土①

Last-modified: 2023-10-08 (日) 18:22:11

新版 土壌学の基礎 生成・機能・肥沃度・環境

※世界の土壌図(p16,USDA, Global Soil Regions)ソイルタクソノミー

中緯度草原地域の有機物蓄積土壌(チェルノーゼム)

有機物が土壌に最も蓄積しやすいのは、中緯度の草原地帯である。ここでは、年間の植物生産有機物量が1.1kg/㎡程度と、広葉樹林地帯より僅かに少ない(波多野 ,1998)。しかし、やや乾燥条件にあるため、土壌中の微生物による有機物分解活動が多少抑制される。その結果、土壌に蓄積する有機物量は最大を示し、およそ40kg/㎡にもなって土壌の深いところまで蓄積している。

波多野隆介(1998)土と植物 土壌の自然史 北海道大学図書刊行会

ポドゾル化作用

亜寒帯の針葉樹林では、降雨量の方が地表面からの水分蒸発量や植物の蒸散作用によって消費される水分量の合計よりも多い。したがって、余剰水分は土壌中を下方へ浸透していく。この寒冷湿潤な条件で針葉樹林下に堆積している有機物の層は、未分解のままで酸の性質をもつ有機化合物(=有機酸)を多く含み酸性が強い。このような針葉樹林が排水のよい土壌で発達すると、雨水が有機酸類を含みながら土壌中を下方へ移動する。この過程で、有機酸類は塩基類(土壌の水に比較的溶けやすい)だけでなく鉄・アルミニウム(酸性条件で溶解度が高まる)などを溶かし出し、下方へ流してしまう(溶脱)。ポドゾルがつくられるには、寒冷湿潤な気候、未分解の堆積有機物を多くつくる針葉樹林、排水良好な土壌、余剰の水分が停滞しない地形という条件が揃わなければならない(例外的に熱帯でも形成されることがある)。

塩類集積作用

乾燥地帯では土壌中の水が地表面で蒸発するため、水は下から上への動きが主体となる。このような乾燥地帯の母材は、もともと塩基類が高濃度の堆積物であることが多い。しかも、乾燥地帯なので植物の生育は貧弱で、植物による蒸散量は僅かである。このため、土壌の下層から移動してきた水分は、土壌中の塩類を溶かし込みつつ地表面へ移動し、その大部分は地表面に塩類を沈殿させながら蒸発していく。この場合、水に溶けにくい塩類から順次沈殿し、最表層にはナトリウムの塩化物や硫酸塩といった水溶性の塩類が集積していく。こうして塩類が土壌表層に集積しはじめると、ただでさえ貧弱だった植物の生育はさらに抑制され、水分の蒸散が衰えていく。植物による蒸散が衰えれば衰えるほど土壌表面の水分蒸発量が多くなって、さらに地表に塩類が集積する。この悪循環が塩類集積土壌をつくっていく。

植物気候学

植物は、その体温を制御する機能が一般的には弱いので、世界的規模においても、また狭い生態的規模においても、植物の分布は強く気温の影響を受ける。大きくは緯度と標高で決定される世界の気候帯は、それぞれの地域に特有の温度と降水量に反応した自然淘汰の結果、それぞれ特徴的な植生型をもっている。

世界の土壌資源 入門

ポドゾル

亜寒帯や高山のように気候条件が冷涼湿潤で、母材が珪岩質である場合、さらに植生がヒースまたは針葉樹林である場合に溶脱を促進する土壌生成条件が整う。この結果、キレート洗脱作用は亜寒帯地域における広範囲の土壌で作用している(ただし、この作用自体は世界中で起こる)。ポドゾルは強酸性の土壌であり、生物活動が低く有機物分解が緩慢である。主に北半球の温帯ならびに亜寒帯域に分布し、とくにスカンジナビア、ロシア北西部、カナダのバフィン湾南部に集中的に分布している。

カンビソル(褐色森林土)

多くのカンビソルは未熟な土壌から成熟した土壌への発達の推移段階に位置づけられるが、カンビック層は安定している。カンビソルは大きく異なった環境条件下に出現するため、多様な特徴を一括するのは難しいが、一般的には中性から弱酸性で、化学的に十分肥沃であり、活発な土壌動物相が認められる。

カンビソルは更新世に氷河作用の影響を受けた温帯や北方域に普遍的に見出されるが、これは土壌母材がまだ新しく、また北半球の高緯度帯(ロシア北部とカナダ)の低温(あるいは永久凍土)環境下では土壌生成速度が緩慢なためである。一方で、温帯気候(西及び中部ヨーロッパ)下にカンビソルが卓越するのは、風化の程度は中庸でありしかも粘土の移動を制限するような母材では粘土移動が起こらないことや、夏雨のために洗脱が抑制されるような気候条件下に置かれていることが、その主な理由である。

