ss107460

Last-modified: 2010-03-29 (月) 12:36:01

「だーかーらー、何か凄い事をしたいんだぜ!!」
それは平々凡々ないつも通りの生徒会。
のはずだった。
会長の突然の宣言が響き渡るまでは。
「とにかく歴史に名を残すような!そんな事をしたいんだぜ!」
一様に他の役員は顔を見合わせる。
いきなりどうしたんだこの人は、と。
あるる先輩と副会長は「ハァ?」と声にまで出してしまっている。
その反応も尤もなわけなのだが。
「じゃあどうする?ギネスにでも挑戦してみるかい?」
副会長がくすくすとふざけ半分で提案する。
ギネスってすごい下らない事でもカバーされてたりするから
案外難しいと思うんですけど…。
「世界で最も仕事をしない生徒会長、とか?」
あるる先輩も皮肉交じりに話に乗る。
「じゃあ俺は世界一エロオーラ溢れる会計で。」
巫女みこさん何言ってるんですか。
そんなのどうやって計測するんだろう…。
「じゃ、じゃあ私は…私って何か世界一なれますか?」
ふまれちゃんは…うーん…ちょっと難しいかもしれない。
いや、俺も無理っぽいけど。
「違うぜ違うぜ、見当違いすぎるんだぜ!!」
違うって、どう違うのだろうか。
「この学園の生徒会長として、学園の歴史に名を残すような…」
わなわなと震え、思い切り溜めて
「ビッグなことをしたいんだぜーーーっ!!」
と叫ぶ会長。…何なんだろうこの人。
「「「はぁ。」」」と、先輩達三人の溜息がシンクロする。
「あのー…会長。」
「なんだぜオレオ?」
「いや、漠然とビッグな事と言っても…何か考えてるんですか?」
「何も無いぜ!」
言い切った。
この人言い切った。
ネタが無いのに有名になりたいとかのたまう芸人みたいだ。
「えー…じゃあ、どうするんですか?」
本当どうするんだろう。
くすくす、と笑い声が聞こえた。
「…副会長?」
「な、なんだぜ?何か可笑しかったのぜ?」
不気味に笑っているのは副会長と…あるる先輩だった。
「いやなに、そんな事だろうとは思ってだな。」
「ビッグ、では無いかもしれないけど丁度良い仕事があるわ。」
あるる先輩が持っていたのは、目安箱に入れられていた意見書だった。
意見書は匿名で生徒から学園側、もしくは生徒会等への
要望や、意見、情報提供を募る物である。
副会長が何枚かの意見書を取ってしげしげと眺めた後、会長に問い掛けた。
「会長、この学園は好きだろう?」
「勿論だぜ!」
「私の事は?」
「大好きだぜ!」
うn…うn?
何か勢いで凄い問答しなかったか、今?
「よろしい。じゃあ早速本題に入ろう。書記長。例のモノを。」
「了解。」
良いの!?
少し芝居掛かった振る舞いを取り、あるる先輩が会長に書類を渡す。
意見書の中から何枚かピックアップされたようだ。
「会長、それを見て欲しい。生徒会に寄せられた、簡単に言えば苦情の類の物だ。
 その中でも共通性のある物を抜粋させてもらった。」
クレーム処理って事か。
「内容は読めば分かると思うが、全て新聞部絡みの事だ。ちなみに、それはまだ一部。」
「全部となると、量が相当なのよ。持ってくるのも面倒だから、とりあえずそれだけ。」
わざわざ面倒くさそうなジェスチャーを取ってあるる先輩が説明を補足する。
…そういう時って俺使わないのね、先輩。
「な、なんてこった…だぜ…。」
「そんな酷いんですか?」
「まぁ、読めば分かる。ついでだ、オレオも読んでおくと良い。新聞部と言う物がわかるだろう。」
どれどれ・・・・。
「会長、ちょっと失礼。」
意見書を会長から拝借して内容を確認する。
(オレオ確認中...)
