はるツバ

Last-modified: 2024-01-19 (金) 21:31:49

はじめに

オールスターズFの後日談です。ネタバレを多く含みます。

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小さい時からプリンセスに憧れていた。

絵本に出てくる花のプリンセスみたいになりたいと。

少しでもプリンセスになりたいとプリンセスに関する本をたくさん読んだ。

プリンセスにはプリンスがいて、王様や女王様がいて…

プリンセスを守る騎士ーナイトーがいる。

プリンセスと騎士の話もたくさん読んだ。

絵本から文庫本,中には海外の本もあった。

プリンセスを守る騎士はどれもとてもかっこよかった。

ドラゴンに勇敢に立ち向かう騎士。
プリンセスを悪者から守る騎士。

でも1つ悲しい騎士の物語があった。

ある国とプリンセスと騎士は幼い頃から将来を約束されていた。
大人になったら2人は結ばれるものだと誰しもが信じられていた。

そんなある年、プリンセスのいる国と隣の国で戦争が起こった。

騎士は国を…プリンセスを守るために戦争に赴いた。

「行って参ります、プリンセス」

プリンセスの手の甲にキスをする騎士。

「必ず生きて帰ってくるのよ。私の騎士よ。」

それがプリンセスが騎士に言った最後の一言だった。

戦争は長引いたがプリンセスの国の勝利だった。

プリンセスも民も国も守られた。

しかしその騎士はプリンセスのもとへ帰ってくることは二度となかった。

プリンセスは泣きながら毎日庭にある騎士の墓に花を供えるところで話が終わる。

「死んじゃったら…、例え国が平和になってもプリンセスは幸せになれないよ…プリンセスはこれから誰が守るの騎士(ナイト)様…」

小学3年生の頃、この本を読んで部屋で1人泣いたのを覚えている。あまりにも泣きすぎてお父さんお母さんにびっくりされたっけ。

それ以降プリンセスを命がけで守る騎士は確かにかっこよくてドキドキする憧れの存在ではあるが、同時にプリンセスと騎士の幸せのために2人は離れないでほしい、騎士には自分を犠牲にしないでほしいと強く願う存在になった。

だからこそ

あの時敵にやられ消えゆく意識の中で最後に見た光景が今でも忘れられない。

(―――お願い…それだけは…やめて…!!!)

あなたが守ると誓った小さなプリンセスのためにも。

何よりあなた自身のためにも。

―――プリンセスを頼みます。

騎士は味方にプリンセスを託して床に大きな穴を開けてプリンセスと味方を逃す。

地下に落とされた小さなプリンセスは泣きながら騎士の名前を叫んでる。
その声はだんだん遠くになって聞こえなくなった。

そして……

―――ひろがる!ウィングアターーック!!!!!

(―――だめええええ!!!!!!!!!!)

小さなプリンセスを敵から逃した騎士は私たち数人ですら敵わなかった、地球を滅ぼすことができる敵にたった1人捨て身の特攻攻撃をした。

すべてはプリンセスを守るために。

しかし騎士の捨て身の攻撃も敵の前では通用しなくて、私の目の前で斃れてしまった。

そして私が意識を完全に失うまで、騎士が目を覚まして再び立ち上がることはなかった。

(―――騎士が小さなプリンセスを残して死んじゃだめだよ…

だから…お願い。

目を覚まして……死なないで………)

その後ミラクルライトの力によって私も騎士も奇跡的に目を覚ましてプリキュアの1人として大きな敵に立ち向かう。

その時思ったんだ。

あのプリンセスと騎士がもう二度と悲しい道を歩まないようにプリンセスプリキュアの私が今出来ることをしようって。

―これはとある国の小さなプリンセスと、プリンセスを守る騎士としてプリキュアになった少年、そして真のプリンセスを目指す私の3人の物語―

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「ノーブル学園主催のティーパーティー?」

いつも通りプリンセスになるためにレッスンをしている私たち。そんな中みなみさんが2週間後の日曜日に近くの教会を貸し切ってノーブル学園主催でティーパーティーがあることを知った。

「ノーブル学園や教会のことを知ってもらうため、さらにはお茶会をもっと気軽に楽しめるように、一般のお客様もお招きして行う行事なの。当日は私たちはクッキーや軽食を用意してお客様をおもてなしするものなのよ。」

「素敵すぎます!教会のあの素敵なお庭でティーパーティーなんて!」

「しかも結婚式で有名な教会の中も特別に開放されるらしいよ!!」

「お客様もきっと喜んでくださると思います。今から楽しみですね!」

私だけでなくきららちゃんトワちゃんもこのティーパーティーに興味が湧く。

「そこで学園のみんなに学園外の一般のお客様の招待を手伝ってもらっているんだけど…あと2人…。招待状が余っていて、困っているのよね…」

みなみさんの手元には2枚の招待状が。

「学園外となると…プリキュアのみんなか…。」

ふと部屋の隅の写真たてを見る。あの戦い後にみんなで集まって写真を撮ったのだ。
全員で78人改めて見るととんでもない数だ。

「あれからもう1ヶ月経つんだね…、そういえばあれからプリキュアのみんなと交流あった?」

「私はこの前仕事帰りにまこぴーとご飯食べに行ったよ。芸能界の色々な話とかアイドルの話たくさん聞けて楽しかった!」

「わたくしは…今度の休みにせつなさんとあまねさんとお買い物に行くんです。元敵同士色々苦労話もあるだろうと、あまねさんが誘ってくださったんです。」

「私も今度の休みにローラさんとまなつさんに誘われてあおぞら市に行くのよ。人魚のプリキュアってことでローラさんに気に入られちゃったらしくって…。」

「えー!みんないいなー!私も他のプリキュアのみんなともっと仲良くなりたいなー」

なんとみんな他のプリキュアとの交流があったのだ。私だけあの後交流がないことに少しショックを受けているときららちゃんがみなみさんが持っている招待状を指差してこう言った。

