黒騎士一行の旅立ち

Last-modified: 2020-01-19 (日) 21:48:12

Written by ルナリエル ---- //
「ただいまー」
「おかえりなさい、ヘズル」
一息吐いて端末から帰還者へ視界を変えると、そこにはアンテナの折れたイグナイトの頭部を小脇に抱え、ボロボロのアーマーで帰ってきたヘズルがいた。
「どんな激戦してきたんですか?」
女性は表情を崩し、たじろぐ。
「おう、サレナ。今日は大漁だ」
サレナは外に置かれた運搬用車両に山と積まれた半壊、一部融解したボルトレックスに、胴を真っ二つにされたイグナイトのアーマーを見ると、踵を返しヘズルの元に駆け寄る。
「ヘズル!アナタ両方同時に使いましたね!!」
ぺたぺた、と全身を触れながら見て回る。
「そうでもしないと勝てなかった。こっちはヘキサギアもなかったんだぞ」
「まあ、アーマーの方に負荷が行くようにしておいたので、いつかはこうなるとは思ってましたけど…」
「君は女性と暮らしていたのか」
「ちょっ!、このイグナイト生きてるんですか?!」
「おう、やっと来た協力者だ」
ニンマリと笑うと、ヘズルはイグナイトの頭部をサレナに向ける。
「ありがとうございます!えーと」
「私の事はシルバと呼んでくれ」
その名を聞いてサレナは目を丸くする
「な?」
「奇跡です…」
「話は大体聞いている。私も彼の協力をすると決めてから、禁を侵す覚悟は出来ている」
ヘズルとサレナは見合って頷く
「私の事より、ヘズルのアーマーをなんとかしなければな」
「ああ、シルバのアーマーを使わせて貰う」
「もう一着だけポーンA1あるので、それと上手く合わせましょう」
「そーだ、サレナ。本部にイグナイトとボルトレックスぶっ倒したって連絡しといて。なんか補給くれるかもだから」
「私のデータから、私とボルトレックスの個体番号を送れば十分な首級になる筈」
「わかりました。後で入電しておきます。って、ヘズル、イグナイトのアーマー弄りたくてウズウズし過ぎです」
「それもあるけど、まずはシルバを俺達のヘキサギアとの融合もやらなきゃだし」
「私は先にアーマーを都合した方が良いと思うぞ。もしかしたら私はゾアテックスに負けてしまうかもしれん。そうなったらイグナイトのアーマー改造の手助けは出来んぞ」
「シルバの言う通りですね。ヘズル、先にアナタの新しいアーマーをなんとかしましょう」

端末をアーマーに繋いでアーマーの状態を確認する。
「斬り飛ばしたアンテナと、融解したスタニングランスは再利用出来そうにないから捨ててきた」
「イグナイトの特徴ほぼ皆無じゃないですか。あ、マウントアームもダメですね」
「カウンターバックラーを手持ちにするしか無いな。これは衝撃にも強い。鈍器として殴りつけても大丈夫だ」
シルバが提案をする。
「そうだ、私を早く他に転送してくれ。このヘルムのアンテナも改造せねば」
「おお、了解」
「視界があるやつにしてくれ。頼むぞ」
わいわい、と三人で話しながらの改造が始まる。
「汚れたり、塗装が剥げてたりしてるのみっともないですね」
「なんか塗料あったっけ?」
「探してきます」
「ヘズル、武器は?」
簡易的なヘキサギアの頭部を作成し、シルバの情報体はそちらに移されていた。
「バイブレーションソードくらいしかない。ゾアントロプスの市場にあるかな…」
「ヘズル、黒がありました」
ペイント缶2つを持ってくる。
「黒か。まあ、良いか」
「ヘズル、君の戦い方を見てると戦術刀を勧めたいのだか、どうだ?」
「戦術刀か。良いかもしれない」
「市場、見てきたらどうですか?シルバとわたしで形にしておきます」
サレナに言われて考えるヘズル。
「あー、おやっさん所に開発中止になった試作品の戦術刀があったな…ボルトレックスの部品売って買ってくるわ」
「ボルトレックスの装甲を少し置いていってくれ」
手を上げて応え、仮設基地を出るヘズル
ヘズルを見送ると、サレナは端末で性能やデータを見る
「こんなに?!ポーンA1なんて束になっても敵わない」
「耳が痛いな…」
「わたし達の作ったサーチデストロイは、見た目こそポーンA1ですけど、初見での撃破は無理ですよ。どんなゾアントロプスが来ても、エクスパンダーが来ても負けません。ただ、一回使用でダメになりますけど」
「見敵必殺。あのアーマーはそんな名称だったのか」
「それと、もうここは重要度が低いんでしょう。一体でしか巡回に来ないことを解った上でだからこそ、戦闘後の事を考えなくて良いアーマーが作れたんです」
「成る程。と、言うことは、次からが問題か」
「そうですね。格上の撃破。これは今回だからこそ、共振励起とレイブレードの両方が出せたからこそ成せた結果。ヘズルには、この新しいアーマーを早く使いこなして貰わないと」

