オレオ君といろんなひとのあれこれ
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食堂にて
「あ、オレオじゃない。隣空いてる?」
「ふ、ふまれ姉さん!ッッチャッス!ッッパネェッス!」
「…なによそれ」
「いや、前回勝てたら呼び捨てでいいって言ったじゃないっスか」
「うん」
「俺ダメでしたから。死亡寸前でしたから。これ三日ぶりの固形食っスから」
「確かにやりすぎた感はあるけど……いいよ普通で」
「そうか。お前そのうち俺が強くなったら、目にハイライト残ると思うんじゃねえぞこの野郎」
「砕けすぎ」
「じゃあふまれさんで」
「うん」
「しかし、なんか定食コーナーのあたりが騒がしいな」
定食の受け取り所で、なにやらツインテールのいかにもアホそうな女生徒が騒いでいる。
定食の量を増やしてほしいと交渉しているようだ。
「無理だろ。交渉で飯が増えるなら俺だって即ショータイムだっつうの」
「そうだねー」
ふまれさんが頷く。余談だがふまれさんは俺より食う。
「しかしああも粘られると、後ろの列にも支障が…ん?」
後ろから出てきた男子生徒が会話に割り込み、何故か同じ定食を2つ持ってその女生徒と一緒に席に着いた。
「おさまったみたいだな。しかし、定食二つとはよく食う人だ」
「ん…?ていうかあれ、としあきくんだ」
魚のフライを咥えたまま、ふまれさんが言う。
「知り合い?」
「うん、最近知り合ったばかりだけどね。生徒会のみんなとか、なんとあのテケちゃんとも仲がいいんだよ!」
ふまれさんが興奮気味に話す。生徒会役員と知り合いか。すごい人らしいな。
しかし知らない名前もでてきた。
「テケチャン?新手の妖怪の名前か?」
「し、知らないの!?」
ふまれさんが椅子から飛び上がる。
と同時に、食堂の四方八方から剣呑な視線が突き刺さる。なんだなんだ?
「い、いや、俺転校してきたばっかりだし」
「校外でも相当の有名人だよ…ここであの子を妖怪だなんていったら、何されてもおかしくないんだから」
ふまれさんが接近してきて、ひそひそ声で話し始める。
「あの子…?女の子なのか」
「そう。この学園のアイドルにして最強剣士。それがテケちゃんだよ」
「それは凄そうだ」
「凄いんだよ。…でもそうか、オレオがここまで校内の事情に疎いなんて…」
ふまれさんがおでこに手をあてて、うーんと唸り、テーブルを叩いて立ち上がる。
「ぃよし!前回はマニアック所を周ったから、今日の放課後は学内めぐりで行くよ!」
「順番逆だろ」
「いいからいいから!じゃあそういうことで!」
言い残してふまれさんが食堂を去った。
俺も教室戻るか。
ふと見るとさっきのとしあきくんとやらが、なにやら悲痛な面持ちで二人前の定食を食べていた。
女の子はもういない。
モテる男のやることはよくわからんな。
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放課後、廊下にて
「とは言ったものの…別にこの学校って施設そのものは別に面白みがないのよね。
面白い人がいるだけで」
ふまれさんが歩きながらぼやく。
「じゃあ俺たちはどこに向かって歩いてるんだ?」
「一応ね、生徒会室。今の時間なら副会長がいると思うし」
「生徒会室?それって一般の生徒がおいそれと入れるものなのか?」
「大丈夫だよ、私がいるし」
「ふまれさんがいると……?その副会長さんと知り合いかなにかなの?」
「えっ?」
ぴたりと、ふまれさんの足が止まる。
「え?あれ?言ってなかったっけ?」
「何をさ」
「私……生徒会役員だよ?」
セイトカイヤクイン?馬の名前みたいだな。
「………どういう事だってばよ?」
ふまれさんが指を一本立てて言う
「つまり……わたしは生徒会の役員っていうことになるだろ」
「うん!うん!」
「つまり……私がいれば生徒会室に入るのは比較的たやすいって事よ」
「おおなるほど……早くいえ馬鹿野郎!俺も生徒会役員様の知り合いじゃねーか!!」
「そんな大した事ないけどね。書記だし」
「そーなのか…なあところでふまれさ」
ん、と言おうとした瞬間にふまれさんが視界から消えた。
いや、正確に言うと、前方からものすごいスピードで駆けてきた影に飛びつかれて
諸共に後方へ吹き飛んだのだ。
「き、きゃーーーっ!」
「ふまれさん!?」
間髪いれずに聞こえてきたふまれさんの悲鳴に振り返ると
「どうしましぅおぇえ!!」
ふまれさんが男子生徒に押し倒され、すでに衣服を半脱ぎにされていた。
お、おいやべーぞレイプだ!!
