日本の河川

Last-modified: 2022-06-14 (火) 09:13:13

主な河川の分布地図

https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/img/map_090306.png
出典:国土交通省 河川整備基本方針・河川整備計画 一級水系の河川整備基本方針策定状況(令和3年12月28日)より

水質

河川の水質は自然的要因(地質・土壌・鉱山・温泉・海・降水量)と人為的要因(都市排水・工場排水)によって特徴づけられる。

世界的にみた場合、

  • 湿潤区域は淡水、内陸の乾燥地域は鹹水のことが多い。
  • 山岳地方は溶解物質が少なく有機物に乏しいが、石灰岩地は炭酸石灰に富み、沖積平野は有機物に富む。泥炭が多い→腐植コロイドのため褐色に濁る。
  • 河水は一般に中性。活火山地域→硫酸・塩酸が注入→強酸性となり(酸川)、那須火山帯に多い(魚いない・灌漑や発電利用が難しい・橋脚腐食早い・砂利脆い)。近年は石灰中和・地下浸透策で毒水河川を蘇生。
  • 酸素は飽和状態だが、人為的に汚染されると欠乏状態となる。1960年代の高度成長で都市排水・工場排水により極度に汚染。

日本の河川水質の特徴は

  • 塩分量が世界的に著しく稀薄。降水量が多いこと、大気湿度が高いこと、(土地急峻→流速早く)蒸発による濃縮が妨げられることに起因。
  • (塩分百分率・濃度とも)珪酸の量が著しく多い。火山土壌の風化→脱珪酸作用が激しいなど火山噴出物の影響による。
  • (塩分百分率・濃度とも)カルシウム、アルカリ度が乏しい。石灰岩地域の狭いことを反映。酸性河川→火山岩からのカルシウム、炭酸塩の溶解の寄与が少ない→カルシウム量・アルカリ度の値が小さい。
  • 塩素量が多い。風送塩起源・温泉鉱泉起源・人類活動の消費廃物・土壌起源(勤少)などが起源だと指摘されてきたが、特に百分率Cl-が高いのは風送塩の影響だと言われる。風送塩には地域的相違性があり、冬の強い季節風によって日本海側の塩素イオンの平均濃度は太平洋側に比べて2倍高い。

地域別では

地域説明
北海道NaとClの平均含有量が最高。冬季の風送塩により西部の方が塩素イオン含有量が高い。浮遊物の平均値が圧倒的に高い(泥炭層が発達→河川が泥炭の破片を含み流入するため)。石狩川は上流部で朱別川が合流し有機物が多く、下流域平野部は泥炭層の排水で清浄化無理か。
東北那須火山帯→アルカリ度極めて低い・硫酸塩濃度が極めて高い。岩手県東側は硫酸塩濃度が低い。温泉・鉱泉の影響で毒水河川(無機酸性河川)が多い。
関東カルシウム・マグネシウム・アルカリ度に富む(流域に石灰岩質の地層をもつ(4)→これらの成分の含有量が高い)。火山岩地域では珪酸量が多く、水成岩地域では少ない。吾妻川は強酸性河川だったが石灰中和で甦る。東京周辺の河川は(1960年代の高度成長で都市排水・工場排水により)水質が悪化。
中部<太平洋側>
塩化物濃度が著しく低い。3河川はカルシウム・マグネシウム・硫酸塩・アルカリ度・蒸発残査に富むが、2河川は希薄。愛知県は希薄の傾向が強いが、庄内川は粘土採掘により浮遊物が多い。富士溶岩の影響で3河川は珪酸分が高い。岳南の河川は汚濁化されたが、1950年代に復元。
<日本海側>
太平洋側に比べて塩化物含有量が高い。ただし、水源の山岳が高く海洋塩の影響が少ない日本アルプス連峰の川→塩化物が少ない。
近畿マグネシウム・珪酸・蒸発残査が明らかに希薄で、カルシウム・ナトリウム・カリウム・アルカリ度・塩化物も少ない。特に外帯の2河川は少ない。蒸発残査が多いのは4河川のみ。京阪神の河川→汚濁化するものの回復している。
中国塩化物含有量は日本海側に多い。マグネシウム・硫酸が特に低い。石灰岩台地を流れる厚東川→カルシウム・アルカリ度が高い。
四国四国カルスト地域が東西に分布→カルシウム・アルカリ度が高い。Ph値の大きい河川が多い一方で、ナトリウム・カリウム・硫酸塩・塩化物・珪酸・蒸発残査は少ない。冬季の北西風によって運ばれる海洋塩の影響が山脈により断絶→特に塩化物が外帯河川に著しく少ない。
九州①阿蘇・霧島火山の噴出物により珪酸含有量が著しく高い。②蒸発残査も濃厚(珪酸濃度・カルシウム・マグネシウム・ナトリウム・カリウム・アルカリ度・硫酸塩が高い)。③炭坑廃水の影響と塩素量が低いことでNa/Clが高い。

