ss105151

Last-modified: 2010-03-06 (土) 22:21:05

卒業式ってさ、本当に別れを惜しむタイプと
学校半日でラッキーって思う生徒が居るよね。
俺は、どっちかって言えば後者だった。
だけどこの緋想天学園ではそれとはまた別のタイプが居るらしい。
と言う事を、俺は初めて知った。
…いや、予想してなかったわけでもないけど。
むしろこの学園では何よりも当たり前なのかもしれない。
第二ボタンの奪い合いや
記念品の受け渡しなんて、情緒のあるものは無い。
だけどそれ以上に
心が篭ったやり取りが
卒業生と在校生の間で、行われる。
俺が見たのは、そんな中の1シーンに過ぎないのかもしれない。
だけど、良いんじゃないかな。
それだけでも、立ち会えた事は俺にとって大事な思い出になったから。


卒業式は恙無く進行し、予定通りの時間に終えた。
HRを終えた俺は、何か仕事が残っているわけでもなかったけど
惰性と言うか、習慣と言うか、何となくで
いつも通り生徒会室に来ていた。
誰も居ないはずだし、鍵も開いてるわけ無いだろうと思って。
…だがそんな予想は簡単に裏切られた。
「…あれ?鍵が開いてる……?」
一体誰が?と思ったが此処の鍵は教師陣か
生徒会関係者で無ければ扱う事は許可されない。
うちの学園の放任主義の教師陣が開けてるとも思えない。
となると、生徒会の誰か、だろう。
生徒会のドアを開け中に入ってみると、
そこにはあるる先輩とふまれちゃんが居た。
何か少し微妙な雰囲気。
卒業式の余韻によるもの悲しさとか黄昏とかじゃなくて
もっとこう、張り詰めた空気が漂っていた。
「…先輩達ここで何やってんの?」
まぁ、とりあえず聞いてみるよね?
あるる先輩が呼び掛けに気付き、答えてくれた。
「…ん?あぁ、あんたこそ、何しに来たのよ?」
おっとー、質問を質問で返すとry
「いや、何となくで気付いたら来てまして…。」
「…私も似たようなもんよ。何となく、ね。」
やっぱり、あるる先輩なりに思い出とかあるんだろうな。
卒業の別れを惜しんで、みたいな。
うっわ、意外。あるる先輩みたいな人はあっさりと
ハイさようならとかしそうと思ってた。とは口が裂けても言えない。
…じゃあふまれちゃんは?
「あれ、じゃあふまれちゃんはどうして?」
「…あるる先輩はここに居ると思って…。」
あぁ、成る程。追っかけか。
わかるわかる。憧れの先輩だもんね。
ワカルワカルヨー。
「それで、ふまれ?私を追ってきて何の用かしら?」
「きっと先輩のサインが欲s」
「オレオは黙ってなさい。」
スッパリ。
「どうせ明日からはもう、私は居ないし。用があるから探してたんでしょう?」
確かに、そりゃごもっともだ。
いやでもさぁ?普通憧れの先輩と最後の別れってなったら
一目会っておきたいとかあるじゃん?
俺がズレてるのかな。
「…先輩に、最後のお願いがあります。」
…お願い?
あれか、第二ボタンか!
「生憎だけどボタンはあげられないわよ?制服はこのまま従妹の子に譲るんだから。」
「違います!そうじゃなくて…!」
珍しく声を荒げてふまれちゃんが反論した。
何だか雲行きが怪しいような…。
「じゃあ、何よ?私も暇じゃないのよ。」
「先輩…私、先輩に…先輩に最後の緋想天バトルを申し込みます!!」
な、なんだってー!?
確かに最後だけど、何も最後まで戦わなくても…。と思っていたが
その言葉を聞いて、面倒くさそうな顔をしていたあるる先輩が
にやりとした。…Sだなぁ。
「…良いわよ。これまで私が叩き込んだ技術、どれほど実になってるか、見てあげる。」
「…本気で来て下さい。いつもみたいに、様子見で軽くあしらうんじゃなくて…」

