ちな京

Last-modified: 2024-01-15 (月) 21:03:57

携帯が鳴っている。画面を見ると「京子先輩」と表示されていた。冬休みで少し会っていなかったし、お正月のあけおめメールも来なかったから少し心配していた。息を吸って電話を取る。
「はい、も・・・」
「ちなっちゃん、あけおめー!!!」
もう、もしもしくらい言わせてくださいよ・・・。
「はぁ・・・。あけましておめでとうございます、京子先輩」
「ちょっと、ちなっちゃん!新年早々ため息なんて良くないよー?」
だれのせいですか、誰の。
「・・・。それで、どうかしたんですか?メールも見てない様ですし」
「ちょっと夜更かししちゃってさ、さっき起きたんだよね。はは」
「そんな理由ですか・・・。もう、お昼回りますよ?」
「えへへ。あれ、もしかして心配してくれてたの?」
「し・て・ま・せ・ん!」
もう、心配して損した。いや、心配なんてしてないけど。
「それでさ、ちなつちゃん今日暇だったりする?遊ぼう!」
今日は家族みんな神社に初詣に行ったりして家には私しかいない。今日はゆっくりしようと思っていた。
「今日ですか・・・?」
「うん。・・・忙しいなら今度でいいんだ!ごめんね」
「ちょ、待ってくださいっ!誰も忙しいなんて言ってないです。大丈夫ですよ、遊びましょう」
いつもがっついてくるのにそんなにすぐ諦められちゃうと、なんだか無理にでも予定を空けないといけない、みたいな気分にすらなる。本当は断ろうと思っていたけれど。
「ほんとっ!?やったー!じゃあ今すぐに行くね!」
「え、いや、あのっ」
切れた。今すぐって京子先輩の家から私の家まで20分くらいで着いてしまう。急いで部屋の片付けをしないと!・・・やっぱり断っておくんだったかな。

「おじゃましまーす」
京子先輩がやってきて私の部屋に通す。
「今、お茶とか持ってきますんで大人しく待っててくださいね」
「ほーい」
お茶を淹れつつお菓子を選ぶ。結衣先輩の家だったらラムレーズンが出てくるだろうけど、あいにく私の家にはない。代わりに煎餅でも持っていくことにしよう。

「お待たせしました。お煎餅でも大丈夫ですか?」
「おー,ありがとっ。大丈夫だよん」
「・・・なんで私の枕を抱いているか教えてもらっても良いですか」
「えー。だってちなつちゃんの匂いがするんだもん」
「だもん、じゃないですよ・・・。早く元に戻しておいてください」
「じゃあちなつちゃんが代わりにこっち来てよ~」
「なんでそうなるんですか・・・」
まったくいつも通り変わらないんだから・・・。
「そういえば夜更かししてなにしてたんですか?また、変なことしてたんじゃ」
「失敬な!今日のためにこれを作っていたんだよ!」
そういって京子先輩が鞄からモノを取り出す。竹トンボ、メンコ、福笑いだのなんだのと。以前ごらく部でやったけど、その時に使ったものとは違うみたいだった。
「ん・・・?」
よくみると、竹トンボの羽の部分は私の髪の部分だし、メンコは私だし、福笑いは私だった。
「なんですかこれ・・・」
「すごいでしょ!!これ私が全部作ったんだよー!手作り!愛がこもってるぅ~!」
「いや、そういうのを聞きたいんじゃなくてですね・・・。なんで全部私なのかって話ですよ・・・」
「それは私がちなつちゃんを大好きだからだよ」
「っ・・・」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、待って待って。なんでドキッっと来てるし!落ち着け。クールになるんだちなつぅぅう!私には結衣先輩がいるのよ!
「ん?どったの?」
「・・・いえ、なんでもありません」
「そ?じゃあさっそくこれであそぼーぜ」

「意外にちゃんとした出来でしたね・・・」
「でしょー?夜更かしした甲斐があったグゥゥ」
「・・・」
「えへ、お腹すいちゃった。テヘペロ」
「京子先輩がやっても可愛くないですよ」
「えー?じゃあそろそろ帰ろっかな、お腹もすいたことだし」
「・・・もしよかったらお雑煮食べていきませんか?結構余ってるんですよ。いや、ほら、ちょうど3時ですしお菓子とはちょっとあれですけど」
なんで私こんなこと言っちゃってるのかわからないし、なんか最後の方なんか言い訳っぽくなっちゃってるし!
「いいの?じゃあ頂いちゃおうかな」
ほっ。
「じゃあ今用意してきますね」
「ほーい!」
だからなんでほっとしてるんだってば!

お雑煮を食べ終わって、一息吐いていると京子先輩が私のところまで這ってきた。
「ちなちゅ~、おなかいっぱいになったら眠くなっちゃった~膝貸して?」
「嫌ですよ」
「けちぃー!じゃあちなちゅのベッド借りちゃおっかな~」
そう言ってニマニマしながらベットに行こうとする。
「わかりましたから、どーぞ」
「やーりぃ!」
私の膝に飛び込んでくる。
「今日のちなつちゃん優しくてすきー」
私の膝の上で私を見上げながら
「っ、またそうやって・・・。さっさと寝ちゃってください!」
「はーい」
少し静かになって京子先輩の寝息が聞こえてきた。
「すー、すー・・・」
「ほんとに寝ちゃうんだ・・・」
昨日の夜夜更かししてまでこの竹トンボとか作ったって言ってたし、しかたないのかな・・・。それにしても私と遊ぶためにこんなものまで作って。
「もし私が今日、遊べなかったらどうしたんだろ・・・」
いつもは器用でなんでもこなしてしまうような先輩だけど、こういうなんていうんだろう。・・・まぁ、不器用なところもあるんだ。もしかしたら私と京子先輩は少しだけ似ているのかもしれない。
「・・・」
それにしてもいつもの表情とは考えられないくらい、いい表情をしてるなぁ。そう思いながら京子先輩の頭を撫でる。
(あ、可愛い・・・)
ふっ、とそんなことをかんがえ・・・
「んぅ・・・」
「あっ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか」
「んっ、すー、すー」
(あー、ビックリした・・・全く、いつも黙っていれば可愛いのに)
間近で見れば見るほどそれは確かなものへと変わっていって。気づけば目と鼻の先に京子先輩の顔があった。
「・・・」
京子先輩はまだ寝ている、よね。
「・・・」スッ
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「しないの?」
「うわあっ!!きょ、京子先輩起きてたんですかっ」
「んー、まぁね。さっき頭を撫でられたときに、ね」
「いや、すみません・・・」
「んーん、悪くなかったよん」
いつもみたいにニシシ、って笑う京子先輩がすこしありがたかった。
「じゃあそろそろおいとましようかな。今日は楽しかった、ありがとね!」

「いえ、こちらこそありがとうございました・・・」
玄関先で別れの挨拶を済ませる。
「あ、送りますよ」
「大丈夫。ありがとっ」
「あ、そうだちなつちゃん」
「はい?」
「今度はしようね?」
「なに言ってるんですか!早く帰ってくださいっ!!」
笑う京子先輩を押しながら、顔が真っ赤になってるのを隠すしかなかった。