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Last-modified: 2007-07-15 (日) 02:45:31

お絵かき兄弟

 

ルーテ  「……という訳で、この画板をもらったのです」
リン   「持ち主の心を映し出す……ねえ」
ルーテ  「はい、どういう原理かは、これから調べようと思っていますが」
リン   「それで、どうして我が家に持ってきたの?」
ルーテ  「悪用されないように封印するつもりでしたが、一度も使わずにおくのも何となく勿体無い気がしたので」
リン   「ということは、我が家の兄弟たちに使わせようってことなのね」
ルーテ  「理解が早くて助かります。リンも優秀ですね」
リン   「いや、こんなの別に優秀じゃなくたって……あ、いいところに。アイクにいさーん」
アイク  「? 何だ?」
リン   「ちょっと、この画板使って適当に絵書いてくれる?」
アイク  「……まあ、別にいいが、俺には絵心など欠片も」
リン   「いいからいいから」
ルーテ  「画板の効果を確かめるためには、絵心など無い方がかえって好都合ですからね」
リン   「そういうこと」
アイク  「……よく分からんが、まあいい。どれ……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

リン   「おお! これは凄い……」
ルーテ  「……肉の絵ですね」
アイク  「……うまそうだ。なあリン、これ……」
リン   「いや、食べちゃダメだって! お腹すいてるなら台所のエリンシア姉さんにでも頼んでちょうだいよ」
アイク  「仕方ないな」
ルーテ  「……どうでしょうか?」
リン   「うん、すごいと思うわ、これ。確かに、持ち主の心が映し出されるみたいね」
ルーテ  「はい。ですから、悪用すれば誰かの秘密を暴くことも可能なのではないかと」
リン   「そうねえ。確かにちょっと危険かも……どれ、わたしも試しに……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

リン   「すごい、本当にさらさら描けちゃった」
ルーテ  「これは……草原の絵のようですが」
リン   「うん。凄いわ、草原の風まで思い出せるみたいな絵……ああ、また遠乗りに出かけたくなってきちゃった」
マルス  「やあルーテさん、ご機嫌麗しゅう」
ルーテ  「こんにちは」
マルス  「おや、それは……リン姉さん、そんなに絵心ありましたっけ?」
リン   「さあねー。そうだ、マルスもちょっと描いてみなさいよ」
マルス  「ははは、じゃあいつもアグレッシブなリン姉さんをモデルに……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

マルス  「……あ、あれ? な、なんだこれ!? リン姉さんが僕を締め落としてる絵を描こうとしたのに……!」
ルーテ  「これは……ほう、なるほど……参考になりますね」
リン   「? なんか変な絵なの? ちょっと見せなさいよ」
マルス  「だ、ダメ! これはダメ、失敗作ですから!」
リン   「え、ちょっと、どんなの描いたのよあんた! こら、見せなさいってば!」
マルス  「絶対嫌です!」
ルーテ  (……穏やかな笑顔を浮かべて、小さなマルス君の頭を撫でているリン……
       なるほど、表層的な心理だけではなく、深層的な心理をも映し出すようですね、この画板は)
リン   「ハァ、ハァ……クッ、逃げられた……! なんであんなに必死だったのかしら、マルスったら」
ルーテ  「……とりあえず、リンが怒るような絵でなかったことだけは保証します」
リン   「……じゃあ何で隠したのかしら……よく分かんないわね、あの子も」
エイリーク「ああ、ルーテさん、またいらしてくださったんですね」
ルーテ  「こんにちはエイリークさん。これ、どうぞ」
エイリーク「? 何ですか? 画板のようですけど」
ルーテ  「はい。ちょっと、自分の思ったことを描いてみてください」
エイリーク「……心理テストか何かですか? 分かりました、では……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

