0
お日さまみたいな人だと思った。
1
俺の名前はオレオ。
ここ、緋想天学園に通う二年生だ。
二年進級時から転校してきた転校生であるが、もうすぐここにきて一年が経とうとしている。
当初はこの破天荒極まりない学園で、右も左もわからないまま翻弄されてきた俺ではあるが、今となっては
随分ここの空気になじんだと思う。
極力他人と関わらないように生きてきたつもりだったけれど、あれよという間に知り合いだけは相当に増えてしまった。
何故かって?
「オレオくん!」
「オレオくんは転校生だから、部活はまだ決まってないんだよね?」
「オレオくん」ときた。
今思い出すと笑える。
最初は部活案内という名目で。
それから校内案内。大会。
いろんな所に引っ張り出されたっけな。
あのひとの後ろを歩いて、たくさんの人に出会った。
あの人が照らす道を、俺は歩いて……
あの人は一体、俺の何なんだろう。
俺は一体、あの人の何なんだろう。
2
「それは恋なのだ」
「くだらねえ」
「時間の無駄だったわ」
「ばーか」
「しね」
……こいつら……
こういった迷いの類は精神のできている人間に相談すべきだと思い、テケちゃんのいる剣道部に赴いたのだが
そこに居合わせた剣道部員の最低、双子の最テケ、部員ではないが、時々一緒に稽古をしていくというKING、なぜか道場の端っこでおやつをたべていたくたくたちゃんも
いつの間にか円陣を組んで相談に加わっており
とりあえずの今の心境を吐露していたところを遮っての集中砲火だった。
「…恋っスか」
そうなんじゃないかとはちらりと思ったが、いざ人にこうあっさりといわれてしまうと釈然としない。
というか、テケちゃんの口から「恋」なんて単語が出ることに驚きだ。
「他に何があんのよ。ていうかあんたら付き合ってなかったの?何かというと一緒にいるじゃない。
あの娘Mっ気あるから、がァーっと押し倒してめっちゃくちゃにしちゃえばきっと落ちるわよ、あんたにゃ無理だけど」
ふまれさんの幼馴染である最テケが、虫でも見るような視線で俺を見ながら言った。お前はSっ気どころの話じゃねえな。
「まあ、一緒にいたっちゃいたけど…ありゃふまれさんにしてみりゃ仕事みたいなもんだったろうし」
「仕事…仕事であそこまでやるかな?脈あるんじゃないの?オレオ」
「…すきならヤっちゃえよオレオ、はやいほうがいいぜ」
俺の両サイドを囲んでいた雛山とくたくたちゃんが片や俺を肘で突きつつ、片や肩を叩きつつ言う。お前ら俺の後輩だよね?
「つってもなあ、一体どうしていいやら……」
「ふまれちゃんの方から、何か言われたことはないのだ?」
俺の対面に座るテケちゃんが言う。
「何か……特には……いや、待てよ?」
いや、あった、一度だけ。
初めて会った日の、初めての戦いの前。
「関係ないかもしれないけど……いつか自分に勝ったら……名前呼び捨てでいいって」
「なるほど」
「突破口見えたわね。針の穴だけど」
その通りだ。仮にこれが突破口足りえたとして、この図体が通るほどの穴ではない。
この一年近くで、俺はふまれさんに片膝もつかせたことはないのだ。
でも……
「オレオはどうしたいのだ?」
テケちゃんが俺の目をまっすぐに見る。
本音で答えなければならない。
「この気持ちが恋かどうかっていうのは…正直よくわからないけど、そうだな。
ふまれさんとおもいっきり戦って、そんで勝てたら…答えが見える気がする」
このままってのは、どうにも気持ちが悪い。
「…決まりなのだ」
テケちゃんは薄く笑うと、やおらたちあがって言った。
「これから一ヶ月。ボクたちがオレオを鍛えるのだ。オレオがふまれちゃんに勝てるように」
「たちって…俺たちもですか?」
最低が面倒そうに声を上げる。
「…いやなのだ?」
テケちゃんが首を傾げていう。
「全然」
最低が微笑みながら首を振った。鼻血でてんぞ。
「なんでそんなに肩入れしてくれるんだ?」
テケちゃんに聞いてみる。ありがたい申し出ではあるが、レベルの次元が違う俺を鍛えるのでは、
自分の鍛錬にも影響が出るだろう。
「オレオには、よく打ち込み稽古の相手役をやってもらっているのだ。
オレオが相手だと、なぜかみんな調子がいいから、そのお礼に」
「あれは確かに最高だな。なんかバンバン調子出るんだよな」
「あたし滅多に人は褒めないんだけど…あんた才能あるわ。叩かれ役の」
「…薬の実験体もやってもらってる」
毎度俺は死ぬ思いだけどな。
「じゃあ、悪いけどお願いしよう…くれぐれも他の人…特にふまれさんには内緒の方向で」
「わかったのだ」
「はいはい」
「面倒くせえな」
「おっけー」
「…わかった」
「了解なの」「はいっ!」「はーい」
………
……
あれっ、人数多くね?
