ss107784

Last-modified: 2010-03-29 (月) 12:34:33

4.
月姉妹と昼食を共にするようになって暫くが経った。
最初の内は嫌な顔をされるかとも思っていたが、
そんな心配は杞憂に終わった。
特に俺が頼んだわけではないのだが、
新月ちゃんはいつも弁当を3人前用意して
俺が来るのを毎度楽しみにしていた…らしい。
流石に初回のような重箱ではなく、3つ、可愛らしい弁当箱でだが。
あくまでも本人から聞いたわけではなく
双月ちゃんがこっそり教えてくれた事なので、
実際の所はよく分からなかったりするが。
3人分も大変だろうと俺は言ったが、新月ちゃんは
「2人分も3人分も変わらない。」と言って作るのを止めようとはしなかった。
そんな厚意に甘えるのは忍びないと思いつつ、
やはりそれがたまらなく嬉しく、そのままの状態が続いている。
わずかばかりのお礼は、毎日新月ちゃんの為に学食でプリンを買ってくる事。
偶に入ってくる新商品なんかも、見かけたときは買っていく。
段々と分かってきたのだが、新月ちゃんはどうにも甘党らしい。
お菓子やデザートは何でも食べるが、その中でも特にプリンが好きなようだ。
双月ちゃんの方は特に好き嫌いは無いらしいが
体質としてお肉が食べられない、とは本人談。
それを聞いてから弁当の中身を少し確認するようになったが、
言っていた通り、双月ちゃんの弁当には
他の弁当で肉類が置いてあるスペースが別の物になっていた。
不便じゃない?と聞いた。
「もう慣れちゃってますし、それにお肉が食べられなくても
 そのほかの美味しい物は問題なく食べれますから。」
だそうだ。
欲が無い子なのかな、と思った。
新月ちゃんに言わせれば双月ちゃんは「私より怖い。」
らしいのだが…俺はそう思うような場面に出くわした事がない。
…本当か?
最近では昼寝スキーもその食卓に並ぶ事が増えてきた。
気付くと、昼休みは屋上でレジャーシートを広げ、
男女4人が食事を囲むと言う形が出来上がっていた。
無論雨の日は学食、室内になるのだが。
よく考えると俺以外は全員1年生なわけで
傍から見ると俺だけ浮いている気がする。
が、内輪では誰一人気にする人が居ないので
俺も気にする事をやめるようになった。
どうせ屋上、それも昼休み。
誰が見ていようが大した問題ではないだろう。
…そう思っていたのだが…。

「よう、(   )。ちょっと良いか?」
ある日の放課後、ちーすけに声を掛けられた。
「ん、なんだ?俺はちゃっちゃと帰りたいんだが。」
「何、時間はとらねぇよ。」
最近はクラスメイトと会話するのも必要最低限だったせいか
どうにもこうやって話すのが久し振りに感じる。
「んだよ…しょーがねぇな。んで、何の用だ?」
あまり良い予感はなかったが無下に扱うのもどうかと思うので
ここは大人しく相手をする。
「お前さー、なんか最近1年の娘達と仲良いらしいじゃん?」
「あー…それがどうかしたか?」
「わかってんだろー?」
このこの、と俺を小突く。
「…紹介はしないぞ。」
「チッ。かったいなぁ。」
舌打ちしてんじゃねぇよ。
お前に紹介とかした日にゃあれだろ。
速攻レイプされて終わりじゃないか。
そんな事させて堪るかよ。
「…まー、面は割れてんだし。勝手に味見させてもらっても良いんだが。」
なんつった?
今なんつった?
「と、そう怖い顔すんなよ。冗談だよ、冗談。」
「マジでやったらぶっ飛ばすぞ。」
「なんだよ、怒んなよ。てめぇの彼女ってわけでもないんだろ?」
「そりゃそうだが…。」
「じゃあ問題無いだろ?お前には関係無い事だろ。」
別に俺の女ってわけじゃあないが。
そう思うならなんでわざわざ俺に言う?
「関係…なくはない。」
「あー?」
「関係あるっつってんだよ!」
気付くと俺はちーすけの襟首を掴んでいた。
「…離せよ。」
「うるせぇ、黙れ。もう一回さっきみたいなふざけた事言ってみろ。
 そんときゃマジでぶん殴ってやるから。」
ぎりぎりと音が鳴るくらいに力んだ拳を緩めると
ちーすけは俺の手を振り払い、咳き込んだ。
「お前がそんな顔すんのも珍しいわ。
 わかったよ、あの娘達には手は出さねぇよ。」
ごほん、と咳払いを一つして要らない台詞を付け加える。
「本気のお前とはやりたくねーしな。」
襟元を整えながら胸糞悪い笑みを浮かべる。
「ま…今みたいなお前も、嫌いじゃないけどな。
 じゃあ、さっさと帰っちまえ。ロリコン野郎。」
そう言い捨てるとちーすけは教室から出て行った。
「…チッ。」
俺は誰に向けてなのかも分からない舌打ちを溢していた。
気分が悪い。
ちーすけの言う通り別に彼女達は俺の何かってわけじゃない。
だけど何だ?この異常なまでの不快感。
あの子達は…俺の…なんなんだろう?