「じゃあ、この招待状で招待する人はるはるが決めたらいいんじゃないかな?プリキュアのみんな優しいし絶対喜ぶと思うよ!」

「わたくしもその意見に賛成ですわ。」

話の流れ的にこのティーパーティーに招待する人2人を私が決めることになった。ただ問題が…

「プリキュア、私たち抜いても74人いるんだよね…本当は全員招待したいのに…」

「さすがに教会の庭がキャパオーバーするわね…!」

「そうですよね…」

頭を悩ませる。プリキュアのお友達の中にはお菓子が大好きな子たち、ティーパーティーに興味を持ちそうな子がたくさんいる…。74人の中から2人選ぶのは至難の業だ。

「このティーパーティー楽しんでくれて、はるはるがもっと話したい子、仲良くなりたい子を招待したらいいんじゃない?」

「もっと話したい、仲良くなりたい子か…」

きららちゃんのアドバイスを受け再びみんなで撮った写真を見る。

この集合写真を見ると色々なことを思い出す。

一度滅ぼされたこの世界…それでも隣にいた大切なプリキュアの仲間たち。
特に一緒に城に向かったメンバーは思い入れが強かった。

夢を「素敵」と言ってくれいつもみんなを和ませてくれたさあやちゃん。

不思議な魔法でみんなを驚かせ常に笑顔で楽しませてくれたはーちゃん。

そして戦っている私をみて「プリンセス」と呼んでくれた…

「ツバサくん…。」

ツバサくんの名前を口にした時、とある光景を思い出した。

―ちゅばさ、ずっといっしょ?バイバイしない?
―僕はずっと一緒ですよ、プリンセス。
―やったぁ!ちゅばさ、だいすき!!

城に向かう道中、知ってる人がいなくて不安になる小さなプリンセス。何度も騎士に離れ離れにならないか確認していたが、騎士は何度も「ずっと一緒だ」と答え続けた。プリンセスはその答えを聞くたびに安心して笑顔で騎士に抱きついていた。この2人が笑顔でいるだけで私たちのチームは明るくなれた気がした。

「みなみさん、このパーティーって赤ちゃん参加できませんか?」

「今回のティーパーティーは『誰でも気軽に楽しむ』がコンセプトだから、赤ちゃんも参加可能よ。赤ちゃん用のクッキーやジュースも準備する予定だしキッズスペースもあるわよ。」

赤ちゃんも参加可能と聞いて私は決めた。この2人なら…。

「どうやら招待する方決まったみたいですわね。」

「ちなみに誰と誰を招待する予定なの?」

「えへへ、それはー!」

1回くるっとターンをしてみんなを見る。今の私はとても嬉しそうに見えているのだろう。

「とある国のプリンセスとそのナイト様…かな?」

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そこから前日まであっという間だった。
毎日準備に追われていて、明日がいよいよ当日だ。
みなみさんや生徒会主体で明日のティーパーティーの準備が進められていく。

「いよいよ明日だね…!」

準備の様子を見ていると後ろからゆいちゃんが声をかけてきた。

「それにしても、このパーティーではるかちゃんが招待したのが男の子なんて意外だったな…。プリキュアだから絶対良い子だと思うんだけど…。」

ゆいちゃんに言われ、私は空を見つめる。

日がもうすぐ落ちようとして、全体的に綺麗なオレンジ色な空。

1日が終わってしまう切なさもあるが、どこか安心もできる温かな光。

夕陽を見ているとあの男の子のことを思い出す。

小さなプリンセスの騎士、プリキュアの仲間、そして何より…。

「戦ってる私を見て『プリンセス』って呼んでくれたんだ。」

少しずつ水平線に落ちていく夕陽に手を伸ばしながら続ける。

「プリキュアで戦ってる時にあんなキラキラした目で『プリンセス』て呼ばれたのはじめてだった。夢のことを言っても笑わないどころか『凄い素敵な夢です!』て言ってくれたの。今までプリンセスになりたい夢を男の子に言うと馬鹿にされたり笑われたり…

だけどあの子は、ツバサくんは夢を笑わないどころか私に憧れや尊敬を持っているような…。カナタ以外でそんな男の子と出会ったのはじめてで…。

だから改めてお礼がしたいんだ。私を『プリンセス』と呼んでくれてありがとう、夢を後押ししてくれてありがとうって。」

出会いの瞬間は今でも鮮明に覚えている。すぐに勘違いで謝られたが、それでもとっても嬉しくて初対面なのに顔がにやけてしまったのだ。

「まだ会ったことないけど…凄く素敵な子なんだね。」

「うん、数日一緒にいて思ったの。ツバサくんはこの夕陽のようにみんなのことを温かい雰囲気で包み込んでくれて…夕陽がとても似合う良い子なの。だからこそ…。」

伸ばしていた手を下ろし脱力させる。

その言葉の続きはゆいちゃんには言えなかった。

あの時、あの場所で、ツバサくん、
いやプリンセスエルの騎士がやった行動について…。

そのことを考えると今でも胸が締め付けられるように苦しくなるし泣きたくなる。

夕陽が落ちていき、周りがだんだん暗くなっていく。空と同様に私の心も少しずつ暗くなっていくようだ。

もしあの時…奇跡が…ミラクルライトがなかったら…今頃…。

「はるかちゃん…。」

急に何も言わなくなった私をみてゆいちゃんが心配そうに声をかけた時。

「あ、はるはる、ゆいゆいごきげんよう。」

きららちゃんが声をかけてきた。後ろからトワちゃんもやってくる。

「はやいものでいよいよ明日ですわね。」

2人が話しかけたおかげで一旦あのことは考えず、明日の方を考えるようになる。胸の苦しさはなくなり、2人に笑顔で挨拶する。

「きららちゃん、トワちゃんごきげんよう。今ちょうどツバサくんのことゆいちゃんに教えていたんだ。」

「ツバくんのことかー!そういえば明日どんな服で来るんだろう。あげ姉がかなり気合い入れてたから楽しみなんだよね。」

招待すると決めた翌日、私たちはレッスンパッドを使ってツバサくんとエルちゃんに連絡を入れていた。

ツバサくん本人は

「凄く嬉しいんですけど、あの本当に僕なんかでいいんですか?他の皆さん誘った方が…」

と嬉しさと同時にたった2枚しかない招待状を使うのが自分でいいのかと戸惑いがあった。

そういえば普段のツバサくんはどちらかといえば謙虚で遠慮しがちだったなと思っていたところ、一緒に話を聞いていたエルちゃんが「おちゃかいっ!いくっ!エルとツバサいくっ!」と目をキラキラさせてすぐに行く気満々になった。