えーあーまー…うん、酷いなこれは。
何がどう、とはちょっと文面で露にするのも憚られそうだ。
「分かったかい?つまりそういう事だ。言動の自由はある。
 しかし、だ。責任の伴わない自由、他人を侵害する自由は許して良いものではない。
 その者の自由に因って害を受ける人が少なからず出ている以上、放って置く訳にもいかないのだよ。」
確かに。
要は、今の新聞部の活動は部活動として許される範囲を超えていると。
俗に言うパパラッチとか、そういう物になってるのだろう。
そのせいで不利益を生じている人達が居て、こういう意見書が寄せられる。
…山ほど、と言った具合に。
流石にこれは放置出来る量じゃない。
「ちなみに、オレオは知らないかもしれないけど、生徒会もネタにされてるのよ。」
「え!?」
冷静ではあるが、あるる先輩の声には怒気が感じられた。
地味に怒ってる…。
「ほら、見なさいこの壁新聞の見出し。」
手渡された過去の新聞を見てみる。
「なになに…?『会長はお荷物!?「仕事をしない生徒会」の真実』…?何だコレ。」
「何だコレ、じゃないわよ。大して信じた人も居ないとは思うけど、そういう事書かれたのよ。
 姑息なのは、ある事無い事混ぜて嘘か本当か分かり辛くしている所。写真見なさいよ。
 丁度会長がだらけてる場面をこれでもかとベストショットで撮られてるわ。」
「でも会長が仕事しないのは事実ですよね。」
「そうだからこそ余計困るのよね。」
はぁ、と溜息を吐きあるる先輩は会長に視線を移した。
「そういうわけで、だ。」
副会長が会長に向き合う。
「会長自身の名誉挽回のためにも、学園の生徒の平穏のためにも
 会長には新聞部へ赴き、見事一喝してきてもらいたいわけだ。」
成る程。会長自身が新聞部に圧力を掛けに行って、それが成功すれば
新聞部は大人しくなって生徒も喜ぶし、会長も仕事をしない会長などとは
言われなくなるわけか。良い作戦だ。
「で、でも私に出来るんだぜ…?」
うん、それがすごく心配。
大丈夫だろうか…。
にやぁ、と副会長が笑う。
「出来るか、ではなくやるのよ。良い、だぜだー?
 もしこれを上手くやれたら、きっと学園中のヒーローよ。
 そりゃあもう、歴代稀に見る優秀な生徒会長として、学園の歴史にも
 きっとその名を刻む事が出来るでしょう、えぇ、出来るとも、出来ないでか!」
えー…そりゃあちょっと無茶すぎませんか副会長。
と思ったけど言わなかった。
明らかに俺の考えを読んで睨みを利かせてきた。怖っ!
「そ…そうか…そうだぜ…やってやれだぜ!
 そういう事なら任せるんだぜ!!学園の為にもここは立ち上がってやるんだぜ!!」
会長は一気にノリノリになっていた。
乗せるの上手いなぁ。
「あぁ、そうそう。今日は特に難しい仕事も無いし、
 折角だからオレオも会長に同伴してあげなさい。」
あるる先輩が軽く言う。いやまぁ、良いんですけどね。
どうせ俺は小間使いですから。
「だぜ!じゃあオレオ、早速行くんだぜ!!」
会長元気だなー。まぁこのポジティブさに俺はよく助けられる。
勿論、俺だけじゃなくてきっとこの学園の生徒の大部分は、この笑顔に支えられている。
「了解ー、じゃあサクッと終わらせてきますか。」
会長と共に生徒会を後にしようとした時、副会長が不吉な言葉を漏らす。
「…生きて、帰ってきなさいよ。」
…生きて?