そこにいるの新聞部じゃね?
って
「おわーっ!いつの間に!いつものあれ無しで現れないでください!」
なべ先輩はこちらを振り向くと、ひょいと手を挙げて
「ん?ああ、であえー」
「遅いっすよ!」
「失礼な。速さには自信があるの。特に噂とか」
「すいませんでした」
「オレオ先輩、事情は聞きました!頑張ってくださいね!」
「あ、ああ…」
一年のもまれちゃんがきらきらと輝く瞳で俺を見つめる。
事情は聞くなよと思いながらあんまりきれいな目で見るので、目線を合わせられなくて
仕方ないからおっぱいを見た。いやー目があわせられないなー。
「わたしたちも全力サポートしますので…」
同じく一年の平らでMちゃんが言う。
彼女は前髪のせいで目が見えにくいので、まっすぐ見ることができる。特に他意はないが、胸は見ない。
「あ、あの…」
「心配無用なの」
釘を刺そうとした俺をなべ先輩は遮って
「ニュースと鍋にはもっとも美味しい瞬間がある……それは今ではないの。ただ……」
にこりと笑った。
「できるだけ美味しくなるよう、細工はしておくの」
……どういうこと?
3
「よーオレオ!くっくっ…聞いたぜ」
「よおちーすけ。……聞いたって何が?」
翌朝ちーすけがにやにやと笑いながら話しかけてきた。
こいつがこんな笑顔で話しかけてくるときは、大抵俺からは笑顔が消える話になる。
「水臭いぜ…まさかお前がふま」
「うおーーーーっ!」
飛びついた。
「離せ、俺にそういう趣味はねぇぞ」
「俺だってない。…それどこで聞いた?」
「どこもなにも…全校で噂になってるぞ。お前がふまれに交際を賭けて決闘申し込むって」
とんでもないことをけろりと答えるちーすけ。本当に速えな!一日持ってねえぞ。
眩暈がした。
「ぜん……ド畜生!えーと…か、火事だぁーっ!」
「であえー、火事はどこなの?」
なべ先輩が出現した。
「先輩!どういうことっすか!あんたの血は何色っすか!」
半泣きでなべ先輩に縋りついた。
なべ先輩は、俺の頭を撫でつつ曰く
「心配無用と言ったの…全校に情報を流しはしたものの…ふまれちゃんにだけは絶対に知られないようにしておいたの」
「そんなことが可能なんですか!?…というかまずなんで全校に流れてるんですか…」
ぐっと肩を掴んで、こちらをまっすぐに見た。
「テケ子の力を持ってしても…オレオをふまれちゃんに勝たせるのは難しいの。
ならどうすればいいか。これはもう全校生徒が協力するしかないの。そうすればあるいは」
「という建前で、実際には?」
「その方が面白いと思ってつい」
「ですよねェー!」
ついじゃないよ。
「というわけで」
とん、と俺をつきはなすなべ先輩。
「いろんな人に会ってくるの。フラグの破壊者オレオ、緋想天学園をめぐり、その瞳は何を見る……」
「どんなイジメ!?」
「健闘を祈るの…であえー」
いなくなった。あまりのカラミティに思考が停止する。
「何してんのオレオ?」
「ひゃいっ!?」
背後からふまれさんが突然声をかけてきて、思わず変な声が出た。
「いいいいやあふまれさん!きききききょうはいい天気だよな」
「……アブトロニックでもつけてるの?声震えてるよ。それに今日曇りだし」
「そそそそうかな!てててていうか俺用事あるから!」
「えっ?あ、そう…じゃあね」
ダッシュで逃げた。
タイミングも悪かったが、まともに会話もできないなんてちょっと重症だ。
みんなして余計なこと言うから、どんどん泥沼に嵌っているような気がするが、
よく考えたらいつものことだった。
やるしかないんだろ、もう。
4
