この星の希望のかけら

Last-modified: 2012-01-18 (水) 07:52:11

「この星の未来は、暗闇に包まれておりまする・・・」
その予言者は言った。
最近、噂になっていること。
地球の崩壊のこと。
発端は、一人の占い師のこの発言だと言う。
そんなものに引っ掻き回されてしまう僕らの地球。
でも、それは・・・。

それは、突然やって来た。
本当に、突然だった。
僕の住んでいるこの東京に、謎の一団が姿を現した。
なにやら怪しい集会を開いては、この星の未来がどうのこうのとまくしたてる。
それを、すれ違いざまで聞いた僕は、この人たち、頭が狂っちゃったんだ・・・
と、素通りする毎日。
でも、彼らはいつも、その場所にいて、その場所で、
わけの分からない演説をしていた。
友達は、「面白そうだから聞いてくるわ」と最初のうちは言っていたけど、
これが毎日続くと、いい加減、彼らもうんざりしてきて、
「石投げたくなってこねぇ?」と苛立ちを隠せない様子だった。
彼らの言うこと。
要約すれば、地球が滅びるって言うこと。
いつかはその時が来るのだろうけど、今はまだ来るわけがない。
みんな、そう思っていた。

そんな中、ふとニュースを、電気屋のショーウィンドウのテレビで見ていた僕は、
その中に、仰天する一言を発見する。
「あちこちで突然変異と思われる猛獣が暴れている」
・・・またまた、UMA(ユーマ)かなんかの類だろう?
キャスターのとなりで、軽いノリでジョークにしようとするコメンテーターたち。
しかし、キャスターは真顔のまま、そのニュースを淡々と読み上げる。
そして、何かのフリップを取り出すと、何かの数値が書かれたところを指差し、
こう言うのだ。
「この紫外線量は、過去例を見ない数値になっています。」
確かに、僕らの地球は、今、紫外線の脅威にさらされている。
2020年から、急激に気温が上昇し、今となっては、四国までが南国の楽園になっている
くらいだ。
だから、またあったかいところが増えるのかな?と密かに僕は期待してしまう。
だが、ニュースでのその話はまだ続く。
「たった今入った情報です。学会の発表によりますと、現在、
巨大ないん石「アステロイド」の 落下地点が、日本である可能性が高いそうです。」
・・・!!
いん石・・・。
突然だった。
今まで誰も、そんなものが降ってくるなんて情報は持ちあわせていなかった。
このニュースキャスターは何を言っているのか。
本当に、そんなものが降ってくるのか。
夢じゃないの?
そう思った。今までニュースは時々見てたけど、そんな事は一言も言ってなかった
じゃないか。
さらに、「突然の情報」は続く。
映像が宇宙に切り替わると、そこにあったのは、今にもカメラにぶつかりそうと
言うくらいの迫力の大きないん石があった。
いや――いん石と言うよりは小惑星だ。
・・・狂ってしまった。
みんな、狂ってる。
なんで、急にこんな話になっているんだ。
僕は――知らなかったのに!!

そんな時、ふと、自らを予言者と名乗る集団が目に入った。
みんな、こいつらがしたことなんじゃないか、そう思っている自分がいる。
・・・ばかばかしいけど、そう思った。
それでも、予言者達は悲痛な面持ちで「地球の未来は・・・」と叫び続けている。
混乱してきた。
この人たちの言っていることは本当で、もうすぐ僕らは死んでしまうのか・・・。
叫びたくなってきた。
うっ・・・
「――おい、大丈夫か?」
視界がぼやけた。

次の瞬間、僕は学校の屋上にいた。
あれ?
夢だったのか・・・。
そう一人で納得する僕に、友人がふと、こんな事を言い出す。
「なぁ・・・この星に希望のかけらがあるとしたら、お前、どこにあると思う?」
なーに言ってるんだよ、こいつは。
「希望のかけらぁ?そんなの、どこにでも転がってるんじゃねぇの?たとえば、
新聞とかさ。」
いきなり素っ頓狂なことを言ってきた友人に、僕は言ってやった。
「新聞・・・?なんだそれ?」
・・・は?
「新聞」と言う言葉が伝わらない。
「新聞って・・・なんなんだ?なぁ、教えろよ。新しいゲームか?」
い・・・意味わかんねぇぞ、おい・・・。
僕はそう言う面持ちで、新聞が何かをしょうがなく、友人に説明する。
「はぁー・・・。紙、ねぇ・・・。そう言えば、歴史の授業で言ってたっけ。
昔、人間は木を切って簡素な記録装置を作っていた・・・って。」
な・・・何!?
ふと、辺りを見回す僕。
すると、そこにあったのはなぜか・・・つるが絡まった古めかしいビル群に、
その向こうには森!!
「ど、どうなってるんだよ、これ!?」
思わず、僕は声を挙げた。
ここは、別の世界なのか――!?
「どうなってるって?お前、昨日のいん石落下で頭おかしくなったんじゃないか?」
「い、いん石!?」
信じられなかった。
友人によると、昨日、日本のど真ん中にいん石が落下、中部地方がすっぽりと
なくなってしまったと言うじゃないか。
しかも、その後、急激に緑が生え、こうなってしまったんだとか。
・・・これじゃあ、「希望のかけら」を探したくなるのもうなずける・・・。