水質と環境

工場排水が水域に流入して、深刻に環境を汚染する例は今日では稀。問題は畜産廃水・農業廃水・家庭廃水・下水の流入によって多量の有機物が供給されること。有機物は微生物の分解過程で、水中の酸素を消費し、悪臭・水生生物の斃死事故などの問題を引き起こす。開放的な川は有機物が外部から流れ込む(他生性の有機物)のに対して、閉鎖的な湖は水中のプランクトンが有機物の供給源(自生性の有機物)となる。したがって、河川は水質が大幅に改善されたが、湖では環境基準を達成できない水域も多い。川の中でも多少の有機物の生産はあるが、深刻な負荷とはならない(微小な付着藻類は浮遊して水中に懸濁しないし、量も大きくなりにくい)。

生物化学的酸素要求量(BOD)=有機物が多ければ多いほど酸素の消費量が多い→減った酸素量=有機物の指標。ただし、(製紙廃水に含まれるリグニン・染色廃水中の化学合成糊のような)生物的に分解できない有機物は測定できない。なお、湖では有機物が分解される割合が小さいので、化学的に有機物を分解した際に消費される酸素量(COD、化学的酸素要求量)を指標とする。

集水域から川に流れ込む物質
①集水域に降った雨水は、樹幹・土壌を通過して栄養塩(窒素・リン)・金属・腐植質などの溶存有機物を溶かし出し、川に運び込む。一方で、雨水中の物質が土壌中に吸着されることもあり、河川と雨水の水質は異なる。粘土表面に吸着されたリンは洪水時の濁水として流出するため、洪水時に年間の総流出量の大半が流れ出す。鉄と腐植質は結合して錯体となり、溶存態のまま海に到達→海のプランクトン・海藻が不足しがちな鉄を摂取
②河川外から供給される落葉は、水生動物にとって付着藻類以上に重要な資源。

河川中流域は生活人口が増えるため、水質の変化も中流域で顕著となる。長良川では岐阜市通過後に窒素・リン濃度が増加する。多摩川はし尿処理場排水の流入地点で溶存態窒素濃度が4~6倍になる。

日本の河川水質を構成する溶存物質は、陽イオンでは多い順に、カルシウムイオン・ナトリウムイオン・マグネシウムイオン・カリウムイオンと続き、陰イオンでは重炭酸イオン・硫酸イオン・塩化物イオンと続く。これらに珪酸を加えた8成分で水質を構成する溶存物質の95%前後を占める。これら以外に河川水質を大きく左右するのは窒素とリン。この2つは自然条件での濃度が低いため人間活動が盛んな都市部からの流入で河川水中の濃度が上昇する。河川水中の窒素・リンの増加は付着藻の成長速度を増大させ、富栄養化を引き起こす可能性がある。