「いやいやいやいや!?ちょっと待って下さい、俺死ぬんすか!?」
「ハハハ、まさか。そんなわけないだろう?」
副会長は笑って誤魔化す。
隣のあるる先輩は何かすごい可哀想な目で俺を見てる。
何かある、絶対何かある。
「きっとオレオなら大丈夫だ!」
無意味な太鼓判を押され、背中を押され…。
よく分からないうちに俺は生徒会室の外に居た。
まぁ…こうなったら仕方ない、行くしかないだろう。
「オレオ~、早くしないと置いてくんだぜ~?」
「今行きますよ、会長!」―

「あのー…先輩?」
「ん、何よふまれ?」
「いえ…二人だけで大丈夫なんですか?オレオと会長で…。」
「正直、相手が実力行使ってなったらキツいわね。」
「えー!?」
「まぁ、どうにかしてもらわんとな。ここは会長として。」
「ふ、副会長までそんな軽く…。」
「良いんだよ、これは所謂試練と言うものだ。だぜだーにはもうちょっと会長として
 威厳と言うか、ポジション相応の逸話を持ってもらわないと箔が付かない。」
「…箔?」
「あぁ、いや、こっちの話だ。」
「…?」
「ほら、ふまれ。ぼぅっとしてないで仕事仕事。
 そっちの書類、もう上がった?」
「あ、すいません!まだ途中で…。」
「後30分で終わらせなさい。」
「ふぁ~い…。」

勢い良く出てきたものの、
正直新聞部を捕まえるのは至難の業だ。
四六時中ネタ探しの為に東奔西走してるものだから
どこか一箇所に留まっていると言う事が少ない。
案の定、部室は蛻の殻であった。
「…どうします、会長?」
「校内巡って新聞部をひっ捕らえるんだぜ!」
悩まないな、この人。
「じゃあとりあえずぐるーっと周りますか。」
「おーっ!」
こうして俺と会長の、新聞部捜索校内大行脚が始まった。
大行脚と言っても校内限定の時点で高が知れているが。
―で、だ。まずは科学室か。
「お邪魔するんだぜー!」
会長が勢い良く扉を開ける。
その勢いに驚いたのか、部屋では白衣を着たくるるさんが尻餅を付いていた。
「こんちはー。新しい挨拶?それ。」
「っつ~…そんなわけないじゃない…。」
涙目で腰をさすりながらくるるさんが立ち上がる。
いや、俺睨まないで。悪いの会長だから。
「で、どうかしたの?会長とオレオのペアってなんか珍しいわね。」
「かくかくしかじかで。」
「まるまるうまうまなんだぜ!」
事情を簡潔に説明する。
アリス探偵事務所でも通じた説明だ。
余裕で分かってくれるだろう。
「なるほど…ってそんな説明でわかるわけないでしょう!」
「「えー…。」」
会長と二人でがっくしと肩を落とす。
「N○Kでも使われた由緒正しい説明方法だぜ…?」
「それを分からないってくるるさんあんた…人じゃねぇ、人じゃねぇよ!」
「ちょちょ、ちょっと待ってよ!なんで私が悪役!?」
「まぁ、冗談ですけどね。」
思いっきり引っ叩かれました。
(オレオ説明中...)
「と言うわけなのぜ!」
「あ、会長!説明したの俺じゃないっすかー。」
「ふむ、つまり新聞部を探してるわけね。
 なべ先輩かもまれ…どっちかで良いの?」
「出来ればやっぱり代表として部長が適当ですね。」
「なべちゃんがどこに居るか知らないんだぜ?」
「んー…私は見てないわね。何か騒ぎが起こっていれば
 その中心には居そうだけど、生憎うちは今ネタになりそうな事も無いし。」
やっぱりそう簡単には見つからないか。
飛び回ってる人物を探すのは容易じゃないのは分かってるけど…。
「会長、これ今日中に達成出来ますかね…?」
不安になってくる。
放課後の活動と言う事で、あまり時間は多くないのだから。
「…や、やってやれ、だぜ!…だぜ?」
言い切ったかと思ったら微妙に弱気である。
会長、ポジティブハート!ポジティブハート!
「あ。」
悩む俺達を見て、くるるさんは何かを思い出したように声を上げた。
「そうそう、人探しなら良い物が…どこだったかな…。」
その辺の段ボールを漁り始めるくるるさん。
知らない人が見たら怪しい人に見えそうだ。
「あ、あったあった!」
手には何か何処かの漫画で見たような道具があった。
ド、ドラ○ンレーダー!?
