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Last-modified: 2017-07-05 (水) 23:26:31

アカネイア地区 平原地帯

 

 この場に立っているのはミシェイルとミネルバ、そして2人の騎竜……そしてもう1人と1頭。
 この場にマリアはいない、命を奪いかねない戦いの為、兄達によって遠ざけられたのだ。
 それぞれが待つ中待ち人は到着した。

 

マルス「お待たせしました」
ミシェイル「遅いぞ、小僧」
ミネルバ「兄上、カリカリしすぎだ、予定の時間には間に合っているぞ」
マルス「いえ、いいんです、そして貴女もいるんですね、パオラさん」
パオラ「ええ、ミシェイル様からの要請故に……
    ですが、私自身、妹の選んだ方の実力を試したかった思いがありますので」
ミシェイル「3対1だがお前の覚悟と実力を測るためだ、よもや卑怯とは言うまいな」
マルス「言いたい思いはありますよ。
    ですが、試練なら、受け入れ、全力でぶつかるまでです」
ミネルバ「その意気やよし、貴方の力、想い、私達に見せて下さい!」

 

 そして戦いが始まった。マルスは様子を見るように動くも、積極的に攻撃は仕掛けない。

 

ミシェイル「そら!向かって来ないのか腰抜けが!」

 

 ミシェイルからの挑発を受けるも変わらず様子見に徹する。
 そもそも相手の方が数が多い上に全員飛兵、攻撃範囲が自身の前後左右に加え上からも注意しなければならない、無闇に攻撃するより相手を把握する方が優先だった。
 そして今回、不利な状況でできる限り戦う為彼は兄達からの教えも乞うたのだ。

 

エフラム『相手は槍友ミシェイル達か………竜騎士の武器は槍と斧。
     理解していると思うが槍の特徴はその刺突力、増してや奴程の力の刺突を受ければ剣でも盾でも破壊されかねん』
ヘクトル『そして斧は斬る……いや、その重みで打ち付ける力こそが強みだ、これもまともに受ければぶっ壊される。
     そうじゃなくても押さえ付けられ動きを止められる』
エフラム『相手は複数なのだろう?そうなると片方に止められ片方に狙われる、間違いなく致命的だ』
マルス『そうすると……どうすれば?』
エフラム『相手は上から攻撃出来ることもあり間違いなく力は上だ。
     そうなるとこちらが用意すべきは技と速さだ、速さで翻弄し、技を持って対抗するんだ』
マルス『えーと、どう言うことです?』
ヘクトル『要は相手の攻撃を回避し受け流し、隙をついてカウンターを仕掛けろって事だ』
マルス『成程……でもそれってまるで盗賊みたいな戦い方ですね』
エフラム『確かにそうだが、負けられない戦いに置いては美意識に囚われるのは良くない、必要ならそのような泥臭さも受け入れるのが強者への一歩だ。
     マルス、強くなれ、お前も、守るべき者が増えるのだろう』
ヘクトル『今回は間に合わないにしても、必要なら俺達も鍛えてやるよ』
マルス(兄さん方、ありがとうございます、教えは、確実に活きています)

 

 3人からの絶え間ない攻撃、避け、受け流す事に専念しその中で相手の動きと隙を測る。
 上手く反応出来ていた。その内にミシェイルが焦れて来たのだろう、少しずつ攻撃の振りが大きくなってくる、そして……

 

マルス「ここだ!」

 

 見つけ出した隙を突き、突きだした剣はミシェイルの肩を捉えた。
槍を取り落とさなかったものの確実に握る力が落ちたため、少しは有利になるだろう、そう思い気合いを入れ直すと……

 

ミシェイル「盗賊が………」
マルス「え?」
ミシェイル「薄汚い盗賊が、また俺から奪うつもりか!」
マルス「な、何!?」
ミネルバ「兄上!」
パオラ「ミシェイル様!」
ミシェイル「殺す……貴様にこれ以上奪われてたまるか!」

 

 少し時間を巻き戻し戦闘中

 

ミシェイル(ええい!小賢しいやり方を、これでは上手く当てられん!)

 

 容赦なく攻め立てるもマルスが上手く回避と受け流しで攻撃を流していたため
決定的なダメージがなく、だんだん焦れ始めてきた。

 

ミシェイル(己の力が弱いからとセコい方法で……これではまるで奴のような……)

 

 そう考える内に景色が変わって見えてきた。目の前の蒼髪は赤くなり顔の輪郭が変わりだす。目の前にいたのは……かつて彼から婚約者を奪った……あの盗賊。
 その瞬間、あのときの思いが甦った、見下していたものに奪われ、コケにされた屈辱、憎悪を、その直後、意識が黒く染まるのを感じた。

 

ミシェイル「死ね!!」
マルス「ぐぅ!!」

 

 今までにない突きをうけ、飛ばされるマルス、何とか体勢を立て直す彼に今まで戦っていた2人が近付く。

 

ミネルバ「大丈夫ですか、マルス殿?」
マルス「ええ、どういうことですか?」
ミネルバ「恐らく、トラウマが刺激されたのだと」
マルス「トラウマ?」
ミネルバ「兎に角、今は兄を止めねば!」
マルス「でも、一体どうやって……」
パオラ「私が行きます!」
マルス「パオラさん!?」
パオラ「私がミシェイル様を説得します」
マルス「そんな、1人では」
パオラ「大丈夫ですよ、これでもマケドニア家専属騎士の筆頭ですし、あの方の秘書でもあるんです。信じて、待っていて下さい」
ミネルバ「パオラ、信じますよ」
パオラ「はい!」

