本項では、2022年度の卒業論文を掲載する。
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はじめに
3D-PTV
3D(three dimensions)-PTV(Particle Tracking Velocimetry)とは2009年にチューリッヒ工科大学が開発した画像を用いて三次元的に粒子の位置及び速度を算出する,比較的新しい手法である1).先ず校正板を測定したい範囲の手前と奥の端の2箇所をカメラ2台以上で撮影し,キャリブレーションを行う.次に計測したい流れ場を設定し,トレーサー粒子を投入して高速カメラにて撮影を行う.本研究で使用したカメラでは一度で凡そ5秒程度の撮影となる.
従来のPTVやPIVと異なる点はレーザー光線を使用しない所にある.
計測する流れ
倒木周辺の流れ
倒木は根や枝があることから必ずしも河川底面に存在するとは限らない.即ち,底面から浮かせた状態での流れの研究は殆ど行われていない.また水中に角柱を設置して上下の流速の差を明らかにした研究も限られている.本研究では水中に横たわるようにして角柱を設置し,底面からの設置高さを変化させて上下の流速比と,底面付近の流速の変化を解明する.
第二種二次流
プラントルの第二種二次流は大規模乱流構造の一種で,その強度は主本流の数パーセントに過ぎないが2),横断方向の運動量や物質輸送における役割は大きく洪水後に認められる縦筋群(sand ridges)を形成する3).これに因る土砂排除に巨額を投じる必要な場合もあり,河川管理上重要な現象と言える.河川工学分野に於ける第二種二次流は,開水路に於ける土砂の輸送また並列螺旋流に関連して研究が行われてきた4).一方で第二種二次流の測定には直接計測やPIVを用いるのが一般的である.しかし通常のPIVでは2次元的にのみ観測可能である点や,レーザー光源が高額で扱いが危険であるという欠点がある.本研究ではレーザー光源を用いずに3次元的に計測する方法として3DPTVを用い,第二種二次流の計測を試みた.
研究の目的
本研究では水理分野に於いて,3D-PTV法を適用して運用することを目的とする.また同時に,水中に係留された角柱の底面からの設置高さを変化させた場合の角柱上下の流量の比,及び底面付近の最大流速の値を考察する.また第二種二次流を対象に計測を試み,その流況既往の研究やシミュレーションと一致するか検討を行うものとする.
先行研究
- 3D-PTV計測による気泡噴流の気泡速度と液相速度の計測*1
- Turbulent Flow Field around Horizontal Cylinders with Scour Hole*2
- 幅広断面開水路における第二種二次流の数値シミュレーション*3
研究手法
全体の流れ
水理実験室に設置されている全長約9メートル,幅50センチメートルの滑面固定床可変勾配実験水路を実験水路として用い,3D-PTVソフトウェアとして株式会社ディテクト社のFlownizer3DPTV(以下ソフトウェア)を用い,データの整理及び可視化にはRを用いた.先ず実験水路に一様な流れ場を生成し,キャリブレーション校正板を計測範囲前後でそれぞれ一枚撮影する.次にトレーサー粒子を投入し動画の撮影を行う.撮影した画像と動画をソフトウェアに読み込ませ,各種操作をした後,粒子の位置と速度が一覧となったcsvファイルを得る.そして,別途自作プログラムを用意しRにて可視化及びデータの整理を行う.
倒木周りの流れでの撮影及びデータの整理
倒木周りを想定した流れ場の撮影においては事前にカルマン渦などの周期をシミュレーションした結果,図の通り凡そ20秒周期で交互の渦が発生することを確認した.これを元に時間平均を取るため倍の40秒を撮影記録時間とした.
また倒木については高さ4センチメートル幅5センチメートルのスタイロフォーム角柱を倒木に見立てて水中に横断方向に水平に設置した.この計測結果のデータの整理では5ミリメートル格子で速度ベクトルを描写し,また角柱上流端での主流方向の,角柱上下での平均流速,及び水路底面から5ミリメートルでの流速を整理した.
角柱設置位置は水路底面より2センチメートルから6センチメートルの間で1センチメートル間隔で測定した.
第二種二次流での撮影及びデータの整理
第二種二次流の時間平均は長年二次流について研究を続けてきた木村一郎氏の助言を得て1分程度とし,これを撮影記録時間とした.このデータの整理では5ミリメートル格子で速度ベクトルを描写するのみとした.
実験結果
倒木周りの流れ場について
角柱周りの流速ベクトルと角柱上流端での主流方向速度ベクトル及び角柱上下平均流速及び水路底面から5ミリメートル地点での流速を順番に示す.ベクトル図は水面の位置で切り取っており,y=60[ミリメートル]が水面位置である.また左側が上流,右側が下流である.いずれも流量毎秒0.0049立方メートル,水深159ミリメートル,水路勾配1:1000,水路入り口から6.5メートル地点の条件で計測を行った.
結果として,角柱の上と角柱の下平均流速比は角柱が底面から5センチメートルのときに最大となり,底面の流速は角柱が底面から3センチメートルのときに最大となった.
計測結果について,角柱背面はさらなり,上下についても剥離がみられ,良好な計測結果と言えるものと考える.
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| 図3 角柱上流端での流速,底面から2cm | 図5 角柱上流端での流速,底面から3cm | 図7 角柱上流端での流速,底面から4cm | 図9 角柱上流端での流速,底面から5cm | 図11 角柱上流端での流速,底面から6cm |
下側の流量比と底面から5ミリメートルでの流速をまとめると以下の通りになる.
第二種二次流について
第二種二次流については計測できなかった.以下の図では縦軸が水深,横軸が水路断面方向で,左端が壁面,右端が水路中央部である.計測結果では第二種二次流とは逆向きと思われる流れが記録された.これには水路長の短さが一つ考えられるが,Blanckaertらの研究では本研究と同じく水路の開始地点から6.5メートル地点で測定していることから明確な理由は不明である.
上図はキャリブレーション校正板を水路と平行に設置したが,垂直に設置した計測も行ったが,データ自体が信用できるものとは言い難いものとなった.先ず以下図にキャリブレーション校正板の範囲でのベクトル図を置く.
一見して第二種二次流が見られるように思われるが,さらに詳しく調べるため,次にキャリブレーション校正板の範囲外も含めたベクトル図を置く.
2つの図から分かる通り,キャリブレーション範囲外,特に左側や上側は水路の外であり,水域を逸脱した範囲に計測データが見られ,不合理な結果となっていることがわかる.
考察
略
まとめ
本研究では近年開発された3D-PTVを用いて二種類の流れの可視化について適用を試みたものである.本研究の成果と今後の課題を示す.
1) 沈木に関する計測結果より,河床変動にしはいてきとなる底面付近の流速と,沈木の設置高さの間にはピークを有する特有の関係があることがわかった.
2) 本計測手法は縦断面内の流れに対してはある一定の適用性が示された.しかし不要な点の検出など技術的な課題が未だに多い.
3) キャリブレーション校正板に対して垂直方向の面の流れ場の計測には,大きな誤差が生じる可能性が指摘された.このため,計測したい面に平行にキャリブレーション校正板を設置するなどの工夫が必要であることがわかった.














