ティスが俺の部屋を訪ねてきてから、幾日か過ぎた。
深夜に便所に起きて、寝ぼけ眼で部屋に戻る道すがら、アイツの部屋を見やる。
「…またか」
扉の隙間からもれる、蛍光灯の明かり。
それが何を意味するのか、だいたいわかる。俺だってそれぐらいは、わかっているんだが。
扉を叩いて部屋に入り、何か気の利いた科白でも言ってやれれば、とは思う。
思うんだが、俺はあいつに、なんて言ってやればいいんだろう。
あれから数日の時が経っても、俺は言葉が見つからないまま、部屋に戻った。
俺自身、その見た夢の内容の妙なリアリティを、まったく払拭できないでいたから。
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「こら出見奈須ー、授業中だぞー」
ポンポン、と、初老の国語の先生が丸めた教科書で小突く。
「…うー? あ、せんせー、おあよー…」
「うんお早う。顔洗ってくるかー? それとも廊下立つかー?」
「うー、大丈夫。あたい顔超きれい…」
クスクス、と、教室に笑い声が響く。
やれやれといった調子で教壇に踵を返す先生。
実にありふれた風景。
大方、TVゲームやマンガで夜更かししたんだろうなあという受け止められ方。
「うー、いけね。コウター、ちょっとだけノート見せてー?」
「しゃあねえなあ、おらよ」
「サンキュ…わ! きれいにとってる。…コウタのくせに珍しいなぁ」
「? そうか?」
何言ってんだこいつ。授業中にノートをとるぐらい当たり前だろうがバカ。
さあ授業授業、と、教科書に視線を戻し、先生の説明に耳を傾けてると、
ことん。
と、横から音がした。
ちらりと音がした方を見やると、
「…すぅ…すぅ…」
「………」
1分も経ってねえっつうのに、規則正しいリズムを刻む肩が目に入った。
仕方ないので、起こさないようにそっと教科書を立てて、先生の目に入らないようにカモフラージュしてやる。
…ん?
ぐあ!?
お、俺のノートに既に、よ、よだれが…
昼休みになって、窓際で一人ショウコのうめえ弁当をかっ込む。
ふと視線を窓の外に向ける。
視線の先の中庭では、ガキンチョ二人とけものが数匹、和気藹々と昼食を取ってる。
つうか、ミィの分のお弁当もショウコは用意しているらしい。
二人仲良く中庭の木陰の下でもりもりとメシを食っている。
で、そのおこぼれを貰いに、喋る猫やら利口な忠犬やらが取り巻く、と。
つうか、なんだあのほんわか空間。
さすがにあの輪に加わってメシを食うのは気が引けるので、俺は一人メシを食うことにしている。
『コウタ、一人で食事というのは傍目に見ても味気ない。天気もいいし、コウタも一緒に表で食ってはどうだ?』
「うっせぇ、余計なお世話だ」
『…やはり、心配か。困ったものだな』
「…なあ、ロアよ」
『ん? どうしたコウタ。勉学でわからない箇所があるなら、微力ながら力になるが』
「いやそれはいらねえ。つうかよ、夢ってさ。どうにもならねえものなのか?」
『…すまないコウタ。それは俺の専門外だ。というより…』
「?」
『あの子でも、悪夢にうなされるということがあるのだな。俺はその点が逆に興味を惹かれる』
「あ? なんだよそれ、ひっかかる言い方しやがって」
『いや、あの子…あの子たちも、人間と同じなのだなと思ってな』
「あ? 何をあたりま…あ?」
そうだった。
あまりにも日常に溶け込みすぎて、本当に忘れてしまっていた。
そうだ、あいつは、あいつらは、俺らとはちょっとだけ、違うんだった。
あ、だったら、ひょっとしたら…!
