降雪について

Last-modified: 2022-06-18 (土) 16:44:58

※降雪と積雪は異なるので注意!

日本の降雪

日本付近の気圧配置=西高東低型。シベリア大陸上に形成された高気圧から冷たい北西の季節風が吹送してくる。季節風の風向と直交する日本列島山脈+水蒸気補給源の日本海→日本海側斜面(風上側)に雪、太平洋斜面(風下側)に青空をもたらし、世界でも珍しく対照的な天候分布。

根本的にはシベリア気団に原因がある。低緯度の暖気と高緯度の寒気が、中緯度(日本)で熱交換しようとする→ヒマラヤ・チベット山塊の障壁効果で、インド洋側からシベリア大陸内部へ熱輸送が行われにくい→冬季、大陸上に寒気蓄積され高気圧頻繫に形成→この寒気団が山塊で南下できず、東方に張り出す!。Mintz(1965)とKiKuchi(1971)は山塊が存在しない場合、シベリア高気圧は形成されず、日本は高気圧に覆われて穏やかな気候になるという。これに対して南北方向のロッキー山脈は、南北の熱交換を阻止しえない→北米大陸上の高気圧は、さほど発達しない。

冬季の日本海斜面における多降水は、低温な北方へ漸増しない(新潟・富山・石川・福井が中心)が何故か。以下に理由。
①日本海の幅。吹送距離に比例して水蒸気補給量が多くなる→北陸地方が多雪になる。シベリアからの大気は、水蒸気を補給されつつ、ある一定距離を吹送して初めて飽和状態となる。海面幅がない対馬海峡風下の九州北部・山陰西部まで多降雪域は及ばない(九州北部は朝鮮半島の陰になるが、九州南部は東シナ海の風下に相当するため、むしろ降雪を見やすい)。
②北西風向の筋状雲とは別に、それに直交する雲系(トランスバーサル雲系、日本海収束帯状雲)がある。雲系はV字型に拡がって、筋状雲と帯状収束雲との境界は2つ存在し、この区域内で多降雪になりがち。
③日本海の海水温の分布。水蒸気供給量は海水と大気との温度差が大きいほど盛んになる→暖水域(新潟~秋田で海水温が急減するので、新潟以南が暖水域)で多降雪になる。

日本海沿いの冬季の気温・降水分布・それらの時間的推移→日本海の海水温分布が密接な関係をもっている(水温勾配の急激な海域が、気温の不連続的急変域と一致)。したがって、冬季の日本海斜面地域は北部(北海道~東北地方まで、小雪)・中部(北陸~山陰東部まで、大雪)・西部(山陰西部~九州、寡雪)に分けられる。

なお、日本付近の降水は、季節風に伴うものの他に、低気圧や前線に伴う降水も見られる。冬型の気圧配置が崩れた際に出現しやすく、南岸沖を北東進する低気圧(台湾坊主)に起因して太平洋岸の地域にしばしば降雪をもたらす。低気圧の経路は2つある。この低気圧に伴う降水は、季節風降水に比べると出現頻度が少なく、冬季の気候を支配しているとは言い難いが、降水絶対量が多く・広い地域にわたり・地域的変化に富むため、冬季における重要な気候特性の1つである。

世界の豪雪地帯

世界の豪雪地帯としては、カナダのブリティッシュコロンビア州・アラスカ州パンハンドル部からワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州にかけてのロッキー山脈西部、アメリカのエリー湖南岸、ロシアのカムチャツカ半島、チリのアンデス山脈、ノルウェーの西海岸、トルコからジョージアにかけての黒海南東岸山岳地帯、イラン西部の高地、天山山脈西部などがあげられる。また、中東では突発的な豪雪になることがあり、イスラエルのエルサレムでも1920年1月9 - 11日には1m以上の積雪記録が残っているほか、ヨルダンのアンマンやシリア北部、イラク北部なども積雪量が多くなる。

