Landmark

Last-modified: 2022-12-22 (木) 09:15:01

概要

ランドマークの定義は、狭義には陸地の目印、陸標、目印や象徴となる建物を指すが、広義では地理的空間における景観要素の一つであり、人間の行動を支え、地域のシンボルになるなど多岐に及ぶ特性をもつ。また、ランドマークは地理的空間における可視的要素の一つであり、空間・景観・場所・風景の構成要素である。そして、象徴性・記号性・場所性・視認性・認知性などの諸特性を有し、空間イメージや原風景を形成する景観の一要素として位置づけることができる。地域や都市のイメージを喚起し、シンボルやアメニティを高める働きを持ち、地域アイデンティティを醸成・表象する存在となる。そして、ランドマークは単なる視覚要素にとどまらず、多様なミーニングを有している。

ランドマークは自然景観に見出せるものを除くと、人間が社会生活を営むなかで築き上げてきた政治・経済・文化活動の所産である。人間社会が展開する地表空間において、人間の諸活動が生み出した施設・構築物そのものにランドマークの基本要素となる形や色が伴っており、それら全てにランドマークとなる要件が備わっていると言える。また、ミクロからマクロなレベルに至る地点・場所・地区・地域をシンボリックに示す目印であり、象徴性・記号性を表現する要素ともなる。ランドマークの象徴性とはsymbolとして特別な意味が付加された対象と説明される(記号性はここでは省略)。

ランドマークの特性として最も把握し易いものが象徴性である。人々が集まり、接触し、交流する場にランドマークが成立し易く、地域のシンボルとなる例も多い。観光地、信仰の場や霊場・聖地、盛り場、駅、橋、庭園、公園などがその例となる。同様にモニュメント、像、灯台、タワー(塔)も地域アイデンティティを表象するランドマークである。タワー(塔)など高層建築物は視認性に優れ、展望台・展望室が設けられると俯瞰点になることも多いため、地域や都市を代表するランドマークになる例が多い。それは、各種の電波塔、高層ビル、シンボルなどに代表され、建設技術の発達・進歩に伴い生み出されたものである。それぞれ意味(ミーニング)を有し、地域イメージの醸成に結び付いている。

都市のシンボル

都市や地域のシンボルが人為的に生み出される背景は、直接的動機や意図に基づくものや、間接的にその対象がシンボリックなものとして認識されるに至ったものなどが存在する。前者はモニュメントや記念碑に代表され、後者は産業遺跡やテクノランドマークなどに代表される。ただし、地域のシンボルは直接・間接を問わず、新たな色と形を創出することで当該地域の景観に新たな視覚要素を付加していくことが多い。すなわち、地域におけるシンボルやランドマークは、人々の空間的認識軸・行動軸に定位される存在であり、地域や都市のアメニティを育む要素として認識されることも多い。ここでは、都市のシンボルとランドマークの関係を明らかにするために、とくに人間の視界や視野を支えるアイストップとビューポイントの成立要件を中心に論じる。アイストップは、人々の視線を集中させ、焦点を形成し、空間を構造化し、場所化する作用を促すための空間認知のエレメントである。ビューポイントは都市や地域を俯瞰する地点として位置づけられる存在である。人間にとって新たな視覚要素の獲得は、種々の心理的効果をもたらし、時空間の変化を象徴的に捉えることが可能な対象として位置づけることができる。

都市構造の認識における、アイストップやビューポイントの存在は、人々の空間認知を促す存在として欠かすことができない。例えば、札幌市中心部においては大通(公園)が都市構造上、空間的認識軸になっている。大通(公園)は様々な空間形成を経ているが、その東端に建設されたのがテレビ塔であり、大通(公園)におけるアイストップとして、また俯瞰するビューポイントとして景観認識に欠かすことができない存在となっている。大通(公園)とテレビ塔が景観の上で一体化し、相互の関係が造りあげられた。また、テレビ塔及びその周辺が保有する特性として、イベント等の開催の場として相応しい点を指摘することができる。すなわち、テレビ塔がアイストップ、ビューポイントとして大通(公園)の一角に成立したことにより、都市のシンボリックなアメニティ空間としての大通(公園)の機能がより一層高められたものと考えられる。

