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Last-modified: 2015-01-24 (土) 00:39:36

「じゃあボクは野菜を見てくるね」

 

「ええ、私はあのあたりに居るわ」

 

そういって霧切さんは指差した方向に歩いていく。
現在僕たちはスーパーの食品コーナーに居る。つまり、一緒に買物をしているのだ。
と、いっても前もって約束してたとかそういうのではなく、
寮を出るときに偶々霧切さんと鉢合わせて、行き先が一緒だったからせっかくだし、
ということで同行することになったのである。
基本希望ケ峰学園では3食の食事は出るのだが、長期休暇のときは別である。
つまり、今は冬休みなので食事は出ないのだ。
家に帰ることも考えたのだが、妹が高校受験を控えているので、
迷惑をかけないように寮で過ごすことを決めたのだった。
まあ、こんな感じでボクの身の上話は終わりである。

 

「あ、ズッキーニ……、
今日のパスタに入れよう。
…さて、一通り揃ったかな?」

 

献立も決まり、野菜も必要な分をそろえたボクは霧切さんを探すことにした。

 

「確かこのあたりのはず…」

 

霧切さんが指差したあたりに来て、あたりを見渡してみる。
すると、後ろのほうかかズゴゴゴゴゴと、まるで雪崩のような音が聞こえてきた。
何事かと思い振り返ると、そこにはカゴ一杯のカップラーメンと、
それを掴む黒い手袋が見えた。
ボクは、この手袋の主が霧切さんじゃないと良いなぁ…、なんて思いながら顔を上げた。

 

「あら、苗木くん。
もう買うものは選び終わったみたいね。
私も今決めたところよ。さあ、お会計に行きましょう」

 

霧切さんだった。
カゴ一杯に同じカップラーメンをぶち込み、あまつさえ嬉しそうな顔でそれを見ている。
貴重な笑顔をこんなところで使わないでもらいたかった。

 

「えっと……、霧切さんってカップメンが好きだったんだね。
あはは、知らなかったよ」

 

ダメだ、自然に笑えない。

 

「…?
ああ、これのこと?
そういうわけではないのよ」

 

どうやらカップメン中毒とかではないようだ。少し安心した。

 

「私料理ができないのよ。
でも外食だと高いし、時間は掛かるしで続ける気にはなれなくて……、
だから一週間分の食事が安く手に入って嬉しかったのよ」

 

同じカップメンで一週間過ごすつもりらしかった。
流石にそれは不味いと思ったボクは、思わず次の言葉を口走っていた。

 

「それは健康に悪すぎるよ。
なんだったら昼休み中はボクが食事を作ろうか?」

 
 

「…え? いいの……?
迷惑じゃないかしら?」

 

「そんなことないよ!
霧切さんには世話になりっぱなしだし、
それに体調不良でも起こしちゃったら後悔してもしきれないし」

 

「そう……、じゃあお願いしようかしら」

 

そう言って、カゴ一杯のカップメンを売り場に戻す霧切さん。
こんな感じで、ボクは今夜霧切さんの食事の世話を見ることが決定したのだった。

 
 
 

フライパンの上の麺がクリームベースのソースと絡み、良い匂いをあたりにまき散らかす。
ボクはあらかじめ炒めておいた野菜をそれに混ぜ、軽くさえばしでかき混ぜる。

 

「うん、こんな感じかな」

 

ボクは2人分の夕食を作り終わり、それを2枚の皿に盛る。

 

「運ぶのは手伝うわ」

 

「あ、…うん。ありがとう、霧切さん」

 

「礼を言うのはこっちのほうよ」

 

霧切さんと2人で料理を運び、食卓につく。
なんだか家族みたいである。いや、他意はないよ?

 

「いただきます」

 

「はい、召し上がれ」

 

出来立てのパスタをフォークに絡めて口に運ぶ。
うん、おいしい。
ソースは市販のものだが、野菜が取れる上に簡単なパスタは1人暮らしの友である。
ふと、霧切さんの方を見る。

 

「……」

 

フォークを手に固まっている。
既に一度口に運んでいるようなのだ。もしかして口に合わなかった?
カップメン大好き疑惑がボクの脳裏をよぎるが、霧切さんは基本嘘はつかない。
だとすると、どうしたというのだろうか?
先ほどまで特に体調が悪いとか、そんなそぶりはなかったが…。

 

「あの…霧切さん…?」

 