エイリーク「……と、描けました。自画像になってしまいましたが……」
リン   「ホントだ、本物と寸分違わぬエイリーク姉さん……」
ルーテ  「……寸分、違わぬ、ですね……」
エイリーク「……あの、何か……?」
リン   「ああ、ううん。ところでエイリーク姉さん、この絵、自分で見てどう思う?」
エイリーク「これ、ですか? ええと、何となく、いつもより上手く描けたような…………あの、ルーテさん?」
ルーテ  「なんでしょう」
エイリーク「……もらってもいいですか、これ?」
ルーテ  「ええ、あなたが描いたものですから、著作権はあなたにあります。ご自由にどうぞ」
エイリーク「ありがとうございます。ふふ、おかしいですね、自分を描いただけなのに、なんだか妙に気に入ってしまって……」
リン   「……そりゃそうでしょうね」
エイリーク「はい?」
リン   「ああ、ううん、なんでもないわ」
エイリーク「そうですか。では、失礼しますね」
リン   「……三割増し、ってところかしら?」
ルーテ  「……もう少し、控え目だったように思います……」
リン   「そうよね。せいぜいAAカップがBカップになった程度の……」
ルーテ  「……己の願望を曝け出しても、その程度しか胸が膨らまないとは……」
リン   「エイリーク姉さん……どこまでも控え目な人……」
アルム  「あれ、何やってんの二人とも」
セリカ  「こんにちは、ルーテさん」
ルーテ  「こんにちは、これ、どうぞ」
アルム  「……って、いや、いきなり画板渡されても……」
リン   「さすがにちょっと唐突すぎよルーテ……ちょっと、思ったとおりに描いてみてくれる?」
アルム  「思った通りに? うーん、そうだなあ……」
リン   (あ、今セリカの方チラ見した)
ルーテ  (と言うことは、当然、出来上がってくる絵も……)

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

アルム  「う、うわ、これは……」
セリカ  「……素敵……」
リン   「ああ、やっぱりアルムとセリカの結婚式の絵だわ……」
ルーテ  「……新郎新婦から家族まで、皆さん物凄くいい笑顔ですね……」
アルム  「い、いや、違うんだよ、これは……」
セリカ  「もうアルムったら、ちょっと正直すぎるんじゃない? あ、でもね、わたしとしてはこの辺はもっとこう……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

アルム  「ああ、なかなかいいね。でも僕としてはもっと……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

リン   (うわぁ、二人でいろいろとオプション追加し始めたわよ……)
ルーテ  (まさに愛の共同作業ですね……)
アルム  「……と、こんなところかな」
セリカ  「うん、すごく素敵……ホントに、こんな風になったらいいのにな」
アルム  「……セリカ……」
セリカ  「……アルム……」
シグルド 「弟たちがけしからん絵を描いていると聞いて飛んできました」
アルム  「こういうときのシグルド兄さんの聴覚は異常」
セリカ  「もう、せっかくロマンチックな雰囲気に浸ってたのにぃ!」
シグルド 「黙らっしゃい! 兄さんは許さないぞぉぉぉぉぉぉ!」
アルム  「逃げよう、セリカ!」
セリカ  「ええ、愛の逃避行ね!」
シグルド 「待たんかぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ルーテ  「と、追いかける前に、一筆お願いします」
シグルド 「な、なに!? ええい、時間がないというのに……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

リン   「とか言いつつ、しっかり描いてくれるのがシグルド兄さんのいいところね」
シグルド 「ではさらばだ! 待てこのインモラル兄妹がぁぁぁぁぁぁぁっ!」
リン   「……で、絵の方は……あら」
ルーテ  「……シグルドさんがアルム君とセリカさんの肩を抱いて、三人一緒に笑っている絵ですね」
リン   「なんだかんだ言っても、家族思いなのよね……」
ヘクトル 「さーて、今日も元気に喧嘩に……お、何やってんだお前ら」
ルーテ  「こんにちは。一筆お願いします」
ヘクトル 「はぁ? あのな、俺は絵なんて……」
リン   「いいからいいから。わたしとしても、ヘクトルがどんなの描くか興味あるし」
ヘクトル 「よく分かんねえが……まあいいか。どれ……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

ヘクトル 「お、こりゃ懐かしいな」
リン   「……ってこれ、ヘクトルの手合わせ名場面集なんじゃ……」
ヘクトル 「おう。これはアイクの兄貴が初めて俺の斧弾き飛ばしたときで、
      これは最後の最後でエリウッドの奴に逆転負けしたとき、
      これはセリスの奴に一本取られたときのやつで……」
ルーテ  「……敗北した場面ばかりに感じられるのですが」
ヘクトル 「そりゃそうだろ。勝ったときより、負けたときの方が学べることが多いんだぜ?
      それによ、セリスの奴に一本取られたときなんか、あいつの嬉しそうな顔見て、
      なんかこっちも嬉しくなっちまったしな」
リン   「なるほどねえ」
ヘクトル 「へっ、話してたらまた戦いたくなってきたぜ。んじゃな」
ルーテ  「……相変わらず豪快な方ですね」
リン   「……ま、どこまでも『いいバカ』って感じかしらね」
セリス  「ただいまー。あれ、こんにちはルーテさん」
ルーテ  「やあどうも、優秀なルーテです」
リン   「どういう挨拶よ……セリス、これ、ちょっと描いてみてくれない?」
セリス  「え、え? どうしたの、急に。何を描けばいいの?」
リン   「何でもいいわ。思ったとおりに、どうぞ」
セリス  「うーん、それじゃ……えへへ、下手だから恥ずかしいな……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

