記憶

Last-modified: 2007-07-12 (木) 17:14:00

記憶-月見里 編集者-レト?,カロル

俺は今、軍施設で拷問を受けている。
拷問というのはちょっと大げさかもしれない。しかしこれは拷問にかける前の確認検査なのだ。
左腕は妙な機械に繋がれ、目の前には軍人ではないであろう奇妙な人物が、俺を眠りへと誘っている。
……催眠術による、記憶の検査だ。
やはりこれも、すでに拷問であろう。術にかかっていれば自らの意思関係なく全てを語るし、たとえそれを免れたとしても嘘はこの機械が看破するという。
俺に逃げ道はない。
あるのは、ただ見えない命の行く先だけだ――

 

「貴方は何歳頃から記憶がありますか?」
 隣に控える軍人がそう言った。凛とした声は、おそらく女性のものだろう。彼女の質問に俺の口はただの記憶の制止の効かない排泄機構となり、頭に浮かぶあらゆる映像を流していく。
 初めの記憶。思い出したくもない忌々しい過去のその先にある、自分から引き出せないような類の記憶。幼い頃、母親(なのだろうか?)に連れられて歩いた自分の後ろ姿や夕日に染まったその道。
「それは現実に貴方が体験したものではありませんね。私たちが知りたいのは貴方自身の体験であり、貴方を眺めるような想い出ではありません。」
 冷たいな。こんな第一印象も、この口は流してくれた。
「そのように思ってくれてもかまいません。あなたが私をどう思おうと私は構わないので」
 女は淡々と吐き捨てて、質問を再開させた。
「自分で見ているそのままの記憶は?」
 その言葉に目の前にいた誰かが頷き、俺によくわからない言葉で話しかけてきた。……いつか訪れた家の映像が、浮かんでくる。その家から出てきた見知らぬ人が、何か音を出している。そうだ、俺は養子だった。6歳頃で里親に預けられたときには、言葉も分からなかったと後で聞いた。
「……これが一番古いもののようです。」
 また目の前から音が聞こえた。一瞬現在の感覚にもどった意識が言葉を認識する。
「そうですか。ところで、彼らはなんと言っているか解りますか?」
 たった今思い出された記憶の音を今の感覚に照合するが、わからない。
「覚醒しかけて過去と現在の区別が曖昧になりつつあるようです。」
「かまいません。さて、聞いてみるとしましょう。その記憶を今見ることができて、何を思っていますか。」
 あなたたちがこんな事を訊いて、一体何の意味があるのだ。
「意味ならあります。それが貴方の最古の記憶であるのなら、それが貴方の始まりであり以前は存在しなかったかもしれないと。」
 だからそれがどうしたというのだ。これを知って、そもそもどうして俺がホムンクルスかどうかと区分けできるのか。
「上の世界で合成される生命体……ホムンクルスには、色々な形態を私たちは確認しています。その中に、人型もありました。そのため外見では区別出来ない以上、それの持ってる記憶を手がかりにそれらを区別するしかないのです。――生体である以上経験は重ねられ、記憶となる。そして生命体としての活動期間が短いためホムンクルスは記憶をほぼ保有できないようにされている。まっとうな記憶があるのなら、ホムンクルスではないとされるのです。」
 では、俺は――
「いえ、しかしそれも確実ではありません。約5年ほど前に捕獲した集団の中に明らかに成体でないものが1体おり、他が寿命で死んだ今も彼女だけはいまだ存命です。成長もしています。このように、寿命が他と外れた存在も確認されています。」
 ……。
「しかしながら貴方がホムンクルスであるという可能性は大分下がりました。行動制限も大幅に解除されるでしょう。」

 

建物を出て、施設外周の道を歩く。
左を見ると、高い高い金網がそびえている。その上にはぐるぐる巻きになった有刺鉄線が張り巡らされて、この壁を越えることを拒んでいた。
この触れれば縫えない怪我を負う紐に括られたこの施設だけが、今の俺の世界。
飼いならされた脆弱な鳥のような俺は、ここを抜け出したって食べていく当てなんかない。
結構な距離を歩いて捕虜収容所へと帰った。
もとい、ぼろぼろの鳥かご。
気配のない空間が目立つ今の寝床。おそらくは永久に、ここから出ることはかなわれないだろう。
看守に連れられ独房へと入ると、暗い部屋の中に浮かぶ白い形が目に付いた。
封筒……?
看守が鉄の扉を閉める重く冷たい音。彼はこの封筒のことに関して何もいわない。俺はその封筒を開けた。

 

通達
   カーゴ・ヴィラルツ囚
貴公をホムンクルス第1研究班研究員として任命する。
ついては、早急に施設内第2研究棟へ出向すること。

 

現在、こちらの世界は俺がもといた上の世界――第4世界と戦争状態にある。
上の世界は生体工学による人造生命体「ホムンクルス」を兵力として投入し戦争を仕掛けているのに対し、こちらの世界は発達した機械工学による強力な兵器を用いて対抗している。
その争いから逃げた俺に――関わる権利なんかないというのに。
手紙は、しかし逃げることを許さないと告げている。

first wrote2006/3/11
  •  12個の世界が縦に円を描いてつながっているとかいうわけの分からない設定を基にして書きましたが、設定がしっかりしていない分うまくまとまりませんでした。ぐっと来るものはないだろうな~。とか言ってたら採用されちゃいましたね。 -- 月見里 2007-03-17 (土) 20:54:56
  • いろいろと設定を変更しました。結構重要な変更も含んでいるので、矛盾が生じる点があれば指摘お願いします。 -- 月見里 2007-04-08 (日) 10:34:31
  • 線以下のしめの部分誰かお願いします -- レト? 2007-04-15 (日) 22:37:51
  • どうやら学校のパソからは編集できるみたいなんで、早速編集。しかし線以下は編集しなかった人。 -- カロル 2007-04-17 (火) 16:22:17
  • 編集しました。またしても設定付加。手直しお願いします。 -- 月見里 2007-04-22 (日) 13:20:29
  • 軽くいじりました。詳細は差分参照。 -- レト? 2007-04-22 (日) 18:32:39
  • えと、完成? -- 月見里 2007-04-30 (月) 22:07:57
  • 自分はもう編集するべきところを見つけれません -- レト? 2007-05-09 (水) 18:16:35