面倒

Last-modified: 2022-11-22 (火) 14:58:32

面倒(めんどう)とは、手数がかかって不快なこと。煩雑でわずらわしいこと。世話も意味する。類語として厄介(やっかい)など。

語源

漢字の「面倒」は当て字である。面倒の語源には、「目だうな(どうな)」の音変化、「褒める」「感心する」などの意味を表す動詞「めでる」からとする説、地方の幼児が人から物をもらった時に、ひたいに両手でさし上げて言う、「めったい」「めってい」「めんたい」など、感謝の言葉からとする説がある。この中で有力とされているのは、「目だうな」の説である。

「だうな(どうな)」は、無駄になること、無益に浪費することを意味し、多くは名詞の後に付いて用いられる。「めだうな」の使用例は見られないが、見るだけ無駄の意味と考えると、面倒の意味に繋がる。「めだうな」から「めどうな」になり、「な」が断定の助動詞の連体形のように認識され、「めどう」「めんどう」に変化したと考えられる。「目だうな」以外の説は、感謝を表す言葉に由来する点で共通している。感謝の言葉が現在の面倒の意味に変化したのは、感謝を述べる時の「恥ずかしい」「決まりが悪い」「見苦しい」といった複雑な感情だけが強調されたものとされる。面倒が「世話」を意味するようになったのは、人の世話をすることは厄介なことが多いことからである。

一覧

  • 人と顔を合わすのが面倒くさく、誰か代理人に頼りたがる。二通りあり、①人との接触に関心・興味が乏しいタイプ=他人の評価に無頓着(シゾイドパーソナリティ障害)。②人との接触を求め、気持ちの共有も楽しいが、それ以上に人と会うと気疲れし煩わしさを感じるタイプ。相手に悪く思われたくない心理が働いている=相手の評価に敏感=自分に自信がなく相手の評価に左右されやすい(回避性パーソナリティ障害)。
  • 能力・時間があるのに頑張るのが面倒くさい。根拠なく、どうせ上手くいかないと先に結論づける=無駄なことをして傷つきたくないという心理が働いている。「自分が何をやりたいのか分からない」
  • 期待されるのが面倒くさい=褒められることが重荷になる。
  • 学校に行くのが面倒くさい。学校をストレスに感じ、それに見合う報酬が得られない負の条件付けが重なった結果。学校に苦手意識や拒否反応を抱え、学校に心理的拒絶反応が起きている。
  • 決めるのが面倒くさい。決めるのに失敗したらと思う→決めなければならないということが重荷に感じる→先延ばし。
  • 社会に出るのが面倒くさい。様々な人と接する+責任や負担が増える+成果が問われる→桁違いのプレッシャー。
  • 恋愛が面倒くさい。性的関心・欲求はあるが、不快な面・煩わしさを考えると止めておこうと考える。
  • 家庭をもつのが面倒くさい。家庭に縛り付けられること=重すぎる荷物。
  • 人に頼るのが面倒くさい。自分の内情を知られて恥をかくのを恐れる。
  • 生きるのが面倒くさい。生きることは喜び・楽しさよりも心配・煩わしさに満ちている→だが死ぬのも怖い→消極的な生き方。

原因

うつ状態よりも、面倒くさい傾向の方が先である。ここでは三つのファクターが挙げられる。
①完璧で理想的な人生を望み、それ以外の不完全な人生は値しないと考える傾向(自己愛性)。
②自分の「生」に意味を見いだせず、絶望に陥ってしまう傾向(境界性)。
③人の世の煩わしさから逃れ、現実の課題を避けようとする傾向(回避性)。回避性パーソナリティ障害=自分の自信のなさや人から馬鹿にされるのではないかという恐れのために、社会や親密な対人関係を避けることを特徴とする状態。

回避性パーソナリティ障害の診断基準DSM-Ⅴ及びDSM-5は、七つの診断項目のうち4項目以上当てはまること+全般的診断基準を満たすことが要件。以下に回避性の特徴をまとめる。

