取組

Last-modified: 2022-10-23 (日) 09:48:40

京都議定書

1997年採択、2005年発効。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の附属書I国に対して、一定期間(約束期間)における温室効果ガス排出量の削減義務として1990年比の削減目標を課す一方で、非附属書I国には削減義務はない。第一約束期間(2008~2012年)の例:日本-6%、米国-7%、EU-8%の削減。第二約束期間(2013~2020年)の例:EU-20%の削減、日本は参加せず。米国は、署名はしたが締結せず。(カナダは2012年に脱退。)

京都議定書は2020年までの温暖化対策の目標を定めたもので、パリ協定はそれをバトンタッチする形で2020年以降の目標を定めている。大きく違うのが、京都議定書には強制力があったこと。これは法的拘束力といって、約束を守らなければならなかった。かつ、その約束を守る義務があるのが当時の先進国だけだったというのが大きな特徴である。一方のパリ協定は、京都議定書が先進国を義務の対象にしていたのに対して、世界中の参加する国が温暖化対策をするということを約束した。そして、パリ協定の特徴は京都議定書に比べるとかなり緩い。パリ協定では各国が計画を立ててこれだけ温室効果ガスを減らしますという目標を提出することは義務であるが、その目標を達成することは義務とは書かれていない。

京都議定書は、2008年~2012年の間に先進国(アメリカは合意していないため除く)の温室効果ガス排出量に関して、法的拘束力のある数値目標を各国ごとに設定し、国際的に温室効果ガス排出量の削減をしようというものである。この内容を引き継いだのがパリ協定であるが、京都議定書とパリ協定には大きな違いがある。それは、取組む国の違い。京都議定書は先進国のみが対象だったが、パリ協定は先進国・途上国を含むすべての国が削減目標の対象となった。今までは先進国と途上国で意見が分かれ、堂々巡りの議論がされており、途上国側の意見としては「先進国が排出してきた温室効果ガスをまず削減するべきだ」という内容であった。そのため、すべての国で共通の目標を掲げるには厳しい状況であったが、京都議定書が採択された後に経済成長を迎えた中国やインドなどの「新興国」が現れたことによって先進国と途上国の議論に変化が生まれ、アメリカ・中国が主導となりすべての国で共通の目標を掲げるパリ協定が誕生した。

パリ協定が画期的な枠組みとされるもう1つの理由は、ボトムアップのアプローチを採用したこと。京都議定書は、先進国のみにトップダウンで定められた排出削減目標が課せられるアプローチを採用していた。このトップダウンのアプローチに対して公平性および実効性の観点から疑問が呈されたことを踏まえて、パリ協定では各国に自主的な取り組みを促すアプローチが模索され、採用された。この手法は、協定の合意に至るまでの国際交渉において日本が提唱して来たものである。これにより、各国の削減・抑制目標は、各国の国情を織り込み、自主的に策定することが認められている。

パリ協定

概要

パリ協定の合意により、京都議定書の成立以降長らく日本が主張してきた「全ての国による取組」が実現(歴史上はじめて、全ての国が参加する公平な合意)。京都議定書に代わる、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組み。日本からは2020年に現状の1.3倍となる約1.3兆円の途上国向け資金支援を発表。

2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち、「2050 年カーボンニュートラル」の実現を目指す。日本では、中期目標として、2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することが目標として定められた。

内容

  • 世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求すること。
  • 主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること。
  • 全ての国が共通かつ柔軟な方法で実施状況を報告し、レビューを受けること。
  • 適応の長期目標の設定、各国の適応計画プロセスや行動の実施、適応報告書の提出と定期的更新。
  • イノベーションの重要性の位置付け。
  • 5年ごとに世界全体としての実施状況を検討する仕組み(グローバル・ストックテイク)。
  • 先進国による資金の提供。これに加えて、途上国も自主的に資金を提供すること。
  • 二国間クレジット制度(JCM)も含めた市場メカニズムの活用。

