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Last-modified: 2014-12-13 (土) 00:38:21

「ぱんぱかぱーん!納涼!夏の肝試し大会ぃ~」
「いっえーい!!」

 

夏も真っ盛りとなったある日、ボク達78期生は肝試しという名目で希望ヶ峰学園に集められていた。
ちなみに発案者は桑田君と江ノ島さん。
……二人とも、こういうの好きそうだからなぁ。

 

「さーて、そんじゃちゃっちゃと説明すんぞ。ルールは簡単。二人一組になってこの学園のあちこちに設置されたチェックポイントを廻ってくるだけだ!」
「折り返し地点に鈴が置いてあるから、必ず持ってくることー。あ、ちなみに男女ペアは確定だかんねー」

 

男女ペアか……誰になるかな?
集まっている女子達に眼をやる。
こう言ったらみっともないけれど、あんまり幽霊とか得意じゃないし、頼りになる人だといいかも。
例えば……大神さん。
いつものように瞑目しながら腕組みしてるけど、唇の端をうっすら吊り上げている。
『ふ……幽霊か、面白い。我も一度手合わせしてみたいと思ったいたところよ』っていう顔だな、きっと。
なんて頼りになる人なんだ。
後は、セレスさんとか……ニコニコしながら聞いてるな。怖がる素振りすらない。
――ん?あれは……糸で釣らしたコンニャク?それを葉隠君の首筋に……あ、気絶した。……やっぱナシで。
他は……

 

「――私が1番ね」

 

声のした方を向くと、丁度最初に女子のクジを引いていた霧切さんがクジを掲げてそう言っていた。
霧切さんは流石だな。顔色一つ変えないで平然としてる。
やっぱり霧切さんみたいに冷静な人とだと、一番安心できるかもしれない。
それに……その、霧切さんとなら、苦手な肝試しも少しは楽しめるかもしれないし。

 

「ほーれほれ、苗木の番よ~」

 

そんな事を考えていると、クジの入った箱を揺らしながら江ノ島さんが近づいてきていた。
どうやら男子もあらかた引き終えていたらしい。
ええい……ままよ!

 
 
 

見事に1番を引き当てたボクは霧切さんとペアを組み、肝試しの先陣を切ることになった。
……やっぱり、ボクの才能って超高校級の不運なんじゃないか?

 

「う……それにしても、結構雰囲気出てるね。霧切さん」

 

夜の校舎というシチュエーションは、それだけで見慣れた学園を異質なものに変貌させている。
二人の靴音だけが響く廊下や、懐中電灯の頼りない明かりで照らされる校舎は、ふとした拍子に思わず時々身震いをしてしまうほどだ。

 

「……幽霊なんてものは、所詮人の脳が作り出した幻影よ。そんなに怖がらないで」
「でもさ。ほら、昔から学校って怪談の舞台になりやすいよね。七不思議とか」
「多感な時期のティーンエイジャーが集まっているのが学校という物だもの。そういった話の一つや二つ、出てもおかしくはないわ」

 

霧切さんは実に的確に幽霊の存在を否定していく。
と、まぁ、そんな事より……。

 

「霧切さん」
「何?」
「その……ちょっと……歩くの……早く、ない?」
「そうかしら」

 

そうかしら、じゃない。
霧切さんの歩く速度は、既に早足を越え、もう小走りと呼んでいいレベルになっている。

 

「そ、そんなに急がなくても」
「時間は有限なのよ。苗木君にはいろいろと足りないものがあるけれど、何より早さが足りないわ」
「そんなどこぞの兄貴みたいな……って、霧切さん、待ってよー!」

 

つかつかつか、と機械じみた速度で脚を動かす霧切さんを追い、ボクも駆け足で校舎を巡るのだった。

 
 
 

結局霧切さんは一度も速度を落とすことなく、校舎に用意されたチェックポイントを凄まじい速度で踏破していった。

 

「ぜえ……ぜえ……ここ、が、折り返し地点の、チェックだね……」
「ええ、そうね」

 

あれだけの速度で走り続けてたというのに、霧切さんは息一つ乱していない。
……体力つけようかなぁ。

 

「……これが鈴みたいね」

 