温帯では特に沖積・崩壊・風成堆積物上に広く認められる。北半球のカンビソル群の大半は亜寒帯域に分布している。

ルビソル

※アルジリック褐色森林土、灰色林地土、地中海地域の土などに対応。

表層での粘土減少と次表層のアルジック層での粘土集積という土性の分化(溶脱移動)が土壌断面内に認められる点が、最も重要な特徴である。乾燥地域や半乾燥地域にみられるアルジック層は一般に、より湿潤な条件下で生成された遺物である。大半は中央・西ヨーロッパ、アメリカ合衆国、地中海地域、南オーストラリアの湿潤ないし半湿潤地域に分布する。ただし、アルジック層はこの土壌だけの特徴ではない。

アクリソル(赤・黄色土)

次表層における低活性粘土の集積、粘土量の(深さに伴う明瞭な)増加、低塩基飽和度を特徴とする。下層土が強酸性であるため、通常、根の伸長は貧弱である。明瞭な乾季をもつ地域では、表層が概して薄く有機物含量も少ない。熱帯、亜熱帯、温暖帯地域の、更新世ないしはそれより古い地表面に広く分布する。

チェルノーゼム

温帯の大部分は、冬と短い夏をもつ。降水量は比較的少なく(年間350-600mm)その上限は年間の可能蒸発散量と一致する。これらの地域の土壌母材は、大部分が石灰質のレスかレス質堆積物である。自然植生はバイオマス生産量が高い高茎イネ科草本の一年草が優占し、東ヨーロッパとアジアでは高茎イネ科草本ステップ、北アメリカでは高茎イネ科草本プレーリーと呼ばれている。この種の植生は、非常に多くの土壌動物を伴い、暗灰色で栄養分に富んだ腐植質の厚い表層を特徴とする土壌が生成する。この結果、チェルノーゼムは団粒構造がよく発達した腐植質に富む厚いモリック層をもつ。主な分布地域は、ユーラシアと北アメリカの中緯度地帯のステップである。

ファエオゼム(プレーリー土)

比較的湿潤で温暖なステップあるいはプレーリー地域の典型土壌で、他のステップ土壌よりも湿潤な環境下に産出する。生物生産量は高いが、風化や洗脱もより激しく起こる。チェルノーゼムやカスタノーゼムと同様に、レス・レス質堆積物・非固結基盤物質上に発達する。チェルノーゼムと異なるのは、洗脱が塩基・無機養分を土壌断面から枯渇させるほど激しくはない。また、表層もより薄く、暗色がやや薄い。最も広く分布するのは、アメリカ合衆国の中央平原とグレートプレーンの東端部で、そこは(半)湿潤気候に属する。長春とハルビン周辺とハルビンの北から北東の中国東北部の半乾燥気候帯に接するやや湿潤な地域にもある。面積は小さく大部分は不連続に分布する地域が、中央ヨーロッパの中央部・南東部、ハンガリーのドナウ川流域と近隣のユーゴスラヴィアを含む地域にもみられる。温帯のチェルノーゼムや亜熱帯のカスタノーゼムの湿潤な側と接している。広葉樹林帯のより乾燥した部分を含むステップから森林ステップあるいは森林プレーリー地域にみられる。北半球では、地理的にユーラシアと北米のチェルノーゼムのより湿潤な側にある。

カスタノーゼム(栗色土)

温暖で乾燥したステップ地域の土壌。自然植生は早熟性の草本植物が優占し、地下部生産量の半分は土壌表層に集中するため、上2つと比較してモリック層の厚さは薄く、暗灰褐色~暗褐色である。これは、より乾燥した半乾燥からほぼ乾燥気候によるもので、このため生物生産量も低い。生物攪乱のクロトビナは冬季が穏やかなため、チェルノーゼムに比べて頻度は低く、出現する深さも浅い。なお、中性から弱アルカリ性を示す。主な分布地域は、ユーラシアの短茎イネ科草本ステップ(旧ソ連南部、モンゴル中央部)と北アメリカの短茎イネ科草本プレーリー(カナダ南部からテキサスを経てメキシコに至る地域)に集中している。チェルノーゼムでは、冷温帯気候帯のより温暖で乾燥した側で隣接している。

カルシソル

※昔はゼロソルと呼ばれていた。かつての砂漠土壌。

乾燥・半乾燥地域に分布する。炭酸カルシウムの集積によって現在もカルシック層が形成されているか、あるいは過去においても、それが最も卓越した土壌生成過程であった。中世もしくは微アルカリ性のPHを示し、有機物に乏しい。主要分布地域は、地中海性気候地域と半乾燥亜熱帯地域である。

アレノソル(無機質土壌?)

砂質譲土または砂土。北半球の主要な分布域は、中東と中国の砂漠。ほとんどは乾燥地及び半乾燥地域に見出されるが、実際には典型的な非成帯性土壌であり、ごく乾燥からごく湿潤、寒冷から高温といったあらゆる気候条件の下で分布している。砂丘もしくは面状の砂の被覆の形で存在する風成砂上に主に分布する。分布は、土壌生成の時期・期間とは関係なく、非常に古い地表にも分布しており、植生もあらゆるタイプがみられる。