「…苗木君」

 

「あ、うん。
どうしたの?口に合わなかった?」

 

「私は今始めてあなたを尊敬したわ」

 

「あ、不味かったわけじゃないんだね」

 

良かった反面、なんだかとても残念な気分だ。
まあ、超高校級の高校生(つまり普通の高校生)のボクが、
その世界の一流の人たちから尊敬を集めれるはずもないのだけど…。

 

「でも、霧切さんが料理が苦手なんて意外だなあ、
なんとなく、何でもできるイメージがあったから…」

 

「苦手じゃないわ、できないのよ。
手のことで避けていたら完全に機会を失ってしまったわ」

 

「手って…、前話してくれたあれのこと?
部屋の中なら誰も見てないから外せると思うんだけど…」

 

確かに手袋を着けたまま料理はやりづらそうだけれど、
もしかしたら手袋の下が何か関係しているのだろうか?
あまり詮索したくはないのだが、つい口から言葉が零れ出てしまう。

 

「理由は色々あるけど半分意地みたいなものよ。気にしなくて良いわ。
それとも苗木君は私の家族にでもなってくれるのかしら?」

 

あ、ボクをからかう時の霧切さんだ。
つまり、この話題は特別地雷とかではないのだろう。
だったら楽しい会話をするのも悪くないかな。

 

「ボクは是非とも申し出たいんだけど、学園長が許してくれるかどうか…」

 

「あら、嬉しいわね。
だったら2人であの悪の根源を倒しましょうか。
苗木君の家族になるのは楽しみだわ、おいしい料理が食べ放題だしね」

 

「…ボクの価値って料理だけなんだね」

 

しかも、それも人並みだし。
少し凹んだふりをしてみる。

 

「そうは言ってないわ。
そうね、例えば……私より身長が低いところとか素敵ね、可愛くて」

 

「それはありがとう。
ところで出口は後ろだよ」

 

「…冗談よ」

 

おかしそうに笑う霧切さん。
めったにこういう会話をする機会がないからとても新鮮だ。
自然とボクも笑いがこみ上げてくる。

 

「まあ、ボクも冗談なんだけどね」

 

「ひどいわっ!家族になりたいなんて言葉で騙したのね、信じてたのに…」

 

「えー……、流石に無理があるよ霧切さん」

 

今ので騙されると思われてるならちょっとショックだ。
どれだけ馬鹿だと思われてるんだボクは。

 

「ふふふ…、でも嬉しかったのは本当よ。
久しぶりに楽しい食事ができたわ。ありがとう苗木君」

 

「どういたしまして」

 

暖かい空気が流れる。
なんだかとても穏やかな気分だ。

 

「ご馳走様。洗い物はやっていくわ」

 

食事を終えて、食器を片付ける霧切さん。
手袋の件もあるし、水仕事を任せるべきじゃないだろう。
ここは止めることにした。

 

「いいよ、水に浸しておいてくれれば」

 

「流石にそれは悪いわ。
私としても収まりがつかないし…」

 

「いいんだって!
大した手間じゃないしさ。
それよりさ、お願いがあるんだけど…」

 

「…なにかしら?」

 

いまいち納得のいってない表情で霧切さんが振り返る。

 

「明日から料理を手伝ってくれるかな?
簡単なことから始めようよ、僕の負担も軽くなるしさ」

 

多分、こういう言い方をしないと彼女は納得しないだろう。
そして、その後ボクの本心を彼女にぶつける。

 

「それに…、2人で食事をするのも楽しかったし、
できれば冬休み中は一緒に食卓を囲みたいなあ、なんて」

 

うーん…、少し恥ずかしい台詞だ。
でも、妹の受験とか言って格好つけてたけど、実際は軽いホームシックなのだ。
霧切さんも、ボクの本心を読み取ったのか、食器を水に浸してこちらに戻ってくる。

 

「そういうことなら仕方ないわね。
私はおいしい食事にありつけて、料理を覚えれるし、
苗木くんは手間が省けて、楽しい食事ができる、と。
一石二鳥だわ、断る理由がないわね」

 

「あはは、
うん、そうだね。それじゃあこれからよろしく」

 

「ええ、よろしく。
……それと、苗木君」

 

霧切さんが机を挟んで正面に座り、今日見たどんな笑顔とも違う笑みで、
ボクに笑いかけてくる。

 

「ありがとう」