一方その頃

ゾアントロプスの市場に着いたヘズル。結構な人が居て、色んな物を売買している。
ヘズルは車両を武器、兵器を扱っている店へ向かう。「ようヘズル。今日は大漁じゃねぇか」
「おやっさん。ちょっと物要りでさ、戦術刀ないかな」
運搬用車両を停車し窓から顔を出して初老の男性と話す。
「戦術刀?またなんであんな扱い辛いモノを」
「俺の戦闘スタイルに丁度良いんじゃないかってアドバイス貰ってさ」
「モノケロス用の試作品がある」
「マジか。んじゃさ、ボルトレックスのプラズマキャノンと交換でどうよ?」
ヘズルは車両を降りて、荷台に上がり、飛散防止用のシートをはがし、プラズマキャノンを男性に見せる
「ボルトレックスぅ?ヴァリアントフォースのじゃねぇか」
「ああ。イグナイト共々倒した」
「はぁ?お前、ポーンA1しか持ってないだろ?ヘキサギアだって部品不足だった筈だろ?!」
「まあ、それは企業秘密」
男性はプラズマキャノンを受け取り
「しっかりと手入れがされてるし、ほぼ無傷。これは相当の手練れだった筈」
訝しげな目でヘズルを見る。
「お前の住んでる所…確かヴァリアントフォースの」
「そうそう。旧研究所みたいな所で、たまにセンチネルが来る」
「アーマーはどうするんだ」
「イグナイトを改造する」
厳しい目付きになる男性
「戦術刀はこれと交換で大丈夫だ。逆に処分費を渡したい位だ」
こっちだ、とヘズルを案内する。
薄暗い室内。油と焼けた金属、火薬の匂いが混ざりあっていて、思わず鼻を覆う。
「これが試作荷電式大型戦術刀『稲妻』だ」
その刀は、店の奥で異様な存在感を放ち、そこに居た。
「長いな。俺の身長よりも長い」
「何を始めるか知らんが、コレを扱えりゃ大抵のヘキサギアは真っ二つに出来る。
「…おやっさん、これ」
「気付いたか。開発者は狂ってるとしか思えなかったよ」
「レイブレード…」
「モノケロスに装備されてるヤツはレイブレードにはならない。文字通りの速さと威力。そして狂気が込められた『妖刀』だ」
唖然としていたヘズルの表情に喜びが混ざる。
「気に入ったぜ、おやっさん!これ貰ってく!」

荷造りを見守る男性。
「じゃあ、またな!おやっさん!」
「おう。達者でな」
達者、という言葉に首を捻ったが、すぐに車両をサレナ達の元へと走らせた。

「あり物の急拵えにしてはしっかりとしたものが仕上がったではないか」
イグナイトの特徴である、角のようなアンテナの代わりに頭部両側面に付けられたアンテナ、マウントアームは壊れて使えなかった為オミットし、肩、胸部、腰に追加装甲を施し、残っていたツヤありの黒で全体を塗装した。
「なんかテカテカし過ぎてないか」
手持ちに改造されたアタックバックラーも同じく黒で塗装。
「塗装ハゲた所そのままとかカッコ悪いじゃないですか。わたしは気に入りましたよ」
そして、ガバナーより長い戦術刀、稲妻。
「追加装甲イグナイトでは味気無い、リバティ・アライアンスの白麟角の様な名を付けたいな」
「ああ、じゃあ」
「「「黒騎士!!」」」
全員一致だった。

「知ってるか?黒い亡霊の噂」
「亡霊?噂?お前、元人間だったのか?」
その廃墟と化した町で、派遣した兵が次々と行方不明になる事件が起きていた。
「まあ、聞いてくれ。少し前にイグナイトがポーンA1に撃破されたらしくてな」
「イグナイトが?!」
二体のセンチネルはボルトレックスで徐行速度を維持しつつ見周りをしながら会話をしていた。
「ああ。実際戦闘中にネットワークが途切れて、その後にボルトレックスに騎乗して調査に行ったイグナイトとの連絡が途絶えたらしい」
「バカな、どのようなヘキサギアに騎乗していたのだ。そのポーンA1は…」
「そうなるよな。しかしな、最後の映像は不鮮明なんだが、ポーンA1一体のみなのだ」
「不意打ち…奇襲の可能性は低いか」
「そうだな、イグナイトの策敵能力の性能からしてもな」
「ボルトレックスとイグナイトがポーンA1に?」
「格下相手に負けたのが悔しくて死後もさまよっているって話だ」
「フン、馬鹿げた話だ。こんな重要度の低い任務などさっさと片付けるに限る」
黒い影が輝く光と落ちてきたようにみえた瞬間、目の前に居たセンチネルとボルトレックスが真っ二つにされた。
「なっ?!」
黒い影は光る刃を構え直し、残ったもう一体を切り裂かんが為、跳躍する動作をするが、その様を見たセンチネルは全速力で逃亡した。
「しまった」
のしのし、と後ろについた銀のレイブレード・インパルスらしきヘキサギアが、
「ここまでだな。多分、結構な量の戦力で攻めてくるぞ」
喋った。
「一人やられたら即退却か。機械ならではのやり方だ。よし、使えそうなの回収して、荷物まとめて引き払おう」

黒い亡霊の正体が発覚した。
黒塗りの重装甲を施したイグナイトのアーマー、スペック不明の戦術刀に、手持ちに改造されたアタックバックラーを装備したガバナー。リバティ・アライアンスまたはゾアントロプスフリークと思われる。

すぐに討伐隊が編成され、出撃したが、その姿は無く、調査を行った所、人の生活していた後らしきものと、大きな干からびた卵の殻のようなものが複数発見された。

次回予告
ヴァリアントフォースにおいての二つの禁忌。
一つは星を汚染する光の刃、レイブレード。
そしてもう一つは、ヒトである情報体を規定された機械部品以外にダウンロードすること。
次回、銀の獅子