536 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2011/08/25(木) 20:30:39.64
魔獣の「人を絶望させる」という能力により、荒涼としてしまった世界の中で、 一人の少女がいた。 その少女-暁美ほむらは永い時の中で、魔獣と闘い続けてきた。 時間をその手のものにできる魔法を使っていた副作用か、 それとも宇宙の再構築を見てしまったことによるものかどうかは分らないが、 ほむらの肉体は永遠に成長も、老化もしないものとなっていた。 永遠に生き続けることのできるその身体をもってはいたが、度重なる魔獣との闘いにより、 ほむらの体力は尽きようとしていた。
永い時の中で、幾度倒しても減らない魔獣の圧倒的な数とその能力により、 次々と同類の魔法少女達は倒れていった。 魔獣の暴走によって引き起こされる世界の混乱に歯止めがかかることはなく、時が経つにつれ、 人類が次々とこの世界から消えていった。 しかし、世界に人類が少なくなっても、魔獣と戦うものが自分ひとりだけになっていたとしてもほむらは闘い続けた。 その理由は紛れもなく、現世の神であり、最愛の人でもある-鹿目まどかの為であった。
537 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2011/08/25(木) 20:32:14.89
(ほむらちゃんが私を覚えていてくれるから、私は闘える。そして、私が私でいられるの) まどかと別れる前に聞いたその言葉は、ほむらが今まで生きてきた理由と同じであった。 彼女がいてくれたから、戦っていることで彼女のことを感じられ、忘れずにいられたからほむらは今まで戦えてきた。 どんなにその体を蹂躙されようとも、傷だらけになってもまどかの思いに報いるためにほむらは戦い続けていた。 しかし、感情ではどうにかなっていても肉体のほうはついてはいかない。 限界に近かった身体は脱力していき、ついにはその場で倒れこんでしまった。 その身体の傍らには、黒ずんでいくソウルジェムの姿があった。
「ほむらちゃん」 声が聞こえる。 遠い昔からずっと、ほむらが想い続けていた一人の少女の声が。 懐かしい声に耳を傾けながら、ほむらは身体が安らいでいくのを感じとることができた。 遠い昔に聞いた、魔法少女が死ぬ間際に感じ取ることのできる感覚とそっくりである。 そして、夢か、幻か。 目の前には今まで想い続けてきた最愛の人の姿があった。
538 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2011/08/25(木) 20:37:22.90
「ほむらちゃん、もう十分だよ。もう、戦わなくていいんだよ」 声の主であるまどかが、ほむらの目の前に佇んでいる。 ほむらのそばで佇むまどかのその顔は、優しく微笑んでいるようで、泣くのをこらえているような顔でもあった。 「私、こんなに永い間自分でいられるとは思わなかった。こんなに、自分が愛されているなんて思わなかった。」 ほむらが力尽きることで孤独になってしまうことは、自分が存在することができないのと同じである。 自分が消えてしまい、ただの概念となってしまうのは怖い。 神となっても、もともと人間であったまどかにとっては死ぬことは恐怖であった。 しかし、自分の為にここまでつらい思いをさせてしまっているよりかは何よりもいい。 自分がこんなにも愛されていたこと、そのおかげでこんなにも永い時の中で自分を見失わないでいられた。 これだけでも十分幸せだった。 そして、幸せを感じる反面、傷つき倒れているほむらをこのまま苦しめ続けるのだけは、耐えられそうにもなかった。
「今までありがとう、ほむらちゃん。そして、お疲れ様。」
これでほむらちゃんは開放されるんだ。 そう思いながら、まどかはほむらの身体に触れようとした。
539 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2011/08/25(木) 20:44:02.62
ほむらは夢を見ていた。 それは実際には一瞬にも満たない時間ではあったが、ほむらの中ではずいぶんと長い時間のようであった。 その夢は遠い昔の出来事のことであった。
何度も何度も同じ時間を廻り続けて、幾度と無くまどかを守れず傷つけてばかりだったあの時。 そんないくつもの罪を繰り返してきた時があったから、今のほむらがある。 改変されたこの世界ではその罪を償うために。 そして、この世界を守ることはまどかが望んでいた全てだったから、 ほむらは闘い続けていた。 まだこの世界には魔獣が存在し、いまだ平穏なものとはいえないものである。 彼女の願いを果たすための闘いはまだ終わっていない。 まどかの望んでいたことは、この世界を守り続けることだ。
