ss74156

Last-modified: 2009-02-07 (土) 04:24:05

あれから一週間が経った。
その間に、俺達の環境は目まぐるしく変わったかと言えば
そうでもなかった。
丼さんが死んで、あるる先輩が泣いて。
数日後に丼さんの葬儀が行われた。
俺は葬式についてはよくわからないけど、
なんだか俺だけ場違いな気がしてしょうがなかった。
だけど、先輩について来いって言われて、断るのもどうかと思って
結局参列してきた。
棺の中の丼さんは、とても穏やかな顔で
まるで幸福な夢でも見て、ただ寝ているだけじゃないのか。
そんな事を考えてしまうくらい、綺麗な顔だった。
葬式の帰り道、先輩は話してくれた。

 

あ「丼ちゃんはさ…ずっと前から先生なりたいって。」
―「…あぁ。」
あ「本当に私が子供の頃からずっと、そう言ってた。」
―「うん…。」
あ「だから私もそう思ってた。丼ちゃんは先生になるんだって。」
上手い返しが見つからない。
俺は黙って聞いていた。
あ「本当に、届きそうだったのにね…。
  人の人生って不思議。いきなりだもの。
  なんで…丼ちゃんだったんだろう…。なんでさ…
  丼ちゃんが死ななくちゃいけなかったの…?」
―「それは…」
―「神様しかわからないんじゃないですかね。」
あ「神様なんて居るの?」
―「案外今も俺達の事を見てるかもしれませんよ?」
あ「だったら、私の願いだって汲み取ってほしかった。」
先輩の願い…。
あ「どうせなら、丼ちゃんじゃなくて私にしてくれれば良かった。」
―「先輩…それは…。」
あ「だって、そうすれば…丼ちゃんは夢を叶えられた。
  本当にあと一歩だったじゃない?なのにどうして…。」
―「…神様は、自己犠牲がお嫌いなんじゃないっすかね。」
あ「だからって…酷いわよ!なのに丼ちゃんもあんな顔して…。」
先輩の目が涙で滲んだ。
ハンカチでもすっと出せたらかっこいいんだろうけどな、俺。
―「いつまでそうやってめそめそしてるんすか?」
あ「なっ…何よ、あんたになんか私の気持ちなんて…!」
―「わかるわけないじゃないですか、俺は先輩じゃないんだ。
  でも、丼さんに言ったんでしょう?
  その夢を引き継ぐ、って。教師になるって。」
あ「……。」
―「なら、いつまでも下は向いてられないじゃないっすか。
  教師なるって言ったら試験とか色々あるんでしょ?
  今以上に勉強して、覚える事も沢山だ。
  ずっと俯いてたら手なんか届きませんよ。」
あ「…としあきの癖に生意気言うわね。」
―「すいません、口が達者なだけが取り柄なもんで。」
あ「…でも、あんたみたいな大馬鹿者もたまには役に立つわね。
  そう、よね。丼ちゃんに笑われてしまう。
  いつまでも泣いてなんか…いられないわよね。」
良かった。
先輩が顔を上げてくれた。
あ「私の誓いを聞いちゃったんだから、あんたそれなりに責任取りなさいよね。」
…うn?
―「…えーと、はい?」
あ「はい?じゃないわよ。これから私は色々余計忙しくなるんだから
  その分のしわ寄せはあんたに回すわよ。
  だから精々、足手まといにならないように頑張りなさい。」
―「うへぇ…。」
あ「何よ、なんかすごい不満そうな顔。」
―「いえ、べぇつに…。」
あ「蹴とばしてやろうかしら。」
―「暴力はんたーい!」
…内心、嫌な気持ちではなかった。
どんな形であれ、先輩を支えられる、助けになれる。
そんなポジションに付けた自分が誇らしく、そして何よりも
先輩に頼られた事が嬉しかった。

 


まぁ、そんなわけで。
今日も俺は先週比1.4倍の資料を両手に持ち
廊下で立ち尽くしているのだが。
本来ならばもう生徒会室の鍵はあいてるはずだが…。
なんで誰も居ないんだ……?
?「あ、ごめんごめん。」
ん、この声は…。
―「あるる先輩。」
あ「皆出払ってしまっててね、重いでしょう?すぐ開けるわ。」
―「まぁ、まだこのくらいなら許容範囲ですけどね。」
あ「強がり言って、腕が震えてるわよ?」
―「ア、アハハハ。武者震いってやつじゃないっすかねー?」
生徒会室の戸が開いた。
誰も居ない生徒会室。
いつもならふまれちゃんと先輩が賑やかにやっているのに
今日は誰も居ない、俺と先輩だけの生徒会室。
なんだか、急に胸がこそばゆくなった。
あ「とりあえずそれは会長の机に。」
―「はぁーっ…しんど…。」
あ「まったく…根性が足りないわね。」
―「…そんな事言われても…。さすがにこの量は…。」
あ「さっきと言ってる事がちぐはぐよ?
  しょうがない奴ね…。そのうち私が直々に鍛え直してあげましょう。」
―「鍛え直すって…。」
あ「まずはそう…100本組手とかどう?柔道だけど。」
―「死にます。」
あ「大丈夫、手加減はする。」
―「体力的に無理です。」
あ「だから鍛え直すんでしょ?」
―「ハードル上げ過ぎっすよ。」
あ「さっきから反対意見ばかり。それではどうしようもないじゃないの。
  あんたにはもっと頼り甲斐あるようになってもらわなきゃ困るのに。」
―「困るって…何が?」
あ「ん、あ…あぁ、気にしないで、何でも無いから。」
―「なんでもない…ねぇ。」
先輩にとって頼り甲斐ある男、か。
明日からビリーズブートキャンプでもやってみようか。