オレこれ
0
??にて
「うわーんおれおさままいりましたー」
か、勝った!勝ったぞ!俺はふまれさんに勝ったんだ!
「どれいとおよびくださいー」
ふふふ…ハハハ…ハァーッハッハッハ!
「いやー強いねえ!学園最強は間違いなくあんただよ」
通りすがりの何やら気風のいいお姉さんが褒めてくれる。誰です?
「そんなのあたりまえなのだ」
なんかちっちゃい女の子も出てきた。可愛い。
「やっぱり?」
お姉さんが頭を掻きながら笑う。
つられて俺たちも笑う。
あはは、あはは、あはは
幸せすぎて。
俺はこのとき笑っていたけど、本当はちょっと泣いていたんだ。
……いや、うん。そろそろわかってるんだけどさ。
でも、もうちょっとだけいいだろ?
もうちょっとだけこのまま………
「ダメです」
残念。
「ぐむ…」
顔を上げると、いつもの先生が腕組で仁王立ちしていた。
普段は優しい大人の女性だが、ひとたび怒れば「閻魔」の二つ名を持つ鬼へと変貌を遂げる。
「目が覚めましたか?」
「……はい」
頬に涙の感触があった。よく覚えていないが、俺はよほど悲しい夢を見ていたんだな。
教室内は剣呑な空気である。すでにクラスメートの何人かは、迫り来る悲劇の予感に椅子から腰を浮かせている。
オッケーオッケー。期待に応えるぜ。
俺はいつもの先生をまっすぐ見つめて言った。
「おはようございますいつもの先生。今日もお美しい。
今度そのタイトスカートの中の秘密が黒なのか白なのか
ゆっくり個人授業を受けたいところです」
……教室内は無音。
しかし俺は、クラスメート達の「馬鹿野郎ォォォ!」という叫びを確かに聴いていた。
いいんだみんな。
言ったろ?俺はミスターバッドエンド。
全てのハッピーエンドは道を開けな。
閻魔こといつもの先生がまるで天使のような神々しい微笑を見せる。
そして、ゆっくりと口を開く。ジャッジ?ジャッジ?
クラスメートたちが一斉に教室から飛び出した。
「死刑」
ドンと来い!!
0.5
昼休み・学食にて
「で、補習ってわけね…」
「面目次第もない」
今日も学食でふまれさんと遭遇し、一緒に食事を摂っている。
最近は、いつも一緒に食事をする先輩が何かと忙しいのだそうだ。
「そういうわけで、今日の珍人物めぐりツアーは中止ということで」
「別にそういう趣旨じゃないんだけどね……いや、そういう趣旨なのかな……?」
ふまれさんがうーんと考えている隙にからあげを一個拝借しようとしたら箸が手に刺さった。
「今日は伝説の女番町と、狂気の心霊部の二本立ての予定だったんだけど……次の機会にしよう」
「永遠に用事が出来てくれねえかな」
両者、およそお知り合いになりたい字面ではない。
「まあ、いつもの先生は大人しくしてれば優しいから、補習など軽く吹っ飛ばしてやるよ」
「大人しくしてたら、そもそも補習とかなんないんだけどね」
「違いない」
1
放課後・教室にて
夕日射す教室で、いつもの先生の補習が始まった。
「お望みどおりの個人授業です。では、193ページから読みなさい」
「はい。…ゴホン。『ぶっかけうどんとエロスの関係性について』」
「オレオ君」
「すいません。保体の教科書でした」
「保健体育に教科書はありません」
「……自習用の私物です」
「没収」
「ああん」
………
「……『わたしはかつて、ルナ家より遣わされし者。輝夜様の監視と、情報収集が私の真の使命です。
姫、月へお戻り下さい』」
「はいそこまで」
いつもの先生が教科書をパタンと閉める。
「ふう」
やっと終わりか。
と思ったら、先生はさらに続けて
「今日はこれでお終いにしましょう。では、この時の輝夜さんとウドンゲさんの心境を読み取って
レポート3枚以上にまとめて下さい。それを宿題とします。何か質問は?」
と仰った。
待ってくれ。宿題の難易度が高すぎる。
「『ないわー』の四文字で終わっちゃうんですけど」
「………他に質問は?」
「いやいやいや」
「若いうちの苦労は、買ってでもしろと言います」
無体な。
「じゃあ、質問といっちゃあなんですけど」
「なんでしょう」
「先生は、なんで国語の教師やってるんですか?」
「と言うと?」
いつもの先生が首を傾げる。
「先生は白黒はっきりしてるのが好きですよね」
「そうですね」
「じゃあ、数学とか、歴史とか、答えがはっきりしている教科を選べばよかったのに。
今回の宿題もそうですけど、国語には時々、百パーセントの正解が無い問題がありますよね?」
いつもの先生はあごに手をあて、ふむ、と呟くと
「確かにその通りです。ですが、数学などの答えが定まっている教科では、私が白黒を判断する余地が無いでしょう?
私は別に、世の中に白と黒だけがあるとも思っていないし、そうあればいいとも思っていません。
人の心には、白と黒のはっきりしないグレイの部分がある。
それを私が白黒はっきりさせる。それが面白いんじゃないですか」
「なるほど」
楽しそうに生きがいを語る先生の表情は、まるで年頃の少女のそれだ。
「オレオ君も、これになら全てを懸けられるっていうような、そんな何かを見つけるといいですよ。
この学園なら、きっとそれが見つかる。
ここにはいるのは、何かに命がけの人間ばかりですから」
全てを懸けられる何か……か。
「もう質問はありませんね?……では、これにて閉廷」
「ありがとうございました」
2
授業中・教室にて
「では、今日の授業を終わります…オレオ君」
次の日、授業の終わりにいつもの先生に呼び止められた
「宿題はやってきましたか?」
「ふふふ…勿論です」
レポート用紙を提出する。
「拝見しましょう……ん?白紙……?」
「はい!レポートが白なだけに、俺の身も潔白というわけです」
胸を張って答える。
さあ、いつもの先生!このとんち、白か黒か!?
いつもの先生が、女神のような母性にあふれた微笑を見せる。
教室に残っていたクラスメートが、ドアや窓から一斉に外に飛び出した。
「死刑」
そうでしょうとも。