セリス  「わ、凄い上手く描けた! ビックリしたあ」
リン   「……で、これは……」
ルーテ  「アイクさん、ヘクトルさん、エフラムさん、シグルドさん、ユリウス坊やに……
      数え切れないほどのいい男たちですね」
セリス  「うん、皆、たくましくて格好いい、僕の憧れの人たちだよ!
      ああ、僕も皆みたいに強くなりたいなあ」
リン   (……女の子が一人も描かれてない辺り、そういうのはまだ早いみたいね、セリスは……)
ルーテ  (ここまで純情だと、いざ恋愛したとき一気に『愛してしまったようじゃ』状態になりそうですが)
セリス  「? どうしたの、二人とも」
リン   「ううん、別に」
セリス  「ところで、これ、もらってもいいかな?」
ルーテ  「もちろんです、著作権は(ry ですので」
セリス  「ありがとう。それじゃ、ゆっくりしていってくださいね、ルーテさん」
ルーテ  「ええ、もちろんそうさせてもらうつもりです」
リン   「……で、えーと、他に描いてない人は……」
ルーテ  「結局全員に描いてもらうことになりそうですね、これは」
エフラム 「ただいま」
ミルラ  「……こんにちは」
リン   「ああ兄さん、いいところに。これ、描いてみてくれない?」
エフラム 「……絵か? いや、そういうのはフォルデ辺りにでも……」
ミルラ  「……あの、エフラム」
エフラム 「なんだ?」
ミルラ  「あのう……わたしを、描いてみてもらえないでしょうか?」
エフラム 「ミルラをか……? しかし、俺は多分お前より絵が下手だと……」
ミルラ  「構いませんから、お願いします」
エフラム 「……分かった」
リン   (……これは、ひょっとしたらいいチャンスかも……)
ルーテ  (エフラムさんロリコン疑惑の試金石になりそうですね……)

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

エフラム 「……こ、これは……!」
ミルラ  「……あの、エフラム……どうしてわたし、竜の姿なんですか?」
リン   「しかも、竜化したミルラちゃんの背に乗って、謎の魔物軍団相手に大奮闘するエフラム兄さんの絵、か……」
ルーテ  「……試金石にはなりませんでしたね」
エフラム 「いや、これは……困ったな、どう説明したものか……」
ミルラ  「……いえ、エフラムの気持ちはよく分かりました」
エフラム 「ミルラ、誤解のないように言っておくが」
ミルラ  「大丈夫、覚悟は出来てますから!」
エフラム 「覚悟、と言うと……」
ミルラ  「エフラムはドラゴンナイトになりたいのですね!」
エフラム 「いや、そういう訳では」
ミルラ  「大丈夫です、わたし、エフラムにだったら鞭で叩かれてもいいですから!」
エフラム 「ちょ、ミルラ、その発言は……!」
ミルラ  「エフラムの心の赴くままに、飛竜の鞭でわたしのお尻をバシンバシンと」
エフラム 「よし分かったミルラ、ちょっと居間に行ってゆっくり話し合おう、な!」
ルーテ  「……行ってしまいましたね……」
リン   「……エフラム兄さんよりも、ミルラちゃんの方がよほど問題だったみたいね、これは……」
ルーテ  「なかなか過激なお子さんでしたね」
リン   「そうね。ま、これ以上に問題があるのは我が家には……」

 

 ブバァァァァァァァァッ!

 

リン   「……リーフ。今回はなに?」
リーフ  「だ、だ、だって、さっきの話……! ょぅじょのお尻を鞭でバシンバシン……!」
ルーテ  「……そんなあなたにこれどうぞ」
リーフ  「な、なにこれ……画板……?」
リン   「……いろいろと予想はつくけど、とりあえず絵、思うとおりに描いてみて」
リーフ  「わ、分かった……ああ、鼻血が止まらないよ……」

 

 さらさらさらさらさらさら……
 ブバァァァァァァァァッ!