北アメリカ

北米大陸の西部ではロッキー山脈から海岸部にかけての地域で雪が多い。また、北米大陸の東部ではラプラドル高原から五大湖にかけての地域が多雪地帯となっている。

カナダ西部には豪雪地帯があり、太平洋気団からもたらされる気流の山越えが豪雪の主たる要因になっている。また、カナダ東部にも豪雪地帯があり、北極から南下してくる寒気と、太平洋の暖流とともに北上してくる湿潤な暖気が豪雪の要因になっている。

ワシントン州のレーニア山、ベーカー山周辺などのカスケード山脈は世界屈指の豪雪地帯である。ベーカー山の1998 - 1999年の年間降雪量は1140インチ (2895.6 cm) であり、これは世界一の記録である。またカナダの大西洋側からニューイングランド山地部も豪雪地帯である。

五大湖の南東岸の一帯はスノーベルトと呼ばれる豪雪地帯が広がるが、これはカナダの内陸部から吹く冷たい風が五大湖の上を通る際に大量の水蒸気を含み、湖の南側、特に山岳地帯に大雪を降らせるためである(湖水効果雪と呼ばれる)。山岳地帯で雪を降らせた後は、風下の中西部や東海岸ではそれほどの大雪が降ることはない。東海岸のボストン、ニューヨーク、ワシントンD.C.などにけかけての地域も低気圧(ノーイースター)による50 - 80センチ程度の局地的な大雪となることがあるが、普段は雪はそれほど多くはない。

  • 三寺光雄 『第三の災害』東京堂出版

世界の降雪

世界で最も雪が降る都市ランキングベスト10
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アメリカの気象会社AccuWeather発表による。
注意:セントジョーンズ→セント・ジョンズ、ケベック→ケベックシティ、サグネー→サグネ

日本は、世界でも有数の雪国で国土のおおよそ半分にあたる51.4%の地域が豪雪地帯に指定されている。その豪雪地帯に約2,000万人の人が生活を営む。

降雪条件
①緯度が高く、気温が低い。(雪の形成は気温と湿度が主に関係する)
②寒波が流れ込みやすい場所である。気象庁の資料(寒気質量Flux-Polar cold air mass stream)によると、冬に高緯度で溜まった寒気は、寒波となって日本がある東アジアと北アメリカ東海岸あたりに行きつく。
③海や湖に隣接している。セントジョーンズ・ケベック・サグネーはカナダ東部(米国北東部方向)に位置し、大西洋に近い。シラキュース(オンタリオ湖南部)・ロチェスター(オンタリオ湖南部)・バッファロー(オンタリオ湖南部かつエリー湖東部)はアメリカに位置し、いずれも五大湖付近となっていて日本海側と同じような雪の降り方になる。

なお、他地域では、北欧のスカンジナビア半島やアンデス山脈南部も日本海側のように雪が降りやすい。

井上元哉氏の見解

井上元哉「わがくにの降雪と積雪について」日本雪工学会誌,Vol.14 No.l, 71-76.

日本の降積雪と似た多雪国を世界に求めれば、ある面ではノルウェー南西部に、そして今一つはアメリカ合衆国北東部地方を挙げる事が出来る。季節風型の降雪は前者に、そして低気圧型の降雪は後者に似てい る。

太陽が赤道よりも南に位置する北半球の寒冷期には、ユーラシア大陸の内部は、その周辺部の海域に比べて大変冷え込み、その上の大気も冷やされて重くなる→高気圧が発生する。高気圧域にある空気はその周 辺の低圧部に向かって流れ出すが、地球自転の影響を受けて、北半球では、次第に時計周りの方向を取るようになる。それゆえ、大陸の東部に位置する我が国は、冬期には我が国からみて北西方向を主とする冷 たい風が卓越する(冬期の季節風)。大陸高気圧は、その中心部の位置が常に一定ではなく、またその勢いも強くなったり、逆に弱くなったりと言うように変動をしているので、吹き出す風の向きや強さは何時 も同じと言う訳ではない。