「先輩の全部を見せて下さい!!」

なんかエロいよふまれちゃん。
でも確かにそうだ。俺もあるる先輩の本気には興味がある。
あるる先輩は本気を出さない事でも有名だから。
『本気の出し方なんて忘れたわ。』とかよく言ってるけど、そんなはずは無いだろうし。
「…後悔、しない?」
「しません。先輩の本気に…勝ってみせます。」
今回ばかりはどちらも本気のようだ。
いや、ふまれちゃんはいつも本気なんだけど。
何やら目に見えない闘志のオーラみたいな物が渦巻いてる気がする。
こえぇ、こえぇよこの二人。
「あれ?でも今すぐってわけじゃないですよね?」
よく考えたら申し込みを受諾はしたものの
肝心のタイムスケジュールは全然触れてない。
「そんなの今すぐでも良いんじゃない?」
「はぁ!?」
いや、いきなり過ぎないですか!?
「良いわよね、ふまれ?」
当然のようにふまれちゃんにパスするあるる先輩。
滅茶苦茶だこの人。
「はい、そのつもりで来ましたから。」
ふまれちゃんまで…何だよこの卒業式。
「えーと、じゃあせめてギャラリーとかで他の役員とか…。」
俺だけが立会人って怖いし。
「いらないわよ。どうせゆむ達も同じような事なってるだろうし。」
あぁ、さいですか。
もう、溜息くらいしか出ない…。
「それで、場所はどうするんですか?流石にここじゃまずいですし。」
取り合えず二人だけだと今にも始めそうなので
何とかある程度指揮を取って穏便に開始に持って行く努力をする。
場所に関してはあるる先輩が即座に回答した。
「屋上で良いでしょう。ほら、鍵。」
…この人本当は全部予想済みだったんじゃないか?
用意が良すぎる。
「それじゃあこの後屋上に移動して……開始ですかね。」
「OK。ふまれも良いわね?」
「はい、大丈夫です。」
何とか?纏まったようだ。
「一応この場に立ち会ったのも何かの縁ですし、俺がレフェリーはやります。」
「えぇ、よろしく。それじゃ移動ね。」
あるる先輩はどこか上機嫌に一足先に生徒会室を後にした。
「えーっと、ふまれちゃん、大丈夫?」
「ふぇ?大丈夫って?」
いや、先輩本気出さなくてもかなり強いし
それの本気に向かうってのは無事じゃ済まないんじゃ……。
とか考えていた。が
「あはは、大丈夫だよ。先輩は優しいから。」
「…う、うn?」
「とにかく、大丈夫。」
ふまれちゃんも笑っていた。
あるる先輩と同じように嬉しそうに。


―屋上

「えーと、じゃあ二人とも準備は良いですかー、っと。」
聞かなくても分かるくらい二人は既に臨戦態勢だった。
一応形式上の都合で聞いておく。
「いつでも。」
「私も大丈夫です!」
なんか、見てるだけって言うのも少し居辛いな。
最後の師弟対決、かぁ。
こういう場合漫画だと、弟子が勝つんだけどどうなるんだろうか?
「ふまれ、私に全力を出せと言ったわね。」
「はい、お願いします!」
「…わかった。最後、だものね。見せてあげるわ。」
空気が変わった。
元々どこか重い空気を纏うあるる先輩の周囲の空気が
今まで感じたことの無いくらい、重圧的で、鋭い冷たさに変わっていた。
「……っ!」
ふまれちゃんもそれに気付いたのか、体を少し強張らせる。
だがそれで尻込みは出来ない状況。
「じゃあ…始めますよ?」

緋想天ファイト…

レディ……

ゴー!!

