ss105820

Last-modified: 2010-03-29 (月) 12:38:02

4時限目の終了のチャイムと同時に目を覚ますと俺は走り出す。
購買へ向けて全速力で。
ここでもたもたしているとあっと言う間に売り切れて
昼食を逃す羽目になってしまう。
今日は寝坊したせいで朝も碌に食っていない。
これで昼まで抜いたら午後はサボリ決定。
…あれ?いつもと変わんなくね?
まぁ、寝るにしてもやっぱ腹は膨れてた方が良いし。

そんな風に考えながら廊下を走っていると
同じクラスの生徒らしき二人(三人?)が口論していた。
ここで道草食うと多分パン買えないんだけど…。
なんとなく気になるし…でもパン……。
見てしまったものは仕方ない。
これ素通りしたらきっと夢見が悪くておちおち昼寝も出来ないだろう。
そう自分に言い聞かせて、歩み寄ってみる。

「だから、何度言ったらわかるのよ!?」
「いやだから、分かってるけど…だけどこっちも…。」
「そっちはそっち、これはこれでしょ!?」
何となく片方が一方的に突っかかってる風にも見える。
…面倒ごとに首突っ込んじゃったかな。
「あのー…さっきから何騒いでるのさ?」
「何ようるさいわね!誰!?」
…もうちょっとちゃんと出席しようかな…。
「いやまぁ、俺は誰でも良いけど、なんか気になったからさ。」
近くに来てわかったのは、とりあえず片方―新月ちゃん、だったかな?
が、もう一人に一方的に怒鳴って、そして新月ちゃんの妹、かな?が
その様子をわたわたと見ていると言うような状況だった。
そのもう一人…は
「t-tさん、だっけ?どうしたの?」
あんまりクラスで目立つ方じゃない子だし、
絡まれる要素とかあんまり思いつかないけど。
俺が知らないだけかな。
「あ、あのえーっと…その、新月ちゃんが…。」
「私のせい!?違うでしょ、もとはと言えばあんたが…!」
「あーっと、ストップ。ちょっと待って。俺寝ぼけてるから一から説明してもらえないかな?」
「なんであんたに説明する必要があるのよ!」
「いやだって気になるし。」
はいそうですかって立ち去るにはもう後味が悪すぎる。
しかし新月ちゃんからはどうにも話は聞き出せそうではない。
困っていると妹の双月ちゃんが説明を始めてくれた。
「えっと、t-tちゃんに以前、姉さんがちょっと緋想天ファイトの事でアドバイスしたんですよ。」
「うん。」
「それで、教えた当初はt-tさんもそれを練習してたんですけど…。」
「けど?」
双月ちゃんより早く新月ちゃんがそこに割って怒鳴り込んできた。
「それが途中だったのに、t-tは別の方に現を抜かして私の言った事なんかさっぱり忘れてるのよ!」
「あー…。なるほど。大体分かった。」
つまり新月ちゃんは自分の助言を中途半端のまま
別に移ってしまった事が気に入らなくて突っかかってたわけか。
まぁ、分からなくも無いけど、人のことも言えない俺なのでフォローは出来ない。
「いやその…そっちもやってるよ?やってるけど…。」
「じゃあ見せなさいよその成果!どう、今すぐやれる?やれないでしょ!?」
「ちょ、姉さん落ち着いて…。」
「まぁまぁ、ここ廊下だし、流石にここでおっぱじめたらみんなの迷惑だから。」
「そうそう!だから姉さん落ち着いて!その…えーと…そういえばお名前…。」
…あ。
「あ、あれ?てっきり分かってるもんだと思って…。」
「いえその、恐らく別のクラスの方かと……。」
「…同じクラスなんだけどなぁ。あれー?」
「…授業、出てます?t-tさん、わかる?」
t-tさんは小さく首を振る。
そして遠慮がちに
「あの…お名前、聞いても良いですか?」
なんだろうこの切なさ。
「昼寝スキー。昼寝の人とか適当呼んでくれれば良いよ。まぁ…大抵屋上で寝てるけど。」
なんで今更自己紹介してるんだろう俺。
「で、そのサボリ魔は?じゃあどうしろって言うの?」
とりあえず落ち着いた新月ちゃん。
サボリ魔はひどい。大体合ってるけど。
「とりあえず、移動しない?屋上とか、人の迷惑掛からない場所に。」
「今日は晴れですから、お弁当食べるにも丁度いいんじゃないかな?」
とt-tさんがそこはかとない誘導を掛ける。
ナイス!
「姉さん、ね?昼寝さんもt-tさんもこう言ってるし。」
「……確かにお腹も減ってるし…わかったわよ。」
良かった、折れてくれた。
そんなわけで俺たち4人は屋上へと移動する事になった。
……購買は売れ残りのアンパンしか残ってなかったが、無いよりマシだろう。

