※注意
昼ドラ展開になるかもしれません。
誰と戦っていたのか定かではないが、油断していたためか倒したはずの何者かに不意を突かれたクロム。
攻撃を予見できたのは傍に居た彼の相棒だけであった。
咄嗟の出来事だったため、我が身を盾としてクロムを庇い、代わりに攻撃を受けるしかなかった。
当事者のクロムはようやく理解が追いつくと、目の前に倒れ伏し体を動かすことのない半身――ルフレに駆け寄ると抱き上げる。
呼びかけた回数は憶えていないが、幾度かの呼びかけの後にルフレの閉じられた瞼が開くと安堵する。
体から手を離せば、傷を負ったはずのルフレは平時と変わらぬ動きで立ち上がる。これで安心だ、とクロムは判断してしまった。
ルフレに背を向けたその時――――クロムの腹部に突減の激痛が走る。
痛みに呆気にとられながらも目線を下に向ければ、クロムには見慣れた雷が己の腹部を貫いていた。
そこまで理解が追いつくと同時に手刀が引き抜かれる。
時間が経つごとに体から力が抜けていく感覚に抗い、顔をゆっくりと後ろに向ける。
襲撃者の正体が分からなかったわけではない、状況を考えれば自ずと解答に辿り着く。
それでも、自分の解答を信じたくないという想いが思考を遮る、どうか間違いであってほしい、と。
しかし、現実は時に残酷な結果を突き付ける。
クロムの切な願いを嘲笑うかのように彼の瞳に映ったのは、彼の想像通り――――ルフレだった。
その事実を目の当たりにして、クロムの胸中をかすめたのは失望と諦観。そんな感情を抱きながらも彼の口を突いたのは――。
『お前の……せいじゃ……ない』
ルフレを慮る言葉だった。
言葉を言い切ると、クロムの意識はだんだんと薄れていった。
「――――はっ!?」
夢の結末とは裏腹に意識を取り戻すが、開かれた双眸には闇夜しか映らない。
気だるい体を起こすと、ようやく闇に慣れた瞳で判断する――――ここは自分の部屋だ、と。
念のために腹部をさすって確認するが風穴はそこにはなく、やはり夢だったのだと安堵する。
だが……夢の内容には安堵できない。
これでは、ルフレが自分に危害を加えようとしているような女性だと無意識に思っているようなものだ。
とはいうものの、クロムがこのような夢を見たのは初めてではない。
最近の話だが、自警団の情報網を経由して異世界の扉が開いたという情報を耳にした。
そして、変な夢を最初に見た日は扉が開いた日という情報と一致する。
ここまでならただの偶然で終わる話だが、問題は夢の内容だ。
時には前から、時には後ろから、トロンを携えたルフレに刺される。
要は必ずルフレに刺されて夢から覚めるのだ、ここまでくると意味深長なものを感じる。
正夢が現実のものとなるように、夢は重要な警告になっていることもある。尤も、これはミカヤからの受け売りだが。
まさか想い人に亡き者にされるとでもいうのか。
信じたくはないが、ここまで連続して夢で刺されるとミカヤの言葉にも信憑性がある。
ベッドに再び寝転ぶと、次はそんな夢を見ませんように、と念じて瞼を閉じる。
やはり夢見が悪く朝までに何度か目を覚ましたクロムだったが、約束があるため寝不足の体を押してでもある人物の部屋に向かう。
「おはよう。クロム兄さん」
クロムが部屋の扉を開けると視線の先で出迎えたのは、椅子に座ったままこちらに顔を向けるマルスだった。
「おはよう、マルス。朝早くからすまない」
「別にいいですよ。それで、用とは何でしょう?」
挨拶もそこそこに本題を切り出すマルス。忙しい中時間を作ったため早々に終わらせたいのだろう。
「その……だな、近寄らずにルフレに告白したいのだが、いい手を考えてもらえないか?」
「ああ、前の方法は盛大に失敗していましたからね」
以前告白する方法として拡声器を使って告白したが、ルフレの好みではなかったらしく酷い目にあってしまった。
二の轍を踏まぬようにと今回は相談することにしたが、近寄らないというリクエストが夢の内容を加味していないとは言い切れない。
「しかし、難しいですね」
そんなクロムの思惑を知らずしてマルスは思考する。
クロムはラッキースケベ体質であるためマルスに疑問に思われることはない。
それ故に、悪だくみならば百戦錬磨な彼の頭脳をもってしても、今回の依頼は容易なことではない。
前提条件で近づくことが禁止されると方法は限られ、しかも限られた方法での失敗例もあるため更に絞られる。
いっそ手紙で想いを伝えましょうと提案したいが、変なところにこだわりのある兄は自分の言葉で想いを伝えたいらしい。
はた迷惑な体質さえなければ、さっさとくっつくんですがねえ。
そう考えた時唐突に閃く。ラッキースケベも万能ではない、近づくのがだめなら近づかなければいい。
「……クロム兄さん。一つだけ手がありますよ」
「本当か!」
マルスの案は最後の頼みに等しい。食い気味に続きを促す。
「ええ、その代わりクロム兄さんには修羅の道を進んでもらいますが。……ルフレさんと距離を置いてください」
「きょ、距離を置くだと!? だがそれは……」
「吟味した結果の折衷案ですよ。それに、この方法ならラッキースケベは発動しません」
「どういうことだ?」
困惑するクロムをよそに冷静なマルスは提案の趣旨を述べる。
「ラッキースケベは、クロム兄さんが近づこうという意思を見せると発動します。
しかし、相手から近づいてきたときはその限りではありません。それでも、クロム兄さんが近づこうとすれば必ず発動するでしょう」
「相手……ルフレの方から声をかけるように仕向けるということか?」
「はい。つまりはその通りです」
マルスからの提案は逆告白の構図を再現するということだった。
無論ルフレから告白することはなく、距離を置かれたことに疑問を持った彼女がクロムの元に行ったとき、クロムが告白する算段だ。
仕向ける方法は強硬策に近いが、余裕のないクロムに選択肢はなかった。
「……分かった、その方法をやってみよう」
「絶対にクロム兄さんの方から近づいちゃだめですからね。あと、無理そうなら途中でやめてくださいね」
マルスの忠言を聞き終えると、踵を返し部屋を出て行くクロム。
クロムの退出を見届けると、マルスは背もたれに体を預ける。
「ふう……大丈夫ですかねえ」
扉が閉まる時にクロムから感じた胸騒ぎは、何を意味するものだったのだろうか。
胸騒ぎを感じる前に、話の中で忠告していたため呼び止めることはしなかったが、それでも拭い去ることはできなかった。
つづく