原因の分からないもやもやを抱いたまま帰路に着いた。
こういう日はすぐ帰っても物に当り散らしてしまいそうだ。
適当にゲーセンでも行って鬱憤を晴らしていくか…。
等と考えていると、路地裏から変な声が聞こえてきた。
女の子に、男が数人、か?
何か雰囲気としてはどうにも良い感じではない。
間違っても女王様と奴隷とかそんなんじゃない。
明らかに女の子が絡まれている風だ。
見て見ぬ振りは苦手なんだよな…。
声のした方へ身を翻し、様子を伺う。
「あ…。」
そこに居たのは新月ちゃんだった。
絡んでる野郎共は制服から見るに、どうにもした○ばの底辺共、か。
あーもー、なんで俺の周りこんなトラブル多いんだよ。
まぁ、これもありか。なんて思った。
当てのない鬱憤を晴らす場所があるのなら
どうせなら正義の行使に使うのも悪くはないと思った。
例えそれが偽善であっても。
「おい。」
俺の声に気付くと男衆が振り返る。
ついでに新月ちゃんも気付いてくれた。
『なんでいんの?』と言う顔をされた。
通りすがりの緋想天学園生だ。覚えておけ。
「あん?なんだよ先輩?」
「俺達はこれからこの子とイーコトしようってんだよ。」
「邪魔、しないでもらえますよねー?」
3人、か。
女子相手に男3人で囲む絵って言うのはどうにも。
情けないな。
「明らかに嫌がってんだろ。やめてやれよ。」
穏便に行くならそれに越したことは無いのだが、
大抵こういう手合いは話して分かる相手じゃない。
「なぁもうめんどくさいからやっちゃおうぜ?」
「そーだなー。見た目からして弱そうだし。」
「ってわけで、痛い目見たくないなら、今のうちだぜ、先輩?」
ほら、な。
「見せてみろよ、痛い目。」
啖呵を切った。
別に虚勢ってわけではないんだが。
久し振りだから身体がちゃんと動いてくれるかどうか。
「3、2、1…はいざんねーん!」
そう叫ぶとチンピラは一斉に飛び掛ってきた。

校外でのファイトは基本的に禁じられている。
これは一般人に対して、学園の生徒が不用意な暴力で相手を傷付けないためだ。
空手や柔道でも、有段者が一般人に技を使ってはいけない。
と言う決まりに似ている。
だが正当防衛の場合はこれに当て嵌まらない。
今回のケースだと、相手の方から先に手を出してきたので
俺の正当防衛は成立する事になる。
遠慮は要らないって事だ。

指先に神経を集中して、糸を手繰り寄せた。
比喩ではなく、本当に糸を。
その先には人形が構える。二体、それで充分だ。
これで数の不利は解消される。
一手目は後ろに飛び退き、距離を置く。
前衛に人形を張り付け、後方より状況を確認する。
あまり連携が取れてないようだった。お前らちゃんと練習してんのか?
連携の穴を見つけ、的確にカウンターを決めていく。
制服に皺が付いたらアイロンが面倒臭いので無駄な動きはしたくない。
あっと言う間に3人を片付けた。
「安心しな、峰打ちだ…って聞いちゃいねぇか。」
テンプル狙いが功を奏し、最低限の力で相手の無力化に成功した。
軽い脳震盪、10分そこらで気が付くだろう。
…って言うか俺こんな強かったのか。
流石修羅の国と呼ばれる緋想天学園で1年以上揉まれた事はある…のか?
人形を片付け、その間大人しかった新月ちゃんに近寄る。
「大丈夫か?」
「あ、うん…。…何よ、あれくらい私一人でどうにかなったのに。」
相変わらずの気丈さ、と言うか可愛げの無さで少し安心する。
「まぁそう言うな。たまにゃ先輩にも良い格好させろよ。」
「…案外、やるじゃない。」
「男の人形遊びなんて褒められる事じゃねーよ。」
「…でもその…まぁ、ありがと。」
「惚れたか?」
「馬鹿。」
フンッ、と鼻を鳴らしてそっぽを向かれてしまった。
だけどそれが何か心地良くて、自然と俺は笑っていた。
その後、家まで送ると言ったのだが合えなく断られてしまい
仕方なく駅までの見送りだけをすると、俺も自宅へと帰っていった。
その頃には、心のもやもやは何処かへと消え去り
そんな気持ちを持っていたことさえ、忘れていた。