目的は「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」こと。そのために、「できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と吸収量のバランスをとること」を目標とする。
削減目標は各国に任されており、自国でどの程度削減するかを設定。この目標は5年ごとに更新され、前回目標を深堀した内容を提出しなければならない。そして、削減状況は世界共通の評価基準によって第三者が平等で公正な評価を行う。また、5年ごとに国際的に実施状況を確認し、各国が取り組みを強化できるように情報交換を行う仕組みである。
京都議定書と同じく法的拘束力を持つとされるが、京都議定書と異なり成果が出ていなかったとしても罰則を与えない(罰則によって脱退されることを避けことが目的ではないかと言われている)。罰則がないからこそ、5年ごとに削減目標をレビューし、洗練された目標を掲げるような仕組みになっている。京都議定書でも行われていた緑の気候基金(先進国から途上国へ送られる基金)と呼ばれる資金支援は継続して行う。途上国が行う気候変動への対処を支援するための基金であるが、パリ協定からは支援能力のある国(主に新興国)からも自主的な資金支援することとされている。
クレジット制度とは排出削減量を取引するシステムを指す。そして、パリ協定で行えるクレジット制度はベースライン&クレジット方式と二国間クレジット制度。ベースライン&クレジット方式は温室効果ガスの削減事業を行った際、事業がなかった場合に比べた排出削減量をクレジットとして取引できる方式になります。二国間クレジットは優れた低炭素技術や製品、システムやサービスを途上国に提供することで、途上国の温室効果ガスの削減や持続可能な開発に貢献し、その成果を二国間で分けあう制度。
パリ協定脱退には脱退表明をしてから1年後に効力を有します。後述するが、アメリカのパリ協定脱退が分かりやすい例。なお、脱退後30日で再加入可。

IPCC 第6次評価報告書

本報告書で注目すべき点は、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明記し、地球温暖化の原因が人間活動であると断定したこと。これまでの報告書においても、温暖化の主な原因が人間活動である可能性については言及されてきたが、第3次評価報告書では「高い(66%以上)」、第4次では「非常に高い(90%以上)」、第5次では「極めて高い(95%以上)」といった表現にとどまっていた。これに対して、今回の報告書では、初めて不確実性を取り除き、断言する形で公表された。

その根拠となるシミュレーションの一つとして、世界平均気温の実際の観測値に対して、人為・自然起源双方の要因を考慮した推定値と、自然起源の要因のみを考慮した推定値を比較して検証がなされている。その結果、自然要因のみを考慮した推定値が観測値から大きくかけ離れたのに対して、人為要因を加味した推定値は、観測値とほぼ一致した。また、定量的な評価として、2010~2019年の期間で観測された気温上昇は1.09℃であるとされているが、そのうち人間活動によるものは1.07℃であるとするデータも示された。更に、本報告書では、大気中の二酸化炭素濃度が、少なくとも過去200万年間のどの時点よりも高いとした上で、世界平均気温について、1970年以降、過去2000年にわたり経験したことのない速度で上昇しており、近年の気温上昇が特異であることを示した。

本報告書では、地球規模の観測が始まった1950年代以降、ほとんどの陸域で熱波を含む極端な高温の頻度が増えたほか、多くの地域で大雨の頻度や強さが増大したとしている。こうした極端な異常気象について、人為起源の気候変動が世界中の全ての地域で既に影響を及ぼしていると指摘しており、過去10年に観測された最近の極端な高温の一部は、気候システムに対する人間の影響なしには発生した可能性は極めて低いと述べている。更に、世界規模での熱波と干ばつの同時発生、人間が住む全ての大陸の一部地域における火災の発生しやすい気象条件、一部地点での複合的な洪水といった複合的な極端な現象についても、人間活動による影響がその発生確率を高めている可能性が高いと言及している。加えて、今後、地球温暖化が進行することで、こうした極端な異常気象が更に増加すると指摘している。例えば、地球温暖化が0.5℃進行するごとに、熱波を含む極端な高温、大雨、一部地域における農業及び生態学的干ばつなどが目に見えて増加すると予測している。具体的には、産業革命前には10年に1回程度しか起こらなかったような極端な高温の発生頻度が、気温が1℃上昇した現在において既に2.8倍、上昇幅が1.5℃に達した場合は4.1倍、2℃に達した場合は5.6倍、4℃に達した場合には9.4倍になる可能性が高いと予測している。また、50年に1回程度しか起こらなかったような極端な高温の発生については、現在で既に4.8倍、産業革命前から1.5℃上昇した場合は8.6倍、2℃上昇した場合は13.9倍、4℃上昇した場合は39.2倍と、気温上昇に伴い発生頻度が更に高まると予測されている。

今回の報告書では、研究データの蓄積やコンピューターシミュレーションの精度向上などの結果、大気中の温室効果ガスの濃度を2倍にした場合、地球の気温が何度上がるかを示す「気候感度」の推定幅が狭まり、温室効果ガスの排出が実際にどれだけの気温上昇をもたらすのか、という全体的な評価の根本が強化された。そのため、これまでの報告書に比べてより断定的な表現、より確信度の高い評価を下す内容に至っている。