先に飛び出したのは、あるる先輩だった。
速い。


Side:ふまれ

「ゴー!!」

開始の合図と共に動こうと思ってた。
まずは先手を取ってペースを握ろうと思ってた。
思ってたけど、私の一手は間に合わなかった。
先輩は速かった。地を蹴り突進とも取れる動きで
先輩は即座に私の正面まで来ていた。
近すぎる。この距離では人形のポケット―
がんっ、と鈍い痛みが下半身に響く。
先輩が出したのは足だった。
「くぅっ!」
痛みに膝をつくのはまずい。一気にやられる。
蹴りの衝撃に耐えつつ、距離を離そうと後ろに飛びのく。
「だから、悪手だって。」と先輩が呟いた。
飛びのいた先から、背中に痛みが走る。
いつ設置したとも分からない人形がそこにあった。
衝撃に吹き飛ばされる。でも、前には先輩がいるから。
このまま突っ込めば何とか一発―居ない!?
「360度、全てに気配を巡らせなさい。」
声は上からだった。しまった。
人形帰巣が先輩の手から放たれていた。
間違いなく、今までのいつよりも先輩は本気だった。
いつもはまだ、目で追える動きだったのに。
正直これ程だなんて思ってなかった。…甘かった。
でも!
「くあぁっ!!」
痛みに耐え体制を変えて、何とか帰巣をすんででかわす。
「…へぇ。」
まだ、すぐ立ち上がらないと反撃は直にやってくる。
目の前に飛んでくる人形。
どうなってるのか理解しきれない。
私は先輩のようにバリエーションに飛んだ戦法を知らない。
でも今は考えるより動かないと。
次々と繰り出される人形を捌いて行く。
勿論全部が全部と言うわけには行かない。
でもまだ致命傷は受けてない。大丈夫、まだ飛べる。
戦いながら、改めて先輩はすごいなと感心した。
…当然だよね。だって先輩だもん。
不思議と、笑みが零れた。

正直に言えば、勝てる見込みなんて無い。
でも今日だけは、今回だけは、勝ちたい。
それは仕返しでも、見返す為でもなくて
先輩への恩返しの為に。

鮮やかな光弾が飛んでくる。
矢も飛んでくる。
光の線が走る。
時々蹴りも飛んでくる…痛い。
七色の魔法使いの名に恥じない多彩なスキル。
私は、先輩の所まで辿り着けるだろうか。
…弱気になっちゃだめ。
辿り着かなきゃいけないんだ。

防戦一方ではあるけれど、先輩の状況はある程度把握出来た。
設置されてる人形は二つ…。
先輩の周囲を取り巻くように人形が三体。SP…かな。
設置数なら勝ってる。どうにかして不意を突きたいけど……。
どこか1回でも良いからチャンスを…。


Side:オレオ

あるる先輩の事だから、やっぱどっか手加減するんじゃないかなとか思ってた。
…そんな事は無かったぜ。
今まで見たどの動きよりも今日の先輩はすごかった。
…すごい、としか言えないのは多分俺のボキャブラリーが少ないせいじゃない。
他に、良い例えが見当たらない。
速いとか強いとかじゃなくて、とにかくすごい。
本当に一人なのかと言う程に、その戦術は多彩であり
合理的な穴埋めの連続だった。
まるで隙間が何処に生まれるか最初から知っているかのように。
針に糸を通すように正確に攻撃を置いていく。
これではふまれちゃんも反撃の隙など狙えるわけもない。
流石に伊達じゃなかったんだなぁ。
それでもまだ致命傷を受けていないふまれちゃん。
こちらもそれは賞賛に値すると思う。
だけどこのままじゃジリ貧だ。
明らかに優勢劣勢は開始直後から動いていない。
アドバンテージは常に先輩が握っている。
決着が着くまで、口出しは出来ないけど。
多分俺は、終わったらどっちも頑張った。
くらいしか言えないんだろうな。
まず、無理だしこんな戦い。
魔法使い…か。


