62-282

Last-modified: 2017-07-08 (土) 22:02:04

前書き
この作品は『若獅子の』の続きです、
また現実にあるものと違いがあると思いますがフィクションとして見てください
代理スレの方でオリキャラOKということで作中オリキャラが出ます

 

19:55

 

夜になるとチームは明日の決勝での対策を立てていた、クラスによる対策の違いがあるが
チームが一丸となり全クラスで本選出場を目標にそれぞれが意見を出し合い対策を練ってゆく
ロイはその場に居るも駆け出しのため意見はあるも答えず、ただ聞き手になって内容を頭にいれておく
会議が終わった後、チームは夕食を取りはじめた
ライダー達はすぐに食事を取るも、スタッフはマシンのチェックに余念がなく代わりがわりに取っている
夕食を終えたロイはチームガレージへ向かった、マシンのチェックとあるものを取りに
「何だロイ、何しに来たんだ?」
ガレージには友人でありチーム監督であるイーライをはじめ15人で3台を入念にチェックしている
辺りに緊張感が増していることが身をもって理解できる、スタッフの眼差しがいつも以上に増して鋭いのが目に写った
「すいません急いでるときに、ちょっとマシンの状態を確認に来ました」
「やっぱり気になるのか。気にしなさんな、ちゃんと明日までのセッティングに仕上げるさ
それに明日は雨になるからな今日と明日午前の内に対策練っておけよ」
「無茶言いますね」
ロイはイーライの発言に苦笑するしかなかった、ロイは過去雨での走行はあまりなくほぼ未経験に近い形だ
雨になるとサーキットは水溜まりをはじめ、ゴミ、こぼれたオイルの残りが浮き出てドライバーを翻弄させてゆく
またドライ(乾いた路面)と違いコントロールも儘ならなくなる
ロイにとってこれは試練であり壁である
「なぁにお前ならうまく行く、頼りにしてるさ」
「監督・・・」
最早笑うしかない、イーライの謎の信頼にロイには慣れてしまったのだ
慣れと云うものは恐ろしいのは兄弟家でわかっていた

 

そう思いロイはガレージに置いた自分のヘルメットへスタッフの邪魔にならないように歩いてゆく
ヘルメットを探ると在るものが見当たらなかった、ヘルメットの近くのところ上から下まで目を凝らしてみるのだ

 

「何してんだ?」
「カメラが見当たらないのですよ、あれどこ置いたかな?」
毎回サーキットやジムカーナに行くときに走りを記録するためのヘルメットに着けていたカメラがなかった
あれはバイクの免許を取る時期に、マルスから格安で買ってくれた一品、ロイは情報や機械は知ってても性能に疎かったため兄に頼んだ
買ってくれたマルスから借りを一つとされるが姉リンから拳骨をマルスが食らったのを
今でも覚えている、その大切なカメラがなくなったのかと思い焦りだした
「ああ、それならこれか?」
イーライが取り出したのはケーブルのついたカメラ、漸く見つけた
大切なカメラが見つかったロイは安堵し、イーライへ近寄る
「助かりました、一時はどうなるかと思いましたよ」
イーライはロイにカメラを返し、ロイはカメラをチェックした。外見上は何処も異常はなく
自分の名前のイニシャルがついたシールも確認できた、完全に自分のだ
「ぃよし、問題なし。しかし何で外されたのですか?一体誰が」
「それはな、あの子がカメラを態々外してヘルムを明日のために磨いたのさ」
イーライが指差した先に、帽子と眼鏡をつけた少年らしきスタッフがいた
ロイや出場ライダーの為に祈願を込めてヘルムを磨いてくれたのだ
ロイはそのスタッフにありがとうと言葉をかけると、少年は一礼にて返事をした
「それじゃ僕は戻ります、すいませんスタッフさんお先失礼します」
「お疲れ、ゆっくり休んでね」「おうお疲れ、予習復習忘れるなよ」
スタッフやイーライへお休みの挨拶をすませるロイはパドックへ戻った

 
 