どうしていいかわからなくて悶々としてたここ数日に、ようやく光明が差した気がした。
『…コウタ?』
「そうだったな、サンキューロア。やっぱりお前は頼りになるぜ」
『…何か思いついたようだな。頑張れコウタ』
「ああ、ちょっと夜にでも、連絡とってみるわ」
『そうだな。…さてコウタ、食事が終わったことだし』
「ん? あ、そうだな。予習予習っと」
机の中から、英語の教科書を取り出し、開く。
――!?――
ざわついてた教室が、一瞬ぴたっ、と止まった気がした。
? 幽霊でも通ったか?
教科書をパラパラとめくりつつ、ふと気になったので、中庭の方をを見やった。
…うわ。
木にもたれ掛かるようにして座るミィの膝を枕にして、すやすや寝ているティスが見えた。
さらにその周りにけものが数匹、寄り添うようにして寝ている。
何あの空間。
学校内とは思えない物凄い癒しのオーラがほんわか出てやがる。
…あ、女子生徒が遠巻きに写メ撮ってる。
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その日の夕方のこと。
「ね、ね、ショウコ、買い物行くの?」
制服姿のままエコバッグをぶら下げて、玄関口で靴を履いているショウコを、ティスが呼び止めた。
「ん? あ、うん。商店街のほうに行くよ?」
――ショウコは、フォルカについていこうと思う――
「そっか、じゃ、あたいも行く! 一緒に行こう! ね?」
「…あ、またお菓子か何かねだるつもりでしょー?」
「え、えへへー、バレた?」
「ふふっ、もー、しょうがないなぁ。100円までだよ?」
「うん! じゃああたい荷物もったげるね! さー行こう!」
「あ、ちょ、ちょっと! まだショウコ靴履いてないってば!」
「もー、ショウコ遅いー! はやくはやくーっ!」
ぐいぐいと、ショウコの手を引っ張るティス。
なんというか、最近、あいつはショウコにベッタリだ。
俺の目から見ても、よく家の手伝いをするようになった。なった気がする。
本当にただそんな気がする。気のせいかもしれんが。
――ティスのこと、妹みたいに思っていたよ――
「ねーねーショウコショウコ、今日の晩御飯何にするのー?」
「うーん、そうだねー」
そう言って、二人して手をつないで表に出る。
俺はただ、その後姿を見送る。
――だから、またいつか、一緒に暮らそうね――
あいつが見た夢の中の、ショウコの科白。
なぜか、じわっと視界がゆがみそうになって、あわててぶるぶると頭を振る。
ハッ、何がフォルカについていくだ。んなことお兄ちゃん断固として許さねえぞ。
もちろん納得なんかいってねえ。ざけんな。行きたきゃ俺を倒してから行きやがれと思う。
手段は選ばねえぞ、全力阻止だ全力阻止。と、そんなことを考えてたら、
「おい。あの女、何かあったのか?」
「…ふぇあ?」
全く予想してなかったフェルナンドのヤツから、予測すらしていなかった指摘の声がかかった。
なんか豆鉄砲食らったようなので、思わず変な声が出た。
「…何故素っ頓狂な声を上げる」
「ん、んだよ犬ッコロ。あいつが、つうかティスがどうかしたのかよ」
「何かあったのかと聞いている。ふん。大方また貴様がいらぬことでも言ったのだろうが」
「あぁ!? どういう意味だコラ!」
「…最近の女は妙だ。何か、無理して笑顔を取り繕っている、そんな妙な面構えをしている」
「なっ――」
マ、ジかよ。
うわ、マジで驚いた。鋭え。
犬のくせに、つうか犬がなんてことを。
「…ふん、やはりな。この愚か者め。悪いことは言わん。とっとと謝罪しておけ」
「ちょ、ちょっと待て! フェルナンド!」
言うだけ言ってスタスタ立ち去ろうとするそいつを、反射的に呼び止めた。