「プリンセスが行くというのなら…ぜひ!よろしくお願いします。」とツバサくんも参加OKになった。

さらに後ろで話を聞いていたあげはさんが

「2人のお茶会デビューだもんね!こちらのプリンセスとナイトの服は私に任せて!とびっきり素敵なの用意するから!」

といわゆるギャルピースしながら笑顔でいう。

エルちゃんは「やったたあ!ドレス!ドレス!!」と嬉しそうだったのに対し、「もう!あげはさん!!」と顔がどんどん赤くなるツバサくんだったのだ。

「どんな服で来るんだろう…!ツバくんとエルちゃん、何着ても合いそうなんだよな。だからワクワクしちゃうなー!」

きららちゃんが服装の予想をあれやこれや言って私たちも楽しく聞く。

明日は2人にとっていい日になることを願いながらすっかり夜になった空を見上げた。

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「はるか!ごきげんよう!!」

ティーパーティー当日、天気は晴天でとても過ごしやすい気温だ。教会の庭に小さなプリンセスとその騎士がやってきた。

スカイランドの小さなプリンセスのエルちゃんは私を見かけると笑顔で手を振っている。淡い紫のワンピースに小さな白い花がたくさんついたカチューシャをしている。

「あの、今日はよろしくお願いします。」

エルちゃんを抱っこしているツバサくんは、白いシャツに茶色のサスペンダー、オレンジ色の半ズボンにオレンジとブラウンのチェックの蝶ネクタイをしている。エルちゃんとは対照的にまだ少し緊張しているようだ。

「エルちゃん、ツバサくんごきげんようー!お久しぶりだね!あれから元気にしてた?」

手を振って2人を出迎える。あの戦い以来の再会である。ツバサくんは成長期なのか、あの時より少しだけ背が高くなった気がする。

「はい、おかげさまで!はるかさんも元気そうでなによりです。あ、改めて招待ありがとうございます。」

「ううん、ツバサくんとエルちゃんに楽しんでもらえたらなー。と思ったから!だから今日はよろしくね!」

話をしているとツバサくんの緊張も少しずつ解れてきたようだ。

2人の服を見て「あげ姉やはりセンスいいなぁ。ツバくんにサスペンダーは似合いすぎでしょ!エルちゃんのワンピースもかわいいなぁ。」と感心をしているきららちゃん。

トワちゃんも2人に挨拶をした後、一緒にいたゆいちゃんも自己紹介をした。絵本作家になりたい夢の話になったらエルちゃんが「ましろといっしょ!」と目をキラキラさせたのであとで絵を描いてもらう約束をしていた。

そこにみなみさんがやってきた。みなみさんはイベント運営が忙しそうだが、「なるべくそちらに顔出せるようにするわね。ツバサくんははるかもお世話になったことだし私の方からもお礼言わなくちゃ。」と前日言っていた。

みなみさんが2人に挨拶をすると、「今教会の中があまり人がいないそうよ。みんなで見学しにいったら?」と教えてくれた。

「え、今教会の中、見学していいんですか?ここ普段入れないから行ってみたいです!2人も一緒に行こうよ!!」

「ここの教会、こっちの地元じゃ結婚式場としても有名なんだ。ちょっと入ってみようよ」

私ときららちゃんが教会のことを勧めるとやはりエルちゃんの方が「行く!」と即答した。

ツバサくんも「教会はスカイランドにはあまりなくて行ったことないので気になります。」と興味津々だ。

こういう発言から改めてツバサくんは異世界から来たことを思い出す。

こうしてみなみさんと別れた後私たちは教会の中に入ることにした。

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「うわあ、綺麗。」

教会に入ってすぐツバサくんが一言そう言った。

この教会は内装がほぼ白にできており正面に大きなステンドグラスの壁面がある。壁面の近くには小さな階段があって祭壇があった。左右に椅子が並べられており真ん中の道は埃がないくらい綺麗な白色の大理石だ。そして左側には白色のピアノまであった。今は私たちしかいないから声もよく反響している。

「ここの教会で毎年多くの方々結婚式をあげるんです。最近では県外の方まで来ると噂されていましたが…内装が本当に綺麗ですね。」

「本当に素敵だよね!!ここで結婚式したら本当にプリンセスになれちゃうかも!!」

噂で聞いていた教会だが内装をじっくり見るの初めてで、思わず興奮をしてしまう。うずうずしていたが、私よりもうずうずしていた子がいた。

「ふわああ…」

エルちゃんである。エルちゃんは教会に入ってからすごくうっとりしてさっきから言葉が出てきていないようだ。

「プリンセスも気に入りましたか?」

ツバサくんが抱っこをしているエルちゃんに声をかけるとエルちゃんは

「エル、いまからけっこんしきやる!!」

と鼻息を荒くしながら大声で言った。

「プリンセス!?でもプリンセスはまだ小さいし…。」

とツバサくんがびっくりしてえーとえーとと慌てている。

「じゃあ結婚式ごっこしよっかエルちゃん。花嫁さんはこの真ん中の道を歩いて行くの。そしてあそこの祭壇までいって、永遠の誓いを立てるんだよ。」

と私から提案するとエルちゃんは「やる!ここあるく!」と気合十分だ。

ツバサくんがそっとエルちゃんを下ろして真ん中の道に立たせる。するときららちゃんとトワちゃんがツバサくんの腕を掴んだ。

「ちょっと、ツバくんはこっちだよ」

「新郎さんは祭壇前で新婦をエスコートするんです」 
と驚いているツバサくんを祭壇前まで連れて行く。

「え、2人ともこれは一体…!?」

「エルちゃんの新郎はツバくん以外あり得ないと思うんだけどなー。」

「プリンセスをまもる騎士ですとも。やはり最後はプリンセスと結ばれるべきです。」

きららちゃんとトワちゃんの後押しに思わず耳まで赤くなるツバサくん。

「ちゅばさ!」

エルちゃんが祭壇前にいるツバサくんに向かって歩き出す。ゆっくり、しかし確実にツバサくんの方へ歩みをすすめる。

今日のプリンセスはいつもよりおしゃれをしてきたせいか履き慣れていないような靴だ。プリンセスは何度も転けそうになるがその度に体勢を立て直す。そして何度も小声で騎士の名前を呼んで騎士の方へ向かっていく。

新郎役の騎士はずっと一緒にいて今までのことを思い出しているのか少し目がうるうるしているが必死に涙を流すのを我慢している。ひたすら自分の方へ向かうプリンセスを待っている。