Side:あるる

…本気を出すなんてどれくらい振りなのかしら。
本気と言っても、考えて動くわけじゃない。
殆どは感覚、ある種の癖を全面に出すようなそんな感じ。
と言っても、あの子には伝わらないでしょうね。
攻撃の手を緩めないままに、少し場違いな考えを巡らせていた。
ふまれに慕われ始めた頃の記憶。
あんなに弱かった子が、ここまで自分に渡り合うようになった事。
全力を求めてきた事。
最後の日が、今日であったこと。
その最後の日に、あの子とこうして戦える事。
全てが嬉しかった。
笑っていた。
真面目にやれって、普段ならツッコまれそうだけど。
でも良いわよね?ふまれ。
表情までは確認出来ないけど、きっとあなたも笑ってるんでしょう。
こんなに楽しいのは久し振りかもしれない。
だからこそ、手は抜かないであげる。
考えないで行う動き。それは自分でも把握し切っていない。
とか言ったら怒るだろうなぁ。
トン、トン、トン。
一定のリズムを保ったまま、攻撃を続ける。
ずっと同じ歩幅で歩いてきた今までを懐かしむように。
ちょっとだけ立ち止まった時もあったかな…。

それにしても、案外とやる。
何だかんだ言って、ちゃんと育ってくれたのね。
素直に嬉しいわ。
それも、私のコピーじゃなくて、自分なりを見付けてる。
自分なり、か。
もうちょっと私が正直だったら
丼の横に……ううん、何でもない。
誰に言うわけでもないのに、首を振る。
今は緋想天ファイト中よ、あるる。
眼前にはふまれが居る。
せめて今だけは、この子を見てあげないと。
そして全力を持って―

―叩き潰してあげる。


どれくらい時間が経ったろう。
普通、ファイトは長くても1時間程度で終わるんだけど…。
空の色が変わって大分経つ。
えーっと…開始したのお昼頃じゃないっけ?
何時間やってるんだよ……。
二人とも、明らかに疲労の色が濃い。
そりゃそうだ。そろそろ、決着しそうかな。
暢気に構えていると、二人の動きが止まっている事に気付いた。
「ふふ…バテて来たんじゃないふまれ?」
「はぁ…はぁ…先輩こそ…肩で息してるじゃないですか…。」
どちらも余力は殆ど残ってないだろう。
内容はどうにしろ、こんな長時間ぶっ続けて戦ったのだから。
「先輩…私、先輩に会えて良かったと思ってます…。」
ふまれちゃんが息も絶え絶え言葉を紡ぐ。
「だから…お礼、しなくちゃ…って。」
「どうせならそういうのは…ハァ…物品で贈って欲しいんだけど。」
あるる先輩の軽口も覇気が無い。
「だから…今日は…今日こそは先輩に勝って…」
「先輩が教えてくれた事の結果を見せたいんですっ!」
ふまれちゃんが突っ込んだ。
先輩がSPを構える。
桃色の閃光が前方に展開される。
それをギリギリでかわし、先輩との距離を縮めるふまれちゃん。
これは…!
「先輩っ!!」
ふまれちゃんの叫び。
あるる先輩は、その瞬間
目を閉じて、少し笑った。
決着だった。


「………んっ…あ、あれ?」
「ん、やっと起きた?」
空は既に夜の色に満たされていた。
屋上の小さな灯りだけが、俺を含めた三人を照らしている。
ふまれちゃんは先輩に膝枕された状態で目が覚めた。
「え…あれ…決着……は?」
多分、まだ状況を理解出来てないんだろう。
無理も無い。あればっかりはなぁ。
「負けだよ、ふまれちゃんの。残念ながら。」
「オレオ……そっか…。」

あの時、ほんの少しだけでもふまれちゃんが後方に気を配っていれば
勝負はわからなかっただろうと思う。
人形SPの照射に呼応して
後方に設置してあった人形も同時にビームを発射していた。
目の前の先輩に集中しすぎたふまれちゃんは
それを避ける事が出来ず背面から直撃。
それが決着だった。

