ss73951

Last-modified: 2009-05-09 (土) 13:36:33

めかぶ先輩と立ち合うのは、何度目だろうか。ふと、そんな事を考えた。
一度として、勝てた記憶はない。それどころか、一撃をいれることもできてはいない。
それでも、オレオは、先輩に勝負を挑んだ。
かすかに赤く光る雲が、空を覆う日。決闘には、ちょうどいい天気だ。
 
オレオは、まっすぐに先輩の前に立ち、構えた。
先輩は、オレオを見てかすかに笑ったように見えた。そして、頭を下げて、ゆっくりと構えた。
姿勢を柔らかく保ち、いつでも前に出て、攻め込める。純粋な、攻めだけを考えた姿勢だ、と思った。
じわり、と間合いを詰める。それでも、先輩は動かなかった。
しかし、五メートル。そこから、動けなくなった。
踏み込んではいけない。そう思えた。先輩は、まだ動かない。
気圧されるな。自分に言い聞かせる。
振り払うように、一歩、踏み出した。同時に、先輩が前に出た。
馳せ違う。
左腕に、痺れを感じた。先輩の突きが、そこをかすめた、ということだ。こちらの拳は、触れてさえいない。
 
再び、五メートル。先ほどと、位置が入れ代わっていた。風が、強く吹き付けていた。
強い。これが覇王。オレオの目指す、王の中の王。
重く、ねばつくような空気が身にまとわりつく。気圧されるな。再び、心で叫ぶ。
先輩が、また、かすかに笑ったような気がした。
そして、予備動作も見せずに、一足で飛び込んできた。
右の突き。何とか払った。その瞬間、右からの衝撃が、体を貫いた。薙ぐような、首への左の蹴り。
口に、砂の味を感じた。地面が、目の前にあった。
それで、オレオは、自分が倒れていることに気づいた。
視界の端で、先輩が一礼し、去っていくのが見えた。
まだだ。そう言ったつもりだった。しかし、唸り声が喉から漏れただけだった。
 
ぽつり、ぽつりと空から、滴が降り始め、それはすぐに滝のような雨に変わる。
良い雨だ。そう思った。頬には、熱い滴が流れていた。
いつかはたどり着く。もう何度目かもわからない。しかし、改めて、そう誓った。
頬を流れる雨は、熱く、オレオを焦がしていた。