まるで数年後の2人の結婚式を見ているかのようだ。数日しか一緒にいないのに、目の前のプリンセスと騎士が素敵すぎてこちらも感動で涙が出そうになる。

祭壇の段差の前で新郎役の騎士が手を差し伸べる。プリンセスがその手を両手でしっかり掴むと騎士はニコリとして片手でプリンセスを抱きかかえる。

「プリンセス、とっても素敵でしたよ」

ツバサくんがエルちゃんにそう伝えると

「える、はなよめさんだった?」

と不安そうにツバサくんにきく。

「はい、綺麗な花嫁さんでした」

その言葉にどこか不安そうだったエルちゃんが満面の笑みになる。

「プリンセスエルとナイトツバサは永遠の愛を誓いますか?」

神父役のゆいちゃんがそんな2人に尋ねると

「ちかう!えるとちゅばさはずっといっしょ!だいすき!」

「はい、僕もプリンセスが大好きです。永遠の愛を誓います。」

「やったあ!ちゅばさ、だいすき!!」

エルちゃんが嬉しそうにツバサくんに抱きつく。

このプリンセスは騎士のことが本当に好きのようだ。
2人ともとても笑顔で楽しそうだった。

「素敵すぎる結婚式だったよー!最高だった!」

思わず拍手しながら立ち上がる。それくらい感動をしてしまった。

「2人ともとても良い表情だったね。楽しそうだった」

神父役を終えたゆいちゃんがこちらに近づいてくる。

「近くで見ていて分かったの。エルちゃんもツバサくんもお互いがとても大切な存在なんだって。本当にいつまでもずっと一緒にいてほしいな。」

いつまでもずっと一緒。

ゆいちゃんの言葉であの出来事が脳裏に浮かぶ。

プリンセスを守るためにあえて離れ離れの選択をとり、自分自身を犠牲にして傷つき斃れた騎士のことを。

あの出来事については実はみんなには言ってない。

知っているのはおそらくスカイとプリズム、エルちゃんとプーカ。

そして気絶するのが遅くてたまたま見てしまった私だけだと思う。

「はるか、どうしたんですの?浮かない顔をして」

私の表情が一瞬曇ったのをトワちゃんは見逃さなかった。

「ううん、なんでもないよ。大丈夫!」

すぐにいつもの表情に戻ったかな?

そんなことを思っていると「はるはるは結婚式ごっこ?やらないの?こんな良い機会滅多にないと思うよー。」ときららちゃんが聞いてきた。

「やりたい!こんな素敵なところ歩いてみたい!じゃあ新郎役…ツバサくんなのかな」

「さっきツバサはエルちゃんと永遠の愛を誓ったばかりなのにそれでは瞬間不倫ですわ。」

「じゃあ私がはるはるの新郎役やろっかなー。はるはるかっこよくエスコートしよっと。」 

「それじゃあ僕は神父役やりますね」

意外とこういうノリについていけるんだツバサくん…そう思いながら私たちは時間が許す限り教会で結婚式ごっこを楽しんだ。

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結婚式ごっこの後は教会の庭でティーパーティー会を行った。花畑の中央で机がたくさん並べられ、上には私たち生徒が用意したクッキーや軽食などが置かれている。

「クッキー、おいしいねっ!」

エルちゃんがクッキーを美味しそうに食べている。お気に入りはいちごジャムが乗っているお花のクッキー。トワちゃんときららちゃんが焼いたクッキーだ。 
「エルちゃん、クッキー気に入ってくれた?」

きららちゃんが聞くと「うん!」とエルちゃんは笑顔で答える。

思わず「よかったー」と安堵するきららちゃん。

エルちゃんはそのままサンドイッチやケーキを美味しそうに食べている。どれも「おいしい!」と言いながら幸せそうだ。

「あ、そうだ!ツバサくんって紅茶飲める?」

ツバサくんに普段いれ方を練習している紅茶を振る舞いたくて聞いてみる。飲めます。と返答があったので、早速レッスンで習ってたくさんいれ方を練習した紅茶をツバサくんに出してみる。みんな以外の人に出すのが実ははじめてで緊張していつも通りに出来ているか少し不安ではある。

ツバサくんは一口紅茶を飲んで「美味しいです!」と言ってくれた。

「本当に?美味しい?」と改めて聞いてみる。「はい、すごく上品な味がします!」とツバサくんは笑顔で答えてくれた。私もさっきのきららちゃん同様思わず安堵する。

「喜んでもらえて良かったー!たくさん練習した甲斐があったー。」

「たしか最初は紅茶の箱すら開けれなくて困ってたもんねはるはる。」

「うん、でも素敵なプリンセスになるために一生懸命練習したんだ!」

気に入ってもらえてよかったー!と嬉しそうにしていると、少しツバサくんの表情が暗くなっている。

「ツバサ、どうかしました?」

隣にいたトワちゃんがツバサくんの様子に気づく。エルちゃんも心配そうにツバサくんの服の袖を引っ張る。

「え、本当は苦かったりした?ごめんね、すぐに作り直すね!」

「いや!紅茶は本当に美味しいんです。」

私が心配をするとツバサくんは慌てて否定する。

「ただ、はるかさんは夢のために前向きに努力して、凄いな…って思ったんです。僕は今夢について少し迷っているところがあるので…。」

ツバサくんがぽつりぽつりと今の自分の夢の悩みについて話し始めた。

「僕の夢は『空を飛ぶこと』なんです。嵐の夜に空を飛ぶために練習していたら偶然ソラシド市に落ちて、そこでみんなと出会って、航空力学も勉強して…そしてプリキュアになることが出来たんです。

ただプリキュアになって空を飛ぶことが出来たことで自分の夢が少し曖昧になってしまったところがあって…本当に自分がやりたいこと、叶えたい夢を探すために今は航空力学だけでなく色々な分野の勉強もしている段階で…。

だから自分の夢に向かってまっすぐ努力しているはるかさんがすごいなって…。」

ここまで話して「ご、ごめんなさい。会って数回とかなのにこんな話しちゃって…!」と私たちに謝るツバサくん。

「ううん、ツバサくんが夢について迷う気持ちも分かるよ。私も迷っていたこともあるから。」

「はるかさんも?」

「私の夢は『プリンセス』になること。でも漠然としてどうしたらいいか分からなくなるときもあるよ。何度も『プリンセスにならない。』『お前はまだ未熟』とか酷いことも言われて自分を失いかけたこともあった。」

