D-3-霧隼翔
「これは……」
D-4にあいた穴から垂れていた縄梯子を登り、コクピットについたセトは思わずため息をついた。
ちょうど人が手足をいっぱいに伸ばして振りませるくらいの大きさの球。レバーやボタンの類は一切なく、ただ球体の底にたくさんの輪が付いた金具がつながれているだけだ。
[セトエルク・ベルセーリウスさんですね?]
どこからともなく、いや、球全体から青年の声がする。
「そうだけど。」
[私はこの機体、D-4のAI、ヴァルです。]
ウウウン…という甲高い起動音とともに、コクピットに明かりがつく。そして、内壁全体に、外の景色が映った。
「全天モニター……凄いや。」
[お誉めの言葉、有難うございます。さっそくですが、足もとの金具の中で、一番根元にあるものを足につけてください。]
セトは言葉に従い、ちょうど球体の底に張り付くようにある長方形の板…サンダルのようになっていて、ちょうどマジックテープに当たる金具が二つある…その金具を、足に止めた。
[オペレーターの接合を確認。モビルトレースシステム、起動。]
突然足に取り付けた金具が持ち上がり、セトは球の中心まで押し上げられる。
「おわっ?!」
セトが事態を理解する暇もなく、足の金具につながっていた残りの金具が動き出し、セトの胴体や四肢にとりついた。
[これより、その金具が感知した動きを私がトレースします。私が受けた抵抗も同じく、あなたにトレースされます。]
その言葉を聞いて、セトは苦虫をつぶしたような顔になる。
「それって…敵に関節技とか決められたら……。」
[ご安心ください。このシステムがトレースするのは人体の関節が動くことのできる範囲です。]
「あ、そう……」
セトは胸をなでおろした。
[皆さん。]
今度は女性の声。グレイだ。
[セットアップは済みましたね?現在、巨大ホムンクルスがこちらへ進攻中です。本部が確認した熱源は4。いきなりですが、皆さんにはその機体で出撃してもらいます。]
グレイがそう言い終わると同時に、シュン、という音が頭の上でした。
見上げると、頭の上にあったらしいハッチが開いている。
[基本姿勢設定…膠着姿勢…ハイドロ、動圧共に正常……関節部、正常。装甲損傷率、0%。モビルトレースシステム、オールグリーン。]
セトにつながれている金具が動き、セトもそれに合わせ正座をして背中を曲げ、手をだらんと垂らすような姿勢になった。
[出撃ハッチ、解放。Dシリーズ、発進!!]
グレイの声がコクピットに響く。
それと同時に、セトの体をすさまじいGが襲った。
「うおっ……」
[地上まで出たら、この機体は慣性で空中へ投げ出されます。そうなったら手足を動かしていただいて構いません。着地してください。]
ただひたすら灰色の景色が、下へ下へと流れていく。
[地上へ出ます!]
その言葉と同時に、全天モニターに光があふれる。外だ。
外から見ると、4機の巨大ロボットが正座をした状態で地面から飛び出ていることになる。
ズズン!!
それぞれがそれぞれの姿勢で、着地した。
[やれやれ、もっと優雅にはならないのかな。要塞都市が欲しい、なんて贅沢は言わないけど。]
きざな声。右を見ると、ディアンの機体、D-1が肩をくすめている。
見たところ普通の山の中腹だ。が、足もとには機体が正座できるくらいの面積の鉄板があった。山の周りには、高いが機体に比べればさほどでもないビル街がある。
[ゼータク言ってんじゃないわよ。かっこいい所なんて、戦闘中に見せればいいの。]
すぐ隣で、アレス、つまりD-3が腰に手を当てて言った。
[……来た。]
ほとんど聞き取れないような声。ラティの機体、D-2が正面を指差している。
その言葉通り、ビル街の向こうに市街を破壊しながらやってくる異形の者、ホムンクルスの姿があった。緑色のうろこに全身を覆われた、人の形をしているが人ではないもの。
その時、スピーカーからグレイの声がする。
[周辺住民の避難は完了しているわ。目標の殲滅を最優先に。]
[言われなくたって!!]
アレスが跳躍する。そしてビルの合間をかけぬけ、ホムンクルスへと一直線に向かっていった。
[さて。]
ディアンも山の頂上へ登り、しゃがみこんで背中に装備されていたライフルを構える。
ポン!!
軽い音がして、ディアンのライフルが火を噴いた。先のとがった貫通弾……機体と比べると普通のサイズだが、その口径は400ミリを軽く超えている。そんな弾はまっすぐ飛び、数百メートル先にいるホムンクルスの脳天を貫いた。
[ひとつ。]
ディアンの言葉とともに、崩れ落ちるホムンクルス。
「ほらほらほら!かかってきなさい!」
ほとんど意味もなく外部スピーカーから大声を出しながら、崩れ落ちたホムンクルスすぐ横を赤い機体がかけぬけていく。
その音を聞きつけた一体のホムンクルスが、アレスのほうへと走り出した。
ホムンクルスはこぶしを振りかぶり、アレスへ襲いかかる。
ズバン!