4.5.
今日はなんかやけに疲れたな。
さっさと寝ちまう………。
…1年前、そこまで行かないか…。
緋学入って間もない頃は、今よりもうちょっとだけ真面目だった。
とにかく強くなりたくて師と呼ぶべき先輩に色々教わった。
緋想天ファイトで勝ちたくて練習も何度も繰り返した。
結果として、それなりの成果は手に入れた。
だけど、途中で気付いた。天井があるって。
どう足掻いても届かない天井があると言う事。
諦めたらそこで試合終了、か。よく言ったもんだ。
そこで俺は諦めた。真面目にやる事が馬鹿らしくて。
気付いたら、こんな不真面目で目立たない生徒になっちまってた。
人形遊びなんて格好悪いと、いつからか隠すようになって。
折角、教えを請うて覚えた技術だってのに。
…久し振りだった。相手は他校の不良だったけど。
それなりに真面目に動いたのは。
……なんか、変わったのかな、俺?
変わったとしたなら…
変えてくれたのは…
あぁ…なんだ…
あの子達…か…
そう…なの…か…な……

5.
喧しい目覚ましの音に起こされる。
もう、朝か。
昨日寝る前に何か変な事考えてた気がするが
何を考えてたのかいまいち思い出せない。
記憶障害とか、若年性痴呆症の気があるかな。
とか考え、一人で笑った。
んなわけねー。
ハンガーに掛けた制服を取り、
手早く登校準備を整える。
朝飯は買い置きのパン。
齧りながらの登校。うむ、いつも通りだ。
これで曲がり角で女の子とぶつかったりもすればメークドラマなんだが。
古いな、この表現。

校門の少し前辺りから、普段見ない人影を確認した。
校門の前に居るのは…生徒会長?
何だろう、抜き打ちの身嗜みチェックでもしてるのかな。
まぁ適当にスルーすれば問題無いだろう。
そう思って横を通り過ぎようとする。
が、見事に呼び止められる。そんな予感はしてたんだぜ。
「おっと、(   )は通行止めだぜ!」
「あーもーそうだろうと思いましたよ!思ったのぜ!なんすか会長?」
俺を呼び止めた生徒会長。
見た目は何処からどう見ても女の子だ。しかも年下の。
だが実際は3年生、つまり一個年上にしてこの学園の象徴の生徒会長、だぜだー。
こんな身なりだが実際は男…らしい。
「2年の(   )で合ってるんだぜ?」
「そうですけど…よくわかりましたね。俺、会長とは初対面ですよね?」
そう言うと不思議そうな顔をされた。
「だぜ?生徒会長なら当然、生徒全員の名前と顔は把握してるもんだぜ?」
小規模な学園と言っても全校生徒合わせれば
7、80人はざらに居るこの学園で、事もなさげに全員の名前と顔を覚えていると。
そう生徒会長は言ってのけた。
教師達だって全員は把握してないと思うが…大した奴だ…。
「それで、だぜ。急いでる所悪いんだが(   )は
 1時限目は生徒会室で特別授業だぜ。」
「俺だけ?」
「イエスでもありノーでもあるんだぜ。」
「なんかやったかなぁ…。」
身に覚えがありすぎて逆に理由が分からない。
午後の授業フケて飯食いに行った事とか…
立ち入り禁止期間に屋上に上がったりとか…
遅刻とか遅刻とか…。
「ま、それは後でのお楽しみだぜ!
 それじゃあ行って良しだぜ!」
「ちなみにフケたら?」
「地獄を見るんだぜ…。」
会長の表情が一気に暗くなる。
恐らく自分がやられた場合を想像したのだろう。
「謹んでお受けします。」
「オッケーだぜ!それじゃあ伝えること伝えたし私も戻るんだぜ。
 また後でだぜー!」
そう言うと会長は足早に、と言うか駆け足で校舎に吸い込まれていった。
有象無象の生徒に紛れ、あっと言う間に姿が見えなくなる。
あの口ぶりからするに、会長自ら俺に指導するのだろう。
…本当、何だろう?
先にも言った通り思い当たる節が多すぎるので
俺は考えることをやめた。
もう、当たって砕けろだ。

