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Last-modified: 2007-11-25 (日) 15:05:35

正と負(食料的な意味で)

 ~ユグドラル地区、ミレトス街~

リン   「いい映画だったわねえ……」
エリウッド「そうだね。筋書きは元より、芸術的な観点から見てもなかなかの傑作だったと思うよ」
ヘクトル 「ああ、実にいい子守唄だった」
リン   「あんたって相変わらず最低よね……ごめんねリリーナ、せっかく兄弟皆を試写会に誘ってくれたのに」
リリーナ 「いえ、いいんです。皆さんがそれぞれに楽しんでくだされば、それで」
ヘクトル 「だってよ。つまり俺の楽しみ方も間違っちゃいねえってことだ」
リン   「調子に乗るな!」
ロイ   「まあまあ」
リリーナ 「……」
エリウッド「……本当は、ロイと二人きりで来たかったんじゃないのかい?」
リリーナ 「え!? い、いえ、そんなことは……」
エリウッド「一人だけ誘うのが恥ずかしいのは分かるけど、ロイもなかなか鈍感だからね。
      もっと積極的にならないと、多分気付いてくれないと思うよ?」
リリーナ 「うう……努力します……」
ヘクトル 「……っつーか、腹減ったな。ちょうど昼時だしよ」
リン   「そうね……食事、エリウッドに任せてあったわよね? どうなってるの?」
エリウッド「うん……料理部の後輩が持ってきてくれるって言ってたんだけど……遅いなあ。どうしたんだろう」
ロイ   「あ、料理部の後輩って、ひょっとしてロウエンさん?」
リリーナ 「知ってるの?」
ロイ   「うん。お父さんがエレブ地区でレストランやってるらしくて、たまに家に来て自作の料理を振舞ってくれるんだよ」
リン   「彼の料理は絶品だものね。エリンシア姉さんですら舌を巻くぐらいだし」
ヘクトル 「エリウッドはいい後輩を持ったぜ、ホント!」

 ~その頃、テリウス地区~

ロウエン 「いやー参った、気合を入れて料理を作りすぎて遅れてしまうとは。
      早く行かないとエリウッド先輩にご迷惑をかけてしまうぞ……おや?」
アイク  「……頼むからせめて店までは歩いてくれ」
イレース 「……無理です。お腹が、空きすぎて……」
アイク  「参ったな……」
ロウエン 「……失礼します。そちらのお嬢さんは、ひょっとしてお腹が減って動けないのですか?」
イレース 「……はい。このままでは死んでしまいます……」
ロウエン 「そうですか。では、こちらのパンをどうぞ」
アイク  「おい、アンタ……」
ロウエン 「気にしないでください。こちらの食料保存袋の中に、食べ物はまだまだたくさん……」
イレース 「……本当ですか……?」
ロウエン 「ええ。ですから、遠慮なくお腹一杯になるまで食べてもらっても……」
アイク  「……そうか。これが死亡フラグというものか。初めて見たぞ」
ロウエン 「はい?」
イレース 「……では、遠慮なく……!」

 言うが早いか、ロウエンから食料保存袋を奪い取るようにして、次々に中の料理を平らげ始める。

イレース 「……! 量もさることながら味も申し分ないです……! ……なかなか出来るお人ですね……」
ロウエン 「はあ。そりゃ光栄です」
アイク  「……いいのかアンタ、あの勢いを見ろ。袋の中身が全部食べつくされてしまうぞ」
ロウエン 「いやあ、大丈夫でしょう。見た目よりはたくさん入るようになっていますので」
アイク  「限度というものがあるだろう」
イレース 「……ローストチキン、チャーハン、シーザーサラダ、トンカツ、カレー、餃子、ピザ、パスタ……
      バリエーション豊かですね……どれもおいしいです」
ロウエン 「そう言ってもらえると、こちらとしても嬉しいです」

 ……で、一時間後。

イレース 「……げぷ。ごちそうさまでした。もう満腹です……」
アイク  (……! あのイレースが『満腹』という言葉を使っただと!? 馬鹿な、現実的に考えてありえないぞ……!)
ロウエン 「満足してもらえましたか?」
イレース 「……はい……こんなに食べたのは生まれて初めてかもしれません。味も大変よろしかったです……」
ロウエン 「そりゃ良かった。それじゃ、俺はこれで」
アイク  「……行ってしまったか。この町には、まだまだ計り知れない人間がたくさんいるようだな……」
イレース 「……あの、アイクさん……」
アイク  「なんだ?」
イレース 「……満腹で眠くて動けません……」
アイク  「……これじゃ状況が全く変わってないじゃないか!」

 ~ミレトス街~

エリウッド「……」
ヘクトル 「……エリウッドよぉ。待ちくたびれたぜ俺ぁ……」
リン   「……わたしも、そろそろ……」
エリウッド「お、おかしいな……真面目なロウエンが、約束をすっぽかすなんてあり得ないと思うんだが……」
ロイ   「ねえ、リリーナの言うとおり、近くにあるレストランに入って食事しようよ」
リリーナ 「オスティア家と懇意の方が経営してらっしゃいますから、支払いの方は心配いりませんから」
エリウッド「しかし……うーん、でもなあ……」
ロウエン 「遅れてすみません!」
エリウッド「ああロウエン、ずいぶん遅かったね」
ロウエン 「すみません、途中で行き倒れの人を助けていて……」
ヘクトル 「どうでもいいから、早く飯食わせてくれ。腹減って死にそうだ」
ロウエン 「はい、ただいま……あれ?」
エリウッド「……どうした?」
ロウエン 「いや……すみません、さっき行き倒れの人にあげちゃった分で、食料袋が空になってしまったようで……」

エリウッド・リン・ヘクトル「 な 、 な ん だ っ て ー っ !?」

ロイ   「……え、なんでそんなに驚いてるの?」
リン   「そりゃ驚くわよ!」
ヘクトル 「ロウエンの食料袋は、まるでドラえもんの四次元ポケットのごとく食料を溜め込んでるって有名なんだぜ!?」
エリウッド「どんな状況でも必ずおいしい料理が詰まっている謎の袋……
      エレブ高七不思議の一つとまで言われたロウエンの食料袋が、空になるだなんて……!」
リン   「あり得ない、現実的に考えてあり得ないわ!」
ロイ   「いや、どっちかと言うとその食料袋の存在があり得ないと思うんだけど……」
ロウエン 「……申し訳ありません……」
エリウッド「ああいや、気にしないでくれ。
      君の食料袋が空になったってだけで、想像を絶する事態が起きたんだってことはよく分かるから」
リン   「そうそう。不慮の事故みたいなものよ」
ヘクトル 「仕方ねえ、やっぱリリーナの言葉に甘えさせてもらうことにするか」
エリウッド「頼めるかい?」
リリーナ 「あ、はい。ええと、あちらのレストランに……」

イレース 「……あ……」
アイク  「……どうした?」
イレース 「……さっきの袋の人のお名前を聞いていませんでした……わたしとしたことが……」
アイク  (……こういうのを不幸中の幸い、と言うんだろうな……)