ポケットにしまっていたドレスアップキーを取り出す。

「でもね、私の夢を笑わずに支えてくれて応援してくれる人たちに出会えたからこそ、迷ってもまた頑張ろうって思えるんだ。」

「夢を支えてくれて応援してくれる人…。」

私はそんなツバサくんの手を握る。

「ツバサくんもね、私の夢を支えてくれた1人なんだよ。」

「僕がですか?」

ツバサくんがキョトンした顔で私をみる。

「何もないあの世界でただ1人敵と戦っている私をみて『プリンセス!』て呼んでくれたでしょ?あれ本当に本当に嬉しかったんだ。そんな経験はじめてだったから。その後私の夢を他のみんなに言った時もツバサくんは笑わなかった。それどころか『凄い素敵な夢』と言ってくれた。励みになったよ。だからツバサくんにお礼したいなってこのパーティーに誘ったの。」

ツバサくんの手を握り改めて向かい直る。このことはしっかりお礼しておかないと。

「私の夢の後押しをしてくれてありがとうツバサくん。」

「はるかさん…」

「そして夢が曖昧になったとしても、今まで夢に向かって努力していた自分や支えてくれた周りのみんなを信じていればいつかきっと答えがわかる時が来るよ。ひょっとしたら新たな夢が出てくるかもしれない…。そのときには私もツバサくんみたいに夢の後押しがしたいから、素敵な夢を教えてね。」

「はい、アドバイスありがとうございます!」

どうやら少し悩みが解決したらしい。ツバサくんの表情がさっきより明るくなった。

私もツバサくんに夢についてのお礼を言えることが出来た。

ただツバサくんとエルちゃんが笑顔でいるたびにあのことを思い出してしまって私自身どこかモヤモヤしていた。

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「ようやくひと段落ついたわ。ツバサくんとエルちゃんは楽しんでいる?」

仕事が落ち着いたみなみさんが合流をしてきた。

「あ、みなみさんお疲れ様です。今あそこでパフとアロマと遊んでいますよー。」

庭の奥、あまり人が来ないところでパフとアロマと遊んでいる。

エルちゃんはパフのことを抱いて「もふもふ!きもちいいー!」といって喜んでいる。

ツバサくんも今は人の姿ではなくプニバードの姿になってアロマとリラックスしているようだ。

「ツバくん、そういえば本来は鳥さんなんだよね。初対面がプリキュアだったり、さっきまで人の姿で過ごしてたから鳥さんの姿にびっくりしちゃうよね。」

「私も旅の途中で何度か鳥になる瞬間見たんだけど…アロマがいるとはいえ驚いちゃったなー。」

アロマたちと遊んでいる2人を見ていると、ゆいちゃんが「あ、あのはるかちゃん少しいい?」と声をかけてきた。

「ゆいちゃんどうしたの?なにかあった?」

「あ、あのね勘違いだったら凄く申し訳ないと思うんだけど…はるかちゃん、プリキュアになった時とかでツバサくんと何かあった?」

ゆいちゃんの質問に思わず目を開く。おそらくあのことについてだろう。

「昨日ツバサくんのことを話している時も、教会でいる時も…たまにツバサくんをみるはるかちゃんがどこか寂しそうだったから…。この前あったプリキュアが世界を救った時に何かあったのかなって…。でも喧嘩だったらまずパーティーに招待しないと思うし、ツバサくんは至って普通だから…。」

「わたくしも少し気になってはいました。はるか、あの戦いの前にツバサと何かありましたの?」

トワちゃんも気づいていたらしい。ツバサくんには悪いが、もうここまできたらあのことについて全てを打ち明けよう…。

きららちゃん、トワちゃん、みなみさん、ゆいちゃんにあのことについて話す。

―プリンセスを頼みます。
―ウィング!!!

プリンセスを守るために、自らプリンセスを離して自分のことを犠牲にした騎士について。

言葉を選びながらゆっくり…。

「そ、そんなことがあったなんて…。」

話し終えるとゆいちゃんが手を口に押さえて泣きそうになった。

「ツバくん…エルちゃんを守るために味方と一緒に逃して…自分は1人で…。」

「それほど…守りたかったのね…世界を滅亡させることが出来る敵から自分が最も大切にしているプリンセスを…。」

「確かにあの時のツバサくん…ウィングはプリンセスエルの騎士として、敵からエルちゃんを守った…。でもそれでウィングは…離れ離れになったプリンセスは…。」

今まで抱えてたモヤモヤを吹っ切るようにみんなに話す。私はいつの間にか泣いていたらしい。他のみんなも言葉を失っている。

庭の奥では2人の楽しそうな笑い声が聞こえる。それが今の私たちには切なく聞こえた。

奇跡が起こらなかったら今頃この笑い声は聞こえなかったかもしれない。

ここでトワちゃんがあることに気づいた。

「はるか、ひょっとして大きくなったシュプリームに対して戦うときにわたくしに声をかけたのって、ツバサとエルちゃんのためですか?」

「うん、あのプリンセスと騎士がまた悲しい道を歩まないようにって…。あの時私も傷ついて身体が動かせなくて何も出来なかった…。復活した今だからこそ『あなたたちは1人じゃないよ』てどうしてと伝えたくて…戦えるプリンセス仲間はたくさんいるからと、トワちゃんやヒメちゃん、アコちゃんに声をかけたんだ。あの時マジェスティに変身したエルちゃんもツバサくんは1人で守ろうとしてたから…。」

―ウィング!マジェスティ!私たちも一緒に戦っていいかな?

―フローラ…!?そして他の皆さんは?

―こう見えて私たち全員とある国の『プリンセス』なのよ。

―え、プリンセスがこんなに!?!?

―だから私を立派に守りきってよね!あなたナイトなんでしょ!?

―キュアプリンセス…あなたもわたくしたちと一緒に戦うのですよ。

―ふふっ。こんなに『プリンセス』がいると嬉しくなっちゃいますね、ウィング。

―マジェスティ…はい、皆さんよろしくお願いします!

―さあ、みんな行くよ!お覚悟はよろしくて!