ほむらはそれを果たすまでは、まだ死ねなかった。
540 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2011/08/25(木) 20:47:13.32
ほむらの身体が大きく揺れ動く。 「ごめんね、まどか。やっぱりまだあなたの元へはいけない」 ズシリと重い身体を無理やり動かしながら、ほむらは自らの身体を起き上がらせる。 足元はふらついてはいたが、それでもなんとか動くことはできそうであった。 先ほどまでは目に見えていたまどかの姿が見えなくなっていた。 今までどおり、まどかのことを感じ取ることはできるが、先ほどの姿は幻だったのかと思わせるようにまどかの姿は消えていた。 唯一今までと違うのは、まどかの声が聞こえるようになっているだけであった。 まるでそばにいるかのように。
「なんで、まだ頑張ろうとするの?もう私のことは十分だから。もうほむらちゃんのそんな姿は見たくないよ!」 まどかは必死に我慢していた涙もいつのまにか流してしまっていたが、気にはしなかった。 こうなったら力づくでも、とほむらのソウルジェムに手を伸ばす。 しかし、いつのまにかほむらのソウルジェムの黒ずみは消え、またいつものように淡い光を発していた。 これでは、ほむらを連れて行くことができない。
541 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2011/08/25(木) 20:57:12.90
「私はね、ずっと闘い続けてきて思ったことが色々あるの」 ほむらはゆっくりと歩みだす。 「悲しみと憎しみを繰り返す救いようのないこの世界だけど。いくら闘い続けても終わりが見えないものだけど、 それでもここはまどかが守ろうとした場所だから、私は闘い続けることができる。」 まどかから託された弓を強く握り締め、一歩一歩前へ進んでいく。 「闘い続ける限り私はあなたを、あなたは私を覚えていることができる。こんなに嬉しいことは無いわ。」 今はもう、見ることの出来無いまどかを背にして、自分の思いを言い続ける。 「そして、最後にはあなたに会えるけれど、それはとても嬉しいことだけど、でもそれより一秒でも永くあなたを覚えていたい。 死んでしまったらそれっきりだから。だから私は闘い続ける。」
これは全部私のわがままだけどね、と微笑むほむらには先ほどまでの姿はなく、いつもどおりの彼女の姿に戻っていた。 いつの間にか、ほむらの身体の疲れも回復していた。 穢れが無くなったソウルジェムのおかげだろうか。 その顔は絶望には染まっておらず、希望に満ちたそれと同じものであった。 その姿を見たまどかは、もうほむらを連れて行くことはできなかった。
542 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2011/08/25(木) 21:02:39.35
もはやまどかにはほむらを止めることはできなかった。 自分の為にほむらが望んでいることであり、彼女の希望そのものである行為を否定することができなかったからだ。 まどかにできることは、ほむらをその姿を見届けることだけであった。
「本当に、大丈夫なのね?ほむらちゃん。無理はしてないんだね?」 まどかは確認する。ほむらの意思を。 「ええ、まだまだ私は大丈夫よ、まどか。」 ほむらは答える。まどかのその気持ちに。
「なら、ほむらちゃんを信じる。けど、絶対に無理しちゃいけないからね?今度無理したら強制的に連れていくからね?」 まどかは、自分の不安が消えたわけではない。 今すぐにでもほむらを連れて行きたいくらいであったが、ほむらはきっと強情を張るだろう。 無理はいけない、とはいってもほむらは無理をするだろう。 ほむらがそういう人だということはわかっていた。 ならばほむらの気持ちを優先するだけである。
543 : 名無しさん@お腹いっぱい。 : 2011/08/25(木) 21:04:34.24
「ええ、ありがとうまどか。今日、あなたにあえてうれしかったわ」 たとえいままでのやりとりが幻でも、と心の中で思い先ほどまどかのいた場所に振り向き、そう答える。 まどかのことは見えないが、そこにいることだけは感じ取ることができる。
「じゃあねまどか。私、頑張るから。」 まどかの守ろうとした世界を守るために、ほむらは前へ進んでいく。 「うん。またね、ほむらちゃん。私も頑張るよ。」 その姿を見て、まどかもまた自分の戦いの場へと戻っていく。 かつてほむらが自分を守ってくれたように、ほむらと、数多くのものを救うために。
互いに、遠い約束を果たすために、 今日も彼女たちは闘い続ける。
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