「………ふぁ、ああ…オレオか。いや、そろそろ来る頃じゃとおもっておった」
大きな欠伸をしながら老師が椅子に座りなおした。
「はあ」
図書館である。
日向の席で居眠りをしていたとしていた老師(充電中、と張り紙がしてあったが、どうせ灯油動力なので無視した)を捕まえて、
「相談がある」と端っこの席まで引っ張ってきたのだ。
「老師以前言ってましたよね。明日の天気から気になるあの娘の好感度まで、わからないことはないって」
「うむ…。今朝方面白い噂を聞いたでな。そういった類の相談をされるのではないかと、実は少しわくわくしておった」
にやにやとわらいながら老師が言う。全校に言いふらしたというのは嘘ではないようだ。
「俺の心は怒りと悲しみで一杯ですが、まあ説明の手間が省けたということでイーブンとしましょう…
で、短刀直入に訊きますと……いけそうですかね?」
「うむ。オレオの告白が成功する確率を算出してみよう」
言って老師は目を閉じた。
・
・
・
「翔太郎、検索が完了したよ」
「誰ですか。…で?」
「うむ……」
老師は厳かな面持ちで諭すように
「昔、偉い人が言っておった……。『確率なんて単なる目安だ、あとは勇気で補えばいい』、とな」
「うっ……なんて嫌な前置きなんだ……して、どのくらいの勇気が必要ですかね」
「……勇気……100%じゃな」
「それ確率0%!?」
「もう頑張るしかないさってことじゃのう」
「1ミリも上手くねーんだよ!」
騒ぎを聞きつけたのか、naviさんが心配そうにこちらに歩いてきた。
「どうしたんですかオレオさん。がっかりしてめそめそして」
「お前ら打ち合わせ済みだろ!も、もういいやーい!」
泣きながら図書館から逃げた。神も仏も仮面ライダーもいないよ。
――
「行っちゃいましたね」
「ちょっとやりすぎたかの」
「……ずいぶんと意地悪するのね」
「おう、ゆフランか。珍しいの」
「お久しぶりだね、どうしたの?」
「ん、校内が騒がしいから…なんとなく。で、今ウソついてたでしょ?」
「わかるか」
「わかるよ。二人とも笑い堪えるのに必死だったじゃない」
「わはは、いやさ、青春じゃなーと思って、ついついな!若さがうらやましいわ。Naviもノリノリだったしの」
「わ、わたしは別に……そ、そうだ、せっかくだし、お茶でも淹れましょうか!」
「くっくっ。まあ、オレオの恋の成就を願って、乾杯といこうかの」
「……かわいそ」
――
「で、何で私達?」
次にやってきたのは、科研部の部室である。
「いや、なんかラバーズって感じだし。御利益あるかなと思って」
「なにそれ」
「ついでにアドバイスなどを戴けたらラッキー極まりないな、と」
タハハと笑う俺を見て、くるるんはあきれ顔である。
「アドバイスねぇ……そんなの必要かな?意味がないんじゃない?」
隣のさとりんを見ながらくるるんが言う。
意味ないってみんなしてひどいな!
「そうだね。戦いに関してはしてあげられると思うけど……それが終われば、オレオくんの気持ちを素直に伝えればいいと思う」
「気持ち?」
「うん。オレオくんは、どんなパンチよりも、弾幕よりも、ふまれちゃんに効く切り札を、もう持ってるよ」
「もう、持ってる…?なんです?」
さとりんはときどき謎かけみたいな事を言う。思わず敬語である。
「鈍いわねぇ…。言葉にすれば一言、たった一言だよ。
言葉だけじゃ足りないけどね。それがわかれば勝ったも同然。
あとは自分で考えなきゃダメ。
ね、さとりん」
「うん。そうだね。…頑張って」
くるるんは答えを知ってるみたいだ。
一言だけど、それだけじゃダメ…?
