AMSを通して03-AALIYAH/Hの複合型カメラアイから映される景色は、曇天とそこから降る汚染され黒く淀んだ雪によって、グレーというか、少なくとも銀世界とは程遠いものだった。
下に目をやると、これもまた灰色の雪原迷彩に塗装されたネクストAC運搬用の大型トレーラーが、その巨躯とは裏腹に静かなエンジン音で雪原を疾走している。
目を閉じる。ゆっくりと右手を首筋のAMSコネクタに回し、指定された回線を開いて一言
「仮眠を取るわ」
そうトレーラーの乗務員に伝えて、コネクタを外した。
*
『ミッションを説明しましょう』
一通りの部屋の掃除を済ませ、水浸しの洗濯物を乾燥機に投げ込んで一息つくと、『ポーン』という何とも表現しがたい機械音がメールの受信を知らせる。
コンソールに触れ、受信したメールを開くと、聞き覚えのある、何とも嫌らしい発音の声が耳に入った。
『依頼主はオーメル・サイエンス社。目的は、BFF社の大規模コジマ施設"スフィア"を護衛するサイレントアバランチの撃破です。』
コンソールを離れてソファに腰を下ろし、膝の高さの低いテーブルに置かれたグラスに手を伸ばす。既に注がれていたウォッカは緩く、口当たりは最悪だ、これはない。メールから聞こえるそれと同等だ。コンソールの上の液晶には、目標だろうその機体と同じ大きさのキャノンを背負ったノーマルが数機、機体を360゚映すように並んでいた。
『──先日向かわせたサベージビーストから、先程依頼失敗の知らせがありましてね。尻拭い、とは聞こえが悪いのですが、オーメル・サイエンス社は事を急いでいるようですし、ネクストの相手をした後なら、かのサイレントアバランチでも消耗している事でしょう。まぁ、どちらにせよ貴女なら問題はないはずです。』
──出来るだけ早急に、内容は以上です。と、そう言ってメールは終わった。
サイレントアバランチ、ネクストを凌駕したとされるノーマル部隊、大口径スナイパーキャノンによる長距離射撃、ECM妨害…これは別にいい。
敵機体数及び他敵戦力の数は不明、まぁ、ノーマル編成部隊のみなら然程問題は無いだろう、コジマ施設ということで、護衛のAFが出撃する確率も低い。
ロックアイスをグラスへ放り込み、改めてウォッカを注ぐ。口に含むと、強烈なアルコールが喉を刺激し、鼻へと抜けていった。
──さて、何から始めたものかな
機体構成は現状維持がいいか?
作戦領域の地形も確認しないといけないな
出来るだけ早急に、か
晩御飯はどうしようか
そういえば、内職の出荷期限来週か
あぁ、今日久しぶりに声を聞けたな
ソファの背もたれに身体を預けると、様々な疑問と回答が頭を過り、そのせいか、数分とたたずに瞼が重く──