 

リーフ  「……」
ルーテ  「間髪いれずに轟沈しましたね」
リン   「予想通りと言うか何というか……」
ルーテ  「えっちできれいなお姉さんの絵ばかり……欲望に忠実と言うか」
リン   「まあ、さすがにタイミングが悪かったんでしょうけど……とりあえず、この子運んでくるわね……」
ルーテ  「……」
ロイ   「ただいまー。あれ、ルーテさん。こんにちは」
ルーテ  「こんにちは。あ、これどうぞ」
ロイ   「うわ、何これ、血まみれの画板……!? あの、ルーテさんが変な物が好きなのは知ってますけど、これはちょっと」
ルーテ  「いえ、特に危険なことはありませんから、一枚描いていただけますか、思ったとおりに」
ロイ   「うーん、よく分からないけど、とりあえず……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

ロイ   「うわ、なんか集合写真みたいに……」
ルーテ  「……お友達が多いようですね」
ロイ   「あはは、確かに、家でも学校でも騒がしい日常を送らせてもらってますね。
      どうしてだかよくわかんないけど、僕の周りってたくさん人が集まってくるみたいで……
      僕の友達ってよりは、僕の少ない友達の友達が多いというか」
ルーテ  「……友達は大事にしないといけませんね」
ロイ   「そうですね。それじゃ、僕、ご飯の前に宿題片付けるつもりなので……」
ルーテ  「はい、それでは。……あれは本人の人徳の成せる技だと思いますが、
      言わない方が変に意識しなくていいかもしれませんね」
リン   「やー、ごめんごめん、リーフも重くなったもんだわ……」
ルーテ  「お帰りなさい。後、残っているのは……」
エリンシア「まあまあルーテちゃん、ごめんなさいね、何のお構いもしませんで」
ルーテ  「いいえ、十分に楽しませていただいておりますので」
エリンシア「あらそうですの……リンちゃん、何か楽しいお話でもしてあげたの?」
リン   「あー、ううん、わたしじゃなくて……」
ルーテ  「という訳で、エリンシアさんも、これどうぞ」
エリンシア「あら、画板ですのね。一枚、描かせていただいてもよろしいのかしら?」
ルーテ  「はい。思ったとおり、自由にどうぞ」
エリンシア「ふふ、それじゃ……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

エリンシア「あ、あら……?」
リン   「あ、今日の夕食カレーなんだ」
ルーテ  「お腹が空いてくる絵ですね」
エリンシア「変な、こんなの描くつもりじゃなかったのに……」
リン   「ふふ、それだけ、夕飯の支度のことで頭が一杯になってるんじゃない?」
エリンシア「そうかもしれないわね。それじゃルーテちゃん、ゆっくりしていってくださいね」
ルーテ  「ええ、そのつもりです」
リン   「……状況によっても左右されるわね、これ」
ルーテ  「ええ……時間が違えば、筋肉祭りが見られたかもしれませんね」
リン   「それも何か嫌だなあ……」
エリウッド「やあ、こんなところで何しているんだい、二人とも」
リン   「あ、お帰りエリウッド」
ルーテ  「それでは、例によってこちらをどうぞ」
エリウッド「例によって……? よく分からないけど、絵を描けばいいのかな?」
ルーテ  「はい、そうです。思うままにどうぞ」
エリウッド「思うままに、と言われても、そうすぐに思いつくものでは」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

