ss107572

Last-modified: 2010-03-29 (月) 12:35:03

軽音部の部室の戸が勢い良く開いた。
そこに立っていたのは料理研究会の野菜ちゃんだった。
「あれ?野菜ちゃんどしたの?」
「腹ペコの人がいると聞いて!!」
どこで聞いてきたんだろう…。
その手には何やらお皿を持っている。
何かを作って来たようだった。
「ちょっと試食してもらいたいものがあって。」
@さんがその言葉に目を輝かせた。
ここからだと何を持ってきたのかよく分からないけど、
どうにも@さんは食べ物と言う事だけで反応したようだった。
「…なんだいそれ?」
皿の上を確認してプロAさんが野菜ちゃんに問い掛ける。
「何って…どう見たってハンバーグ。」
「はんばぁぐぅ?」
明らかに疑問の声と表情を作るプロAさん。
その反応が気になったのか永遠ちゃんも確認をする。
「………うん?ハンバーグ?どこ?」
プロAさんと同じように永遠ちゃんも疑問の声を上げた。
「これ!これがハンバーグ!ぐつぐつにこみはんばーぐー♪
 って歌あるでしょ?」
野菜ちゃんが歌いながら説明をした。
「…煮込んだの?」
「煮込んでないけど!」
う、うん……。
.exeさんは関心が無いように
パソコンに向かっている。
少しは反応してあげようよ…。
「とりあえず食べ物なら大丈夫でしょ~?」
@さんはそんな二人の反応をお構い無しに
品物に、野菜ちゃんに近付いていく。
「そう、きっとおいしいはず!料理は見た目じゃない!
 味よ、味!さぁさぁどうぞどうぞ。」
…見た目じゃない、とはよく言うけど
正直味の方もおいしいとは想像出来ない…。
「じゃあいただきまーす♪」
そんな危惧などは一切考えずに
躊躇なしに@さんはその物を頬張った。
「………。」
吟味するように無言のまま目を閉じ、咀嚼する@さん。
「…ど、どう、かな?」
不安そうにその様子を見つめる野菜ちゃん。
誰も言葉が発せ無いまま暫しの時が過ぎた。
口の中のものを飲み込む音が聞こえる程に
空間は静寂に満たされていた。
「…ん~~~。」
まるでどこぞのクイズ番組の司会者のように
感想をもったいぶる@さん。
「……もしかしてまずかった…?」
もう不安でどうにかなってしまいそうに
野菜ちゃんは@さんを見上げた。
すると、@さんは野菜ちゃんの頭を撫でて、こう言った。
「ん~ん、すごく美味しいわよ♪」
パァッ、と野菜ちゃんの表情が明るくなった。
「本当本当。みんなとても丁寧な仕事をしたのね~。
 まるで心があったかくなるようなハンバーグだわぁ。」
思わず私と永遠ちゃんは顔を見合わせた。
「うっそ!?」と言う具合である。
その様子を見てか、@さんは私達に提案した。
「嘘だと思うならみんなも食べてみなさい?
 とってもおいしいわよ。」
@さんの舌を疑うわけじゃないけど…
見た目から美味しいという単語が想像出来ない物体に
手を伸ばすのはなかなか勇気が要る事で。
「うーん…じゃあ一口だけね!」
そう言うと先に永遠ちゃんがそれに手を伸ばし
一つまみ、頬張った。
暫しの無言。………チーン。
「あれ?おいしい…?ちゃんとハンバーグ!」
その言葉を聞いて野菜ちゃんの表情が益々明るくなった。
永遠ちゃんまで…、これは本当に美味しいのかな?
「じゃ、じゃあ私も少しだけ…。」
「食べて食べて!」
零れんばかりの笑顔で野菜ちゃんが皿を勧めてくる。
そこから私は一つまみ、本当スプーン一杯分もあるかという程度を口にする。
目を瞑ってごめんなさい。
口に含み、ゆっくりとそれを噛んでゆく。
するとどうだろう。
中から肉汁があふれ出て、肉本来の旨みが口の中全体に広がっていく。
そして程好いバランスで配合された玉葱の甘さが絡まり
何とも言えないハーモニーを奏でている。
まるで口の中に世界最高峰のオーケストラが集っているようだった。
そして更に…これは隠し味?
少しばかりピリッとした風味が散りばめられている。
恐らくは生姜だと思う。
「……美味しい…。すごく美味しいよこれ!」
「にひひー。やったね!」
こうして野菜ちゃんが持ってきたハンバーグ(?)は
軽音部の全員が回し食いをしてあっと言う間に平らげてしまった。
見た目が全てじゃない。
確かにその通りだった。
何でも見た目だけで中身を確認しないで否定するのは良くない事。
たった一皿のハンバーグに、そんな大事な事を
再確認させられてしまったようだった。
一通りの食事を済ますと野菜ちゃんは上機嫌のままに帰っていった。
よっぽど嬉しかったのかな。
「さて、と。」
野菜ちゃんが戻ったのを確認して永遠ちゃんが立ち上がった。
「それじゃあー」
「食後の牛乳だな!!」
「違います!!」
永遠ちゃんとプロAさんがボケとツッコミをしていると
@さんが手を上げた。
「それで~、コスプレの事だけど、
 私は構わないよ~?楽しそうじゃない♪」
………
こうして、軽音部の次の活動内容は
「コスプレライブ」に決定する事となった。
何故か衣装の手配は.exeさんが完全にこなしてしまい
何の滞りも無く、すんなりと活動自体が終わったのはまた別のお話。
この日から数日間、軽音部内では
「ハンバーグの歌」なる@さんの創作曲が流行っていた。