すると、学校のすぐ下から、何かが僕を呼んでいる声が聞こえた。
友人もそれに気がつき、僕に言う。
「希望のかけら、探してくるんだろう?呼んでるぜ?未来の救世主さま。」
・・・はぁ?
僕が、いつ、そんな事を言ったんだよ!?
突然降ってわいた、こんな世界の救世主?
冗談じゃなかった。
とりあえず、呼ばれた声には反応しておいて、僕は友人に尋ねる。
「俺が救世主って・・・なんで?」
そう言った僕の肩を、別の友人がたたいて更に言った。
「予言者さま達がな、お前が救世主だ!!って言ってたんだよ。みんな、
お前にかけてるんだぜ?」
よ・・・予言者、さま・・・?
って事は・・・夢じゃ・・・なかったのか?
余計に、僕はパニックになっていく。
この星に、何があったって言うのか。
僕の知らないところで、一体、何が。
もう、わけがわからないよ・・・。
それでも、僕は友人に押されて、校庭のほうへと向かっていく。
たった今、僕がこれから何をしに行くのかを知らされた僕に、
希望がどうのこうのと詠われて、わかるはずもない。
でも、今度は夢じゃなかった。
ぼろぼろになった学校の階段を歩く感触が、それを物語る。
僕は、奇妙な世界に飛ばされてしまったんだ、きっと。
改めて、そう思った。

下に降りると、僕を見つめる数人の女の子が、花束を渡してくれた。
「きっと、見つけてね!お願いよ!」
「キミならできるよぉ、がんばってね!」
「・・・もう・・・会えないかもしれないんですね・・・。」
うわぁ、急激にモテモテ。
そして、傍らには友人。
「俺が救世主だったらよかったのになぁ、モテモテじゃないか」
「んなくだらんこと言ってる場合か。」
友人は、なんだかこれが喜劇であるかのように騒ぎたてる。
・・・御気楽な・・・。
次に、校長がやってきて、僕にご高説を賜らせた。
「君の一挙手一投足が、みんなの運命を決める。心してかかりなさい。」
は、はぁ・・・。
なんだか、実感沸かないなぁ、んな事、急に言われても。
そして、僕は、辺りが草と荒れ地が混じる、外へと放り出されてしまった。
門は閉められ、僕は帰る場所を失う。
まだ、分からない。
僕がなんで、そんな御大層なものに選ばれてしまったのか。
そもそも、ここは何時代なんだよ。
そんな思いが、僕の中を交錯する。
何なんだ、一体・・・。

僕は当てもなく歩いた。
歩きつづけた。
訳が分からなくなったこの街を。
僕の住んでいたマンションは、この辺だった。
でも、そこにはもう、つるに覆われて荒れ果てたビルが建つだけで、何もなかった。
日は徐々に、西に傾いていった。
僕は、何かを探すフリをしながら、さらに歩いていった。

そして、迎えた夜。
疲れてしまって、もう僕は動けない。
その場にごろりと横になり、何気なく夜空を見渡す。
星が妙にきれいに見えた。
そう、今までより、ずっと明るい。
どこまでも明るい星は、まるで僕に迫ってくるようにも感じた。
この光景・・・何かを思わせる。
ふとそう思った僕は、それが何かを必死に考え始めた。
見るほどに瞬く星・・・。
あれ一つ一つが、何か、僕にとって大切なもののように見えた。
友達・・・家族・・・好きな人・・・。
そして、ここにいる、ちっぽけで何もできない自分。
自分・・・!?
僕ははっとした。
今まで、すべてにおいて適当だった僕。
何一つ、自分の望みを叶えるための努力をしようとしなかった自分。
自分が一番、この星で偉いみたいな気分になっていた自分。
「本当に偉かったら、本気で星を救ってみろ。」星の上で、誰かが言った気がした。
・・・そうか・・・。
この世界は、ここにあるもの全ては・・・今の僕そのものなんだ・・・。

「おーい・・・お前、また寝てるのか?」
わっ・・・びっくりした、僕が目覚めたのは、再び、学校の屋上だった。
そこは、つるも何も生えていない、ぴかぴかのビルが立ち並ぶ、
僕が知ってる現代の東京だった。
「ん・・・なんだよ、俺、今、この星の希望のかけらを探しに・・・」
寝ぼけながら言う僕に、友達は馬鹿にしたような笑い方で答える。
「この星の希望のかけらって・・・何言ってるんだ、お前!?アハハハ」
・・・夢だった。
夢じゃないたしかな感触があったはずなのに、夢だった。
あの夢は、一体・・・。

いつものように、チャイムが鳴った。
次は、あの有名な哲学先生の授業か・・・。
面倒くさいなぁ・・・。
・・・そう思いながら教室に入った僕は、黒板に書かれている文字を見て、
思わず声を挙げた。
「自分の希望のかけらについて自習」
あの先生らしい、回りくどい言い回しだった・・・。
でも、僕は・・・きっと、これから変われるのだろう。
あの夢はきっと、僕に希望のかけらを探す努力をさせるための、
一種の暗示だったのだから。