「ジャジャーン!これは名付けて『ホスクラレーダー』!」
「ホスクラレーダー…?」
「だぜ?」
もう名前からしてアウトに近い。
「そ、これを使えばお目当ての人物が今何処にいるか表示してくれるの。」
何その超便利。
「すごいんだぜ!大発明なんだぜ!」
会長落ち着いて下さい。
しかし、確かにすごい発明だ。
「ただ、これもまだまだ試作の段階で。
 今だ問題点を抱えたままで実用には…。」
「問題点?」
なんだ、使ったら爆発でもするのか。
「探したい人物の体毛、特に陰毛とかを入れないと、ちゃんと動作しないのよ。」
「うっわ、使えね。」
しまった。つい本音が出てしまった。
「あ゙?」
物凄い剣幕でくるるさんに睨まれる。
「すいませんごめんなさいどのような経緯でそんな機能になさったんでしょうか。」
「人を探す際のセンサーが、臭いを元に動作するからなのよ。
 で、やっぱりそういうのが濃ければ濃い方が精度が高まるわけで…。」
「……だからってその…そういう所の毛ってのは…。」
くるるさんと俺で溜息を吐く。
便利な機能だけど、全然使える気がしない。
条件のハードルが高すぎる。
「ごめん、会長。どうにも私は協力出来無そうだわ。」
「良いんだぜ!元々オレオと二人で探すつもりだから問題無いんだぜ。
 時間取らせて悪かったんだぜー。」
「んー…じゃあ行きますか?」
「くるるもお邪魔様なんだぜー!」
俺も挨拶をして部屋を出ようとしたのだが、
くるるさんが会長を引き止めた。
「あ、会長。あの後、何か変な事とか起きてない?その、副作用とか…。」
びくっ、と会長の身体が反応した。
「…だ、だぜ…?何の事だぜ…?」
「いやだからこの前飲んだ……の。」
何飲んだんだろう?
「な、何も無いんだぜ!本当だぜ!きっとなんでもないんだぜ!!」
そう言うと会長は逃げるように走り去っていった。
あ…追わないと。
「あー…じゃあ、すまん。俺も行くんで。かーいちょー!!待ってくださいって!!」
挨拶も程々に俺も会長の後を追った。
「あー…まぁいっか。何も無いって言うなら。絶対モゲてるけど。」
二人を見送ってくるるは科学室の戸を閉じた。

「ナルホドナルホド。科学部はアングラ開発がお得意…なの。」
科学室から少し離れた廊下の影で人影が呟く。
「…生徒会長もその被験者…どんな結果になったのかな?
 …………これはネタになるの!」
記者としての嗅覚が疼く。
絶対に面白い記事になるであろうと。
影はにやりと笑うと、その場から消えるように飛び立った。
新聞部は
そこに居たのだった。

所変わって生徒会。
だぜだーとオレオが出て行った後は
各自仕事に戻り、淡々と作業をこなしていた。
一通り書類に目を通し終えた副会長が溜息を漏らした。
「…やっぱり心配だな。」
新聞部が大人しく会長の話を聞くとも思えない。
だからと言って実力行使にしても
あの二人で新聞部を制圧出来るとは到底考えられない。
「やはり付いていくべきだったか…。」
珍しく副会長は後悔を覚えた。
ふまれはどう言葉を掛けていいかわからず
黙っているしか出来なかった。
副会長の言葉にいち早く反応したのはあるるだった。
「じゃあ、私が見てきましょうか?」
「…ん。悪いが頼めるか?」
「えぇ、私の仕事も大体終わったし。」
と言うあるるの机の上には
チェックを終えた書類の山が鎮座していた。
「先輩…何時の間に…。」
「あら、いつも通りよ?後はふまれ待ちよ。」
「は、はい…。うー…あと少しですから…。」
その様子を終始無言で眺める巫女みこ。
こちらも自分の仕事は終えて、番茶で一服しているところだった。
「何か私が居ない間に困った事があったら巫女みこに頼みなさい。」
そういうと手帳を手に取り、あるるは出発の支度を整えた。
「じゃあ、行ってくるわ。」
「あぁ、あるる。」
副会長が呼び止める。
「…居場所の検討は?」
フッ、とあるるはほくそ笑む。
「大方、いつも通りせわしくネタの尻でも追っかけてるでしょう。」
「…成る程。じゃあ頼んだわ。」
そしてあるるは生徒会室を後にした。
「あのー…副会長、今のあるる先輩の言葉の意味は…?」
ふまれが不思議そうな顔をする。
副会長は答えた。
「灯台下暗し、と言う事だ。」
黙っていた巫女みこも付け加える。
「会長には見付けられないだろうけどな。」