「だから小さなプリンセスのために騎士が1人傷つきそうになったら…私が隣で支えてあげたい…力になってあげたい…。プリンセスと騎士にはやっぱりずっと一緒に幸せにいてほしいの。」

教会で誓いを立てたようにずっと…。

ここまで話し終えると今までひとりで抱え込んでいたものがなくなったようにすっきりした感覚だった。溢れ出ていた涙も出なくなっていた。

「聞いてくれてありがとう。みんなに話したらちょっとすっきりしたかも。」

「ツバサくんもそうだけど…はるか、あなたもひとりじゃないのよ。」

「そうそう、困ったときはお互い様だって。私たち友だちじゃん!」

「また悩んだときはいつでも言ってください。力になりますから。」

改めてみんなと仲間になれてよかった。
だからツバサくんも…私たちは同じ仲間だから…。

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やがて人の姿になったツバサくんがエルちゃんを抱っこしながらこちらにやってきた。エルちゃんはたくさん遊んで疲れたのかすやすや寝ている。

「エルちゃん、たくさん遊んで疲れちゃったのかな?」

「はい、今日は1日中楽しんだので…。先程あげはさんにお迎えお願いしました。」

「そっか、時間過ぎるの早いね…。」

気がつけばもう午後4時半。帰るお客さんも増えてきた。
夕陽も落ち始め、空は綺麗な茜色になる。ふとツバサくんの方を見る。

寝ているエルちゃんを見るその赤い目がとても温かくて、茶色い髪が夕陽の光に当たって綺麗だった。本当に夕陽が似合う男の子だ。

あげはさんが迎えに来るまでみんなで庭で待つことにした。近くには小さな林がある。木々を通り抜けて吹く風がとても気持ちいい。

その時空を見上げると綺麗な夕焼け空が一瞬だけ濁り…上空から怪しい男が現れた。

「あいつは…スキアヘッド!」

隣にいたツバサくんが険しい顔で立ち上がる。その様子だとツバサくんたちの敵だろう。敵はエルちゃんとツバサくんをじっと見る。

「プリンセスが寝ている…そしてプリキュアは1人。プリンセスもプリキュアも抹殺するのに打ってつけ」

そう言って敵はテーブルを使ってキョウボーグという怪物を作り出す。ツバサくんは寝ているエルちゃんをゆいちゃんに託してミラージュペンを取り出す。どこか身体が力んでいるツバサくん…。私はそんなツバサくんの隣に立って彼の肩にそっと手を置き、ツバサくんに「大丈夫だよ」と一言いう。

「ちょっとープリキュアはツバくん1人だけじゃないよ!!」

きららちゃんがゆっくり立ち上がりながらスキアヘッドを睨みつける。

「見知らぬ敵ですけど…やるしかないですわね!」

「これ以上パーティーをめちゃくちゃにするわけにはいかないわ。」

「みんな!ツバサくん!いくよ!!」

私たち全員が変身するとスキアヘッドは少しびっくりした様子だ。

「見知らぬプリキュアだ。プリキュアといっていいのか?まあ良い。キュアウィングとプリンセスを抹殺できればそれで十分。やれキョウボーグ。」

テーブルキョウボーグは自分の体を横に立たせゴロゴロコチラに転がってきた。私たち全員ジャンプをして避ける。しかし、テーブルキョウボーグはずっと誰かを追いかけながら転がり続ける。地面を削り転がるたびに威力を上げていく。

「もうしつこい!プリキュアミーティアハミング!」

「プリキュアバブルリップル!」

トゥインクルとマーメイドが転がっているテーブルキョウボーグに向かって技を撃つ。しかし、あまりにも巨大な力で転がり続けるキョウボーグに技は跳ね返され、

「「きゃあ!!!」」

2人はテーブルキョウボーグに轢かれ、背中を木にぶつけ倒れてしまった。

「トゥインクル!マーメイド!今度はわたくしがいきます!」

スカーレットがキョウボーグに近づこうとする。しかしまた転がり攻撃がはじまる。

「スカーレットイリュージョン!」

炎の障壁でキョウボーグをとめ、その隙に上からウィングとキックを入れようとするが、

「隙だらけだ。」

スキアヘッドがそう言った瞬間、テーブルキョウボーグはスカーレットイリュージョンの盾を使って縦回転をしながら上に登る。

「きゃあああ!!!」

スカーレットはその威力に耐えきれず、風圧で近くの木まで飛ばされてしまった。

そしてテーブルキョウボーグは私たちの上にいる。

だめだ、このままでは押し潰される……。

「フローラ!危ない!!!」

その一言が聞こえたのと同時に夕陽のようなオレンジのプリキュアがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。

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ドスンと大きな音と大量の砂埃。

私は咄嗟のことで目を瞑っていたが、身体の痛みはまったくなかった。それどころか身体がどこか軽いような…。

「大丈夫ですか?」

あれ?ウィングの声だけど、やけに近い…

横に目をやるとウィングの服…そのまま上を見るとウィングが心配そうにこちらを見てる。そっと耳を当てるとウィングのドクンドクンと心臓の音が聞こえる。

え、これってひょっとして噂のお姫様抱っこ………!

ウィング、私のことお姫様抱っこしながら飛んでいる!?!?

まさか男の子のプリキュアに憧れのお姫様抱っこをしてもらって今混乱中である。どうしよう、これ。身体の距離が近いのに心拍数がすごく上がっている。でもこのままだとこっちの心臓の音聞こえちゃうのかな?