「やっ、ちょっ、ちー…たっ、助けてーっ!!」
ふまれさんが叫ぶ。
「だっ、誰かーーっ!」
我ながら情けないと思うが、わけがわからなくなって、思わず叫んでしまった。
すると、
「であえー」
直前まで何もなかった空間にびゅん、と風が吹いたかと思うと、女生徒が一人立っていた
「少年、事件なの?」
「あ、あれ……!」
抑揚の少ない声で女生徒が尋ねるので、現場の方を指差すと
「おお」
と少し嬉しそうに呟き
「少年、でかしたの」
というや否や、そちらの方へ走っていった。
なんて勇気。
女性の身でありながら、レイプの現場をみて物怖じするどころか即座に救出へ向かう様に
俺は正義の意味を知った。
パシャ!
へ?
パパパパパパパパパパパ!
「ええええー!?」
その女生徒はカメラを構え、恐ろしいほどの高速で旋回しながらあらゆるアングルでレイプ現場を
ファインダーに納め、シャッターを連打していた。
神も仏も仮面ライダーもいない!
「ちょっ、や…あ…」
「へへへ…声が蕩けてきやがったぜ…」
ああああヤバいヤバい。これはマジだ。
俺が手も足もでなかったふまれさんを押さえつけてレイプする相手をどうにかできるとは思わないが
俺も男だ…い、いくしかねえ…
「やめろォ!」
レイプ魔と目が合った。
「お、人がいたのか」
すっくと立ち上がり
「ギリギリまでやるのが面白いんだけどな…じゃあこれ以上はやめとこう」
立ち去ろうとして…カメラを構えた女生徒に話しかける。
「うわー、撮らないでよなべ先輩」
「たかくうれるの」
「どれどれ…うおっ、この表情いいなー…一枚頂戴」
興味を惹かれたので覗いてみる。
レイプ魔に話しかけられた。
「お前も見るか?…ほら、これなんかもなかなか…」
「おお……」
その写真は、一言で言って芸術だった。
計算しつくされた角度。涙目のきらめく艶っぽいふまれさん。ちらりと覗く肩紐。みえそでみえないぱんつ。
レイプ魔、被レイプ者、カメラマン、三者の技量が渾然一体となって、完全なる美を醸し出していた。
こいつは見るドラッグだぜ…俺は財布を取り出すためにポケットに手を突っ込んだ。
「ちょっとォーーっ!!!」
ふまれさんが絶叫した。うおお忘れてた!
「だ、だいじょうじょうぶですかふまれさん」
「棒読みなのよ!このレイプ魔!なべ先輩も!ちょっとカメラよこしなさい!」
「やべーやべー、またな」
「おお、こわいこわい」
レイプ魔はものすごいスピードで走って逃げ、女生徒…なべさんというらしい…は、マジでフッと消えた。
「うぐぐぐぐ…!」
ふまれさんは怒りと屈辱に身を震わせている。
俺がギャルゲーの主人公だったなら、ここで気の効いた慰めが数種類も選択肢で出てくるんだろうが、
それはとしあきくんとやらに任せようじゃないか。
あいにく俺の名前はオレオ。選ばれなかった男。
ミスターバッドエンドとは俺のことさ。
「大丈夫だよふまれさん」
「え…?」
涙目で衣服を整えながら俺を見上げるふまれさん。
だから言う。
「きっと今夜はそのテケちゃんよりも、ふまれさんが男子生徒のアイドルだ」
「………?………ッッ!」
ふまれさんは一瞬きょとんとし、弾かれるように顔を上げ……
おおきく平手を振りかぶった。
悔いは無い。
2
生徒会室にて
「生徒会室だよ」
ぞんざいにふまれさんがいった。
「すいませんふまれさん。飯奢りますんで機嫌直して下さい」
ふまれさんは大きく息を吐いて、少し笑顔で言った。
「ふーッ…もういいよ。こんなの気にしてたら、この学園じゃ生きていけないんだから」
…さっきの、外の世界ならそれこそ生きていけないレベルのカラミティだったと思うんだ。
「…ふまれさんは強いなあ。いや、止め刺したの俺だけど」
ふまれさんはにっとわらって半身に構え、真横に突き出した拳から親指だけを天に向けて言った。
「そうだよ?覚えておきなさい。
これがわたしの武器。その名も『どんな時でもポジティブハート』!」
「ふま、うるさいッ!部屋の前で騒ぐな!」
生徒会室の中から怒号が響いた。
「す、すいませぇん…失礼します…」
ふたたびしおしおになったふまれさんが、ノックをしてドアを開ける。
中にいるのは副会長との事だが、怖い人みたいだ。ちょっと緊張する。
「どうぞ」
促されて中に入る。
「失礼します!」
第一印象が肝心だ。ビシッと決めるぜ。
「ふ、元気があっていいね。でも固すぎだ。楽にしていいよ」
事務机に詰まれた書類の山、それを猛スピードで処理しながら、少女が言う。
この人が副会長…?