そして屋上。
まだこの時期は少し風が冷たい。
それでも天気のお陰か、大分春の陽気が差し込み、充分に暖かかった。
4人向かい合って、と言う不思議なシチュエーションで各自昼食を始める。
一人淋しくアンパンを齧りながら様子を伺っていると
「あ、t-tさん可愛いお弁当ー。手作り?」
「あはは…昨日の余りものだけどね。双ちゃんのもおいしそう。」
双月ちゃんとt-tさんは普通に仲が良いようだった。
その隣で新月ちゃんは黙々と弁当を片付けていく。
矢張りそこは双子、二人の弁当の中身は殆ど同じだった。
強いて言えば、新月ちゃんの弁当にとんかつが入っているスペースが
双月ちゃんの所はコロッケだった、くらいの違いか。
「あれ、双月ちゃんってお肉だめなの?」
意外そうな顔をされた。
藪から棒だったかな。
「あ、はい、ちょっとアレルギーで…双子なのにおかしいですよね。」
「んー、まぁそう言うのはある程度個人差あるだろうし普通じゃない?」
そう言いながら俺は牛乳で口の中のアンパンを流し込む。
「ごちそーさん。」
他の皆も一段落したようなので、話題を戻してみる。
「で、だ。どうしよう?」
実は何も考えていなかった。
「どうしよう…って、あんたが何か考えてると思って付いて来たのにそれ!?」
「ごめん。ちょっと無責任でした。」
「ごめんって……だぁぁぁー!」
「姉さん落ち着いて!!」
「新ちゃんブレイクブレイク!!」
すかさず二人のフォローが入る。
新月ちゃんおっかねぇ。
「要はあれだろ?自分のアドバイスがどれだけ形になってるか気になるんだろ?」
「そりゃそうよ…助言したのにほっぽり投げられてたら腹立つじゃない。」
「t-tさんは?その辺ちゃんとやってるの?」
t-tさんに目を移す…と。
何やら気まずそうである。
「あれ…?」
これは…
「すいません…最近ちょっと他の事をしてて…。」
あちゃー。
「ほらね!t-tはそういうやつなのよ!すぐ新しい物に目がいって!」
「姉さんどうどう。」
どうしたものかな。
これは話し合いだけじゃ解決しない気がしてきた。
「じゃあもう…一回どんくらいか見せるしかないんじゃない?」
「えぇー!?今からですか!?」
t-tさんの反論ももっともなんだけど
そうでもしないと収まり着かない気がするし…。
「まぁ、昼食の腹ごなしってことで。審判は双月ちゃんと俺でやるから。」
見えればだけど。
「ふ…ふふふふ…いいじゃない、やりましょうよt-t。」
新月ちゃんはやる気だ。
すいません、すごい勝手な事言いました。
後でどんな事でもするから許して、t-tさん。
必死に拝み倒し、なんとかt-tさんの承諾も得る。
「…わかりましたよぅ。でもお昼休みが終わる前には終わらせないと…。」
あと20分くらい、かな?
「多分大丈夫。」
と無責任な太鼓判を押す。
「さぁ、早く始めましょう。」
「だから姉さん落ち着いてって…そんな焦ったら分かるものもわからないって。」
「うっさいわね双月!大体は斬ればわかるわ!!」
んな無茶苦茶な…。
「じゃー…t-tさん大丈夫?」
「えぇまぁ…はい。」
それじゃあ、一応両者準備OKって事で。
「レディ?」
どう考えても新月ちゃんの気迫がおかしいけど
あえてスルーして…
「ゴー!!」