「あ、ごめんなさい。これ恥ずかしいですよね!?いつもの反応でつい…でもフローラのこと守れてよかったです。」

私がお姫様抱っこで照れていると謝りはじめたウィング。その前にこれいつもやっている反応なんだ…!?この子なんか恐ろしいな…。

「ううん、助けてくれてありがとう。ここからどうすべきか考えないとね!」

ひょんなことでお姫様抱っこしてもらった興奮から再びプリキュアとしての戦いへ頭を切り替えて、ウィングにお願いして近くに降ろしてもらおうとした時…。

「うっ……!」

着地したウィングが小さな呻き声をあげた。

「ウィング!?」

「大丈夫です。キョウボーグが来ます!」

すぐにウィングはキョウボーグを見つめ直す。キョウボーグはまたこちらに転がり攻撃をする。

私はジャンプで避ける。しかし

「っ……!!」

「ウィング!!??」

ウィングはジャンプをすることはなく後退りして避けている。しかも右足を引きずっているような…。まさかあの時…。

「着地の際に右足を捻ったな。それで飛ぶことのできないキュアウィングなど虫ケラ同然。キョウボーグ、キュアウィングを轢き殺せ。」

キョウボーグがスピードをあげる。そのままウィングに向かって突進していく。

「そんなことさせない!!!」

ローズトルビヨンを出して止めようとするが、跳ね返され私に向きを変えてこたらに向かってきた。

「ああああ!!!!」

そのまま当たってしまい地面に転がってしまい、仕舞いには木に身体をぶつける。勢いよくぶつかったせいで、身体の節々が痛くて肩で呼吸をする。

そして更に力をつけたキョウボーグは最後に足を捻って飛ぶことができなくなったウィングに焦点を絞る。

「うわああああ!!!!!」

ウィングは何回か避けたが、スピードと威力を上げたキョウボーグに突き飛ばされ、背中を近くの木にぶつけ座り込む。立ち上がりたくても右足の痛みが凄いのかですぐに座り込んでしまう。

「動かなくなった貴様を消すのは容易い故、プリンセスエルを消してからにしよう。そこで黙ってみておれ。」

そういって少し離れたゆいちゃんと寝ているエルちゃんを見つけ出したスキアヘッドはキョウボーグは2人にターゲットを絞って転がり攻撃をする。エルちゃんはまだ寝ているため変身をすることができない。ゆいちゃんは狙いは自分だと気づいて一目散に逃げるが、キョウボーグが早すぎてすぐ追いつかれそうだ。

「ダメだ、やめろ…!!!!!!!!!」

ウィングは身体がボロボロなのに右足は捻って痛いはずなのに、そういって気合いで立ち上がり、ものすごい勢いでキョウボーグを追いかける。

あの時のオレンジの騎士が脳裏に蘇る。
プリンセスを守るために自分を犠牲にする騎士……。

「ツバサくん危ない!!!!」

ゆいちゃんの叫び声が聞こえるがウィングはボロボロの状態で2人の前に立ちキョウボーグを一人で止めようとしている。両手でキョウボーグを止めるウィング。しかし威力はキョウボーグが上でどんどん後ろへ下がっていく。

「っ!!」

ウィングの小さな呻き声が聞こえる。おそらく踏ん張ってる右足は限界なのだろう。

そうだ、あの騎士がもう自分を犠牲にしないように、1人にしないようにって決めたじゃない。

だって、キュアウィングは小さなプリンセスの騎士でもあるけどそれと同時に

―――私たちと同じ、
プリキュアの大切な仲間だもの……

「プリキュアリリィストルビヨン!!!!」

私はすぐに立ち上がり技を出す。キョウボーグは技に怯み動きが止まった。

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「フローラ!ウィング!!みんな大丈夫!!??」

マーメイドたちが気がつきこちらに駆けつけた。

「さあ、ここからは私たちがお相手しますわ。お覚悟を決めなさい!!」

そういってマーメイド、トゥインクル、スカーレットはキョウボーグに立ち向かう。

ウィングはみんなが戦ってる様子を見て安心したのか、先ほどの攻撃を止めた時に自分の限界まで体力を使ったせいか、ふっと身体の力が抜け崩れ落ちそうなところを私が支え、今度は私がウィングをお姫様抱っこをして少し遠くまでジャンプする。

「フローラ…?」

「助けるの遅くなってごめんね。もう大丈夫だから。」

「でもあの…プリンセスが…っ!!」
身体の節々が痛むのだろう。時折痛そうな声を出すウィング…。
「大丈夫だよ。あなたの大切なプリンセスはみんながちゃんと守るから…!」

それでもなにか言いたそうなプリンセスの騎士…。まだ守るために戦いに行きたいのだろう。身体がボロボロで次行ったら確実にやられるだろうが、心配なんだろうな。

「今までプリンセスを必死に守って戦ってきた騎士にこんなことを言うのもあれだけど…あなたも私たちも『プリキュア』なんだよ。あなたは私たちの大切な仲間なの…。だから…仲間が大切なプリンセスを守るためとはいえ、傷ついて倒れていくの…辛くて…悲しくて…自分の無力さも何回も感じたの…。」

「フローラ…」

「仲間はあんなにたくさんいるから、何かを守りたい気持ちはみんな持っているから…私たちを、『プリキュア』を信じて…!!!」

離れたところにある大きな木の付近にウィングを降ろす。ウィングは木にもたれかかり息を整える。

みんなのところに向かおうとしたら後ろから声をかけられた。

「あの、プリンセスを頼みます。」

「うん、任せて!絶対守るから!!」

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みんなのところに戻る。みんなは技を出しながらキョウボーグを相手していた。

「ったくあの転がる攻撃ほんと厄介よね!下手に近づけない!!」

「でも避けると今度はゆいとエルちゃんが危険な目に!!」

「それでも!ウィングと約束したんだ!プリンセスを必ず守るって!みんな行くよ!」

4人全員でパンチを仕掛ける。4方向で行くがテーブルキョウボーグは横回転してなかなか近づけない。

もう一度遠距離攻撃をするとキョウボーグが怯むが近距離に一気に近づくことができない。

「一度だけでも懐に入れたら…!!」

今度は私の方へ転がってくる。体力は正直限界だけど…守らなければならない大切な人がいるんだ。そして絶対守ると約束して自分を待っている人がいるんだ。

こんなところで負けられない。

ローズトルビヨンを出してガードするが相手のパワーが強い。

「はあああああああ!!!!!!!!!」

ローズトルビヨンのガードが破られてこっちに向かってきそうになったその時

目の前に大きな蝶のバリアが出来ていた。

「ごめん!!遅くなっちゃった!!!!みんな大丈夫??」

キュアバタフライ、ウィングの仲間だ。

更に

「ヒーローガール!スカイパーンチ!!!」

キュアスカイがキョウボーグの懐に一気に入って思いきりパンチしキョウボーグが遠くに吹き飛ぶ。立ちあがろうとしたところをキュアプリズムがプリズムショットで妨害する。

「プリンセスプリキュアの皆さん、私を守ってくださりありがとうございます。」

起きたエルちゃんがマジェスティに変身してこちらに加わった。

「フローラちゃん、ウィングはどこ?」

「ウィングは…あの怪我をして今あそこに…。」

バタフライに居場所を聞かれたので答えると「OK、ちょっと様子見てくるね!」とひとりウィングの方へ向かった。

「バタフライなら大丈夫です!回復の力を持っていますので!!」

スカイがそう言いながらキョウボーグを見る。

「さあ、もう暴れるのはおしまいです!ヒーローの出番です!」

「これまでツバサを傷つけたこと、私は本気で怒ってます。絶対負けません!」

「うん、みんな行くよ!!!」

新しくプリキュアになった「ひろがるスカイプリキュア」。最近変身出来るようになったとは思えないくらいみんな強くて連携も完璧だ。特にみんなを引っ張っていくソラちゃんはあの一件以降本当に頼もしくなってまさにヒーローだ。