「…なんだ?」
「い、いや、その、だな? な、なんでわかった? あいつが変だって」
「…? そんなもの、あの女の行動を見ていればわかる」
「そ、そうなのか?」
「…まさか貴様、女の異変に気付かなかったというのか? 家人のくせに」
…う。
痛い。実に指摘が痛い。
無理、している。
無理している、のかよ。今のあいつは。
「ハッ、実に呆れたヤツだ。それでも家人か貴様は」
そう言ってニヤニヤと頬を歪ませる犬ッコロ。
うわムカつく。こいつなんかにイニシアチブをとられている現状がムカつく。
と、素ッ、と真剣な表情になり、フェルナンドがこちらを見据える。
「…俺に聞き返すということは心当たりがあるわけだな? 何があった?」
「………」
正直、こいつに相談なんかして、現状が好転するとは思えない。
思えないんだが、
「…男?」
「その、フェルナンドよ、実は、な…」
俺一人ウダウダなやんでいる現状に首を突っ込んできたコイツに、ぽつり、ぽつりと、話してしまった。
もちろん、泣きつかれたとか、そういった恥ずかしいことは伏せたが。
「夢、だと? ハッ! くだらん!!」
ピシャリ! と膝を叩いてそう切り捨てる犬ッコロ。
…あ、やっぱりな。
「あーあーハイハイ。予想通りのリアクションありがとよクソッタレが」
「全く、夢を見たぐらいでああなってしまうとは、腕は立つとはいえ所詮は女子(おなご)か。もはや俺の出る幕ではないわ!」
「あーあーそうですねクソッタレ。いいから表に出てパンでも拾って食ってろバカ」
「な、なんだと!? 落ちてるのか!? どこだ!!」
あ、ちょっと安心した。
「あー、クソッタレ。本当に無駄な時間を使っちまったぃ」
「…大体、だ」
「あ?」
「俺がここに留まっている理由はただ一つ。フォルカとの決着をつけるためだけだ。それが済めば俺も流れていくのみだ」
「あー、お前はそうだろうよクソッタレ」
「よって、ここに留まれなどと頼まれても困る。…ましてや別れを悲しむなどと、…女々しいにも程があるわ」
「女々しいっつうかまんま女だろうがアイツは。つうか誰も留まれなんて頼まねえよバカ」
「ふ、ふん。当たり前だ」
本当に無駄な時間を使ってしまった。
…つうか、なんかコイツに対してイラってきたので、とりあえず反撃だけしておく。
「つうかよ、アイビスさんもよ、結局はどっかに行っちまうんだよなぁ」
ぴたり、と、犬ッコロが固まった。
「…何?」
「いや、だっていつかは銀河の彼方へと旅立つんだろ? チームTDって」
「…は?」
「いやー、凄いよなぁあの人たち。ま、女々しくないフェルナンドさんは別れなんてどうってことないんだろうし?」
「え、は?」
「銀河の彼方かぁ、もう一生逢えないんだろうなぁ」
「え、え? ダ、ダグラスが? な、何故だ?」
「いや、だからそれがあの人の夢なんだろ? 寂しくなるなー、俺女々しいからなぁ、あー寂しい寂しい」
「…え、そう、なのか…?」
「残念だなー、スイーツとやらももう一緒に食えなくなるなぁ」
ポンポン、と、わざとらしく肩を二回叩いた。
「ス、スイーツ!? に、二度、と…? あえな… 食えな… え?」
よっしゃ、反撃成功。
なんか縁側でぬぼーっと立ったままブツブツ言い出した犬ッコロを放置して、
手書きの電話帳から、デュミナスの緊急連絡先を見つけ出し、電話をかけ始めた。
デュミナスが勤めているバイト先に緊急だからといって繋いでもらう。
ほどなくして、聞き覚えのある声が受話器から聞こえてきた。
『はい、過ちなくお電話代わりました』
「あ、デュミナス…さん? 俺です、吾妻ですけど」
『はい。コウタさんですね。その節は家の子が…』
