ss111852

Last-modified: 2010-05-25 (火) 21:46:34

1.
此処は北海道。今現在は各自自由行動の時間である。
新聞部部長であるからすなべは今回の旅行の一部始終を
記録に修めるべく意気込んでいた。
学園生活を彩る一大イベントともなれば
必ず面白い記事になるネタもあるだろうと、半分以上私欲によって。
しかし、彼女の目論見はそう簡単には達成されないようだった。
何故ならば―
「あのー…何で私についてくるの?」
「あんたが変な気起こさないようにに決まってるじゃない。」
からすなべの後ろには、ぴったりくっつくようにあるるが居た。
何時も通り難しい顔をして、からすなべを睨んでいる。
「あやー…書記長さんは書記長さんで楽しむと良いの。
 別に此処まで来て私だって台無しにはしたくないの。」
「そう言っても信用されない事くらい自覚してるでしょ?」
どうあっても退かないぞオーラがあるるから発せられていた。
こうなるとしつこいのはからすなべも知っている。
はぁ、と溜息を吐きしばし考える。
学園内であれば逃げ道もいくつかあるのだが
知らない街中では流石に振り切る自信が無い。
何より逃げる事に必死になって自分が迷子になれば
それこそ記録どころではないのだ。
「で、どうするのかしら?ここで立ち尽くしていては
 他の人の邪魔にもなるし、自由時間もあっという間に無くなるわよ。」
「しょうがない…どうせどこまでも付いて来る気なんですよね?」
「当たり前。」
「わかったの。わかりました。仕方ないから今は素直に散策を楽しむの。
 書記長さんはどこか行きたい所あるの?」
「まぁ…無い事も無いけど。あぁそうだわ。」
「はい?」
「学園の外なんだし、書記長なんて呼ばなくて良いわよ。
 あるるで良いわ。」
からすなべは少し意外に思った。
堅物のイメージの書記長がそんな事を言い出すなんて。
特に断る理由も無いのでここは従っておく事にする。
「はぁ。それじゃあ、あるるさんは何処が目的で?」
「ん、ちょっとこの辺で美味しいお菓子屋さんがあるらしくてね。
 ほら、これ。」
そう言ってあるるは鞄からガイドブックを取り出した。
そこには2ページ丸々使って特集を組まれた、所謂スイーツのお店が載っていた。
此処からもそう遠い場所では無いようだ。
しかし矢張り普段のイメージからすると少し意外である。
「ほうほう、それじゃあそちらに行きましょうか。ここからすぐみたいですし。」
「あぁ、でもあなたも行きたい所あるなら…。」
「私が行きたい場所は二日目の札幌からなの。だからここは書記…じゃなかった。
 あるるさん優先でおっけーなの。」
そう言って親指を立てる。
既にからすなべはカメラを自身のバッグに仕舞い、取材モードから切り替えていた。
からすなべなりの誠意の見せ方である。
「そう。それじゃあそう言う方向でよろしく。あなた甘い物は?」
歩きながら話を続ける。
「甘い物が嫌いな女の子なんてそうそういないの。
 これは私独自の調査でも判明してるの。」
「つまり好きな方、と言う解釈で良いの?」
「勿論なの!」
そこに普段の二人の険悪さは無かった。
役職柄か、二人は衝突しがちではあった。
だがお互い、底から嫌いな人間と言うわけではなかったのである。
からすなべは自分の中の人物帳を上書きする。
今までのあるるのイメージを。
同じ様に、あるるもからすなべに対するイメージを少し、少しだけ変えていた。
修学旅行と言う物は少なからずハプニングに見舞われる事がある。
だけど、悪いハプニングだけでもないようだった。
からすなべは口には出さなかったがこの心の変化を嬉しく思っていた。
お互いの距離が縮まった気がしたから。
この日、二人は「友達」として一緒に自由時間を過ごした。
とても有意義に。

2.
本土を離れて数時間。
空の旅も終えて地に足着いた緋想天学園一同。
「あ~~…お尻が痛いんだぜぇ…。」
そう愚痴りつつお尻をさするだぜだー。
「大丈夫?だぜだー。」
少し困ったように笑いながら相槌を打つのは、幼馴染のねぎかもよなぴよだった。
「もうちょっと座り心地良いシートが良かったんだぜ。」
「流石にファーストクラス乗れるほど余裕は無いよ~。」
「座り心地は犠牲になったのだ…予算の犠牲にな…。」
二人の会話に犠牲も混ざってきた。
自由行動時間は各自適当に散策して
予定時刻になる頃に集合すると言うものだった。
気付くと他の人達は我先にと出払ってしまったようで、
そこには三人だけが残っていた。
こういうのは普通来る前に班決めとかしておくものだろう。
「さて、と…どうしよっか?」
依然としてお尻をさすり続けるだぜだーと
視線をあちこちに移している犠牲に向けてねぎが音頭を取った。
「ん~…ねぎちゃんはどこか行きたいとことかはあるの?」
と犠牲が問い掛けたと思ったら
「だぜ!だぜ!」
ビッと姿勢を伸ばし何かを提案しようとするだぜだー。
その様子だけでコメディが成立してしまいそうで、おかしかった。
「はい、だぜだー。」
「鮭見に行こうぜ!!」
………鮭?
約二名の頭の上にクエスチョンマークが浮かび上がった。
「鮭…ならいつも学園で見て…。」
「違うんだぜ!この千歳市にはサーモンパークって言う鮭専門の施設があるんだぜ!!」
「へぇ…だぜだー実は色々調べてきた?」
「あったりまえだぜー!」
「んー、犠牲ちゃんどうする?」
「うん、私は良いよ。行く途中で何か面白い物あれば立ち寄っても良いと思うし。」
「そっか、じゃあ行ってみようか。」
こうして三人は一路、千歳サーモンパークを目指した。
…のだが……。
『本日休館日』
「「「…………。」」」
「ごめん…私の不幸体質がここで発揮されるなんて…。」
「だ、だぜ!犠牲ちゃんのせいじゃないんだぜ!」
「そ、そうだよ、たまたまだから仕方ないよ!」
来た道を引き返しつつ、項垂れる犠牲を二人は励まし続けた。
しかし時間とは残酷な物。
気付くと集合予定時刻が迫っていた。
「ごめんね…結局何も出来ないで時間来ちゃって。」
「だ、だから犠牲ちゃんのせいじゃないって…。」
流石に終始この調子ではきっとこの後も楽しめない。
ねぎは頑張って犠牲の機嫌を取り戻そうとした。
ふと、だぜだーが立ち止まった。
「だぜだー?」
振り向くと、だぜだーは犠牲の方を向いた。
「何も出来なかったなんてとんでもないんだぜ?
 二人と一緒に散歩が出来たんだぜ。それもこんな知らない街だぜ?
 普段よりずっとずっと楽しい事が出来たんだぜ!」
「だぜだー…。」
犠牲の目に涙がこみ上げて来た。
「泣かない泣かない。だぜだーも楽しいって言ってるし
 勿論私も楽しかったよ?」
「あぅぅ…二人とも……。」
感極まってしまった犠牲は二人に抱き付いた。
二人は犠牲が泣き止むまであやし続けた。
その後は、みんな笑顔になった。