幼い、と言って差し支えないレベルの小ささだ。
だが、確かに何か妙な迫力を感じる。
「…今、小さいって思ったろ」
書類を処理する手を止め、突然副会長がジト目で呟く。
「いえ!そんな事は!」
なぜか背筋をピーンと伸ばして答える。
すると副会長はいたずらににーっと笑い、
「固いって言ってるだろ?そんなんじゃキビキビ動けないぞ?
それにいいんだ、小さいって思われるのは慣れてる。実際小さいしな。
他所じゃ知らんが、ここではガワの大きさと能力は一切何にも関係ないんだ」
椅子をくるりと回してこちらに向き直り
「自己紹介が遅れたね。あたしはゆむ。この学校の三年生で、生徒会の副会長をやってる。
オレオ君だったね。ようこそ緋想天学園へ。我々は君を心から歓迎する」
芝居掛かった動作で優雅に手を広げ、俺ににこりと笑いかける。
なんだ、優しそうな人じゃないか。
「ところで」
ぎらりと目を光らせ、ゆむ先輩がふまれさんのほうを向く
「…また新聞部のやつがお痛したって?」
「あ、いや…実際やったのは新聞部じゃないんですけど…まあ共犯ですね」
「全く…一度完全に黙らせてやらないと気が済まないわ…」
みしり、と椅子の肘掛が悲鳴を上げる。怖ぇ。
「あ、あれって…問題ないんですか…?その…校則的に…」
俺の質問に、ゆむ先輩はため息とともに答える。
「それがないのよね…今の会長が定めてるの。ここのルールはただひとつ。
エンジョイ・アンド・エキサイティング、ってね」
楽しく、刺激的に…か。なるほど、さっきの二人は本当に楽しそうだったし(ふまれさんは泣いてたが)
恐ろしく刺激的だったのは否定できない。彼らは、自分のE&Eを実行したに過ぎないのだ。
「正直、会長は甘いと思うの」
ゆむさんはきっぱりという。
「でもね、あたしはそれでいいと思ってる。甘い会長、刺激的なルール。楽しくない学園生活なんて
なんの意味も無いもの。
…でも、その枠を外れて常軌を逸する輩がいるなら、この楽園を壊す奴がいるなら、あたしが出向いて直々に潰す。
それがあたしのここにいる意味だよ」
「それが新聞部の面々だと?」
「いいや、奴らはあたしが個人的に嫌いなだけだ。
だけど、奴らとの追いかけっこは……それなりにエキサイティングで、それなりにエンジョイしてる」
なるほど、副会長というだけあって、学園への愛はただならぬものを感じる。
というかこの学園に、こんなにまともな人がいるなんてな!
「実力があって、頭も回る副会長か…すごいなあ。苦手な事、できない事なんてあるんですか?」
「あ、それは私も知りたい」
ふまれさんが同意する。
「お前ら……ふむ、できないこと……ねえ……」
ゆむ先輩が考え込む。と
ズバーン!とドアが開いた。
「ウォォ副会長ォォォ!布団で登校がダメってなんでよ!クソックソッ!あたしの布団返せ!」
生徒会室に女生徒が飛び込んできた。見たことあるぞ。
確かどっかの大金持ちの娘だ、ゲームが恐ろしいほど上手くて、この前ゲーセンでこいつに10連敗した。
名前は…何だったかな。忘れた。
「雛山財閥にひとつの伝説があるわ…「ヒナヤマーンに闇の布団を取らせるな」…あんたはそれを犯した!
いまのあたしは…殺人機械(キリングマシーン)だ!覚悟ォォ!」
女生徒…そうだ雛山雛山。が、ゆむ先輩にヤケクソなスピードで飛び掛っていく。
「…………」
ゆむ先輩は考え込みながら突進してきた雛山さんの腕を引っつかんで一回転させて床にたたきつけた後、顔面を思いっきり踏み付け
体ごと振り回して部屋中の壁や机にびったんびったんやって窓から思い切り放り投げ、中庭に落下したのを
見届けたと同時に指をパチンと鳴らすと雛山さんの体から紅の爆発が発生し、中庭に十字架のモニュメントを作った。
ぐわーーっと雛山さんの悲鳴が響く中、ゆむ先輩はゆっくりと顔を上げて
「…………手加減かしら」
と言った。
前言撤回。超危険人物だ。
つづかない