「???」

…おかしい。
さっきから俺達の後ろを誰かが付いてきてる気がする。
俺と会長しか居ないはずなんだが。
「…なぁ、会長。」
「ん?なんだぜ?」
「なんか…視線感じませんか?」
「視線?」
そう言って後ろを確認するが
やっぱり誰も居ない。
こんな廊下のど真ん中じゃ隠れる場所も無い。
やっぱり気のせいだろうか。
「オレオは変な奴だぜ。」
「はは…いつも通りです。」
そう言ってまた歩き始める。
うん、気のせい気のせい。
気のせい…いや。
やっぱり視線を感じる。
常に等間隔のまま誰かが付いてきている。
「会長…。」
小声で会長に話しかける。
「ん?まだなんかあるんだぜ?」
「しっ。良いですか?何も聞かず、俺が合図したら振り返ってみて下さい…。」
「…?わ、わかったぜ…?」
後ろの誰かに悟られないように
タイミングを見計らい合図を出す。
「いっせーの…せっ!」
勢いを付けて二人で同時に振り返る。
この不意打ちに対応出来るなら相手は相当の手練だ。
…何を言っているんだろう。
「あっちゃん?」
会長がそこに居た人影に気付いた。
案の定こちらの行動に反応し切れなかった人物がそこに居た。
圧殺さんだ。
「あっちゃん、そんな所で何してるんだぜ?」
圧殺さんはバツが悪そうに視線を泳がせている。
「なんで俺達の事ツけてたんだ?」
「それは…その…。オレオには関係ない!」
俺オマケかよ。
「なんだぜなんだぜ?どうしたんだぜあっちゃん?」
何故か圧殺さんは泣き出しそうになっていた。
何だこの状況。
「その…あの…科学部との話聞いて…。」
「科学部…?……あっ!」
会長がビクンッとした。
なんだなんだ、何かあったのか?
「いやそのあれは…。」
珍しく会長がしどろもどろになっている。
「教えてだぜだー!」
「な、何をだぜ?」
「その……」
一瞬戸惑いを見せながら圧殺さんは口にした。
「もげたって本当!!?」
もし今俺がコーヒーを含んでいたならば
まず間違いなく噴出しただろう。
「だ…だぜ…それはその…。」
「…本当…なんだね?」
そう言うと会長の反応を待たずに圧殺さんは駆け出して行った。
「あ、あっちゃん…!待つんだぜ!!」
聞く耳持たずとはこの事か。
振り返りもせず圧殺さんはそのまま何処かへと行ってしまった。
「まずいですね。」
「…だぜ。とりあえずあっちゃんを追っかけるんだぜ…。」
「そうですね。早く見つけないとくるるさんが圧殺される。」
「だぜ!?そこまであっちゃんは物騒な子じゃ…。」
「いえ、確実にやるでしょう。」
新聞部を探さないといけないけど
それより先に圧殺さんを止めなければならないだろう。
パパラッチ探ししててみすみす殺人を許すわけにはいかない。
こうして俺達は再び科学室の方へと舞い戻る事にした。

影は笑う。
「ナルホドナルホド。…科学部のお薬にそんな効果があったとは…。
 TS物は最近流行りなの。科学部も案外と流行に敏感…と。」
メモを記すと誰にとも無く影は言う。
「さて、早く追わなくては新鮮なネタを逃してしまうの。」
踵を返し二人を追う事にする。
しかし、それは阻まれる事となった。
「そこまでよ、新聞部。」
「…あや、これはこれは書記長さん。いかがしました?」
生徒会書記長あるるが、からすなべの眼前に立ちはだかっていた。
「わかってるんでしょ?」
手に持った手帳をひらひらとさせる。
それを確認して、事態を把握したからすなべは気まずそうな態度を取った。
「あらぁ…ちょーっとやりすぎました?」
「ちょっと程度なら生徒会は動かないわ。」
二人の間に険悪な空気が流れ始めた。
「すいませんが今取材中ですので、また後にしてもらます?」
からすなべは何とか足止めを回避して会長を追いたかった。
「その取材を阻む為に、私が居るわけ。そのお願いは聞けないわね。」
あるるは譲らない。
今回の件は本来会長が収めるべきなのだが
現在進行形で会長がネタにされるのであれば
それを未然に防ぐのは第三者の役目となる。
「それは困るの。早くネタを追わないと明日の新聞が出来上がらないの。」
「ならばネタを差し替えなさい。今、丁度いい見出しが出来上がるわよ。」
サディスティックな笑みを浮かべあるるは言う。
「『真っ黒新聞部、その暴挙の数々が公に!』、どう、素敵でしょ?