一例として、バイカル湖付近に高気圧が発達して、天気図で冬型と言われる西高東低の気圧配置になったような時に、冬期の季節風として、北ないしは北西の風がしばしば我が国にやってくる。いわゆる寒波の襲 来。北西の風なので、我が国は地球上の緯度の割には寒い冬を迎える事になる理屈である。ユーラシア大陸の西側(ヨーロッパ大陸西部)では同じ理由から、逆に冬期は南西の風が卓越風となって吹くので、緯度の割には暖かい冬になる。(特にヨーロッパ大陸西部ではメキシコ暖流の上の暖気を持ち込む形になるので、この地方の緯度は非常に高いが、それ程寒くない冬と言う事になる。 因みに、ヨーロッパの冬は緯度が高くなる地方ほど寒くなると言うよりも、西から東に行くにつれて寒くなるのはこの為。)大陸の東部と西部のこの様な関係は北アメリカ大陸でも同様で、アメリカ合衆国北東部と、西海岸地方がこれに相当
する。それでは、日本とアメリカ北東部の季節風型の雪がそっくり似ているのかと言えば、必ずしもそうとは言えない。その理由は、我が国の場合は日本海を流れる対馬暖流が日本列島からみて風上側にあるの に、北米ではその様なものが無いと言う事にある。季節風型の雪と言う点からみる限り、日本の雪はアメリカ北東部よりもむしろノルウェーに似ていると言える。暖流の湿り気を拾ってくる事、山岳にぶつかる事
などから、積雪深、雪密度や含水量などが良く似ている。一方、低気圧型の雪は、降雪のパターンや降雪量と言う点からみて、日本とアメリカ北東部の雪は割合に良く似ていると言って良い。(勿論、異なる場合もある。例えば、日本列島付近に同時に二つの低気圧が通過すると言うような時である。)我が国で降雪をもたらす主な気象状況の型として、季節風型と低気圧型の二つのものを述べた。順序がやや逆になった感があ りますが、ここで降雪の型について少し記したいと思う。

<季節風型>
前述の通りユーラシア大陸内で発生した寒冷な空気が、日本海をわたって日本列島にやってくるもので、時に不連続線や低気圧の発生を伴う事がある。単に高気圧から押し出すだけの力であれば、我々が体験す るような強い風にはならないのだが、千島、或いはアリユーシャン付近に停滞する低気圧が、大陸からの風を引きずり出す作用をするので、二つの力が相俟って大変強い風になる。この場合の天気図は等圧線が南 北に密に立ったかたちになり、暫くはそのままの形を保つので、先にも述べましたように、素人分かりのし易いものである。上述の、高気圧と低気圧の中心の気圧差が風の強さとみなして良い。

<低気圧型>
我が国の周辺では低気圧はおおむね西ないしは南西から、東ないしは北東に進む。この際、低気圧は南のほうの湿った、暖かい空気を北のほうに持ち込むとともに、北方の冷たい空気を南のほうに引きずり出し、この二つをぶつかり合わせる作用をするので、暖かい空気は過飽和の状態になり氷の結晶が大量に析出する。低気圧が通過する付近で、雪を降らせることになる。丁度、日本列島の太平洋側がそれに当たる。西高東低の気圧配置が緩んだ時に、低気圧が発生しやすく、また、成長しやすくなるので、厳冬期を過ぎた頃に、しばしば発生する。東京では2月から3月の上旬にかけて降る雪は殆どがこのタイプと言える。

世界の積雪分布

以下は関口武(1964)「世界の積雪分布」『地学雑誌』73巻1号,p11-22.による文章を要約したもの。

世界の積雪分布についての詳細な情報を得ることは困難。理由として、現象の複雑さと研究の重要性が低いことが挙げられる。

雪の最も深い北陸山岳地方では7mを越す深雪もはかられており、全般的にみて6m以上の地域が広く、裏日本式の気候域は最深積雪1mの線でかこまれた範囲、典型的な表日本は50cmの等深度線以南と考えることができたのである。積雪のもっとも少ないのは、九州・南四国・紀伊・伊豆の海岸部で10cm以下のところである。なお最深積雪0cmすなわち積雪の南限は奄美大島付近であるらしい。