ダメだ、わからん。
ぼんやりと考えながら部室を出た。
5
放課後に始まった剣道部での訓練は、控えめに言って地獄だった。
まず初日からしてこれである。
「めかぶ先輩!」
「やあ。なんだか面白い事をやってると聞いてね。遊びに来たよ」
するとテケちゃんは、ふむと思案顔。
「ちょうどいいのだ。ちょっと手伝ってもらっていいのだ?」
「ああ、その気で来たよ」
めかぶ先輩が笑いながら頷く。
ん?いやな予感がするな。
「今からボクと彼女が二人掛かりでオレオを攻撃するから…うまく躱して生き残るのだ」
「よしきた!……当然冗談ですよね」
「当然マジなのだ。十秒前。九…八…」
「ギャアー!」
全力で逃げた。
「スタート」
それから後の事はよく覚えていない。
思い出そうとすると、体が震えて動かなくなるんだよ。
翌日以降も、色々な人が暇潰…応援に駆け付けてくれた。
「じゃあ行きますよー」
「待って!待ってイトミちゃん!なんで俺は十字架に張り付けになってるの?そしてそのクレーンの先の鉄球はなに?」
「え?だって……特訓ですよね?」
「特訓でしょ」
「特訓ね」
にんっさんと圧殺さんが頷く。
「いや…これは特訓じゃないよね!どっちかというと処刑だよね!」
「うーん…嫌なら崖から飛び降りるマッハキックコースもあるけど」
「誰かーっ!!」
・
・
・
「よう、やってるな」
「失礼致します」
「アベサンと…ミルクティーちゃん?珍しい組み合わせだな」
「はい。オレオさんが頑張っていらっしゃると聞いて…及ばすながら、特訓のお手伝いをしに来ました」
「それはありがたい。…しかし二人とも竹刀なんか持参して…スパルタな予感だな」
「ああ。ビシバシいくぞ。さあオレオ。お前、この台の上にキンタマ出してみろ」
「へ?」
「ぁ…あの…ですから…この台の上にその…ち、ちん」
「ストァーップ!その先は言っちゃダメ!地子ちゃんが聞いたら卒倒しちゃうよ!」
「この台の上にちんちんを乗せ、この竹刀で叩く事によってだな」
「なんで説明始まってんだよ!訊いてねーよ!帰って下さい!」
・
・
・
「つまり恋っていうのはね。するものじゃなくて落ちるものなのよ。
……聞いてる?オレオさん」
「うんうん。zipちゃんはいい事言うぜ」
「あの…zipちゃん。会長。俺、早く訓練したいんスけど」
「オレオさんのばか!力でねじ伏せるばっかりじゃ、本当の気持ちなんて伝わりっこないの!」
「そうだせオレオ!なんで…なんでそれがわからないんだぜ!」
他人の恋バナで、なんでこんなに熱くなれるんだ君らは。
「はあ…そういうzipちゃんはどうなのさ。やっぱり恋するのか?」
「私?うん。呼吸をするように恋に落ちるよ」
「それって逆にどうなの…」
・
・
・
「オレオ先輩!応援ソングを歌いに来ましたよ!我々軽音部が!」
「なぜ倒置法?しかしありがたい。歌はモチベーション上げるのに最適だよな」
「え、えっと…曲は…『勇気一つを友にして』……です」
「ちょっと待てェ!その曲最後どうなるか知ってんのか!」
「だからやめた方がいいって言ったじゃない」
「じゃあ、もう一曲の方にしましょ」
「は、はい…じゃあ…『ハチのムサシは死んだのさ』……です」
「結末同じじゃねーか!」
「オレオさーん、差し入れ持ってきましたよー」
「料理同好会のみなさん!女神が光臨した……あ」
「あ」
「あ」
料理同好会と軽音部(厳密には@さん)が向かい合って硬直する。
そのあとどうなったのかは詳しく説明しないが、応援ソングも差し入れも俺のもとに届かなかった事は明記しておく。
・
・
・
「やあ、オレオくん」
「お、握手先生。どうしたんすか」
「いやね、想い人への愛を果たすために戦う…そんな話を聞いて、同じ男として応援したくなってね」
「そんな胸しておいてまだ同じ男だなんて…しかし、体育教師である握手先生の助力は心強いと言わざるを得ない。
そして訓練が終わったあとなどに一緒に裏山の温泉で汗を流すという展開も当然アリな訳ですね。同じ男なのだし」
「…え?い、いや、それはどうなんだろう?世間体とかその辺りが」
「どってことないですよ。二人きりです。そして訓練中にうっかり胸に顔を埋めてしまったりしても男同士なのでオッケーですね……このように!」