明日雨となり役に立つかどうか分からないが、自分の走りを見直そうと
また雨でも通用しようと思いチェックは忘れないようにしている
自分の走りに欠点を見つけなければいつかそれが癖となり仇となる、勝利や入賞の為にも
自己研究が欠かせないのだ
チームパドックのキャンプカー入ろうとするとドアが開き、相方のライダーであるデニムと出くわした

 

「デニムさん・・・どちらに?」
「・・・トイレだ」
相も変わらずぶっきらぼうで答えたデニム、邪魔だと思いロイは道を譲る
ロイは今日あったデニムのことを思い出した、彼のあの怒りをそして憎しみを
なぜ相手のチームにあんなになるのか、彼らと何があったのかを知りたかった
「あのデニムさん、今日の事ですけどあの人達と何があったのですか?あの人達は一体、教えていただけませんか?」
勇気を出して、踏み出そうと思い聞き出そうとする。
だがデニムは黙り暗闇の中へ消えていこうとした、『話すきなぞ無い』という態度を示している
無反応にロイは目をつむりため息をするしかなかった
(どうしてだろう、あんなに巌に話さないというのは)
心配するロイは彼が消えてゆく背中を見ながら、キャンプカーに入る

 
 

22:00

 

ロイは記録した走りを見ながら明日の雨のレースをイメトレしていた
雨をあまり走ってなかったロイは昔の雨のレースのビデオを参考にしながら、自分が明日どのような
走りをするのかをイメージしてゆく
雨を走るプロでも恐怖心は現れる戦くが、ロイは逆に闘志が蒼窮に燃えていた
普段のロイは中学生の様に好奇心溢れカッコいいものが好きな子供であるが
レースになればその眼差しは正に戦士その者である
(雨のレースはマシンの操作一つで思いも因らない事がおきる、況してや二輪ならその危険性は尚更・・・!
それでも僕は明日勝たなければ、イーライさんやデニムさん、スタッフの皆さんのために、そして僕のために!!)
内なる闘志は決して消えることはなく、逆に燃え盛りゆくようだ
そして夜が更けて行き、スタッフはピッチを上げて3台のマシンを仕上げ、ライダーは明日に向けて休んでゆく
ただ一人この男を除いては
(ロイ・・・、俺はお前が羨ましくあり憎い。お前のその才が)
未だに眠れないデニムは寝てるロイを見つめていた

 

9:00

 
 

早朝にはミーティングが行われていた、決勝でのセッティング内容、フリー走行・決勝での走る順番を話した
「600のオープニングはデニム、それから1時間半にロイと交代、いいな?」
「「はい!!」」
二人は持久力に自信があり、長時間走っても問題ないと答えた
終了後全員が輪を組んで気合いの掛け声も出していく、準備は整った、後はチーム一丸となり全力と結果をだすだけだ

 

雨にも関わらず会場は盛り上がっており観客も優に30000以上は来ていた
観客は雨具カッパや傘をもって屋根の無い席へと行く人たちもいる
またサーキットの外はイベントや売店で並んでる観客達が集まっていた
モータースポーツファンである人またそれに釣られた人も沢山である
入場口はまだかまだかと長蛇の車の列でいっぱい、無論早くしろと怒号が車内で響く
車で来た観客は地獄であろう

 
 

フリー走行開始前
ピットレーンに並ぶライダーの列、響くはエンジンの音
待機中を除けば1000クラスで27,600クラスで35,250クラスで33
レーンに並ぶだけでもその台数95とところ狭しである
また事故を起こさないためにも1台10秒の間隔でスタートされ
ロイ達のチームは57台目のスタート、570秒後に走行が可能となる
最初に走るのはデニム、ロイは毎35分に交代する。雨には馴れてないためデニムの走りを参照したいとロイから願いだ
ロイと交わす口は無いが、チームの為にも勝利するために渋々受け入れた

 