次の瞬間、肉弾相打つ音とともにホムンクルスは空中で一回転半していた。
ズズン…と地響きを立てながら背中ら地面に落ちるホムンクルス。土煙りがもうもうと立つ。
立ち込めた土煙りが晴れると、赤い機体が独特のポーズをとっていた。胴体を横に向け、左手を正面に突き出し、手のひらを90度に曲げ、手の甲を自分のほうにむけている。右手は顔の後ろの上のほうで、螳螂の鎌のように構えている。
ホムンクルスが起き上がり、再びアレスに襲いかかろうと走り出した。
「らっしゃあああああああああ!」
意味不明の奇声とともに、今度はアレスが右手を振り上げる。
手のひらを開き、掌底…ではなかった。ホムンクルスの腹に手のひらが当たるとともに、ズドンという鈍い音。
ホムンクルスの背中から出ている、銀色の金属…。
次の瞬間、その部分から緑色の血液が噴き出した。
アレスが腹から手を放す。手のひらからは刀のような金属が飛び出していた。
ズガン!
アレスが刀を腕にしまうと、また別の方向で大きな音。
ラティがホムンクルスに吹っ飛ばされ、ビルに叩きつけられていた。
「ラティエルさん!?」
セトが叫ぶ。
「大丈夫だよ。彼女は強い。」
駆け出そうとしたセトを、ディアンが止めた。
「え…?」
セトは再びラティの方向を見る。
ラティは、背中の大剣を振りかぶりホムンクルスに襲いかかっているところだった。
―――斬
袈裟がけに、ホムンクルスに亀裂が入る。
派手に血しぶきをあげ、真っ二つになるホムンクルス。
[ね、言っただろう?]
ディアンは両手を肩のところで広げ、首を振った。
[さあ、次は君の番だ。]
「え?」
最後の一体が、市街地に侵入しようとしている。
……戦う。17歳で軍に入り、訓練だけしかしていない自分が。しかも、見たことも聞いたこともないような機械に乗って。
……できるだろうか?できなくても、ここには3人の仲間がいる。できなくても、仲間が始末してくれるだろう。
だけど。
[このまま見せ場もなしにひきさがるの?]
アレスの声。
……そうだ。このまま……
「引き下がったら恰好がつかない!!」
セトは走り出した。
「ヴァル、武器は!」
[シュレイドナイフ二本に、ハードポイント対応のサブマシンガンが二丁。]
「出して!」
その声とともにD-4の両肩からナイフの柄が飛び出し、腰のフレームが二つに分かれ、そこから、銃身に接合用の溝のついたサブマシンガンがあらわれる。
セトは両腕のハード・ポインタに銃を装着し、肩のナイフを取り出し逆手に握る。
左手をまっすぐに突き出すセト。ヴァルがその行動の意味を理解して、サブマシンガンの引き金を引いた。
ガガガガガン!
大量の銃弾と薬莢を吐き出すマシンガン。
しかし、その銃弾はホムンクルスの手の甲……最もうろこが固く鎧のようになっている部分にはじかれた。
「くっ……!」
ひるまず、セトは右手のナイフを振りかぶる。両刃のナイフの刃の部分についたチェーンソーが音をたてて回転する。
ホムンクルスが腕を水平に払った。セトはそれを体を沈めてかわし、左脇腹にナイフを突き立てた。
ギイイイイイイイン!
チェーンソーの刃と、その小さな刃の間の極小の隙間から出る高圧の水が、ホムンクルスの鱗を削り取り、肉に到達する。
セトはその状態のままで、自分の体ごと思いっきりナイフを右に移動させた。
当然、ホムンクルスのちょうどへそにあたる少し上の腹部に、大きな裂傷ができる。
セトは大きく後ろに跳躍すると、まだ弾の充分に残っている右手のサブマシンガンを構えその裂傷部分に、薙ぐように銃弾を浴びせた。
真っ二つになるホムンクルス。
[敵の殲滅を確認……]
グレイの声が、静かにコックピットに響いた。
- 感想。2ページ目のファーストコンタクトのシーンが、一度にいろんな設定があふれてて冗長だけど、それ以外はいい感じ。ただ、問題が3つある。巨大ホムンクルスって言うのは記憶における上の世界の方針にそぐわにというのがひとつ。ラティエルは星座を司る天使の名というが、星座も天使も概念から存在しない(かもしれない)というのがひとつ。巨大ロボによる近接戦闘でも結局被害が変わらないんじゃないかっていうのがひとつ。てか、影響受けすぎだろ。。 -- 月見里 2007-04-12 (木) 20:22:40