ふまれちゃんは体を起こそうとした。
「…つっ!」
無理も無い、あれだけ無茶な動きをしたのだから
痛みが無いなんて事、あるわけが無いんだ。
「ふま」
「ふまれ、もう少し休んでなさい。まだ痛むでしょ?」
…先輩のあんな優しい顔は初めて見た。
「でも、先輩…私……。」
何も言わず首を振る。
それを見たふまれちゃんの目から
涙が流れてきた。
「…うっ、くっ…ごめんなさい…先輩…私、わらひ…。」
まるで子供の様に
涙を拭う事も無く、ふまれちゃんは泣き続けた。
「わた、私…先輩…に……みせようと思って…今までの分とか…」
嗚咽交じりに、必死に思いを口にする。
先輩はそれを、黙って受け止め続けた。
勿論、俺も何も言えない。言えるわけもない。
「ずっ…と…迷惑ばかりかけて…ひっく…だから…最後くらい…先輩をあんひんさせようって…」
だから、恩返し…か。
師匠も素直じゃなきゃ、弟子も素直じゃないな。
もっとやり方はあるだろうに…。
「でも…やっぱりダメダメで…えぐ…ごめんなひゃいせんぱい…ぐずっ。」
ダメなんかじゃない。
少なくとも俺はそう思う。
そう言ってあげようと思ったけど、俺が言うより先に、先輩が口を開いた。
「そうね。まだまだ甘いわ。色々と、抜けがある。一人前と言うにはまだまだ未熟。」
…きっつ。
ここでそんな事言いますかあなたは。
「でも、しっかりと見せてもらったわ。ふまれのこれまでの成果。」
「先輩…。」

「良い?あなたは私と同じである必要も無い。同じ場所を目指す事も無い
 ふまれにはふまれのやり方があるし、それを伸ばしていけば良い。
 足りない所があれば、それを補ってくれる人はきっと近くに居るし。でしょ?
 今日、手合わせした事で、ふまれは自分なりを見付けてると私は感じたわ。
 まぁ…最後のは勿体無いけど、でもね。」

「もう、大丈夫よ。」

そう言い終えて、先輩はふまれちゃんの涙を拭い
優しく撫でてあげた。
「…うぅ…せんぱぁい!」
感無量、と言うのはこういう事を言うんだろうか。
泣きながら、先輩に抱きつくふまれちゃん。
何となく、母親とその娘みたいな。ないか。
…たまになら百合も良いよね!
そうじゃなくて。
何と言うか、二人の世界みたいな事になってきて
正直居心地が悪い。どうしたもんかな。
「と、言うわけで。」
先輩が言った。
どう言うわけで?と言うか誰宛の台詞だよ。
「私が居なくなった後、ふまれの事よろしく頼むわよ、オレオ。」
「え、あ、はい…はい!?」
いきなりのキラーパスに困惑する。
いや、俺…俺!?
「何驚いてるのよ。あんだけ盛大な告白したんだから責任持ちなさいよ?」
「いやまぁ…はい。」
「まだまだこの子は抜けが多いから、フォローは大変でしょうけど。
 まぁ、何とかなるでしょ。頑張りなさい。」
相変わらず泣きじゃくっているふまれちゃんを抱き締めながら
あるる先輩はそう言うと、俺にも軽く笑いかけてくれた。
…まぁ、悪くない、かな。

ふまれちゃんが泣き止んだ所で、俺達は学校を後にした。
もう、登校する事の無いあるる先輩。
一応気遣って、送ってくと申し出たものの
「二人の邪魔しちゃうから、一人で良いわよ。ありがとうね。」
そう言って、先輩は一人で帰ってしまった。
ただ、その時に俺もこう言った。
「ありがとうございました、先輩。」
先輩は振り向きはせず、軽く左手を挙げるだけの返事をした。
でも、それで良かった。