箱に入って規則正しく整列していた鈴を手にとって、霧切さんは一度鈴を鳴らしてみる。
どうやら間違いなさそうだ。

 
 

「それじゃ、戻りましょう」
「ま、待っ――少し、休んでからにしない?」
「……休むって、こんな、所で?」

 

霧切さんは辺りを見渡すと、少しだけ眉をしかめてみせる。
ボクの方はというと、慣れない歩き方のせいですでに脚はパンパンだし、それに本音を言えば、もう少し霧切さんとゆっくり話をしたかった。

 

「ぐずぐずしてる暇は無いわよ。あんまり遅くなると心配をかけるでしょうし、次に出る人達も――」

 

と、その時、それまでボク達の道を照らしてくれていた懐中電灯が2、3度と点滅を繰り返すと、そのまま光を失い二度と点かなくなった。

 

「え……?」
「あ、懐中電灯が……電池切れかな」
「――――――」
「霧切さん?」
「なんでも、ないわ」

 

暗闇からいつもの平静な声が返ってくる。
良かった。急に黙るから心配した。

 

「でも参ったね。こう暗いと校門がどっちかもわからないや」
「そ、そうね……とりあえず、こちらは北になるはずだから、校門の方角は――」

 

その時、スイッチを入れっぱなしにしていた懐中電灯が一度だけちかちかと瞬いた。

 

「ひぅっ――――――ッッ!!!!」
「え?」

 

名状しがたい声が聞こえたかと思うと、何かがどさりと倒れる音がした。
暗闇に眼を凝らすと、霧切さんが地面にへたり込んでいる姿が見える。

 

「き、霧切、さん……!?」

 

今の素っ頓狂な叫び声が霧切さんのものだとは、にわかに信じがたかった。
ボクの知っている霧切さんは、いつも冷静で、頼りになって――

 

「霧切さん、もしかして……」
「何、かしら?」

 

まさか、という思いと、もしかして、という思いが交差する。
先程から脇目も振らずに校内を走破していた理由。
しきりに幽霊の存在を否定していた理由。
それは――

 

「幽霊、苦手なの?」

 

ボクの核心を突いた言葉に、かあっ、と霧切さんは白い肌を気の毒なほど真っ赤に染める。

 

「……昔から、苦手なの。幽霊とか、そういう得体の知れない物が」

 

霧切さんはぽつりとそう告白する。その身体は、少しだけ震えているように見えた。

 

「おかしいでしょう?探偵は真実を暴くのが仕事なのに、暴く前から怖がってるなんて……」

 

彼女は恥じるようにそう言う。
でも、そんなことは無い。ボクは首を振る。

 

「関係ないよ。苦手な物なんて誰にでもある。怖い物は怖いでいいんだよ。その……かく言うボクも、幽霊は苦手だし、ね」

 

そう言って頬を掻くボクに、霧切さんはふっと微笑んだ。

 

「苗木君は強いのね」
「そんなこと、ないと思うけど」
「いいえ。自分で自分の弱さを認められるのは、その人が強いからよ」

 

過ぎた賞賛だと思う。ボクはただ、人よりほんの少し前向きなだけなのだから。
それでも、霧切さんのまっすぐな眼と言葉で言われると、本当にそうなのかもしれないと思えてくるから不思議だ。

 

「はい」
「え……」

 

差し出された手とボクの顔を交互に見やり、恐る恐ると手を繋いでくる。
ボクが強い男だとは思わない。けれど、彼女がそう言ってくれるのなら、強い男の責務を果たそう。

 

「月が出てきたみたいだし、これなら戻れるよ」

 

彼女の前に立ち、先導するように手を引いていく。
月が出たとはいえ、校舎は相変わらず薄暗い。それでも、先程懐中電灯の灯りで照らしていた時より、ずっと心が落ち着いていた。

 

「苗木君」
「ん?」
「その……あり、がとう……」

 

返事の代わりに、握る手に少しだけ力を込める。
繋いだ手から伝わる柔らかな感触と、確かな彼女の存在。
そう。ボクの知っている霧切さんは、いつも冷静で、頼りになって――可愛らしい所もある、女の子なのだから。