テクノロジーの発達は複合的で、強く各方面への波及効果が促される。それらを支える様々な構造物がテクノスケープとして認識され、各種のテクノランドマークが生み出されてきた。近代以降、都市景観が時代とともに変化していく過程は、テクノスケープの形成に左右されてきたと言っても過言ではない。

テクノランドマークを代表するものとして、大規模テレビ塔がある。日本のテレビ放送は1953年に開始され、東京都千代田区に電波塔が建設された。テレビ塔には簡素な展望台が設けられたが見学も無料で観光目的として建設されたものとは言えない。しかし、その後のテレビ塔建設のモデルになった(プロトタイプ)。その後、1954年には名古屋に鉄塔が完成し、本格的な展望台を備え、観光目的を前面に打ち出したテレビ塔としては現存する中で最も古い。平成元年には鉄塔のライトアップも始まり、夜間のシンボルとしての役割も果たすことになった。周囲に高層建築物が増加し、かつてのアイストップとしてのランドマーク機能は薄れつつあるが、名古屋を代表するシンボル、ランドマークとして位置付けることができる。さらに、1957年には札幌市にもテレビ塔が完成した。名古屋テレビ塔の建設に触発され、電波塔としての機能はもとより、多目的利用が可能な施設として計画された。

名古屋テレビ塔の例

都市のシンボルゾーンの形成とテクノランドマークが密接に関連した例を、名古屋市に見出せる。名古屋は徳川家康による築城後、城下町として発展を遂げ、城郭の南側に碁盤目状に道路を配し町並みを整備した。近世の城下町プランはその後の都市構造に大きな影響を及ぼした。しかし、第二次世界大戦により壊滅的被害を受けた名古屋は、戦災復興事業による徹底した土地区画整理を行い、城下町形成時の町並みを継承しつつ、その後の都市構造を大きく変化させていった。街路計画・公園緑地計画に基づいて名古屋市街地の整備が進んでいった。久屋大通は当初、防災的な空地帯がイメージされたが、テレビ塔建設に伴い、その大半が緑地化された。ここに名古屋のシンボルゾーン形成の端緒を見出すことができる。大通りの両側には道路が設けられ、中央部には歩行者専用のグリーンベルトを配し、都市公園として整備された。そこには、友好都市から送られた記念物などを中心に国際親善広場が設けられるなど公的空間が整備・充実し、名古屋市のシンボルゾーンないしはシンボル軸の形成が図られた。また、久屋大通は単に公園緑地として整備されるだけではなく、地下部分を利用し、地下鉄・地下街・地下駐車場として複合的に利用されていった。その一角を占める栄は地下鉄東山線、名城線の交差点として、また名鉄栄町駅のターミナルが建設されるなど中心商業地区の機能が強化されていった。平成元年にはフランスのシャンゼリゼ通りと民間主導で友好提携を行っており、道路が都市のシンボルゾーンとして位置付けられる共通性を両者に見出せる。

このように、久屋大通は名古屋市の戦災復興を象徴する道路として計画造成され、地下には各種都市機能を集積させ、地上は都市公園として位置付けられることになった。そこでは当初からテレビ塔が名古屋のランドマークとして、またアイストップ、ビューポイントとして存在し続けてきた。久屋大通は都市のシンボルロードとして評価され、1986年には建設省より日本の道路100選の一つに選ばれた。