朝のHRが終わると、教師に念を押された。
「お前は生徒指導室な。」と。
わかってるっちゅーに。
1時限目のチャイムが鳴る前に移動を済ませる。
指導室に入ると先客が居た。
昨日見た顔、一昨日も見ている顔、その前も、その前も。
新月ちゃんがちょこんと座っていた。
「あれ、新月ちゃんも呼び出し?」
「(   )?あんたも?」
「うむ、会長直々のご使命を受けて馳せ参じた。」
「そんな良いものじゃないでしょ?」
「バレたか。そういう新月ちゃんは?」
「私は副会長に…。」
「思い当たる節は?」
「なくも…無い…。」
そう言って新月ちゃんは深刻そうな顔をする。
「まぁ適当に話合わせて頷いてれば問題ないって。」
「…あんたはいつも楽天的で羨ましいわ。」
「いい加減あんた呼ばわりはやめて欲しいんだがな。」
「じゃあグズ。」
「もっとひどいわ!」
朝から力一杯のツッコミを入れて
既に俺は満身創痍の状態だった。
程無くして生徒会長と副会長がやってきた。
個人的に副会長の方が迫力があると思うのだが…。
背丈は二人ともそこまで変わらないが纏うオーラが全然違う。
どうして彼女が副会長の座に収まっているのだろうか…。
その迫力に押されてか、新月ちゃんも少し身を縮こまらせている。
副会長のゆむ…先輩はきつい視線を俺達に向ける。
「さて、お早う二人とも。何故ここに呼ばれたか、分かるかしら?」
何処かのネ○フの司令官のように手を組み俺達に質問をする。
「サボリ?」
「NO。」
「遅刻?」
「NO。」
「じゃあ…。」
後なんかあるっけ。
「昨日の…事ですか?」
新月ちゃんが言った。
昨日…あーあーあー。何かあったね、そういや。
「YES。」
正解、だった。
はぁ、と溜息を一つ吐き副会長は面倒そうに話を進める。
「私も又聞きなので詳細は把握していない。がまぁ、聞いたところに因ると、だ。
 どうにも商店街で君らは他校生と少しばかりやんちゃをしたらしいな。
 まずは、その事について、真実かどうか聞かせてもらおう。」
「隠し事は無しなんだぜ?」
まぁ、この人達の耳に入っていると言う事は
教師達にも届いているのだろう。この辺は狭いから
俺が黙ったとしても何処からかすぐ漏れるだろう。正直が一番だ。
「えぇ、少しばかり。丁度虫の居所が悪くて。新月ちゃんは無関係ですよ。」
「な、あんt…!」
新月ちゃんの反論を言葉を続けることで阻む。
「でもあれですよ?先に手を出してきたのはあっちなんで。
 一応建前として正当防衛は成り立つかと。」
「ふむ…。」
話を聞き、副会長はちらりと会長へ視線を送った。
「大体分かったんだぜ。だけど相手が悪かったんだぜー…。」
「と言うと?」
「元々した○ば高校とうちはあまり仲が良くないんだぜ。
 その因縁が手伝って、今回の件が一種の火種に成りかけてるんだぜ。」
「全面戦争勃発寸前、と言う事だ。」
しれっと副会長は要約する。
…あー、まずったかなぁ。
「それでだ。確認したいのは一つだけだ。
 悪いのはお前か?それとも、相手か?」
会長と副会長が真っ直ぐに俺を見る。
「……俺は」