これに比べると、シベリアからヨーロッパにかけての積雪は少い。せいぜい30~100cm程度で、1mを越すところはほとんどない。これは冬季寒気のきびしい割合に乾燥し、降雪が少いためである。多いのは海岸部で、カムチャツカの部分である。スカソジナビアの雪は山岳部では1mを越すが、海岸は60~80cmどまりであるし、西欧諸国の主要都市では20cmを記録したところは余り多くない。なお東京の極値は46cmで、西独 のミュンヘンとほぼ同じ位である。日本は雪が多い。

アメリカでは西側のロッキー山地と東のラブラドール高原は特に多雪で、最深積雪2mを越える地域がある。しかし全般的には、雨の少ないロッキー東麓の大平原の部分が少く1m以下であるのを除けば、カナダの最深積雪は1~2mの間である。北米合衆国では、平野部の積雪は余り多くない。そのほとんど大部分が1m以下である。降雪は必ずしも少くなく、年間3mにも達するのだが、積雪としては50cm以下のところが広い。降雪は南部メキシコ湾岸まで、これをみるが、積雪量はせいぜい1~2cmで、多くの場合すぐにとけ、地表面には積雪の形で残らぬことが多い。

村上正隆氏の見解

村上正隆「日本の降雪 雪雲の内部構造と豪雪のメカニズム」朝倉書店,p1-13.

世界の多雪地帯は2つに分類可能。

  • 大陸西岸の極前線帯に対応する地域(カナダ・ブリティッシュコロンビア州のコースト山脈西側、アメリカワシントン州のカスケード山脈西側、スカンジナビア半島、南アンデス山脈西側など)。冬季に温帯低気圧が発達し、それに伴って降雪が起こる(低気圧型の降雪)
  • 日本列島・北米東部(五大湖の東側)。温帯低気圧だけでなく、大陸性極気団から吹き出した寒気が相対的に暖かい水面で変質を受け、不安定化してもたらされる(季節風型の降雪)。このような気団変質過程だけでも十分な降雪をもたらすが、その後、日本海の降雪雲は列島の脊梁山脈に、五大湖の降雪雲はアパラチア山脈による、地形性強制上昇の効果も加わって山岳風上斜面に大量の降雪をもたらす。両者は類似点が多いが、五大湖の湖面温度が日本海と比べてかなり低いので降雪に及ぼす影響も相対的に小さい。豪雪地帯がオンタリオ湖南部に集中しているのは、標高に関連している?(アパラチア山脈に近い)。

二宮洸三氏の見解

二宮洸三「日本海の気象と降雪」成山堂,p64-69.

降水が降雪となるためには、地上温度が2℃~0℃以下の低温が必要。ただし、低温→水蒸気量は急激に減少→凝結量も減少するため、あまりに低温になると降雪量は減少する。したがって、相対的に温かい海洋の存在は大きな降雪にとって有利な存在となる。

大きな降雪をもたらすに足る大きな気塊の上昇運動を生じるメカニズムは、次の3つに分類される。

  • 積雲対流
  • 気象擾乱(低気圧・前線など)に伴う上昇
  • 地形性上昇

実際にはこれらの上昇運動は複合的に発現している。

日本列島の太平洋沿岸地帯の降雪の大部分は温帯低気圧の通過時に発現する。降雪が発達するか否かは、経路によって左右され、南岸に沿って通過し充分に寒気が流入する場合のみ、かなりの降雪となる。アメリカ合衆国の東北沿岸部(大西洋沿岸部)の大雪も低気圧に伴って発現する。

日本列島の日本海沿岸地域の降雪の多くは、低気圧通過後の寒気吹出(冬の季節風)に伴って発現する。強い冬の季節風と著しい気団変質は強い寒気流入を意味し、寒気流入(すなわち低温)は降雪発生のための重要な条件である。上述した理由で、地上気温が0℃~-10℃であることが大きな降雪量発現の条件である。このような気温をもたらすのは相対的に温暖な日本海の存在である。日本海沿岸と類似な状況は北アメリカの五大湖南岸においても見られる。