対策

火力発電でも温室効果ガスが発生することから、設備や機器の省エネとエネルギー管理の徹底。新築建造物省エネ基準適応義務化を行い、新しく建てる建造物には省エネを導入していくことを示し、既存の建造物に関しても省エネ改修を実施。また機器の省エネ化としてLEDなどの高効率照明のストックを2030年までに100%にすることやトップランナー制度による省エネ性能向上を進める。省エネ診断によるエネルギー管理の徹底。
脱炭素社会の実現に向けて住宅の省エネ化を進めるため、2025年度以降、すべての新築の建物に断熱性能などの省エネ基準を満たすことを義務づける改正内容を盛り込んだ法律が2022年に成立した。建物の冷暖房に伴う電力やガスなどのエネルギー使用量を減らすことが目的である。このため、これまでオフィスビルなど一部の建物を対象に定めていた省エネの基準について範囲を拡大し、2025年度以降、住宅を含む、すべての新築の建物で基準を満たすことを義務づけている。具体的には、新築の住宅や、小規模なオフィスビルも省エネ性能を高めるため、断熱材の厚さや窓の構造などの基準を満たすことが求められる。また、既存の住宅で省エネ対策の工事を行う場合に利用できる、住宅金融支援機構による低金利の融資制度も新たに設ける。

古紙をパルプ化する過程に置いて、古紙と水の攪拌(かき混ぜること)、古紙の離解には多くのエネルギーが必要となる。そのため発電所での温室効果ガスの排出を助長することにもつながることから、従来よりも効率的に進めるパルパー(古紙から繊維を取り出す機械)の導入を支援して、稼動エネルギー使用量の削減を目指している。また従来型よりも高温高圧型で効率が高い、黒液回収ボイラーの更新時の導入を支援することで、省エネ・高効率化を行い、温室効果ガス排出削減に取り組んでいる。

温室効果ガス、とりわけ二酸化炭素の吸収源は森林などの植物であるため健全な森林の整備や保安林などの適切な管理、保全などの推進などを進めている。また、有機物を継続的に施用などした土壌では炭素貯留が増大していることから、農地および草地土壌の有機物施用による土作りの推進や都市緑化などの推進も合わせて取り組まれている。
自然を活用した解決策(NbS)の取組を進め、多くの炭素を固定している森林、草原、泥炭湿地などの湿原や土壌、沿岸域などの生態系の保全・再生を進めることにより、健全な生態系による二酸化炭素の吸収能力を高める。また、森林等の生態系に大きな影響を与える鳥獣被害を軽減し、健全な生態系による吸収量を確保していくことに資するよう、被害防除や個体群管理などの適正な鳥獣管理を推進する。さらに、生態系の気候変動への順応力を高めるために、生物が移動・分散する経路である生態系ネットワークの形成と併せて、気候変動以外のストレス(開発、環境汚染、過剰利用、外来種の侵入等)を低減することを推進する。「ブルーカーボン」、すなわち沿岸域や海洋生態系に貯留される炭素について、全国で水生植物を用いた藻場の保全・回復等の二酸化炭素の吸収源としての可能性を追求する。あわせて、水生生物を原料とした機能性食品、バイオマスプラスチック、海洋生分解性プラスチックなどの新素材開発・イノベーションによる海洋資源による新産業の創出を進める。

民間企業の取り組みとしては、再生可能エネルギーを新たな産業にしている企業が増えている。ほかにも、企業が使う電力の100%を再生可能エネルギーにするということを宣言している「RE100」という国際的なグループもある。日本の場合、すべて再生可能エネルギーで発電するのは難しいが、再生可能エネルギーで発電している電力会社から優先的に電力を買ったり、自分の会社の敷地などに太陽光パネルを置いたりしている。保険や金融の業界、中でも温暖化対策に積極的なのが再保険業界である(再保険というのは「保険会社の保険」。保険会社は、災害などが相次いで保険金を支払えなくなるときに備えて再保険を掛けている)。この業界は30年ぐらい前から温暖化対策を進めないと災害が相次いで損害保険が成り立たなくなると主張している。そのため、温暖化対策にお金を支援したり、温暖化対策に積極的な企業に保険料を優遇したりしている。また、銀行においては「温暖化対策に積極的な企業に銀行が支援する」という新たな枠組みが国連の主導で去年つくられた。温暖化対策をやっていないと世界の取引の中からはじかれてしまう危険も出てきている。さらに、投資家の間では「ESG投資」という手法(環境問題などに前向きに取り組んでいるかといった観点から投資先を決める手法)が広がっている。