  • 他人の批判や拒否に敏感。他人に評価されたい+自分に自信が持てないという矛盾が同居。自分の弱みを見せられない。接客や電話対応を避ける→障害レベル。
  • 他者と親密な関係になるのに臆病。自分の内情を話さない→相手は距離を感じる。最初の取っ掛かりが一番の関門で、相手が好意をもって何度も接近しないと親密になれない。
  • 親しい関係でも自分をさらけ出せない。親友やパートナーにも自分の気持ちを表現できない。強い恥の感情も関係する。
  • 周囲の目や他人の評価を気にしすぎる。人に会うことは、事前の心の準備から後々の影響まで大仕事。
  • 自分が人に好かれるはずがないと思い込む。
  • 自己評価が低く、取り柄のない人間だと思う。たとえ成功しても自分の能力を疑わしく考える。
  • 目的実現や新たなチャレンジに消極的。慎重すぎる戦略=失敗して傷つくことへの恐れ、負担が増えることへの警戒感が関わる。

なお、DSM-5の代替案にはシゾイドパーソナリティ障害(対人関係をもつことに喜びや関心が少なく、孤独なライフスタイルを好むタイプ)の一部が、回避性パーソナリティ障害に併合されるものもある。代替案における回避性パーソナリティ障害の特徴は、①機能的特性・②病理的特性に分けられるが、特に②の項目の一つ無快感症を基準に含めることについては異論も多い。ただし、両者の境界は以前より不明確になりつつあり、同居するケースもある。以下は代替案の特徴。

  • 悪い出来事や可能性ばかり心配する。
  • 人との交わりを自分から求めない。友人とも表面的な付き合いである。
  • 生活の体験から得られる喜び自体が希薄(無快感症)。遺伝的特性、乳幼児期からの養育要因などで生じ得る。
  • 親密な関係や性的な関係を避ける。

また、診断基準にはないが伴う特徴として以下のものがある。

  • 対立や争い事を好まない。ネガティブやポジティブにかかわらず強い感情が苦手。ハラスメントやいじめの原因にもなる。
  • 逃げ場所を確保したがる。本業よりも逃げ場所の方に生きがいを感じる。

回避性パーソナリティを伴うキャラクターの例としては「ドラえもん」の野比のび太や、「新世紀エヴァンゲリオン」の碇シンジ、「ノルウェイの森」の主人公ワタナベトオルなどが挙げられる。病理の本質は「傷つくこと=自分の世界が壊されることを恐れる」というもの。近年では多くの人が共感できる特性や美学となっている。

なお、回避性パーソナリティは社会不安障害とも似ているが、責任を避ける傾向がみられるとは限らない。ただし、合併するケースも少なくなく依存性のない薬で治療するのが基本。また、自閉症スペクトラムも回避性の特徴と共通する部分があるが、対人関係に積極的や無頓着なケースは当てはまらない。しかし、自閉症スペクトラムの2/3には回避性の傾向がみられる。

回避性パーソナリティ障害と回避型愛着

「面倒くさい」の根源を探るなかで、通常は赤ん坊の頃にそういった傾向が見られない。ただし、虐待やネグレクトを受けた子供は外界に対する無関心や成長・発達の著しい遅れを呈することがある(反応性愛着障害)。また、重度でなくとも愛着不足が慢性的に続けば、人の好意や親切を求めないタイプになりやすい(回避型)。

愛着はオキシトシンというホルモンに司られる仕組みで、哺乳類全般に共有されている。遺伝子レベルで組み込まれているが、授乳期(臨界期)に愛情深く世話されないと活性化しない。オキシトシンには、ストレスや不安から守る作用、社会性や共感性を高める作用があるため、実は愛着の問題にとどまらない。回避型とは逆に、愛着を過剰に求め母親を攻撃したり、拒絶したりするタイプ(抵抗/両価型)もある。人は成人するまでに固有の愛着スタイルを確立する(回避型→回避型愛着スタイル、抵抗/両価型→不安型愛着スタイル)。

回避性パーソナリティと回避型愛着スタイルは基本的には別物になる。前者は対人関係を求めようとしているが、後者はそうではない。回避型は回避性パーソナリティではなく、自己愛性パーソナリティ、反社会性パーソナリティ、シゾイドパーソナリティに発展する方が典型的である。

さらに、回避型に加えて、人に受け入れられるかどうか不安が強い不安型が同居したタイプもある(恐れ・回避型)。この恐れ・回避型が回避性パーソナリティに最も典型的な愛着スタイルである。ただし、恐れ・回避型と回避型は見分けがたい場合も少なくない。