 なんなら新聞部の代わりに私が新聞を作って上げましょうか。」
「記者に対しての戦い方を心得ているのはすごいことなの。」
これで引くならばここまで苦労はしない。
案の定、からすなべは引かなかった。
「でも、このやり方は今更変えられるものじゃないの。
 だから書記長さんには申し訳ないけど、私は私の道を行くの。」
「そう、言うと思ったわ。」
やれやれ、と溜息を吐く。
「正直ね、あなた達のせいで無闇に生徒会への意見書が嵩んでるのよ。
 場所取って邪魔だったら仕方が無い。仕事も捗らなくなるし。」
何時の間に準備をしていたのか。
あるるの周囲に複数の人形が現れる。
「だから、暴力を持ってあなたの行動を制限させてもらうわ。」
普通の生徒であればその空気だけで怯むだろう。
だが、からすなべも学園内では実力者に数えられる。
「やってみろ…なの。」
臨戦態勢を整えるからすなべ。
非公式の緋想天ファイトのゴングは
誰に聞こえる事も無く、静かに鳴った。

俺と会長は大急ぎで科学室に戻った。
なんとか圧殺さんがくるるさんを仕留める前に到着しなくては、と。
「はぁ…はぁ…くるるさん大丈夫!?」
勢い良く科学室の戸を開ける。
「…だぜ?」
「…なんじゃ?」
そこに居たのはくるるさんではなくPNG老師だった。
「あ、あれ?老師…?くるるさんは?」
「くるるなら買出しじゃ。どうにも材料が足らん言うてな。
 それより、二人ともなんじゃ?そんな慌てふためいて。」
正直ホッとした。
肉塊に変わったくるるさんは見たくなかったから。
「だぜでだぜがだぜでだぜだぜなんだぜ。」
会長が事情を説明する。…説明になってるのか?
「ふむ、成る程のぅ。」
伝わったようだ。老師すげぇ。
だぜだー語翻訳機でも付いてるのかな…。
「それであっちゃんを見てないんだぜ?」
そうだ、俺達より先に駆け出した圧殺さんはどうしたのだろう。
此処まで走ってくる間かち合う事も無かったが。
「あぁそれならな…。」
老師が奥のベッドを指差す。
「あそこで伸びておる。」
「居たー!?」
「これ、静かにせんか。今は気を失っとるだけじゃよ。
 科学室に来たと思ったらいきなり飛び掛られてのぅ、正当防衛というやつじゃ。」
流石老師、俺達に出来ない事を平然とやってのける。
そこに痺れる憧れるゥ!
「あっちゃん!」
会長が駆け出していた。
「あっちゃん、あっちゃん!目覚ますんだぜ!!」
横になっている圧殺さんを会長が揺り動かす。
「会長、もうちょっと優しくしてあげないと…。」
「だぜ!だぜ!」
会長の声に応えたのか、圧殺さんが意識を取り戻した。
「…ぅ…ん…?……だぜ、だー…?」
「だぜ!私だぜ!あっっちゃん大丈夫なのぜ!?」
俺はおそらくお邪魔なので黙って見ている事にする。
「…茶でも飲むか?」
「あ、頂きます。」
会長と圧殺さんの様子を尻目に、俺は老師の淹れてくれたお茶で一服する事になった。

「あっちゃん、どこかまだ痛いんだぜ?」
「うぅん…大丈夫…。ごめん、だぜだー…私…。」
「違うんだぜ…謝るのは私の方なんだぜ…。」
「だぜだー……。」
「あっちゃんの気持ちも知らないで私は…。」
「ううん…良いんだよだぜだー。」
「あっちゃん…。」
「男の子でも女の子でも、だぜだーはだぜだーだもん…。」
「あっちゃん……。…そうだぜ、そうなんだぜ!」
「だ、だぜだー?」
「恋愛に、男も女も関係ない!!って京本さんも言ってたんだぜ!」
「京本って…京本政樹?」
「だぜ、その通りだぜ!!」(※本当に某有名ゲームの宣伝ポップで言ってます)
会長は一回呼吸を整えると圧殺さんに言った。
「例え私が男でも女でも、あっちゃんは私の大事なパートナーなんだぜ!
