まず始めたのは体力づくりだった。
あの人は企業の中でもかなりの待遇を受けていたらしく、企業が設けた基地の約10分の1を使っていた。
そしてその中にあった滑走路を延々と走った。
辛かったがそれより喜びの方が大きかった。
当時の事はよく覚えていない。親を殺した奴を殺せる、その思いだけが俺を動かしていのだから。
彼女の事はよく覚えている。
彼女の事を知ったのは国家解体戦争初期のころだ。
彼女は多くのレイヴンが国家に付いたのに対し我々企業側についたのだ。
彼女、トロイメン・フロイラインはAC乗りとしての腕もだが対人戦、サバイバル技術なども全てにおいて一級品だった。
その為わが社も一般部隊以上の待遇を、そして一般部隊ではできない事を彼女にやらしていた。
あの時には国家を憂い、国家に技術を持ち出そうとした輩、そう言った者の排除という汚れ仕事もやらしていた。
だがそんな彼女のランクは半分のところにあったのだ。
その気になればトップ10には入れる位の技量のはずなのに、だ。
その事を彼女に聞くと「そんなにランクが上じゃなくても生きていける位のお金が手に入って死ぬ確立の少ない今のランクの方がいいのよ」と答えた。
彼女は決して名誉がほしくてレイヴンになった訳ではなかったようだ。
そんな彼女が定期通信の時に生存者を拾ったと言ったときは驚いた。
そしてその生存者―ユウ・カジマという東洋人の子供―を鍛えていると知ったときに比べればその時の驚きは微々たる物だ。
なにせ他人との接触をあまり好まない彼女が自ら接触し、育てているのだ。兵士として。
その子供の様子を尋ねたら・・・。
「カジマの様子はどうだ?」
「何も言わずに特訓に励んでいるわよ。手加減する気はなかったのにあそこまでとはね。思わなかったわ」
「・・・トリィ、君は一体あの子供に何を望んでいるのだ?」
「・・・何も」
そう言うと彼女は「じゃまた」といい通信を切ってしまった。
推測だがトリィはわかっていたのだろう。国家が企業に敗北する事を。だから企業に付いたのだ。
そうでなければ物量で劣る我々企業に付くはずはない。
そしてレイヴンがいなくなる事も予想していたのだろう。
彼女がもっとも恐れていたのはレイヴンが事だ。
だからなのだろう。子供を助け、兵士として、いや烏として育てあけたのだ。
国家解体戦争が終わって約二ヶ月が経過したとき、彼女はユウ・カジマを我々の所に連れてきた。
その子供の顔は既に兵士としての覇気があり、何よりその目は強い意思が宿っていた。
そして。
「AMS適正調査してみてちょうだい」
そう言った。我々は驚いたが断る理由がなかったので調査してみた。
すると確かに彼にはAMS適正はあった。が、それほど高い数値ではなかった。だが当時リンクスが少なかった我々にとっては喜ばしい事だ。もし戦場で使えなくとも新パーツのテストパイロットくらいには使えるからだ。
そして彼女はユウ・カジマを我々に預け去っていった。
彼女は去る際にカジマに何かを呟いていた。
それを聞いたカジマはコクリと頷く。それを見たトリィは満足そうに去っていた。
あの時彼女が何と彼に言ったのか。それがわかったのはそれから数週間経った後である。
- ワクテカw -- ノマク? 2008-12-10 (水) 18:30:26