A temptation violet 第一節

Last-modified: 2008-11-25 (火) 14:08:34

AMSを通して03-AALIYAH/Hの複合型カメラアイから映される景色は、曇天とそこから降る汚染され黒く淀んだ雪によって、グレーというか、少なくとも銀世界とは程遠いものだった。

 

下に目をやると、これもまた灰色の雪原迷彩に塗装されたネクストAC運搬用の大型トレーラーが、その巨躯とは裏腹に静かなエンジン音で雪原を疾走している。

 

目を閉じる。ゆっくりと右手を首筋のAMSコネクタに回し、指定された回線を開いて一言

 

「仮眠を取るわ」

 

そうトレーラーの乗務員に伝えて、コネクタを外した。

 

 

『ミッションを説明しましょう』

 

一通りの部屋の掃除を済ませ、水浸しの洗濯物を乾燥機に投げ込んで一息つくと、『ポーン』という何とも表現しがたい機械音がメールの受信を知らせる。

 

コンソールに触れ、受信したメールを開くと、聞き覚えのある、何とも嫌らしい発音の声が耳に入った。

 

『依頼主はオーメル・サイエンス社。目的は、BFF社の大規模コジマ施設"スフィア"を護衛するサイレントアバランチの撃破です。』

 

コンソールを離れてソファに腰を下ろし、膝の高さの低いテーブルに置かれたグラスに手を伸ばす。既に注がれていたウォッカは緩く、口当たりは最悪だ、これはない。メールから聞こえるそれと同等だ。コンソールの上の液晶には、目標だろうその機体と同じ大きさのキャノンを背負ったノーマルが数機、機体を360゚映すように並んでいた。

 

『──先日向かわせたサベージビーストから、先程依頼失敗の知らせがありましてね。尻拭い、とは聞こえが悪いのですが、オーメル・サイエンス社は事を急いでいるようですし、ネクストの相手をした後なら、かのサイレントアバランチでも消耗している事でしょう。まぁ、どちらにせよ貴女なら問題はないはずです。』

 

──出来るだけ早急に、内容は以上です。と、そう言ってメールは終わった。
サイレントアバランチ、ネクストを凌駕したとされるノーマル部隊、大口径スナイパーキャノンによる長距離射撃、ECM妨害…これは別にいい。
敵機体数及び他敵戦力の数は不明、まぁ、ノーマル編成部隊のみなら然程問題は無いだろう、コジマ施設ということで、護衛のAFが出撃する確率も低い。

 

ロックアイスをグラスへ放り込み、改めてウォッカを注ぐ。口に含むと、強烈なアルコールが喉を刺激し、鼻へと抜けていった。

 

──さて、何から始めたものかな

 

機体構成は現状維持がいいか?

 

作戦領域の地形も確認しないといけないな

 

出来るだけ早急に、か

 

晩御飯はどうしようか

 

そういえば、内職の出荷期限来週か

 

あぁ、今日久しぶりに声を聞けたな

 

ソファの背もたれに身体を預けると、様々な疑問と回答が頭を過り、そのせいか、数分とたたずに瞼が重く──


  • 管理人さんに多大な迷惑をかけつつ、SSデビューしました、ウラベです。誤字脱字もあるかもしれませんが、生暖かい目で見守っておいてくれれば幸いです。 -- ウラベ? 2008-11-22 (土) 21:47:09
  • 題名から予想すると彼女が主人公っぽいが・・・どうなっていくか楽しみです -- ノマク? 2008-11-25 (火) 14:08:34