「わっ」
調子に乗って握手先生の胸に飛び込んだところ、不意打ち気味に入ったせいか、握手先生と一緒に後に倒れこんでしまった。
俺が押し倒した形になる。
…ボサッと何かが落ちる音がした。
二人でそちらに振り向くと
「………」
いつもの先生が固まってました。
「……違うんですよいつもの先生。何と言うか……違うんです。違いますよね?握手先生」
「うん…全然違うね。著しく違う。あまりにも違いすぎて、『違う』以外の表現が見当たらないよ」
ちらり、とふたりでいつもの先生の顔を見る。
笑顔である。終わった。
・
・
・
6
そんなこんなで時は経ち、決戦は明日、ということになった。
「ま、今日は疲れを残さないように、この辺にしとくかね」
「うむ、最初の方に比べると…まあ、見れるようにはなったかな」
今日の助っ人はちーすけと巫女巫女先輩、ついでにとしあきだった。
「ありがとうございましたばっ!」
吐血して倒れた。
おい、これで残らないなら、翌日に疲れが残る訓練ってどんなんだ。
「では、今日はここまでとするのだ。礼」
テケちゃんの号令で、全員が「おつかれさまでした」と挨拶。忘れがちになるが、ちゃんと剣道部にも訓練をつけてもらっているのだ。
「よし、じゃあラーメンでも食ってくか!もちろんオレオの奢りでな」
ちーすけが手を叩いて提案する。おい、なんか聞き捨てならん事をいったぞ。
「あ、悪い……。俺…その、なんだ、用事があるから」
としあきが申し訳なさそうに立ち上がる。
「ちっ」
俺とちーすけと巫女巫女先輩が、同時に舌打ちをした。
いうまでもない。
最近としあきの野郎は、毎日テケちゃんと一緒に帰る。
「今度埋め合わせはするよ。…オレオ、明日、頑張れな。応援してる」
「うっせえ!早く帰れ!」
軽く頭を下げながら、テケちゃんのほうへ小走りにかけていく。
それを見るテケちゃんの顔は…俺たちじゃあ、めったに見れないような笑顔。
なるほど、「それは恋なのだ」……ね。
ふと視線をそらすと、二人の後姿を見つめるKINGの姿。
なんだかんだで、結構練習に顔を出している。帰宅部なのにな。
「どうした?ボケッとして」
と声をかけると、ちょっと不機嫌そうに
「………別に。明日、精々頑張んなさいよ。やれるもんならね」
と、歩き去ってしまった。
「……ふむ、じゃあ、どうするか。俺たちだけで飯食う?」
巫女巫女先輩が残った二人に声をかけるが、実は俺にも用事があるのだ。
「すいません先輩、ちーすけ。俺もちょっと、遣り残したことがあって……」
見上げる先は、生徒会室。
噂が校内を駆け巡ってから、実は一度もあるる先輩の姿を見ていない。
「スジは、通さなきゃと思うんだ」
巫女巫女とちーすけは、顔を見合わせて苦笑い。
「どうせ碌な目にあわねえんだ。事後報告でいいのにな。デキました!ってな」
「まあ、そういうわけにもいくまいよ。何も今日でなくともとは思うが」
「さすがにちょっと恐くて…結局今日になっちまいました」
校舎の入り口から、もまれちゃんが走ってくる。
「オレオ先輩!あるる先輩は、一人で生徒会室にいます!」
「よし!」
立ち上がる。
「行くのか?」
「……死ぬなよ」
ちーすけと巫女巫女先輩がそれぞれひと言ずつ。
「…死ぬような目になど、何百回遭ったか知れないよ」
さて、どうなるかな。
5
ノックを二回。
「……どうぞ」
あるる先輩の声。
「失礼します」
ドアを開けて、中に入った。
あるる先輩が、座ったままこちらを見る。
「遅かったじゃないの。最後まで来ないと思ったわ」
「できればそうしたかったですけどね……」
あるる先輩は、もうどの角度から見ても不機嫌そうで、多分俺はここで殺されるんだろうなー
でもそれも俺らしいかなーなんて考えながら、、彼女の言葉を待った。
「……どう思ってるの、ふまれのこと」
ややあって、あるる先輩が口を開く。
核心である。
「実をいうと、よくわかりません。ただ……
俺はずっと、ふまれさんの後ろを歩いて、いろんな所に案内してもらった。いろんな人と出会った。
それはとても気持ちのいい事だったけど……ふと思ったんです。後ろじゃなくて、隣に。
あの人の隣を、胸を張って歩いてみたい…って…いう…ような…?」