下水道が未整備だった高度経済成長期には、河川に下水が直接排出され有機物による汚濁が問題に。水質はBODやアンモニア態窒素が高い値を示していた。問題解決のため、下水中の有機物を下水処理場で分解・無機化するようになった。しかし、この無機化によって生成した溶存態の硝酸態窒素やリン酸態窒素は高度処理でしか除去できないので、その多くは処理水とともに河川に排出されている。これらが海に流入するので、閉鎖的な内湾では赤潮が恒常化し、海の有機汚濁が深刻となる。

環境基本法により、類型分けされた水質基準が定められている。水質汚濁防止法では排水の水質を規制している。水道法では飲料水の水質を定めている。「水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律」では川・貯水池の水質を監視している。

近年の水の汚れの原因=産業廃水に比べて生活廃水の寄与が大きいため、家庭単位での廃水対策を考える必要がある。下水道整備で直接流入は減少したものの、未整備地域では未処理の生活雑排水が流入して水が汚染される例もある。

河相

※図は自作せよ。(コピーの添付不可)

安芸(1951)は「河相」を「河川のあるがままの状況」と定義し、流水と河床とが常に影響し合いながら「常に成長しつつある有機体」と考えた。辻本(1998)は水流・土砂・植生・構造物と地形がお互いに影響を及ぼし合う相互作用系として図のように「河相」の概念を再記述した。植生・構造物→水流を変化させる→地形の凹凸が形成される→水深の大小・流速の緩急が生じる。

1)安芸皎一(1951)河相論,岩波書店
2)辻本哲郎(1998)河相と移動床水理学,河川水理学基礎講座講義集,応用生態工学研究会,pp93-100.

陸水環境

水中の化学成分の分析は、地球化学的見地、生態学的見地、飲用水の水質監視など様々な観点から行われる。

岩石によって水に溶解する成分は異なっており、河川水の水質として反映される。ただし、同種類の岩石でも風化度合いや水の侵入の仕方で水質は異なる。火成岩(花崗岩)地帯では総溶存イオン量が少なく、電気伝導度が小さいが、変成岩地帯では総溶存イオン量と電気伝導度が大きくなる。堆積岩は両者の中間の性質を示す。

河川への窒素流出量は森林の状態によって変化し、(樹木や微生物が養分を吸収するため)森林の成長率が大きいときは少なくなるが、荒廃すると多くなる。人為的に、大都市近郊ではNOxが多く発生→窒素濃度が高くなる(関東地方では硝酸態窒素の濃度が高い渓流が存在)。一方で自然的に、降雨の少ない香川県など瀬戸内海地域では、渓流水中の溶存イオン濃度が高くなる(降水量が少ない→森林での水蒸発に伴う溶存物質の濃縮が大きい→硝酸態窒素の濃度も高い)。

日本の多くの河川の中下流域は沖積平野で、地下水と河川水が複雑に絡み合い、水・物質循環が形成されている。
農地からの負荷の多くは規制されておらず、生活廃水・工場廃水に比較して相対的に河川への影響は大きい。肥料として散布されたアンモニア化合物に起因する硝酸汚染は世界的に問題となっている。また、農業の過程では土壌も河川供給される(強制落水→土壌粒子が河床に堆積→水の通りが悪くなりDOが供給されない→還元的な河川環境)。

ダム・堰で河川水が堰き止められる→滞留時間が増大→河川が湖沼のような環境になり、(栄養塩の供給が多い平野部の)ダム湖は富栄養湖に匹敵する水質になる。このダム湖は下流の生態系にも影響を与える。
堰はダム湖に比べて個々の影響は小さいが、設置数が多いため連続体として評価する必要がある。水資源が乏しい地域→取水のため溜池・水田→長時間滞留した水が河川へ供給→有機物汚濁が深刻(DO濃度減少→酸素枯渇)。

生態系

生態系は、食物連鎖などによる物質循環によって河川水質に大きく影響を及ぼしている。