エリウッド「……と思っていたら、あっという間に描けてしまった……」
リン   「うわぁ、これ、我が家の倒壊と兄弟が起こす問題シーン集って感じね」
ルーテ  「エリウッドさんでしたら家計簿の山とかが出てくると思っていたのですが」
エリウッド「いや、さすがにそんなのは描かないよ……ああ、でも、実に嫌な絵だなあ、これ。
      見なよリン、これは黒い牙の人たちとヘクトルやエフラムが揉め事起こしたときに我が家が爆破された絵だろ、
      これは前に誤解からイドゥンさんが激怒して戦闘竜の軍団が我が家を包囲したときで、
      これはアシュナードさんとゼフィールさんとアイク兄さんと漆黒の騎士殿のガチバトルで衝撃波の嵐が……」
リン   「……エリウッド、どんどん顔色が悪くなってくるんだけど……」
エリウッド「ああ、あのころの惨状を思い起こすだけで胃がもたれてくる……ごめん、悪いけどこれ破り捨ててくれないか?」
ルーテ  「その方が良さそうですね、ビリビリビリビリ、と」
エリウッド「……フッ」
リン   「どうしたの?」
エリウッド「いや……絵を破り捨てたところで、我が家が幾度と無く崩壊したというその事実は消えないんだなあ、と」
リン   「……ちょっと休んできたら、エリウッド」
エリウッド「ああ、そうだね……ご期待に添えなかったようで申し訳ない」
ルーテ  「いえ、十分参考になりました……やはり、これはあまりよくありませんね」
リン   「そうね、嫌なことまで思い出してしまう可能性もあるものね」
ルーテ  「やはり、永久に封印……」
ミカヤ  「ただいまー。あらルーテさん、いらっしゃい」
ルーテ  「こんにちは」
ミカヤ  「……? 何持ってるの? 画板……・? なんだか不思議な力を感じるわね」
リン   「うん。ちょっと、これ使って皆に絵を描いてもらってたんだけど」
ミカヤ  「そうなの。じゃ、わたしも一枚描いてみてもいい?」
リン   「え? でも」
ミカヤ  「大丈夫よ。さあ、貸してみて」
リン   「……う、うん」
ルーテ  「……」
ミカヤ  「……ねえ、ルーテさん?」
ルーテ  「何でしょう」
ミカヤ  「これからも、リンと……ううん、我が家の皆と、仲良くしてあげてね」
ルーテ  「はい、もちろんです。優秀なわたしにとっても、この家の皆さんと接するのはいい刺激になりますので」
ミカヤ  「そう、良かった。さて、と……」

 

 さらさらさらさらさらさら……

 

リン   「あ、これ……」
ルーテ  「……この家の皆さんの絵、ですか……?」
ミカヤ  「ううん、それだけじゃないわ」

 

  さらさらさらさらさらさら……

 

リン   「これ……サザさんに漆黒の騎士さんに、グレイル工務店の人たちとシグルド兄さんの部下の人たちに……」
ルーテ  (数え切れないほど多くの人たちが、細やかな筆遣いで見る間に描き出されていく……!
       何という神業……そして、それを描くミカヤさんの表情の柔らかさは、一体……!?)
ミカヤ  「……っと、出来たわ」
リン   「……」
ルーテ  「……」
ミカヤ  「……下手だったかしら?」
リン   「う、ううん、むしろ逆と言うか……」
ルーテ  「この画板の力を使ったとは言え、こうも素晴らしい絵が描けるとは……」
ミカヤ  「そう? なんだか集合写真みたいになっちゃったけど……」
ルーテ  「いえ、人物の配置、距離感、表情……全ての要素が一つになって、とても穏やかな空間を生み出していると思います」
リン   「そうね。なんだか、とても優しい気持ちになってくる絵……」
ミカヤ  「……わたしたちが歩んできた道、歩んでゆく道……決して平坦なものじゃないけれど、
      家族皆で支えあって、この町の人たちとも結びついて、助け合って……
      そうしていけば、どんな困難だって乗り越えていけるはずよ。
      そういう、人と人との絆、というか……そういうのを、大事にしていきたいと思うの」
ルーテ  「……そういった心情を映し出したからこそ、こんな絵が描き出されたのですね」
リン   「……姉さん、これ、額に入れて玄関の壁に飾りましょう」
ミカヤ  「え、そ、それはちょっと恥ずかしいかな、なんて」
ルーテ  「額でしたらここにあります」
ミカヤ  「えぇ!? ちょ、いくら何でも準備良すぎ……の前に、一体どこからそんな大きな物を出したの、今!?」
ルーテ  「わたし、優秀ですから」
ミカヤ  「説明になってない!」

 

 町内全員大集合といった感のあるこの絵は、恥ずかしがるミカヤの反対を押し切って、兄弟家の玄関の壁に飾られることとなった。
 ある日、兄弟家を訪れた一人の賢者が、この絵を見ながら微笑んで、額の下に短い言葉を書き込んだ。
 #br
 『共に戦い、共に生きる』

 

 そう名付けられたこの絵は、今も兄弟家を訪れる人々の目を和ませ、心を穏やかにさせているのである。

 

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