電話の向こうで巨体を折り曲げるようにして深々と礼をしてる雰囲気が伝わってきた。
「あ、あー、その、ちょっとあいつのことで、質問があって」
『はい。どういったご用件でしょうか。過ちなくどうぞ』
「…その、あいつ、夢とか見るんですかね? あー違う、見てるんスよ。その、夢を」
『ふむ、早速の過ちありがとうございます。夢、ですか?』
「なんかその、それで、夢見てうなされてて、こう、見ないようにするとか出来ないんですかね?」
『………』
「いや、こういうことおっかさんに尋ねるのも変かなーって思ったんだけど、その、うなされてるし…」
こういうのは苦手だ。なんかうまく説明できない。が、
娘が夢を見てうなされてて、多分怖いから夜寝ないように夜更かししてる。その分学校で寝てる。
皆との別れが怖い。離れ離れになるのが怖い。それを悟られないように無理して明るく振舞っている。
怖いんだろう。寂しいんだろう。何とかしてやりたいが俺にはどうしていいかわからねえ。
そんな内容を、一生懸命伝えようと話したんだが、どんだけ伝わったかわからない。
受話器の向こうのデュミナスは黙って聞いてくれた。
『…過ちだらけのご説明ありがとうございました』
あ、やっぱり過ちだったか。
『大体の状況は過ちなく把握しました。そうですか、あの子が夢を…』
「す、すまねぇ。俺、こういうことに慣れてねえからうまく説明できなくってよ」
『…結論から言わせて頂きます。あの子たちも夢を見るとは、創造主の私でさえも知りませんでした』
「…へ?」
『テクニティ・パイデス…ホムンクルスとして可能な限り生命体に近づけては創りましたが、夢という不安定なものを見てしまうとは思いもよりませんでした。
というより、そのような過ちが、あの子達にもあったことに驚きを隠せません』
「あ、過ちって、そんな」
待て、あいつらだって夢ぐらい見るだろ、待てよ。
『見なくするのは簡単です。もう一度私の手であの子たちを調整してあげればいい。ただそれだけのことです』
「ま、待てよ」
『恐らく情報伝達機関と記憶中枢が睡眠時における情報整理を行う際に、不確定要素がバグとして』
「 待 て や コ ラ ァ ッ ッ ッ ! ! ! 」
『…どうしましたか?』
「ふざけんなぁっ! 何がバグだっ! 何が過ちだぁっ!! あいつが、ティスが夢見て何が悪いんだ!!」
『…ですが、それは過ちです。あの子が苦しんでいるのなら、必要のないことではないですか』
「てやんでぇっ!! 違うっ! そいつは違うぞデュミナス! あいつは…!」
あいつは、人間だ。俺らと同じ人間だ。
「あいつは…」
…違う。あいつは人間じゃない。俺らとは違う。
『…コウタさん、落ち着いてください』
そうだ、確かに違う。違う。違う、違うけど…
「あいつは…俺の…」
違うけど…違わねえ。ゆずらねえ。あいつはモノとか、バグとか、過ちとか、そんなんじゃねえ。
「あいつは俺の、大切な、か、家族なんだよ…」
『…家、族?』
つい、照れくさくて誤魔化しちまったが、本当は家族なんかでくくれねえかもしれない。
もう、あいつは俺にとって、大切な…
――そうだ、あいつは俺の、大切な『人』なんだ――
「た、頼むよ、おっかさんよぉ、あいつを壊れたら直せばいいだけの機械みたいに言わねえでやってくれよ…」
『………』
「俺は、俺はただ、助けてやりてえんだ…不安なんてねえって、別れが来ても大丈夫なんだって…!」
『…夢という不確定要素に、あの子が苦しみ続けてもですか?』
「だからそれを何とかしてやりてえんだよ俺はっ! あいつが苦しむ姿を見たくねえんだ! 無理して笑っていて欲しくねえんだよっ!!」
がすんっ!!