合図が出るなり、新月ちゃんはt-tさんに飛び掛っていた。
何処から持ってきたのか手には一刀の得物が。
刀!?いや、流石に模造刀だと思うけど。
えも言わせぬほどの猛攻で、一気にt-tさんを押していく。
技術、と言うよりは我武者羅なゴリ押しにも見えるけど。
「ちょ、早い、速いって!!」
t-tさんは体勢を必死に保ちながらそれをかわしていく。
結構上手いなぁ…。
「うっさいばか!大人しく斬られなさい!!」
舌噛まないかなー。
「なー、双月ちゃん?新月ちゃんって毎度ああなの?」
少し困ったように笑いながら双月ちゃんは
「まだちょっと子供っぽいと言うか…自制が利かない時が…。」
ちょっと…なのか。
うん、そういう事にしておこう。
t-tさんの手元に光が集まり火球を形成する。
四方へ散らばった火の玉はそのまま新月ちゃんへと
微妙に誘導していった。
それをグレイズしつつ距離を開ける新月ちゃん。
t-tさんは中距離遠距離派なのか
距離が離れた途端、次々と光弾を繰り出した。
しかし一つ一つが小さいせいか、当たってもあまりダメージは通らないようだ。
小当たりを意に介さず、新月ちゃんは再び距離を詰めた。
そして一気に至近距離へ。
「弧月…!」
「サマーッ」
二人の声が重なった次の瞬間、
二人を中心に盛大な爆発が起こり、粉塵が舞った。
砂煙が巻き上げられ、二人の姿は視認出来ない。
「姉さん!?」
「二人とも大丈夫か!?」
流石にこれは予想外。二人はどうなった!?
かすかに煙が薄らいで人影が見えてきた。
「はい、そこまで。」
その声は新月ちゃんの声でも、t-tさんの声でも無かった。
やっと煙が晴れ、そこに居たのは
押さえつけられる新月ちゃんとt-tさん。
そして、生徒会副会長と書記長だった。
新月ちゃんは副会長に頭から押さえ付けられ、
t-tちゃんは書記長の人形に雁字搦めにされている。
険しい顔で副会長は二人に…もとい俺達に言って来た。
「勝負は結構、幾らでもやると良いわ。」
新月ちゃんはなんとか副会長を振り払おうとしているが
副会長は微動だにしない。
片手で押さえ付けるってどんだけ…。
「でもね、一応ルールってのはある。あんたらこれ非公式でしょ?」
「あ、えぇと…はい。」
「緋想天ファイトは申し込みして、それが受諾されて初めて公式に成立するもの。」
淡々と書記長が解説をする。
「あんまり好き勝手やられると、風紀の問題もあるわけよ。」
面倒臭そうに新月ちゃんを見下ろしながら副会長は言う。
「ってわけで、やるならちゃんと段取り踏みなさい。良い?」
なんで俺睨まれるんだろ。
「…は、はい。」
副会長の視線に気圧される。
それは他の3人も同様のようで、一切身動きが取れなかった。
実際、動いてもどうしようもないだろう。
仮にここで新月ちゃんあたりが反発して暴れだしても
きっとあの二人には敵わない。
暴れまわる新月ちゃんと、技を繰り出そうとしたt-tさん。
その至近の中に、割って入って一瞬で制圧したのだ。
力の差は火を見るより明らかだろう。
「わかったならよし。もう昼休みも終わるし、あんた達も教室に帰りなさい。」
「…終わり?」
「私達も帰るわよ。」
「りょーかい。」
生徒会恐い。
屋上を後にしようとして、書記長が一度振り返った。
「そこのあんた、あんまり寝てばかりだと単位落とすわよ。」
「え、なんで…?」
「屋上の住人は一人じゃないってこと…じゃあね。」
そう言って書記長も校舎へと帰っていった。
残されたのはただただ唖然としている双月ちゃん。
とにかく疲労困憊の様子のt-tさん。
そして項垂れる新月ちゃん。
「…参ったなぁ。とりあえず、戻る?」
そう双月ちゃんに提案する。
「そ、そうですね!ほら、姉さん…姉さん立って!」
無気力に項垂れる新月ちゃんを、なかば引き摺る形で二人は退場していった。
「…t-tさん大丈夫?」
「……正直…キツイデス…。」
うん、ごめん。俺のせい。
「まぁ、とりあえず教室戻ろう。肩でも貸そうか?」
と提案するも
「え、いや、だ、大丈夫ですから!歩くくらいは出来ますから!」
と、恥ずかしそうに拒否られると
そのままt-tさんは物凄い勢いで屋上から逃げていった。
…気付くと俺は一人取り残されていた。
「あー…うーん…まぁいっか。」
午後の授業は睡眠学習。
とりあえず昼寝でもして落ち着こう。
『単位落とすわよ』
……今日くらいは良いよね!

【了】