テレビ塔の建設に至る経緯は、1953年に開始されたテレビ放送を名古屋地区で行うための送信施設の建設が目的であり、NHK名古屋放送局と近接する久屋大通の一角が選ばれた。鉄塔の形式は四角構桁式自立鉄塔であり、本格的な展望台の設置されたテレビ塔としては日本の先駆けとなった。同テレビ塔はアンテナの乱立を避ける意味から、NHKのみならず民間放送局との共用・集約鉄塔となり、本格的なテレビ放送時代到来のモデルケースとして位置付けることができる。名古屋テレビ塔建設の成功は、日本各地に類似の鉄塔建設を促した。それは大きく3つに大別することができる。
①大規模鉄塔に展望台を設置し、主として観光目的に利用しようとする試み。例:大阪の通天閣(二代目)、横浜マリンタワー、神戸ポートタワー。
②同形式のテレビ塔建設と都市のシンボルゾーンにおけるアイストップ、ビューポイントの成立。例:さっぽろテレビ塔。
③首都東京のテレビ塔建設を促進した。例:東京タワー

ただし、栄地区の再開発を記述!

まとめ

技術発達に伴って成立するテクノランドマークは、その時代の政治・経済・文化等を背景に生み出されてきた。本来は機能面が優先されることによって成立するテクノランドマークだが、景観要素として新たなランドマークへ結びついたものも多数存在する。テクノランドマークはその時代の景観形成に大きな役割を果たしており、それは単にテクノロジーの具現化のみならず、人々にランドマークとして認識され、多様な感性を呼び起こす存在にもなった。テクノランドマークの中には、都市のシンボルとして位置づけられるものも存在し、シンボルゾーンの形成に寄与しているものも認められる。その代表例がテレビ塔であった。単にテレビ電波の送信塔としての大規模鉄塔の建設に終始していれば、今日見られるようなシンボリックなランドマークにはならなかったのかもしれない。本来のテレビ電波の送信施設としてのテクノランドマークの機能とは別に、パリのエッフェル塔建設以後、大規模鉄塔がもつ塔からの展望・眺望機能がさらなる魅力を付加した。ここに、都市のアメニティを構成する要素の一つとして、またビューポイントとしての機能が付け加わったのである。さらに、大規模鉄塔は昼夜を問わずアイストップとしての機能を果たす。すなわち、テレビ塔は見ることと見られることの両側面を有し、人々の仰瞰・俯瞰の視点をもたらすとともに意味ある存在として人々の視覚を刺激し、知覚作用を促すのである。

テクノランドマークはテクノロジーの発達と軌を一にしながらも、人々の空間認識を支え地域における象徴的なランドマークになることも多い。都市のアメニティは、ソフト・ハードの両面から形成されるが、とくにランドマークの有するアイストップ、ビューポイントとしての機能が重要なものとなろう。それは、人々にとって単なる視覚要素としてのみならず、歴史性を反映する対象であり、都市構造上の重要な要素として捉えられるからに他ならない。

ランドマークとパースペクティブ効果

一点透視的な構図はパースペクティブ(遠近感)効果が強調され、ビスタ・アイストップ型の印象的な景観が生み出されてきた。例えば、フランスのシャンゼリゼ通りやイギリスのザ・マルなど。中心線となる道路や街路とその先にアイストップとしての各種ランドマークが配置され、視線の誘導や空間の分節化に果たす並木や統一感のある建物、ファザードなどにより調和のとれたビスタが形成される。この構図は左右対称による安定感、調和、秩序などの視覚効果がもたらされる。一点透視的な構図によるビスタ・アイストップ型の景観形成は、意図的に生み出されることが多い。とくに公園の設計や都市計画では幾何学的に通路・道路・街路が配置され、秩序ある空間が形成される。

ランドマークの継続性とその要件

形あるランドマークは時代背景や技術の変革に伴う存在意義の喪失、経年変化に伴う劣化など、存在理由を失うと消滅することも多々ある。しかし、景観的価値や地域アイデンティティを獲得したランドマークは継続性を有し、その姿を維持することもある。例えば、各地につくられた塔・タワーも当初の姿・形が変化しつつも再建される例が認められる。このように、様々な要因により、人々に認知され意義深いランドマークは継続性を有し、新たな意味を付加しつつ存在し続ける。

参考文献

  • 文化地理学入門
  • 風景の事典
  • ランドマーク