「生徒会…淋しくなるなぁ。」
ふまれちゃんがぽつりと呟いた。
「ん…?あぁ、一気に居なくなっちゃうからな。」
「…また、あんな風になれるかな?」
…あれだけ濃い面子が揃う事…どうだろうか?
会長を筆頭にそれぞれが個性豊かだった生徒会。
同じように…は無理かもしれない。
「わからない、けど」
「けど?」
俺は続ける。
「どーせなら、それ以上を目指すのも悪くはないんじゃ?」
「それ以上?」
「そ、今まで以上に楽しい生徒会作れば良いんだよ。」
言うのは簡単だけど、そう簡単に出来る事じゃない。
だけど今は、そうなる事を願って。
「…じゃー、手伝いよろしく?」
「…へ?」
「言いだしっぺの法則。」
「あー…はいはい、わかりました。先輩にも頼まれたしなぁ。」
「…あるる先輩に?」
「んにゃ、なんでもない。そう言う事ならお付き合いしましょう。我が麗しのお姫様。」
ま、なるようになるんじゃないかな。
俺達にはまだ1年あるんだ。
1年と言わず、これから先がまだまだあるんだ。
きっとその中で、もっと楽しい事、もっと嬉しい事。
きっと見つけられるさ。俺も一緒に探すから。

だから―

  • 了-
    (?)

新学期―今日から3年生ヒャッホウ!
何となく最上級生になると言うのは気分が良い。
春の陽気と新学期の妙なテンションによって
浮き足立った俺はスキップ交じりにふまれちゃんを迎えに行った。
やっぱカップルつったら一緒に登下校基本だろ!?
で、何度か来た事はあるわけだけど…
相変わらず家の前まで来ると緊張する。
玄関のインターホンを鳴らす。
少し間を置いて玄関のドアが開いた。
「おはようふま…れぇ!?」
「おはよう、オレオ。」
そこに居たのは
ふまれちゃんではなく

あるる先輩だった。

……………
「あ、すいません家間違えました。」
さっと踵を返そうとしたが、やむなく襟首を捕まれ阻止された。
「いや、合ってるから。ここふまれの家よ。」
デスヨネー。
うん?なんで?どうして?
何故先輩がここに居る?俺のふまれちゃんは!?
「まぁ、上がりなさい。あの子今着替えてるから。」
「いやそんな、悪いですし。」
「良いから。」
なかば強引に家の中に拉致られる。
グッバイ俺の人生。

……なんて事にはならなかった。
先輩は俺を居間に案内するとコーヒーを淹れてくれた。
うん、とりあえず落ち着こう。
まずは状況整理だ。
「あのー…なんで」
「なんで私がふまれの家にいるか、でしょ?」
「そう、それです。少なくとも先週は居ませんでしたよね?」
「ふーん…二人は先週仲睦まじくよろしくしてたわけね?」
「ちょ!」
俺の動揺を見てにやにやといやらしい笑顔をする先輩。
相変わらずドSだ、この人。
「で、まぁ俺の方は置いといて。実際なんで居るんです?」
まさかパジャマパーティーってわけじゃないだろう。
この歳になって。
コーヒーを一口飲み、ふぅと息をつくと
先輩は説明を始めた。
「ほら、この近くに非則学院ってあるでしょ?」
「えぇ、ありますね。先輩の進学先でしたっけ?」
「そう。で、私の家からだと通うの結構大変なのよ。」
「それで?」
「それで立地的に丁度良いふまれの家。」
「はい。」
「私、ルームシェア。OK?」
「……はい?」
「だから、わからない男ね。ふまれの家に居候させてもらってるわけ。」
「何時の間にそんな……。」
「春休み中に。」
俺何も聞いてないよ!?
って言うか先輩居たら気軽にキャッキャウフフ出来ないじゃん!?
おィィ!?ふまれちゃーん!?
俺の絶望を知ってか知らずか、階段の方から音がして
ふまれちゃんが降りてきた。
「あ、れ?おはよう、オレオ?もう来てたんだ。」
「あ、あ…うん、おはよ…。」
「どうしたの、暗い顔して。今日から新学期なのに。」
「いやまぁ……。」
気付いて、お願いだから俺の心の叫び気付いて。
「どうせ大した事じゃないわよ。オレオだし。」
とあるる先輩が無責任に笑う。
「まぁ…オレオだしね。」
納得しないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

結局、先輩が卒業しても
まだまだ縁は続いていくようだった。

  • 了-