マシンに乗りスタートの準備をするデニムは前を睨んでいた、18m先昨日馬鹿にされた相手チームのライダー、オズの背中だ
(オズ、お前だけは・・・お前だけは!)
何故此処までデニムはオズを憎むのか、それは過去に因縁があったのだ
デニムとオズは元々レーシングスクールの同期であった
デニムはオズよりも成績は一枚上手であり
オズの挑発なぞ当時は気に止めなかった
だが、プロ入団を賭けた卒業試験のレースで答えたオズに負けてしまった
普通に負ける日もあるが、その日オズはデニムのに態と横から当てたのだ
デニムはオズの態としたのを見たが、証拠も証人もおらずデニムは後ろ指を刺される形になり、オズは入団を果たす
最早モータースポーツに絶望し夢も諦めた彼、しかしそれを引き留めたのはイーライだ
イーライがデニムの闘志を見つけチームに引き入れたのである
デニムにとってチャンスであった

 

『あいつに復讐(リベンジ)出来る』
『もう一度プロへの夢が拓ける』

 

と、彼の執念の紫青の炎が燃え上がる
今はその前哨戦である予選大会で勝ち上がるおもいで溢れており、
目の前にある他の選手をも蹴散らす気概も満ちている

 

ついに出番が来たデニムは、アクセルを今か今かと言うくらい回している
シグナルが赤を照らしデニムはシグナルを見つめる、そして青に変わる、甲高いエンジンとエキゾーストが響き
デニムは最初のコーナーへ走った

 

(遠くからでも解る、今のデニムさんは執念を感じる、関係は分からないが
昨日のあの人に対する怒りが見える・・・!)
ガレージ内からロイは遠巻きにして背中を眺めていた、デニムから出る闘気にやや圧倒される感じだ
スタートされた直後モニターを確認するとデニムの雨の走りに感嘆する
自分の晴れの時の走りより速く感じた
コーナー一つ一つをレコードライン通りに走っていった
思わず息を呑み込み、彼の執念の走りがモニター越しで理解できる

 

今の彼は『餓えた狼』だと

 

デニムの帰還後ロイの番になった
給油しタイヤはそのままで走りピットを後にしてスタートする
フリー走行と言えど決勝が後三時間ではじまるため、急ピッチで自分の走りを仕上げる
最初のコーナーへ入る前でブレーキを振る、すると
(うわっ・・・!後ろが滑った!)
マシンのリアが滑るのが分かったロイは慌てて立て直す、危うく転倒しかけるもなんとか無事立て直せた
やはり慣れない雨のせいか昨夜のイメトレ通りには行かなかった
その後もストレートやコーナーでふらつきがあったりと大苦戦してゆく
またスピードを上げ過ぎたと思いブレーキポイントのはるか手前で仕掛けることも
上手くいかない焦りと恐怖心がロイの中に現れた
(不味いな・・・イメトレ通りにいかない
このままだと雨に勝てない・・・)
思わずスピードを落としてしまう、ゆっくり走り前が判らないため正面をみる
監督もモニター越しでロイが苦戦してるのがわかるが、アドバイスを送れば彼の成長にならないと思い黙るのみだ
正面はどこか靄(もや)のかかった感じがある
それが鬱陶しく感じるロイ、
その靄が何故か前を走るライダーに見える感じである
先程走ったデニムの後ろを思い浮かんだ
イメージのデニムは後ろを向き、その目は

 

『ーーーついてこれるか?』

 

のコトバだけだ

 

(そうだ諦めたら勝てない、
イメトレを一旦捨ててデニムさんが前にいることを想定して走る!
そして・・・追い越してやる!)
ロイはデニムを仮想敵として目の前に速く走ってることを想定して走りはじめる
イメトレがダメなら他の方法で挑むしかない、恐れと向き合いこの雨のなかを風のごとく駆け抜ける
(イメージするせいかデニムさんの描いたラインが見える・・・、
そのラインを描くならより速いラインを描く、いや描いて見せる!)
今までの固定概念を捨てたのが功を成したか
始まりの時より短縮することに成功した
イーライは彼が克服したことで笑みをこぼした
その後もロイとデニムは、交代交代で互いが互いを意識した速い走りを見せる

 

準備は整った

 
 

ーー決勝まであと一時間