回避性パーソナリティの人は、外向きの関係(表面的)と親密の関係(強い愛情欲求・承認欲求)でまったく異なる顔を見せやすい。また、愛されたいが素直に気持ちを表現出来ず、相手の好意も信用できないなどジレンマを抱えやすい。恐れ・回避型愛着スタイルの例としては、ベートーヴェンなどが挙げられる。

回避型愛着スタイルは、養育環境以外でも要因があり、遺伝子レベルの要因(自閉症スペクトラムなど)や過敏・神経質な傾向(養育によるリスクの大幅低下は可能)などがある。人との交わりが「面倒くさい」と感じてしまう一つの要因として、気持ちを分かってもらえるような心地よい体験を人からあまり与えてもらえなかったということが挙げられる。また、愛着が十分に育まれなかったときに起きやすい問題点として子供をもつことに消極的になりやすいということがある。回避型愛着スタイルを育む養育には、大きく二つのパターンがある。親からの世話や関心が不足しているケースと、本人の気持ちに関係なく親が一方的に世話や期待を押し付けたケースである。

根本的要因

回避性パーソナリティの人は傷つくことに過敏になっている。この原因は、上記の回避型愛着スタイルと異なり遺伝要因も比較的大きい。遺伝の関与割合は6割半ばだが、3割の環境要因(養育環境、学校・社会での体験)も発症するか否かを左右する。遺伝子に関しては、セロトニントランスポーターがうまく機能していない点が挙げられるが、他の不安障害やうつ病でも報告され、回避性パーソナリティに特異なものではない。また、社会不安障害と遺伝子レベルで共通する部分が大きいが、環境的な要因の違いで、どちらかを発症するかしないかの差が生まれる。親の愛情深い世話の不足も過保護・過干渉も回避性の傾向を強めるリスクとなり得るが、前者の方がより有害である。

力動精神医学の理論では、回避的行動を拒否や失敗といった体験による辱しめを避けるための防衛だと考える。こうした傾向は、幼い頃からの体験の積み重ねによって発達した。典型的な体験は、親から失敗や欠点を始終非難されて育つことである。さらに追い打ちをかけるのが、学校での体験や遊び友達との関係である。特に回避性パーソナリティの人はいじめられた体験をしていることが少なくない。傷ついた気持ちに恥ずかしさの気持ちが結びつくことで厄介なコンプレックスを形成してしまう。また、回避性の人は否定的な評価に過敏で、せっかく努力していてもうまく評価されないと一気に自信をなくしてしまいやすい。

否定的な体験、恥ずかしい体験が回避性パーソナリティを生むという仮説は認知療法に引き継がれている。アーロン・ベックによれば回避性パーソナリティ障害の人は、自分はどうせ拒否されるという誤った信念のために、対人関係をもつことに臆病になり、親密な関係へと誘われたときも二の足を踏んでしまうという。また、もう一つの病理として心理的耐性が低いことが挙げられる。心的外傷は、無気力とともに過敏な状態を生み、心理的耐性の低下をもたらす(心的外傷理論)。比較的軽い外傷でも、慢性的に長時間続けばトラウマになり得る(慢性外傷症候群)。本人の主体的な関心や意欲を無視され、周囲の一方的な期待を押し付けられて育った状況も見られやすい。

回避と現代人

回避性パーソナリティの人は若い世代を中心に増えている。社会の仕組みや在り方、人々の生活スタイル、価値観が激変し、また環境の変化が遺伝子の発現や遺伝子自体を変化させている。

例えば、家族の絆が強いプレーリーハタネズミとそうでないサンガクハタネズミではオキシトシン受容体の分布に違いがある。前者の受容体は脳の側坐核に豊富に認められたが、後者はほとんど認められなかった。人間の場合、種が同じでも受容体の分布が豊富な人とそうでない人がいる。この分布を左右するのが幼い頃の環境である。人類は概ねプレーリーハタネズミ型のライフスタイルで暮らしてきたが、近年ではサンガクハタネズミ型のライフスタイルを選択する人が増えている。

