ワユ「大将、探したよ〜」
ミスト「お昼ご飯行こう、お兄ちゃん」
イレース「あれ?彼女は?」
アイク「カミラの部下だそうだ、偶々会ってな」
イレース「ああ、カミラさんの……」
ミスト「そうなんだ、せっかくだから、一緒にご飯行きませんか?」
ベルカ「いや、私は……」
ワユ「いいじゃん、皆で食べた方が美味しいよ!」
ベルカ「ま、待て……」

 

 ノリノリの女性3人に囲まれあれよあれよと言う間に引っ張られてしまう。

 

ミスト「ところで、何故あんな所にいたんですか?」
ワユ「そうだよ、あそこは危ないよ?」
ベルカ「逆に聞くけど、お前達は何故?」
アイク「仕事だ」
ベルカ「仕事?」
ワユ「イーリス署からの依頼でね、新しい留置場をあの辺りに建てるんだって。」
イレース「今日は予定地の廃墟を撤去していたんです」
ミスト「さっきも言った通り治安が悪いから、普通の工務店に頼めなくて家に来たんだよ」
ベルカ「成程」
アイク「それで、あんたは何故?」
ベルカ「……………実は」

 

 正直悩んだ、ほんの知り合い程度の相手にこんなことを話す理由がない。
 だが、4人に囲まれたこの状況、何故か不快ではない雰囲気が彼女に溜め込んでいた言葉を吐き出させた。

 

アイク「すまん……」
ベルカ「お前に謝って貰う事じゃない」
アイク「だがそれでも弟のしたことだ」
ワユ「でも流石に酷い言い方だよね」
イレース「……解りますその気持ち」
ミスト「うん、覗こうとした挙げ句その言い方は許せないよ」
ベルカ「……何故?」
ミスト「え?」
ベルカ「お前は大きい胸をしているのに何故怒っている?」
ミスト「だってその言い方だと女の人を胸しか見ていないようなものでしょ?
    私自身はお兄ちゃんしかみて貰いたくないけど、やっぱりそんなの気分が悪いよ」
ベルカ「そうか……」
ワユ「よし、ご飯終わったら一緒にショッピングに行こう!」
ミスト「そうだね、ベルカさんに似合う可愛いの見に行こうよ」
イレース「賛成、です」
ベルカ「な、私はカミラ様の元に戻らなくては」
アイク「大丈夫だ」
ベルカ「何?」
アイク「さっきカミラに連絡した『最近働き過ぎだから休ませてあげて』だそうだ」
ベルカ「何時の間に……」
アイク「話の流れと皆の性格を考えればこうなりそうだと思ったのでな。
    皆落ち込んだ相手は放って置けないからな」
ワユ「大将に似たんだよ」
ミスト「お兄ちゃんがそんな優しい性格だから私達も習ったの」
アイク「そうなのか?」
イレース「そうです……」
ベルカ「……解った、カミラ様の指示もあるのなら従う」
ワユ「うん、それがいいよ」

 

 それから5人で様々な店を回る、服屋、雑貨屋、アクセサリーショップ、カミラの護衛で入ったことはあるが自身のものを選んだ事がなく、戸惑いつつも色々見ていく、そして彼女達の勧めやアイクに判断してもらい幾つかの物を買っていく。
(ファッションに疎いと前置きするも彼の選んだ 物は中々センスが良かった)

 

ワユ「今日は楽しかったね〜」
ミスト「ベルカさん、その髪飾り可愛いよ」
ベルカ「そ、そうか?」
イレース「お似合い、です」

 買い物が終わり帰宅の時間、彼女の髪にはディフォルメして可愛らしくした飛竜を象った髪飾りが付けられていた。因みに選んだのはアイクである。
 更にカミラとルーナの分もと勧められ同じ物を購入、アイクも他の嫁へのお土産と幾つかの小物を購入していた。
 考えて見るとカミラも何処かへ出掛けると自分達に小物や食べ物を買ってきてくれたのを思い出す、この辺りの気遣いがモテる理由かと改めて思った。

 

アイク「気晴らしにはなったか?」
ベルカ「……まあまあ」
ミスト「ベルカさん、また出掛けましょうね、今度はカミラさんや他の相棒さんも誘って!」
ベルカ「………ん」

 
 

白暗夜家

 

ベルカ「……ただいま戻りました」
カミラ「お帰りなさい、楽しかったかしら?」
ベルカ「はい、それなりに……」
カミラ「ふふ、良かったわ」
ベルカ「あの……これを」
カミラ「あら、ひょっとしてベルカから?」
ベルカ「はい……」
カミラ「嬉しいわ、あら、とても可愛い、ありがとうベルカ」ナデナデ
ベルカ「ふゎ……お褒めいただき、光栄です」
カミラ「もう一つはルーナのね、私から渡して置くわ。
    ふふ、アイクの案かしら、或いは、彼のお嫁さん?」
ベルカ「……両方です、それと、カミラ様ともお出掛けしたいとの事でした」
カミラ「あら、嬉しい申し出ね、その時は貴女達も一緒よ?」
ベルカ「護衛ならば」
カミラ「ダメよ、貴女達も一緒に買い物をするの」
ベルカ「しかし……」
カミラ「多分だけど、誘ってくれた人は始め貴女を誘ったのでしょう、その流れで私やルーナになったのよね?」
ベルカ「……何故?」
カミラ「彼らの性格を考えれば解るわ、優しいけど目の前の人を蔑ろにしないし、護衛とか関係無く平等に見る人達だもの」
ベルカ「……参りました」
カミラ「ふふ、気遣ってくれるのは嬉しいけど、間違った報告はダメよ。
    罰として、今度出掛ける時にはその服を着ていきなさい、随分、可愛らしいわね」
ベルカ「こ、これは」
カミラ「選んだのはミストちゃんかワユちゃんかしら、とても似合いそう」
ベルカ「うぅ……///」
カミラ「可愛い姿だけどもう一つの罰よ、今夜は、一杯可愛いがってあげる。
    疲れてるかもだけど、罰だから良いわよね」
ベルカ「は……はい//////」

 

 頬を撫でられ気持ち良さに目を細める中今日の事が思い出される。
 カミラともルーナとも違う、あれが、友達との関わりかと改めて実感した。

 

ベルカ(…………悪くはなかった、だから、カミラ様の友人と、私は認めても良い、ありがとう、アイク)

 
 

オマケ

 

アイク「リーフ」
リーフ「何?アイク兄さん」
アイク「3人が用があるらしくてな」
リーフ「え!?ワユおねいさんにミストにイレース、一体なんの!?」
ワユ「うん、弟くんが無限の体力を持ってるって聞いてね」
ミスト「どれだけだか知りたいの」
イレース「調べさせてくれませんか?」
リーフ「僕の体力をしらべる!?
    ブバァァァ!!つ、遂に僕も童貞を……」
ワユ「良さそうだね………」
ミスト「じゃあ、私達と模擬戦しようか……」
イレース「断りませんよね……」
リーフ「あ、あれー?模擬戦は肩すかしだけど良いとして何故ここまで殺気を……?」
ワユ「何の事かなー」
ミスト「別に殺気何て出てないよ?」
イレース「ベルカさんを、女の人を胸で差別したこと……怒ってる訳ではありません」
リーフ「な、何でそれを知って、アイク兄さん、助けて!!」
アイク「良い訓練だぞ、頑張れ」
リーフ「そんな、ちょ、ちょっと……あ、あ………」

 

コノヒトデナシー!!!