「俺は自分が悪かったとは思いません。」
真っ直ぐに、そう答えた。
じっと見つめられる。少しこういう状況は苦手なのだが
ここで目を逸らす事は出来ない。
しばしの沈黙が訪れる。
俺と会長、副会長はにらみ合いに近い状況。
その様子を新月ちゃんが柄にも無くおろおろと見ている。
少しして、二人が吹き出した。
「ふふ…はははは!わかった、そうか。わかったよ。だぜだー。」
「だぜ!」
いやそんな二人でツーカーしないでくださいよ。
なんかわけもわからず笑われたんじゃ俺が馬鹿みたいじゃないですか。
「理由は聞かない。だがお前は真っ直ぐ自分は悪くないと言った。
 お前達が私達を前に事も無く嘘を吐ける人間だと、私は思わない。」
「それにだぜ。新月ちゃんの様子でも大体分かったんだぜ。
 んじゃー、ゆむっち?」
「うむ。後輩が売られた喧嘩は、私達が買おう。」
「な、副会長!?」
「お前が自分の正義を全うしたと思っているならば胸を張れ。
 もし奴らが因縁を吹っかけてきたとしても、お前が気に病むことはない。」
「勿論新月ちゃんもだぜ!」
救われたと思った。
俺はまぁどうでも良かったのだが
新月ちゃんに落ち度は丸きり無いのだから。
これで無罪放免、だろうか。
ほっと胸を撫で下ろす。
「じゃあ…!」
新月ちゃんの曇った顔が明るくなっていく。
しかし、全てがオールグリーンとは行かなかった。
「まぁ、しかし此処で丸っきり手放しと言うわけにはいかなくてね。
 あくまでも世間体として、だ。(   )は三日間の自宅謹慎を言い渡す。」
「あちゃー、やっぱりっすか。」
それを聞いて一番大きい反応をしたのは新月ちゃんだった。
「ま、待って下さい!こいt…(   )は悪くないんですよ!?」
お?今名前で呼んでくれた。
場違いなのは承知の上だが、その事が嬉しかった。
「分かってる。だが仕方あるまい。此処で何も罰則なしにすれば
 生徒会、引いては学園全体の品性を疑われかねん。」
「そんな…。」
新月ちゃんが肩を落とし、再び宛がわれた席に腰を着いた。
「良いんだよ、新月ちゃん。んじゃーえーっと…
 俺の謹慎は明日から?」
「そうなるんだぜ。少しの間の我慢だから辛抱して欲しいんだぜ。」
「いいですよそれくらい。その程度で済むなら御の字です。」
本当に、御の字だと思う。
他校生との乱闘騒ぎなど、普通の学校ならば停学処分。
最悪退学もあり得るだろう。
しかし今、此処では会長と副会長の温情によって
俺はたった三日間の謹慎処分で済んだのだから。
普通の生徒ならば、これは諸手を挙げて喜ぶ事態だ。
だが、新月ちゃんの表情は浮かない。
「新月、だったわね。そっちの1年。お前が気に病むことではない。
 事実として、手を出したのは(   )1人なのだろう?なればこそ、だ。」
「わかってます…。」
いつもの調子を考えると、心配に成る程その声は
か細く、か弱かった。
「大丈夫、たった三日だから。な?」
そう言って新月ちゃんの頭を撫でた。
自分でも意外な程に優しく、丁寧に。
「うん…。」
気のせいかアンテナも元気が無い。
本当、犬の尻尾みたいだな。
「さて…では話は終わりだ。新月は教室に戻りたまえ。」
副会長が新月ちゃんに退室を促す。
「…あれ?俺は?」
「お前にはちょっともう一つ用がある。悪いがもう暫く拘束されていたまえ。」
「えー。」
ふざけ半分の反応を取ってみるが
新月ちゃんはくすりともしない。
ただ、副会長の言葉に大人しく従い、小さな声で
「失礼しました。」とだけ残すと、指導室を去っていった。
大丈夫かな。

「さて…と、それでだぜ!(   )!これが済んだらお前も帰っていいんだぜ。」
「へいへい…。で、なんで御座いましょう会長様?」
ノリと言うか空気として、先程よりは重要でないと理解した俺は
無礼かもしれないが多少緊張を崩した。
「いやなに、直接私達からの用ではないのだが。
 お前にある人から言伝を預かっている。」
「ある人…?」
誰だろうか。俺に伝言をするような人物…。
思い付かない。
「『もう一度、やってみない?』だそうだ。」
ハッとした。
あの人か。俺に関係があって…いやあった、と言うべきか。
それでいてそんな言葉を持ってくるのは
俺は、一人しか思い付かない。
「私達にはちんぷんかんぷんな伝言だぜ…。」
「言えばわかるって言われたけど、本当に分かるのかしら?」
会長達は二人とも溜息を吐いていた。
「…いや、大丈夫ですよ。んー…なんて言ったら良いんですかね。」
もう一度…か。
「もうちょっとだけ、考えてみます。と。」
俺の答えを聞いて副会長が軽く笑う。
「そう、か。わかった、伝えておこう。」
「すいません、優柔不断なもので。」
「優柔不断が女の子のピンチに颯爽と登場するものか。」
鼻で笑われてしまった。全部、この人達にはお見通しか。
「よし、これで全部おしまいなんだぜ!お疲れ様だぜ、(   )!」
そして俺は、三日間の謹慎となった。
ぶっちゃけ平日休みラッキーとか思ったけど
これは口に出してはいけないと思ったので自重した。
その日、新月ちゃんは屋上に来なかった。

続く