この回避型化をもたらしているのは近代化である。社会の近代化により、個人主義が浸透した。また、子どもがする体験は昔に比べ画一化され狭くなっている。パッケージ化された複製可能な体験が増え、本当に新鮮な体験をする機会は少なくなっている。また、ITメディアの発達は、情報過負荷となり無気力・無感情といった状態を引き起こす。学校も適度な負荷である限りは、拒否反応が起きる危険は少ないが、負荷が増えすぎると拒絶反応が起きやすくなる。重い回避のケースでは、人間自体に拒否反応があり、社会にも馴染みにくい。近年、アレルギーが急増している要因として、清潔すぎる環境の関与が指摘されている。社会の無菌室化により、愛着の仕組みがうまく働かなくなっている。

対応策

部下が回避性の場合は、急に責任や負担を増やさないように配慮する。感情的にならず、負担を課す際は本人の主体性を尊重して逃げる余地を残しておく。

上司が回避性の場合は、自分で責任を取りたがらず、機動性にも欠けるという欠点があるため、新たな決断に上司を動かすためにはさらに大きな不安を搔き立てるとよい。曖昧な反応でも、念を押して楔を打ち込んでおくことが重要。

恋人が回避性の場合は、少しずつ既成事実を積み重ね二人の関係を日常的なものとする方が良い。そのなかで、回避性の人が抱く新しい変化への恐れは知らないうちに乗り越えられる。

伴侶が回避性の場合は、家事や子育ても面倒ごとと捉える傾向があるので、役割や分担を決めルーティン化すればよい。ただし、もとより気が利くタイプの人ではないので期待してはいけない。

子どもが回避性の場合は、何より避難場所を確保させ、本人の主体性を尊重する。

ライフスタイル

回避性の人の適職は、毎日決まった場所・決まったルーティンが基本のものが良い。強すぎる刺激、感情的なやり取り、争い解決・対人折衝、競争・ノルマに負われる仕事は向いていない。自分に分担された仕事にじっくり取り組めるものが良い。以下がその代表例。

  • 専門資格職(宅地建物取引士、税理士、生死に関わる医師を除く) 
  • 公務員(専門職)
  • 事務職(受付業務が少なく、パソコン作業が多いもの=経理事務・施設管理)
  • 技術職(技能職、職工、職人、現場技術者)
  • 販売・営業系(扱う商品やサービスに特別な関心を持っている場合)
  • 作業員(工場、倉庫、施設、現場、保守管理)
  • 研究職(自分の興味のある分野を扱う場合。逃げ場所にはならないので注意。)
  • 自由業(社会経験を経た後で)

回避性の人に合う伴侶には二つのタイプがある。同じように回避的で本人のペースを尊重するタイプと、積極的で主導権がパートナーの方にあるタイプである。パートナーが本人の面倒くさがりな面を程よく補うタイプがベストである。また、回避性の人は、恋愛が成就することや結婚などを避ける傾向にある。回避型の強い回避性パーソナリティの人は、そもそも思いやりの気持ち自体が希薄である。

克服方法

回避性による無気力状態は改善することができるし、完全に克服して前向きで積極的な生き方に変わるケースがある。自ら決断してカウンセリングを受ける、本で発達障害を知り相談機関に連絡する、など主体性を取り戻すこと、周囲に安全基地となる人が増えることが重要である。カウンセリングが非常に力を発揮するのは、①ありのままの自分をさらけ出し、自己開示する練習になるから、②臆病になっている人の背中を押してくれ、チャレンジする勇気を与えてくれるから、などが挙げられる。

回避性の人が回復し始めたとき、それまで抱いていた大きな願望にこだわるのを止めて、提供された小さなチャンスに思い切って乗るということが起きる。また、余計なプレッシャーから開放され、小さな活動から始めて自己有用感と自信を取り戻すことに繋がることもある。さらに、(近親者の死亡により)生活するために働かなければならなくなったとき、回避性の傾向は少しずつ回復に向かい、次第に薄らいでいくことも多い。ほんのわずかだけ自分の行動の仕方を変えることで良い。

働き始めると、それが良い刺激や訓練となり、鍛えられていく。これから起こることに、良いイメージをもつ方法を経験的に体得して実践できる。精神的な自立は自信と覚悟を生む。