「お待たせ!私も加勢するよ!!!」

ウィングの様子を見に行ってたバタフライが戻ってくる。

「ウィングの容体は?」

マジェスティが心配そうに聞くと

「足捻挫してたし、あちこち傷だらけでかなり無茶してたみたいだけど、回復の力たっぷり使ったからもう大丈夫だよ!」

バタフライがそう答えるとホッとしたマジェスティ。

「彼が無事なら私も安心して戦えるわ!!!」

そう言って思いきりキョウボーグの近くに接近し連続パンチをする。

「私たちもサポートするよ!ローズトルビヨン!!!」

私がそう叫んでキョウボーグに技を当てる。他のみんなも技を当てていく。

キョウボーグは地上では逃げ道がないと感じただろう。

思いきりジャンプをして空へ逃げる。

それを見てにやりとするバタフライ。
私はその意味にすぐ気づいた。

「はい残念!空に誰もいないと思ったら大間違い♪」

「ウィング!今だよ!!!」

私の呼びかけに上から「任せてください!!」と声がした。

夕陽を背にするオレンジ色のプリキュア。

「はああああああああ!!!!!」

ウィングの上空からほぼ垂直の踵落としが綺麗に決まり、ついに座り込んだキョウボーグ。

「ウィング!そのまま決めちゃって!!!」

バタフライの一言でウィングはウィングアタックを決めようとする。

その前にキョウボーグが立ち上がろうとしていた。

「立ち上がらせない!!モードエレガント!!プリキュアフローラルトルビヨン!!!!」

たくさんの花びらがキョウボーグを襲うのと同時に飛んでいくウィングアタックをサポートしていく。

――そういえば、あの時も確かウィングアタックだったな。

あの城でシュプリーム相手に彼が使用した技。プリンセスを守るために1人で突っ込んでいった技。騎士が自らを犠牲にした技。

結局あの時はシュプリームに手も足も出なかった…。

でも今は違う。

この場にいるプリキュアみんなの支えや想いがある、「1人じゃない」技だ。

茜色の空を飛んでいくオレンジ色のプリキュアはあの時とは違ってどこか清々しい表情をしていた。

――私もあなたも同じプリキュアの仲間だから。一緒に戦うよ。

私のフローラルトルビヨンの花びらの道を辿るかのようにウィングは飛んでいく。

「ひろがる!ウィングアタック!!!!!」

ウィングアタックはキョウボーグを勢いよく貫きオレンジの羽とピンクの花に包まれて浄化していった。

「プリキュア…次は覚えておけ」

スキアヘッドはそう言って上空へと消えていった。

プリンセスプリキュアとひろがるスカイプリキュア、みんなで敵を倒した喜びを分かち合う。ふと隣では変身を解いたツバサくんが立っていた。

「はるかさん!ありがとうございます!!」

「どういたしまして!ツバサくんもかっこよかったよ!!ありがとう!」

気がつけばお互いハイタッチをしていた。

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「今日は皆さん本当にありがとうございました。」

「たのしかったよ!!」

いよいよプリンセスと騎士とのお別れ。2人ともとても満足している表情だ。

「あっちはまた新しいお友だち見つけちゃったみたいだねー。」

「まさか同じ絵本作家が夢だなんて!びっくりです!」

ましろちゃんとゆいちゃんは同じ夢ということですぐ意気投合。今度本屋巡りをするみたい。

「今度こちらのソラシド市にもいらしてください!私が案内しますので」

「おおー!確かプリティホリックあるんだよね!気になるなぁ!」

「私普段そこでバイトしてるから、ぜひ遊びにきてね!」

「あげ姉バイトしてるんだ!ますます行きたくなっちゃうー!」

みんな各々で約束をしている中、「はるかさん」とツバサくんが話しかけてきた。

「あの、本当にありがとうございます。夢のこととかプリキュアのこととか本当にお世話になりました。」

「ううん、気にしないで!これからもよろしくね!ツバサくん!!」

「はい!」

夕陽に照らされながら握手をする私たち。

ツバサくんの笑顔は温かくてどこか安心できる夕陽そのものだった。

ではみんな帰ろうかとあげはさんが言ったその時。

ツバサくんが「あ、あれ。」と夕焼けの空に指を差した。 

見覚えがあるピンクの髪…。

「あ、みんないたいた!やっほーー!!お久しぶり!!」

ふと空から声が聞こえた。
花海ことはちゃん、はーちゃんだ。

魔法を使える不思議な子が私たちを見つけて箒に乗って空から降りてきた。

「うわわ!!!箒に乗ってます!!!魔法ですか!?」

ソラちゃんがびっくりしている。はじめは驚くよね。とツバサくんと2人で笑い合う。

「あのね、1ヶ月後にマホウ界でお祭りがあるんだー。さあやも誘ったんだけど、はるかとツバサとエルちゃんもどうかなー?って。同じプリキュア仲間だし、あの旅のメンバーもう一度集まりたいなーって、どうどう?」

「また凄い急だねー。でも…。」

そう言って隣のツバサくんをみる。ツバサくんに抱かれているエルちゃんは「マホウ!はーのマホウ!!」と凄い喜んでいる。

「行きます!行きましょう!はるかさん!!プリンセス!!」

「うん、行こう!!楽しみ!!」

「もうすっかり仲良しさんですね。はるかさんとツバサくん」

「夢を追うもの同士、気が合うかもしれないね。」

そんな私たちを見て、ソラちゃんときららちゃんが言った。

あの世界で出会ってから…色んなことがあったけど…
私たちはこれからも仲良くいられる気がする。

「夢」と「プリキュア」と「友達」がある限り
この夢みたいな交流は終わることはないんだ。