感情が昂ぶってしまい、つい壁を殴ってしまった。
パラパラと、土壁が一部はがれてしまう。
『…結論から言わせて頂きます。あの子が夢を見るのは、あの子が過ちだからです』
「んだとテメエッ!!」
『落ち着いてください。あの子が、その不確定要素に恐怖し、おびえ続ける限り、長時間の睡眠を盗る毎に、その夢を見続けるでしょう』
「…な、ん、だと?」
『あの子を検査しないと判りませんが、恐らくはそのバグをあの子が意識してしまっている以上、情報伝達機関内のルーチンワークとして組み込まれている可能性があります。早急の復旧を要請します』
「そんな…、嘘、だろ…」
まさか、あれから、あの日から、同じ夢を毎晩、見続けてたってことかよ。
だから、だから、毎晩起き続けてた、眠らずに、まさか、そんな…
『…ですが、今のあの子の保護者は私ではなく、コウタさん、あなたです』
「そんな…あいつが何で…」
『よって、あなたが検査を拒否した以上、私にあの子を直す権限はありません』
「あいつが…へ?」
『そして、ここからは、デュミナスという創造主ではなく、デュミナスという、一個人として話をさせて頂きます』
「…え? ど、どういうこ…」
『…コウタさん、実は、私も過ちなのです…』
「…え?」
『…実は、私も夢を見ます。私が創造され、私の創造主から、「間違い(デュミナス)」の烙印を押された、あの日の夢を』
「夢を、見るのか? おっかさんも?」
『はい。それは、私にとって永遠の命題であり、決して拭い去ることのできない記憶…悪夢なのです』
「悪夢…」
『ですが、私はそれをバグとして処理することは出来ません。なぜなら、それを失うことは、私の存在意義を否定することに直結するからです…』
「…なら、なんであいつらが夢を見るように作らなかったんだ? 知らなかったって、言ったよな?」
思った疑問をそのまま投げかけた。
『………』
ほんの数秒、沈黙した後、ポツリ、と、デュミナスがもらした。
『…私の子供たちを、私と同様のことで、苦しめたく…なかったからです…』
「…そっか」
ああ、やっぱりか。やっぱりこいつは…。
『…コウタさん。コウタさんが私に怒鳴りつけたことを、あの子に一度でも、伝えてくれましたか?』
「え? い、いやその、すまねえ、頭に血がカーッてのぼっちまうと、俺も何言っちまったんだか…」
『私は、あなたのその感情の爆発を、あの子に伝えてくだされば、それだけで充分だと思います』
…なんかデュミナス、急に物腰がやわらかく…どっちかといえば人間臭くなったな。
【思う】とか使ってるし。
「あ、あー、その、すまねえ。つい怒鳴っちまって。過ち…だよな?」
『ええ、全く。実に過ちです』
「ははっ、すまねえすまねえ」
『…話を戻しますが、あの子の将来、未来に対する不安感を、明るい方向で払拭できたのならば、きっと元に戻ると思います』
「明るい方向か、なるほどな」
怖いことなんてねえって伝えればいいわけか。
『一番の手段としては、あの子の夢自体を、私やあなたが直接払拭してやれればいいのですが…』
「でも、それはあいつが吹き飛ばさないと、だろ?」
『そう、ですね』
「わかった。任せとけ。俺なりの手段で励ましてみるわ」
『過ちなくお願いします』
また深々と頭を下げてる感じが伝わってきた。
「じゃあ、また連絡するわ。いい報告を期待してな」
『ええ、過ちなく。それでは』
カチャン、と、黒電話の受話器を下ろす。
「ふう…」
思わずため息が出た。
後はあいつを励ますだけか、うまく出来るかはわかんねえが、しゃあねえ、乗りかかった船だ。
「おーおー、ようやく電話が終わったかの。長い電話じゃのぅ」
「あ、爺ちゃん。悪い、ちょっとデュミナスと」
「あーあーええええ。横で聞いてて大体わかったわ。あの子が買い物でおらんでよかったのう」
「…ん。そうだな」
「ま、というわけでじゃな」
「ん?」
ごちーーーーーーんっ。
「後でちゃーんと壁直しとけよー、全く…」
「ぐ、ぐおお…ギギギ…っ」
離れていく爺ちゃんの足音を、結果的に床をのた打ち回った状態で聞いてしまう。
「ただいまー、今日は肉じゃがに…って、どうしたのお兄ちゃん?」
「まーた何かやったんだよきっと。バカコウタはやっぱりバカだなぁ」
…ケッ、言ってろクソッタレ。