自分で言っててよくわからない。
言葉にできない自分の気持ち、それを確かめるために、というのもあるんだろう。
あるる先輩は俺の言葉を聞いて、しばらくは黙っていたが、やがて俺から目を逸らして
「似たような事言うわね」
と、呟いた。
「……あの子」
相変わらず目線はこちらから外したまま、あるる先輩が話し始める。
「あんたと知り合ってから…ちょっとだけ、ほんのちょっとだけミスが減ったわ。
それでちょっと褒めたら『いつまでもあるる先輩に頼っていられない、わたしも頼られるようになりたい』って言ってた」
「でもそれって…」
俺がきっかけとは限らないんじゃ?と言おうと思ったら、「バカね」と言葉を止められた。
「わかるわよ。私は、あの子をずっと見て来たもの。
……あんたよりもずっと前から」
挑むような視線で数秒。目を逸らさずにいたら、
「ふう」とため息をついて、あるる先輩が目を閉じた。
「――好きにすればいいじゃない。あの子があんたから刺激を受けたように、あんたがあの子から何かを感じ取ったなら。
そしてそれが、あの子と戦って、その向こう側でしか伝えられないものなら」
「………」
ああ。
こうして話してみて、つくづくこの人は、ふまれさんの事を大事に思っているんだ、と思った。
ふまれさんの話をしている時のあるる先輩は、普段の少しキツ目の印象など微塵も感じさせないほど、穏やかで優しげだ。
自分は、その間に、自分のエゴで割り込もうとしている。
でも、あるる先輩にもらった言葉で、迷いはなくなった。
やってみせろと言ったんだ。
訓練を買って出てくれたテケちゃんと剣道部の人々。
応援に来てくれたみんな。
そして、あるる先輩。
色んな人たちの想いを背負って、俺は戦うのだ。
不思議と重いとは感じなかった。(なぜかと言うと、大半の人間はおそらく面白半分だからだ)
でも、胸に沸き上がる熱い何かを堪えながら。
無言で頭を下げて部屋を出た。
全ては、明日だ。
―
まるで恋人の父親に、娘さんをくださいって言いに来たかのようだったわね。と、自分て考えておかしくなってしまった。
まあ、似たような感じに映っていたのかも。
でも、そんなのじゃない。
私も同じだ。
私も、あの子と対等であるために。
あの子を私の所有物になんかしてしまわないために、オレオのやつの気持ちを肯定しよう。
決めるのは、ふまれ自身だ。
それでいい。
二人は、きっとうまくいくんだと思う。
ふまれが道を間違いそうになったときは、私が正してあげよう。
あの子が落ち込んだときは、きっとあいつが支えてくれるんだろう。
背中を押してくれるひと。
隣りで一緒に成長していけるひと。
その両方を得るあの子の人生は、きっと幸福に満ちたものになるに違いない。
自分がかつてそうであった、いや、今もそうであるように。
「ね――そうでしょ?」
今はもうここにいない友人を想って。
少しだけ笑って。
少しだけ、泣いた。
前編おわし
予告
そして始まる二人の決闘。それをそっちのけで当然のように始まる乱闘騒ぎ――その中で。
「あのね、くるるん」
ある者は、囁く。
「貴女をみていると、まるで……」
ある者は、怒る。
「こっから巻き返すわよ!」
ある者は、闘う。
「だって、私なんか」
ある者は、星を見る。
「そんな事は、どうでもいいんだぜ」
ある者は、くすんだ石を見る。
「どっちが大切だって聞かれたら…どう答えます?」
ある者は、試す。
「早く行かないと、終わっちまうぜ」
ある者は、繋ぐ。
「ゆーーむーーさーーん!!」
ある者は、探す。
「いや、私はマスクドゆむだし。お疲れ様だし」
ある者は、被る。
「おめでとう、かな」
ある者は、描く。
「……ごめん、いまだけ……こっちみないで……」
ある者は、受け取る。
そして。
ある者は。
「誰からも愛されて、誰をも愛するとしあきくんは…まさに主人公(ヒーロー)ってところですね」
「ふむ……じゃあ、主人公になれなかったオレオくんは……一体、何になるのかな?」
「そんなのは決まってるよ」
「――男になるんだ」
主人公になれなかったオレオくんと、いろんな人のあれこれ
なんちゃって最終回、後編
ハッピーエンドで、待ってる。
絶賛製作中 !!
止