3.
「ついに来たでー、ほっかいどー!!」
うぉー!と生徒以上にテンションが高いのはみやびん先生。
今回の旅行の引率の一人なのだが、その容姿は
生徒以上に幼かった。実際幼いのだけど。
「ほらほら、先生。はしゃぎすぎてると荷物が人に当たっちゃいますよ。」
どうどう、と宥めたのは⑨とチルまだの二人だった。
同じ顔に違う制服。二人は双子であるが性別が違う為、服装で見分けられる。
仮にこれが同じ服装になると見分けが付かないだろう。
「そんな事言うたかてー、この興奮はそう抑え切れんもん。」
まるで遊園地に来た子供のようにみやびん先生は興奮している。
「ははは、まぁここでわきゃわきゃやっててもしょうがないですし。
 良かったら俺達と回りませんか?」
チルまだが提案した。
元々⑨とチルまだは自宅へのお土産選び等の都合から
今日は一緒に行動するつもりで居たのだ。
そこにみやびん先生も混ざって、と言う事である。
「そうそう、良かったどうですー?」
「んー、いいん?二人の邪魔してまうかもやけど…。」
「全然Okですよ。姉さん?」
「勿論。」
と言うわけで少し奇妙な三人組が出来上がった。
同じ顔に両サイドを付かれた幼女。
迷子にならないようにと言う事で手を繋いで歩いていた。
決して捕らえられた宇宙人ではない。
「二人は今日の自由時間どうすごすんー?」
歩きながら話をする。ちゃんと前を見てないとぶつかりますよ先生。
「今日は空港の中をうろうろですかねー。」
「結構空港の中にも色々お店が入ってるみたいなんで、家へのお土産は此処で買っちゃおうかなって。」
ねー、と二人仲良く答える。
その様子を微笑ましく思いつつ、何となくその間にいる自分が
二人の妹になったような気がして恥ずかしさを覚えるみやびん先生。
一応教師である以上、二人より目上の存在なのだが
果たして二人はそう思っているだろうか。
この状況を見るとどうもそうは思えない。
「な、なぁ?手ぇ離してもらえん?」
「はい?」
「わ、私もう子供ちゃうもん。一人だって大丈夫や。迷わへん。」
そう言われると⑨とチルまだは顔を見合わせ、笑った。
「な、何がおかしいん!?」
ちょっと、ムッとした。
「い、いえ。みやびん先生は可愛いなぁと。ねぇ、姉さん?」
「うん、お持ち帰りしたいくらい。」
「な、何言うとん!?教師に可愛いとか!これでも先生やで!?」
「違いますよ先生。」
「先生がどうとかじゃないじゃないですか?可愛い人は可愛いし
 素敵な人は素敵だし、そこに階級とか役職とか、関係あります?」
「せ、せやかて……。」
二人の表情は柔らかいまま。結局繋いだ手もそのまま。
どうにも上手い逃げ口が見つからないまま、三人は手を繋ぎ
様々なお店を渡り歩いた。
途中のソフトクリーム屋さんのおばちゃんには姉妹に間違われた。
『あら、お姉ちゃんお兄ちゃんと一緒?仲が良いのね~。』
そう言って、おまけを付けてくれた。
姉妹でも兄弟でも無いのに、と思った。
だけどどこか、嬉しくもあった。
自分に姉や兄が居たらこんな感じなのだろうか、と言う夢想もした。
まだ旅行は始まったばかりだと言うのに⑨達は結構な量を買い込んでいた。
一通り周り終え、ベンチで休んでいると⑨がみやびんに質問した。
「ねぇ先生。私達、連れまわす感じになっちゃいましたけど
 もしかして、迷惑でしたか?」
チルまだは三人分の飲み物を買いに行って席を外していた。
「……ま、まぁこういうのもたまには悪ない…かな。」
頬を赤らめ、恥ずかしそうにそっぽを向きながらみやびん先生は答えた。
みやびちゃんぷりちー!
流石に叫びはしなかったが⑨は心の中で絶叫していた。
修学旅行、出出しは上々。
願わくばこのまま一生に残るような、素敵な旅行になりますように。

2セット目に続く