Doom's Day

Last-modified: 2012-01-18 (水) 07:58:00

時の流れは永遠とも取れるほど長い。
しかし、必ず、終わりはやってくる。
人の命は刹那の瞬き。
しかし、どれも、同じ内容の物はない。
それぞれが、それぞれに、時の流れに身を任せ、だが確実に前進しながら、
自らの終焉へ突き進む。
果ては夢の星か、死の星か・・・。

・・・詩的で、眠気が差すようなこの問言を、僕は幾度となく、
じいさんから聞かされてきた。
子供のときから、一字一句の違いすら見せなかったその言葉に、最初は、よく、
「わからない」とサジをなげていた。
大人になってからも、実はよくわかってはいない。
その言葉の真意を知るものは、ただ一人・・・じいさんだけだった。
しかし、そのじいさんも、今年の初めに亡くなった。
もともと、両親を早くにして亡くしていた俺は、このじいさんから、
生きる術を学んでいた。

・・・西暦、3005年。
この文章を見る人からみれば、科学の発展した、すばらしい未来を
想像する年代だと思う。
だが・・・。
現実は、それとはかけはなれている。
先に起こったいくつもの騒乱と、自然復活計画に異を唱える者たちの手による、
いくつもの乱開発のせいで、この星は、人が住めない星に、なり始めようとしていた。

そんな中でも、特に問題なのが、エネルギー問題だった。
2534年に発見された、次世代型と呼ばれた新エネルギー「カオス」が
使われるようになった現代、大気汚染のクリアを第一目標として開発された
このエネルギーも、その代償として、不確定事象の発生率(つまり、「偶然」の発生率)
が極度に変化、そこら中で、原因不明の怪奇現象や、謎の進化を遂げたウィルスの蔓延、
噴火などの自然災害の大発生し、さらに、先の騒乱と乱開発で、もはや、ほとんど、
食べ物が取れなくなり、日照時間は減り、海は半分が氷の大地と仮した。

そんな中での生きる術。
それは・・・ズバリ、作物の生育法だった。
つまりは、僕は、農民なのである。

農民の朝は早い。
まだ日も昇らぬ(と言っても、日の出の時刻は午前8時過ぎ)うちに、やせた畑に出掛け、
毎日のように、化学肥料(昔のものよりは格段に汚染率は低い)を撒く。
撒き終わったら、やせた大地でも育つように改良された作物の様子を見、やがて、
収穫時期が来ると、それを取り、自らの食料にする。

そんな毎日が続いていたある日。
いつものように、化学肥料を撒きに、掘っ建て小屋を出ようとした僕のところへ、
ある手紙が届いた。
この僕に、手紙・・・?
などと、一体誰から届いたのかをいそいそと確認する僕。
差出人は・・・。
「わし」

・・・・。
思わず、沈黙してしまった。
何なんだ、この「わし」って・・・。
とりあえず、封筒の封を切って、中身を見てみる。
すると・・・。
・・・あの、眠くなる文句が、書かれていた。
「馬鹿にしているのか?これは」
この手紙が、誰かのイタズラだと思った僕は、それをくしゃくしゃに丸めると、
くずかごへポイッと捨ててしまった。

次の日。
また、手紙が来た。
差出人は・・・
「わし」

・・・よほどの暇人だな・・・。

と思いつつ、そして、またそれをくずかごへ。

また次の日。
またまた、手紙が・・・。
差出人は・・・
もう言わずとも明らかだった。

「いい加減にしろっ!!」

もうくしゃくしゃにする余裕もなかった僕は、それを封筒のままびりびり破くと、
外へとばらまいてしまった。

だが、その手紙は、何度破こうが、何度紙屑にしようが、毎日毎日、
延々と届いたのだった。
雨の日も、雪の日も、雷の日も・・・。
はっきり言って、もうどうでもよくなってしまった。
半年も過ぎると、もういい加減に愛想が尽きて、郵便受けから取り出そうともせず、
さっさと畑へと出ていってしまうようになっていた。

それから、さらに半年が過ぎた頃・・・。

新エネルギー「カオス」の使用が過ぎた人類の境遇は、もはや、滅びの道を進む
意外に残されていないような状態になっていた。
こうなると、じいさんから教わった「生きる術」はもう、
使い物にならなくなり始めている。
何日も食べ物がない日が続き、日照時間は、もはや植物の育成には適さないほど、
減っていた。
それでも届く、「わし」からの手紙。
日々の生活が危うい中、僕は、歩くのもやっとの状態で、半年ぶりに、
郵便受けを覗いた。

すると、その中にあったはずの郵便物は、なぜか消え失せており、入っていたのは、
たった一枚だけの、小さな紙切れだけだった。
「何か手助けになるようなことを書いてくれ・・・」
そう思いつつ、折れた紙切れを開いていく僕。
すると、そこには・・・。

今までの言葉とは、全然別の言葉が入っていた。
その内容とは・・・。

「人の歴史は有限。星の歴史もまた、有限。
生きることを望むなら、夢の星へと出掛けなさい。
運命の日は、もうすぐそこだ。」

夢の、星・・・?

その文句に、もはや考える余裕もなかった僕は、ただただがっかりし、
その場に崩れ落ちた。

さらに、一週間が過ぎた。
周りの農家も、ちらほらと餓死し始めた時期だ。
もはや、残された食料などはなく、唯一あるのが、世界の流れを示すTVだけだった。
「こんなもの・・・あったって・・・どうしようもないよな・・・」
声も絶え絶えになって、僕はつぶやく。
しかし・・・。
その時だった。
突然、付けてもいないのにスイッチが入り、そいつは、唐突に、
あるニュースを流し始めた。
「絶滅時計の24時まで、あと、残りわずかとなってきました・・・」
画面の先に映し出されたのは、僕と同様、もはや、
声も出しづらいアナウンサーの姿だった。
「我々が救われる方法は、もはやただ一つです・・・。」
震えながら、原稿を読むアナウンサー。
その言葉に、固唾を飲んで見守る僕。
次に放たれた言葉は・・・。
「母なる星を捨て、果てしなき宇宙のどこかにある、我々の生きられる星へと
移住することです!」

・・・その言葉に、僕は・・・。
愕然とした・・・。
なぜなら、その言葉は、つい一週間前に送られてきた紙切れと、
意味が符合していたからだ。
そして、唐突に、僕の頭の中によぎった言葉。

「時の流れは永遠とも取れるほど長い。
しかし、必ず、終わりはやってくる。
人の命は刹那の瞬き。
しかし、どれも、同じ内容の物はない。
それぞれが、それぞれに、時の流れに身を任せ、だが確実に前進しながら、
自らの終焉へ突き進む。
果ては夢の星か、死の星か・・・。」

この言葉が意味していたのは、まさにこれだったのだ・・・。

・・・しかし、気づくのが遅すぎた。
・・・歩く体力も残されていない僕には、もう・・・
その星に・・・行く術は・・・ない・・・。

そして・・・
破滅の日が来た・・・。

・・・じいさん、ごめんな・・・。