 私がだぜだーである以上、それは絶対変わらないんだぜ!!」
「だぜだー……うぅ…うわぁぁぁん、だぜだー!!」
「あっちゃーん!!」
力強く抱き合う二人。
「大団円、じゃのう。」
「えぇ、本当に。人死にが出なくて良かったですよ。」
外も夕暮れの色を強くしていった。
いいエンディングだな。感動的だ。だがサブイベントだ。
「会長ー。」
「ん、なんだぜオレオ?今良い所なんだぜ?」
見ると圧殺さんが会長の腕の中でヘブン状態になっている。
「いや、時間的にそろそろ下校時間じゃないかなと。」
「…しまったんだぜ。あっちゃん、あっちゃん。」
圧殺さんがどこか別の世界に飛んでいる…。
「あっちゃん!!」
会長が叫び、圧殺さんがはっと我に帰った。
「あ、だ、だぜだー…ごめん、私…。」
「ごめんはもういらないんだぜ。だからこれからもよろしく、だぜ?」
イイハナシダナー。
「と言うわけで時間も時間だから今日はもうおしまいだぜ。
 いい子はちゃんと帰ってまた明日、だぜ?会長命令なんだぜ!」
「…うん、わかった。またね、だぜだー。」
こうして圧殺さんは大人しく下校していった。
「青春…じゃのう…。」
ズズズッと老師のお茶を飲む音が響く。
「じゃあ私達も帰るんだぜ!」
「そうしますか。老師、お茶ご馳走様でした。」
「うむ、気をつけて帰るんじゃぞ。」
こうして俺達も科学室を後にする事になった。
…あれ?
何か忘れている気がするけど…。
まぁ、良いか。

「良くない!!」
誰も居ない廊下であるるが叫んだ。
「…は、私は誰にツッコミを…。くそ。
 逃げられたわ…。相変わらず逃げ足の速い…。」
あるるはからすなべとファイトをしていたが
最中、一瞬の隙を突かれたあるるは
からすなべを取り逃がしてしまっていた。
「…まぁ、それなりに足止めは出来たし…
 忠告としてならこれで充分、かしらね。…はぁ、疲れた。」
少し機嫌良さそうに
あるるは、足取りを生徒会に向けると
軽いストレッチをしながらその場を離れていった。

「…危なかったの…。」
実はからすなべはまだそこに居たのだった。
物陰に潜みあるるの動向を伺っていたのだ。
「まともに相手すると分が悪いの…。これからこうなっちゃうのかなー。
 それはちょっと新聞部として都合が良くないの…。」
結局会長のネタも逃してしまった。
書記長との勝負中は流石にその中にネタを探す余裕も無い。
「明日の新聞どうしましょうかー…。」
あるるの姿が見えなくなったのを確認するとからすなべも帰路へと付く事にした。
「しょうがない、今日撮った写真で適当に新聞を…。」
その時、からすなべは気付いた。
微妙にカメラの重さがいつもと違う事に。
「…まさかっ!?」
大慌てでカメラを確認すると
フィルムが入っていなかった。
戦闘中に抜き取られたのか。確かにさっきまでは入っていたはず。
「あの書記長…やってくれるの…!」

こうして俺と会長は波乱万丈な数時間を終え、
生徒会室へと戻ってきた。
生徒会室に入り最初に出迎えてくれたのはふまれちゃんだった。
「あ、おかえりなさい。どうだった?」
「大変だったんだぜ~…。でも良い仕事してきたんだぜ!」
「良い仕事…なんかな?まぁ疲れたよ。」
「あはは…お疲れ様。」
普段の生徒会の仕事も疲れはするけど
今日の疲労は精神的なものが大きい気がする。
「無事帰ってきたようね。」
副会長がいつもの定位置から声を掛けて来た。
「おー、ゆむっち!ただいま帰還だぜ!」
会長元気だな…。あんな事があった後なのに。
「案外と早く帰ってきたのね。」
「そうでもないんだぜ?もう下校時間になっちゃうんだぜ。」
景色は夕暮れと夜の境界を跨ぐ頃合になっていた。
時計の針はもうじき18時を示す。
「…あれ?そう言えばあるる先輩は?」
生徒会室には俺と会長、ふまれちゃんに巫女みこさん。
そして副会長の5人。
あるる先輩の姿が見当たらない。
「あぁ、あるるはちょっと野暮用だ。それより。」
先輩が野暮用か…珍しいな。
等と考えていると、副会長はお構い無しに話を続けてきた。
「で、どうだった?」
「大変だったんだぜ~…あっちゃんが暴走しかけて…。」
「本当ですよ。くるるさんが殺されちゃうんじゃないかと。」
「何とかそっちは解決しておーるおっけーだぜ!」
「本当誰も死ななくて良かった…。」
はぁー、とわざとらしい溜息を吐いてみる。
だがどうやら副会長の聞きたい事はそれではなかったらしい。
「そうじゃなく。そんな寄り道の話はどうでも良いんだよ。」
「へ?」
「だぜ?」
「…新聞部の件はどうなったの?」
あ…。
「「あーーーっ!!」」
忘れてた!すっかり忘れてた!
