10月14日(日) 晴れ 遊園地 夕方
今日は皆と一緒に郊外にある遊園地に来た。
そこそこに人気があるが、そこまで人のいない遊園地では夕方にもなれば乗り物にもあらかた乗り終わり、俺たちは中央エントランス広場でどうするかを話し合っていた。
――「さて・・・ある程度乗り物には乗ったわけだが、これからどうしますかね」
王鮭「乗り終わってないのは・・・観覧車ってとこかな」
雛山「結構大きかったよね、あの観覧車」
最テケ「パンフじゃ国内でもTOP10に入るとか書いてあるわね」
テケ「どうせなら全部の乗り物を制覇するのだ」
最低「んじゃ、とりあえず行っときますか」
――「そんな訳で観覧車前についた訳だが」
デカい・・・とにかくデカい。
確かに遠くからこの遊園地を見た時、一番先に目に付くのがこの観覧車だが・・・。
夕暮れの空に向かって小さなゴンドラを低い唸りを上げて回している観覧車は何だか少し異質なものの様にも見えた。
王鮭「デカいな・・・一周何分かかるんだ?」
最低「看板だと・・・約10分だな」
雛山「とりあえず、このゴンドラ2人乗りみたいだね」
テケ「となると・・・3つペアが組めるの」
――「二人組みか・・・ジャンケンで同じの出した人でペア組むってことで」
最テケ「ま、さっさと決めちゃいましょうか、ジャンケン――」
・ グー
・ チョキ
・ パー
――「ポン」
俺が出したのはグー。
球体先輩が出したのがチョキ。
最底辺が出したのがチョキ。
雛山が出したのがパー。
鮭が出したのがパー。
随分と綺麗に分かれたもんだ、このパターンで行くとなると・・・
最テケ「アタシじゃ不満って顔ね?」
――「あ、やっぱバレちゃいました?」
瞬間、最テケ先輩の姿がブレ、鳩尾と顎に同時に鈍い、かつ稲妻の様に鋭い衝撃が走った。
――「あいっ!!あいだだだだだだっ!!!」
最テケ「正直なのは嫌いじゃないわ」
嫌いじゃないならこういう肉体的苦痛を伴うお返事は遠慮していただきたい・・・
テケ「まだ教えた事は鈍ってないのだ・・・」
最低「姉ちゃん・・・遊園地で人死にを出しちゃだめだよ・・・」
雛山「いやー久々に聞いたね、とっしーの面白悲鳴」
王鮭「何にしても目立つからさ・・・さっさと乗っちまおうぜ」
観覧車ゴンドラ内、女の子と二人きりの密室、それなのにあんまりときめかない。
きっとそれは腹部に走る鈍痛のせいなのだろう。
その痛みの元凶が目の前にいるのも原因の一つなのかもしれない。
・・・・・・そういえば、今最テケ先輩は帰宅部だって話だけど、昔は剣道部に所属してたらしい。
今でも球体先輩とは仲がいいみたいだけど、なら何で止めちゃったんだろう。
それに意外と謎が多いんだよな・・・他人のことはよく聞くくせに自分のことは話さないし・・・
いい機会だし、聞いてみようかな。
――「先輩は何で、剣道部止めたんですか?」
最テケ「あぁ?いきなり何よ」
――「いや・・・前から気になってたもんですから・・・話したくないならいいっすけど・・・」
最テケ「・・・・・・つまんない話よ、聞いてて面白くもないだろうし、喋って面白くもない、それでもいいなら話したげる」
そういうと最テケ先輩は一回遠くを見つめると、ポツポツと思い出すように話し始めた。
イベントCG
最テケ「別に剣道部が嫌になったって訳でもないし、誰かにイビられたって訳でもないわ。陰口叩かれるなんて事も無かったしね・・・ただまぁ、何となくよ、本当何となく、あの人の隣は私には眩しすぎるって思っただけ」
――「眩しすぎる?」
最テケ「球体ちゃんは・・・可愛いし、性格もいいし、それでいて剣道も強いし、色んな大会に出てもとにかく注目を浴びてたわ、それでまぁ・・・なんていうのかな、住んでる世界が違うんだなって思ったわけ、才能がある上に努力も怠らない人相手についていこうって思えなかったのね・・・ようするに逃げたのよ私は、いつだってそう、誰からも逃げて逃げて・・・その度に後悔して、それでも逃げることをやめられないのよ、私は、笑っちゃうでしょう?」
――「・・・・・・」
俺は何も言えなかった。
多分、先輩は先輩できっと沢山悩んで、悩みに悩んで、止める事を選んだのだろう。
その悩みを知らない俺が、口を出していいような話ではなかった。
それに、遠くに沈む夕陽を見つめながら語る先輩の目じりに、小さな涙が浮かんでいて。
俺はその時この人も泣くんだななんて、不謹慎な事を考えたりした。
最テケ「つまんない話でしょ?誰かに言ったら殺すからね」
――「言いませんよ・・・第一んな事言われて喋る奴もいませんって」
最テケ「まぁ、言われてみりゃそれもそっか・・・まぁ、聞いてくれて感謝するわ。こんな事、誰に喋っていいか分かんないからね」
――「聞くだけなら、いつでも付き合いますよ」
最テケ「ふん、素直でよろしい、褒めてつかわす」
――「ははーっ」
いつもの口調に戻った先輩とそういってクスクスと二人で笑いあう。
普段ムスっとしてて、怒りっぽくて、口と手が同時に出る人だけど。
こうやって笑っている先輩は、誰にも負けないくらいに、可愛かった。
ゴンドラがもうすぐ皆が待ってる地上に着く、地上に着いたら多分またいつもの傲岸不遜で、暴君ネロも裸足で逃げ出す先輩に逆戻りだろうけど。
それまでは、この二人きりの時間を満喫したって、バチは当たらないだろう?
おしまい