 

 そして、ペガサスを駆り、ミシェイルに近付く

 

パオラ「ミシェイル様!どうか落ち着いて下さい!」
ミシェイル「黙れ!邪魔をするな!」
パオラ「いいえ、やめません、落ち着いて、誇り高い貴方に、戻って下さい!」
ミシェイル「どこまでも俺をコケに…なら貴様から!」

 

 突きだされる槍、避けることはできたが、敢えて肩でそれを受けた。

 

パオラ「………!!」
ミシェイル「!!!」

 

 彼女を刺した事で少し動揺したのだろう、彼の隙を突き、懐に飛び込み、彼を抱き締めた。

 

ミシェイル「なっ………!」
パオラ「ミシェイル様、あの方はもう失われました。
    そして、マリア様もマルス様の元へ行こうとしています。
    でも、私はいなくなりませんから、ずっと……御側にいます」
ミシェイル「パオラ……本当に……いなくならないか?」
パオラ「はい、私は貴方の秘書で、最初の臣下で、幼馴染ですからね」
パオラ「だが………お前はあいつを……」
パオラ「確かに……私は長く彼を思っていました……でも、あの子の邪魔はしたくないし、私に向いていない彼の気持ちをねじ曲げられない……
    それに今は、そちらに悩むよりも、我儘でシスコンで、世話の焼ける貴方の対応の方が大事みたいですから」
ミシェイル「す……すまない……」

 

ミネルバ「落ち着いたか……」
マルス「そうですね、でも何故突然?」
ミネルバ「………兄には以前、婚約者がいました」
マルス「確か……シスターのレナさんですよね、でも彼女は……」
ミネルバ「ええ、彼女は兄との婚約を破棄し家を出奔、元盗賊のジュリアンと一緒になりました」
マルス「そもそも何故……」
ミネルバ「兄は非常に優秀でしたがそれまでの貴族当主としての帝王学としての影響と周りが誉め称えた事で非常に傲慢でした。
     周りの全てが彼に従うべき存在だと見下していたんです、それは彼女も例外ではありませんでした」
マルス「……………」
ミネルバ「常に見下され所有物の様に扱われる事に疲れた彼女はその時出会ったジュリアンに全てを捨ててもついて行ったんです」
マルス「そんな事が………」
ミネルバ「そして兄は彼女を奪ったジュリアンに激怒し、攻撃を仕掛けたのですが……」
マルス「勝ったのは………ジュリアンなんですね」
ミネルバ「はい、当時兄はその武術も教師には認められるものでしたがそれは貴族の嗜みとしての武………
     盗賊として、実戦に生きてきた彼には通じなかったんです。丁度先程マルス殿が行ったように、いなされ避わされ、軽い反撃で怯んだ所を逃げられたそうです。
     それが、今まで挫折を味わった事の無かった兄にとって、屈辱であり、消えぬ傷でした」
マルス「そうだったんですか」
ミネルバ「今回のマルス殿の戦い方が、兄のトラウマを呼び起こしてしまい暴走してしまったようでした」
マルス「そう、だったんですね……申し訳ありません……と言うべきでしょうか?」
ミネルバ「いいえ、マルス殿は戦う為やるべき事をやったからこその結果。こうなってしまったのは兄自身の問題です」
マルス「そう………ですか」

 

ミネルバ「マルス殿………マリアの事、よろしくお願いします」
マルス「え!?こんな結末になってきたしまったのに!」
ミネルバ「少なくとも私は、あの子を求める為、出来ることを全て行った貴方の想いを見せて頂きました。それに………」
マリア「マルス様!!」ギュ
マルス「マリア、どうしてここに?」
マリア「ごめんなさい、やっぱり心配になって……怪我は?」
マルス「僕は大丈夫だよ」
ミネルバ「だがそこそこ切られているし最後の一撃はかなりの衝撃だった筈だ、治療した方がいい」
マルス「は、はい」
マリア「私が治しますからね、リカバー!」
マルス「ありがとう」
ミネルバ「すまないな、あの2人も治療を頼む」
マリア「わかったよ」ミシェイルとパオラの方へ向かう
マルス「貴女からお許しは出たものの、ミシェイルは?」
ミネルバ「兄なら私が説得しますし、多分大丈夫でしょう、ようやく自身の身も固まりそうですし」
マルス「そう言えば、彼とパオラさんは?」
ミネルバ「彼女はマケドニア家専属騎士の家系の長姉として次期当主のミシェイルにつけられた最初の臣下であり、年齢が近かったこともあり、幼馴染として、気心のあう存在でした。
     今までは立場や思いによるすれ違いもありましたが、これで収まると思います」
マルス「そうでしたか、ミネルバさん、ありがとうございます」
ミネルバ「言うまでもありませんが、あの子を泣かせたら、私達兄妹、ならびにパオラ達姉妹も相手になることをお覚悟下さい」
マルス「わ……解りました」

 

 それから治療を終えたマリアがマルスの元に戻り、認められた事を伝えると涙を浮かべ嬉しそうに抱きついた。
 ミシェイルもパオラと見つめ合い、今まで離れた期間を埋めるように穏やかに語り合っていた。
 そしてミネルバは、目の前で結ばれた2つの絆の姿を少し羨みつつも微笑ましく見守り、平原は夕焼けに染められていった。

 

続く