それがメインじゃん、会長!!
「わ、忘れてたんだぜ…。」
「…はぁ。」
やっぱりね、と言うように呆れて
副会長は頭をかいた。
「いやほんとすいません…。ちゃんと覚えてたんですよ?途中までは。」
「そ、そうだぜ。ちゃんと探したんだぜ~?」
お仕置きが怖いのでとにかく弁解を図る。
「…良いわ。二人が無事帰ってきた事を喜びましょう。」
あ、あれ?怒らない…?
「い、良いんだぜ…?」
俺も会長も不思議に思った。
普段ならここで激昂して拳骨の一つでも喰らうだろうと思ったからだ。
俺達が戸惑っていると、後ろでドアが開いた。
「ただいま…何二人で間抜け面して突っ立ってるの?」
あるる先輩のご帰還だった。
「あ、いや、これは…。」
「お帰り、あるる。首尾は?」
「まぁ、それなり、かしら。」
あるる先輩の野暮用は副会長からのお使いだったのか?
ポケットから何かを取り出すと
先輩は副会長にそれを手渡した。
「はい、これ。逃げられはしたけど、押さえる物は押さえたし
 暫くは大人しくなるでしょう。暫くは、だけど。」
「ご苦労、難儀掛けたわね。」
「体も鈍ってたし、久し振りに良い運動させてもらったわ。」
「あのー…先輩は何してきたんですか?」
「あるる先輩はあの後…」
「ふまれ。」
「ひゃぃっ!?」
ふまれちゃんの言葉を先輩が遮った。
「しっ。なんでもないわ。ちょっとした野暮用、よ。」
「はぁ…。」
何だろう、隠すような事なのだろうか。
「まぁ、会長とオレオが新聞部を捕まえられなかったのは仕方あるまい。
 あれを捕まえるとなるならそれこそ生徒総出でもないと難しいだろう。」
やれやれ、と言った具合に副会長は俺達を許した。
ほっとしたけど何か腑に落ちない気もする。
何やら消化不良に感じつつも、そうしてる間に時計の針は進み続け
時計は18時のチャイムを鳴らした。
その瞬間、大人しくしていた会長がばっと部屋の中心に躍り出てきた。
「18時なんだぜ!今日はもうさようならする時間なんだぜー!」
そう叫ぶと会長は何やらポーズを決めて
「今日の生徒会、これにて終了っ!だぜ!!」
ビシッ!とポーズを取って終了の音頭を取った。
…また何か変なアニメの影響でも受けたのかな。
そんなわけでこれ以上何かを追求し合う事もせず、
本日の生徒会は終了、各自帰宅する事となった。
今日も緋想天学園は平和でした、と。

俺達が圧殺さんを追っている間に
新聞部とあるる先輩がひと悶着あった事を知ったのはそれから二日後の事だった。
具体的に言うなら新聞部の新聞で知ったのだが。
『恐るべき生徒会!暴力蔓延る役員の真実!』
なる見出しで吹いたのは俺だ。
先輩が言うには「比較的平和な記事」だそうだ。
それで良いのだろうか…。
結局新聞部の件で会長の株が上がる事は無かったが
後日何処からともなく、会長は性別を越えたアイドルだとか
一部で新たなファン層をゲットしていたとか
何故か性転換を本気で考える人が増えたとか。
発信源はまぁ…予想出来なくも無いが。
これは余り関係ない話になるので俺は首を突っ込まないでおくとする。