概要
日本は、地形が急峻で侵食が激しく、成帯性土壌は成立しにくい。堆積岩(石灰岩を除く)・火成岩は酸性岩で、カルシウムやマグネシウムが乏しい。
欧米より温暖・湿潤で土壌材料の風化・洗脱が進んでいる。山岳地を除いて氷河の影響を受けていないため材料の若返りがない一方で、火山噴出物の影響は広い。日本の土壌は強く洗脱されて酸性を示し、養分の賦存量が少なく、自然肥沃度は低い。地形が不安定→土壌は未発達。
成帯性土壌の褐色森林土が国土面積の半分以上(55.2%)を占める。次いで成帯内性土壌の黒ボク土(17.3%)が、褐色森林土分布域に割り込むように形成されている。沖積平野の水・湿地性堆積物が母材土壌となる沖積土も広い面積を占める(16.6%)。他に、ポドゾル性土・未熟土(10.1%)が区分される。
土壌の色
- 黒色は有機物の多少を示し、有機物の量は植生・気候によって支配される。同じ植生下でも、暖かいところ→分解が早く腐食量が少ない。
- 赤・黄色は酸化鉄の色で、風化が進行するほど赤くなる。赤い土は、高温多湿な環境で風化が進み、他物質は少なくなる一方で(動きにくい)酸化鉄が相対的に多い状態である。
- 白い色は砂の色。
- 灰色は土が水に浸かって酸素欠乏の状態であることを表す。
分布
水平分布において、低標高地域(300mまで)に限ると
地域 | 植生 | 土壌 |
---|---|---|
北海道北部地域 | 常緑針葉樹林(トドマツ、エゾマツ、ハイマツ、アオモリトドマツ、トウヒ、コメツガ)あるいはこれらにミズナラを加えた針広混交林 | ポドゾル性土 |
北部を除く北海道~東北地方北部 | 針広混交林+夏緑広葉樹林(ブナ、ナラ) | 褐色森林土 |
東北地方南部~本州中部地域 | 夏緑広葉樹林で、一部常緑広葉樹(照葉樹)を交える | (移行帯) |
北関東以南~トカラ列島 | 常緑広葉樹(シイ、カシ、タブ)だったが、現在は二次林(コナラ、クヌギ、クリ)に置換 | 黄褐色森林土 |
南西諸島~台湾の大部分 | 南方型の常緑広葉樹(亜熱帯林)(アコウ、ガジュマル) | 赤黄色土*1 |
上記の分布は、土壌が垂直方向にも成帯性を示すため、現実の分布と一致しない。
垂直成帯性では、南アルプス太平洋側の山麓部を例として
標高 | 植生 | 土壌 |
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500~1500m(冷温帯・山地帯) | ブナが代表の夏緑広葉樹林。カエデ、サクラ、シデなど高木が混在+低木(クロモジ、ガマズミ) | 下部は赤黄色土+上部は山岳褐色森林土(塩基飽和型) |
1500~2500m(亜高山帯) | シラベ、オオシラビソが主体+モミ、トウヒの混在が少ない→表層に厚い堆積腐食層 | 山岳褐色森林土(ポドゾル亜型)*2 |
2500m~(高山帯) | 森林限界超える→ハイマツ低木林+高山植物群落 | (高山)ポドゾル性土 |
他にも成帯内性土壌や非成帯性土壌として、
山地→岩屑土、火山放出物未熟土
低地→泥炭土、グライ土、低地土、黒ボク土、砂丘未熟土
土壌の種類・性質
順 | 土壌名 | 説明文 |
---|---|---|
a | ポドゾル性土 | 温暖なため、大陸の典型的なポドゾルは生成されにくい。高山帯(寒帯)と亜高山帯(亜寒帯)である常緑針葉樹林帯に出現すると考えられるが、実際には常緑針葉樹にミズナラを交えた針広混交林下に出現。北海道北部及び北海道~本州の高山帯に分布。 |
b | 褐色森林土 | ブナ・ナラが主体の夏緑広葉樹林の下に見られる。最も広い面積を占める。ゴルフ場・住宅/農地開発→ブナ林減少→褐色森林土は減少し人工改変土に。 |
c | 黄褐色森林土 | シイ、カシ類を主体とする常緑広葉樹林下に見られる。褐色森林土よりも強い風化を受け、腐食含量が少ないため水和酸化鉄の結晶化が進み、明度が高い。 |
d | 赤黄色土 | 亜熱帯林下に出現するが、日本のものは第四紀更新世の間氷期に生成された古土壌である。鉄成分が多い母岩→赤色土・少ない→黄色土、古い地形面→赤色土・新しい→黄色土、排水のよいところ→赤色土・悪い→黄色土、 |
e | 黒ボク土 | 火山噴出物に由来する成帯内性土壌。表土最上部の黒ボク土は、火山灰ではなく堆積物中の微粒炭が腐食の保持に関与したもので、微粒炭は縄文期の野焼き・山焼きで発生した説もある(山野井,2015)。野焼き・山焼きは縄文人のニッチ確保のための草原作りと考えている。つまり、火山灰土ではなく人為土壌である。 |
f | 低地土 | 自然堤防は砂質の褐色低地土、後背地は粘土質の灰色低地土となる。共に成帯内性土壌。 |
g | グライ土 | 氾濫原の後背湿地・三角州・海成干拓地・湖成干拓地に分布し、北陸・東北・関東に分布面積が広い。成帯内性土壌。 |
h | 泥炭土 | 植物遺体の分解が抑制される地下水位の高い地域に出現する。分布面接の4分の3が北海道と東北地方に分布。 |
i | 水田土 | 灌漑水を引き込んだ水田では、水の影響を強く受けた水田土に独特な断面がみられる(鉄集積層の下にマンガン集積層が形成される)。 |
j | 酸性硫酸塩土 | 海成・湖成堆積物や火山噴出物中の黄鉄鉱が酸化され、硫酸を生じて強酸性を示すもの。 |
k | アルカリ土 | 干拓地・浚渫埋立地、ガラスハウス・ビニルハウス内の土壌の一部に見られる。塩類濃度が高い土壌に灌漑水を補給? |
l | 塩類土 | 干拓地・浚渫埋立地、ガラスハウス・ビニルハウス内の土壌の一部に見られる。過剰の施肥で新たに生成。 |
m | 岩屑土 | 山地を中心に固結岩屑土・非固結岩屑土が分布。非成帯性土壌。 |
n | 砂丘未熟土 | 海岸砂丘における未発達な土壌。南西諸島・小笠原諸島の海岸の石灰質の砂質土壌も含めることがある。 |
o | 人工改変土 | 人間活動→土壌断面内の土層が自然の土壌から大きく変化。 |