奇声規制法(きせいきせいほう)は、2021年に施行された法律。日常生活のあらゆる場面において、奇声を上げる行為を制限するものである。
概要
奇声とは、日本語に特有の表現方法であり、人が意図せずに発声してしまう音のことである。本法では、その目的として以下の2つが挙げられている。
この規定により、カラオケボックスや飲食店などの個室では大音量で音楽を流すことができなくなり、また路上で奇声を上げたり、他人を驚かせる目的で奇声を発することも禁止された。これにより、日本のエンターテインメント業界は大きな打撃を受けることになる。
成立の経緯
2019年6月21日、内閣総理大臣・菅義偉が定例記者会見の中で、奇声規制について言及。同年9月1日に施行される改正健康増進法により、屋内における受動喫煙防止に関する条項が追加されたことに合わせ、屋外においても公衆に対して著しく不快感を与える言動を禁止するためのものと述べた。
同月30日には、東京都知事・小池百合子が定例記者会見で同様の趣旨の発言を行ったほか、大阪府知事・松井一郎も同日の記者会見で同様の趣旨の発言を行っている。
同法の施行前に、すでに条例によって規制されていた事例もあったことから、7月26日に衆議院本会議にて全会一致で可決され、成立した。なお、成立に際して国会内で反対票を投じたのは野党議員のみにとどまった。
内容
本法は、日常会話などにおいて他者に対する不快感を与えたり、不安感を与えたりするような声を発した場合、罰金100万円以下の刑に処すると定めている。また、特定の商品の広告宣伝活動に関しては、その声を発してはならないとしている。
奇声の定義については、厚生労働省によるガイドラインを参考にしており、以下の条件を満たすものに限っている。
ただし、本法によって規制の対象となるのはあくまで他者への不快感を与えることであって、他者から奇異の目で見られることや、不審者扱いされることではない。そのため、たとえば選挙演説の際に候補者の名前を連呼したり、自分の意見を訴える際に大声で叫んだりする行為は規制の対象となっていない。
また、奇声が他者へ与える影響度に応じてランク分けされており、以下のように定められている。
- 1級:騒音レベルの奇声(周囲の環境が著しく破壊されるおそれのある声量)
例)「うるせーぞ!」「○○死ね!」「日本から出て行け!」 - 2級:他人の行動を阻害するような奇声(周囲への影響が少ない声量)
例)「がんばれ! 頑張れ!」 - 3級:不快な奇声(他者に不快感を与える声量)
例)「あ~ん♡」「キャハハーッ」 - 4級:その他社会的被害を及ぼす恐れのない程度の奇声
- 5級:その他社会生活に支障をきたすおそれがない程度の声量
影響
この法律が施行されたことにより、日本中のエンターテインメント業界に大きな衝撃が走った。カラオケボックスや居酒屋などでは、室内で大音量の音楽を流すことができなくなったことで売り上げが激減し、飲食店でも客離れが進んだという。
一方で、飲食店においては従業員同士のコミュニケーションが取りづらくなったほか、路上での大騒ぎが減ったことにより、警察の負担も軽減された。
また、政治家にとっても大きな打撃となった。特に東京都知事の小池百合子は、東京都議会第一党である都民ファーストの会の幹事長でありながら、自らの政策に反対する議員に対し、「私どもの声で、この法案を廃案にするわけにはいかないんですか?」などと、露骨に嫌味を言うようになったとされる。
さらに、お笑い芸人にとっても同様である。彼らの多くが所属している芸能事務所の多くは、事務所内の空気がピリつき、居心地が悪くなったと述べている。
このほか、芸能界では、奇声を上げながら歌うパフォーマンスを披露する歌手やダンサーが減少した。
また、一部のネットユーザーの間では、この法律をネタにした大喜利が流行っているともいう。一例を挙げると、次のようなものがある。
(前略)
奇声規制法「ヘイヘーイ!」
←奇声じゃありません。普通です。
(中略)
奇声規制法「ウヒョー!」
←奇声ではありません。普通の叫び声です。
(後略)
こうした反応に対し、菅政権は「表現の自由に抵触する恐れがあるため、政府としてはコメントを差し控える」との声明を出している。
その一方で、この法令の施行により、奇声を上げること自体が一種のエンターテインメントとして成立するのではないかという意見もある。
例えば、以下のような例がある。
- 「俺の名前は○○だぜぇい!イェアァッ!!」
- 「お兄ちゃん大好きぃっ!! チュッチュッ♡」
- 「この世の全ての物質よ……消えろぉおおおっ!!!」
- 「お前、何しに来たんだよwww」
- 「おい、そっちのけで盛り上がってんじゃねぇよw」
- 「ヒャッハーッ!!」
- 「ウェーイッ!!!」
- 「キェエエアアアッ!!!」
- 「オゥラオラ、テメェの罪を数えろォッ!」
- 「うひょほー!」
- 「おいっ、そこ邪魔だからどけっつってんだろうがッ!」
- 「ウォオオオッ! シャバドゥビダバー♪」
- 「俺の屍を越えてゆけッ!」
- 「ブヒィッ! ブヒィーッ!」
- 「プギャーm9(^Д^)m9(^Д^)」
- 「あっ……ふぅん……」
- 「ヤバイよヤヴァイヨ」
- 「わぁい! わぁあい!」
- 「ドコニイルノカナ? ワタシ、ミエルカシラ?」
- 「グハッ!? ゴホッ、ゴホ……ウェッヘッヘ……!」
- 「フハハハハハ!!! 愚かな人間共め……我が力を思い知るがいい!!」
- 「え、えっと……こ、こんにちは。ボ、ボクは、その、あの、その、あ、ああ、あううぅ……(真っ赤になって俯く)」
- 「ゲロゲローッ!」
- 「ウヒョーッ! ウヒョーッ! ウヒョーッ! ウヒョーッ!」
- 「やめてくださーい! それ以上近づいたら撃ちますよ! 本気ですよ! 本当に撃つからね! わかってんのか、ゴルァッ!」
- 「ウヒョーッ! ウヒョーッ! ウヒョーッ! ウヒョーッ!」